冬になり脂がのったブリと甘みを増した大根。ブリ大根は旬の時期が同じ食材同士を組み合わせた料理です。ポイントは「魚特有の臭みをどのように処理するか」という点。魚の臭みは脂質の酸化やトリメチルアミンというアルカリ性の有機化合物などによるものです。これらの性質を理解すれば、臭みのないブリ大根が簡単につくれます。
ブリ大根
大根…400g (1/3本)
ブリのアラ…300gくらい
生姜の薄切り…2枚
日本酒…150cc
水…150cc
醤油…50cc
みりん…50cc
砂糖…大さじ2
大葉…2枚(千切り)
1.ブリのアラは小さく切る。骨があって切れなければそのままでもよい。鍋にたっぷりの湯を沸かし、火を止めたところに、アラを加えてかき混ぜる。アラの表面が白くなったら水にとる。流水で表面を洗い、鱗や血の固まりなどをとりのぞく。
2.大根は皮付きのまま、1.5cm厚に切り、さらに4等分する。
3.鍋に大根、1のブリ、生姜の薄切り、日本酒、水、醤油、みりん、砂糖を入れ、強火にかける。沸騰したら落し蓋をして、中火に落とし、15分間煮る。
4.落し蓋をとり、強火で煮汁を好みの加減になるまで煮詰める。少し煮汁が残るくらいになったら出来上がり。器に盛り付けて、大葉の千切りを添える。
魚の旨味で大根を食べる工夫
釣ったばかりの魚は臭みがないのですが、時間の経過とともに特有の匂いが出てきます。これは魚自身の持つ酵素の反応によるものです。鮮度のいい魚を入手することが重要ですが、スーパーで売っているような物でも処理次第で充分においしく食べることができます。
レシピには書いていませんが、まず魚の表面についた臭みの原因となる細菌を洗い流しましょう。トリメチルアミンの他、アンモニア臭も水に溶けやすいので、水で洗うのが効果的です。ただ、洗った魚を放置すると、表面についた水に細菌が増えてしまうので、その後はキッチンペーパーなどで水気を拭きとるなどします。今回は湯に通すので、そのままでも大丈夫です。
このお湯をくぐらせてから流水で洗う手法を「しもふり」といい、表面のタンパク質ごと洗い流すことで臭みを減らすことができます。この手法はアラを使ってブリ大根をつくるときには欠かせません。アラではなく、切り身を買ってきた場合は、臭みがなければ省略してもいいでしょう。
この手法はブリ大根をつくるときには欠かせません。この工程は表面の臭みを消すためなので、鮮度のよい魚を使う場合には省略できます。アラではなく、切り身を買ってきた場合は、臭いを嗅いで、臭みを感じなければしなくてもいいでしょう。
次なるアプローチは煮汁に酒をたっぷりと使うこと。酒にはカルボニル化合物が含まれており、それがトリメチルアミンと反応することで臭いが軽減されるからです。さらに日本酒に含まれるアルデヒド類やコハク酸などの特有の香りが臭いを抑えてくれます。
さらに加えるのがみりんです。甘みなら砂糖だけでもつくのですが、みりんは魚の脂質の酸化を抑制する働きがあります。また、みりんの香りは悪い匂いをマスキング=覆い隠してくれます。
大根は皮付きのまま使いましたが、もちろん好みによって皮を剥いてから使ってください。皮を剥かないで使うと表面が白っぽくなるので、見た目は多少悪くなります。ただ、皮を剥いても剥かなくても冬の大根であれば味にそれほどの差はでません。また、ブリ大根に用いる大根は輪切り、もしくは乱切りが普通ですが、今回は加熱時間を短縮し、均等に加熱するために小さく切っています。
そもそもブリ大根は北陸の郷土料理で、囲炉裏の鉄鍋で骨がやわらかくなるほど煮込んだもの、と言います。しかし、忙しい現代では加熱時間はなるべく短縮したいもの。そこでブリも大根も小さく切り、加熱時間を短くしています。そのほうが素材の味が活きた仕上がりにもなります。
ブリ大根をつくる際にはちょうどよいサイズの鍋を選ぶことも重要です。このレシピの分量だと18cm〜21cmの鍋がぴったり。煮汁が少なめに思うかもしれませんが、大根から水分が出るのでこれくらいで大丈夫です。
ブリ大根は煮物ではなく、アラ炊きの一種なので、強めの火加減で加熱していきます。煮汁が少ないので、上の方の素材にはなかなか火が入りません。そこで登場するのが落し蓋です。木製の市販品もありますが、アルミホイルが簡単。これで全体を加熱しつつも、煮汁を煮詰めることができます。
今回は大葉の千切りを添えましたが、針生姜でもいいでしょう。ほくほくと湯気を立てるブリ大根。大きめの器に盛り付けて、冬の味覚を楽しみましょう。
最後に魚の脂質は酸化しやすく、時間の経過とともに生臭みが出てきます。できあがったブリ大根は早めに食べるのがおすすめです。
ブリ大根は魚の旨味で大根を食べる料理。魚の味をうつした大根は魚以上においしく感じられますし、安上がりなのもメリット。昔ながらの料理には知恵が詰まっているので、ぜひ次代にも残していきたいものですね。