海外子会社使った節税規制へ ソフトバンクGの“抜け道”ふさぐ
政府は海外子会社を使った節税行為の規制に乗り出す。
ソフトバンクグループ(SBG)が、海外子会社の株式をグループ内で移動させ、意図的に巨額の損失を作り出す手口で租税回避を行っていたためで、こうした“抜け道”をふさぐのがねらいだ。財務省が具体策を詰め、11月から本格始動する与党税制調査会で議論し、年末にまとめる令和2年度税制改正大綱に、関連法令の見直し方針を盛り込むことを目指す。
SBGが租税回避のために使ったのが同社が平成28年9月に3兆3千億円で買収した英半導体開発大手「アーム・ホールディングス(HD)」だ。
政府関係者によると、SBGは30年3月、アームHDの価値の大半を占める子会社「アーム・リミテッド」の株式の約75%を配当として取得、意図的にアームHDの企業価値を大きく低下させた。その上で、価値が低下したアームHD株の大半をSBG傘下の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」などに出資する形で譲渡。その結果、買収時の簿価に対し、多額の損失がSBGに生じた形となりSBGはほとんど法人税を納めていないのだという。
SBGが作り出した損失は1兆~2兆円程度とみられ、東京国税局はSBGに対し、30年3月期に約4千億円の申告漏れを指摘した。しかし同社が修正に応じた際も赤字だったことから、過少申告加算税などの追徴は発生しなかった。
SBGがアーム・リミテッド株を取得した際の納税額もわずかだった。海外の子会社からの配当は95%を非課税とする「外国子会社配当益金不算入制度」を活用したためだ。同制度は二重課税を防ぐと共に海外で得た利益を日本に取り込みやすくするねらいで21年度の税制改正で導入された。
産経新聞の取材に対しSBGは「税務申告にあたっては、税法に従って適正な処理を行った」と説明。組織再編も「当社グループの海外事業における最適な資本関係を実現するため」だったという。
ただ、財務省の関係者は「一連の行為に違法性はないが、租税回避が目的なのは明らか。株式をグループ内で移動させただけで実態は何も変わっていない」と指摘する。税制改正では再び同様の事態が発生しないよう、子会社が傘下企業の株式を大量に手放して価値が低下した後で売却された場合、損失計算の基準となる簿価も売却額と同程度に修正し、意図的な赤字をつくれなくすることなどが検討されている。(蕎麦谷里志、宮野佳幸)