NASAのサイトにアップロード(誤ったアップロードとみられる)された論文によれば、「Sycamore」と呼ばれる53量子ビットの量子プロセッサーを搭載したマシンが、世界最速のスーパーコンピューターでも1万年かかる問題を3分20秒で解いたとされる。ちなみに、GoogleとNASAは量子コンピュータの共同研究を行ってきた。
さらに、10月23日にGoogleは、「量子超越性」(後述)を実証したと正式発表し、英科学誌「Nature」電子版に論文が掲載された。また、「ランダム量子回路サンプリング」問題を量子コンピュータに解かせた。これが上記の高速計算の事例ということだ。
これだけを聞くと、「量子コンピュータってやっぱりすごいんだね!」という印象を持つだろう。
だが、これまで、常温核融合、超電導、人工光合成など画期的な新技術が騒がれてきたが、いずれも騒がれただけで、いまだに実用化のめどが立っていないし、近い将来に実用化されることもないであろう。
画期的新技術には確かに夢があり、技術者や科学者たちが夢中になるのはよくわかる。筆者もそれらの技術に魅了されている1人だ。
しかし、投資家、経営者の視点で考えれば「新技術」ほど不確かなものはなく、ほとんどが空騒ぎに終わる。投資の神様バフェットも「先端技術の研究・開発は多額の費用と時間がかかる上に大きなリスクがある」という理由で敬遠している。
確かに、「新技術」が高度な文明につながり、人類を発展させてきたが、世の中を大きく変えるのは意外にローテクな新技術なのである。
古代社会では車輪が画期的新技術であったし、20世紀最大の発明はコンテナだといわれる。
なぜ、コンテナがそんなにすごいのか。それまでは、サイズも形もバラバラな積み荷を人間の作業で苦労して積み上げていたので、膨大な時間がかかる上に、危険な作業による作業員の死亡事故などが絶えなかった。
コンテナは、規格が統一されているだけでなく、積み荷(中身)の積み替えも必要ないことから作業が簡略化したおかげでコストが大幅に下がり、スピードアップと合わせて、世界貿易を劇的に拡大した。そのため、コンピュータ以上の発明だといわれるのだ。
なお、メディアが騒ぐ新技術の実現性が低いことについては、2018年8月27日公開の記事「騙されるな、空前の電気自動車(EV)ブームは空振りに終わる」の冒頭を参照いただきたい。