コメント頂いてダンゾウのお話を書いてみました♪戦闘と、最後に自来也もちょろっと。
ダンゾウのことを調べ直し改めて最低な奴だと思いながらも、彼には彼なりの正義を感じたのも事実なのであまりスカッとする勧善懲悪みたいな話にはなりませんでした。幾重にも覆い隠されたその人の本当の心を見つけて向き合うことができるのがナルトだと思うからです。ナルトがダンゾウのことを何も知ろうとせずただぶっ倒すみたいなのは想像できません。お前なんか最低だ。そう言って最後の最後やりきれない表情で寸止めし、そして相手を変えてしまうのが私の中のナルトです。とは言え大したことないので軽く読んでください…(^^;;合わないと思う方は、序盤の今後の展開に繋がる部分だけでもいいかもしれません。
捏造もありですよ!原作で父親の飛雷神の術をナルトが超えたみたいなシーンもありましたがそこは私の都合です⭐︎
火影の執務室にて、カカシ、紅、アスマ、ガイの四人はうずまきと向き合っていた。ガイがうずまきから聞いた言葉をもう一度反覆する。
「ならば大蛇丸の本当の狙いは木ノ葉を潰すことだというのか?」
「そう。サスケ以外にもアイツには狙いがあったんだ。本戦の日、木ノ葉は戦場になる」
第三次試験予選から約半月たった今日。部下の修行はもとより任務にも駆られ、なかなか話す機会を設けられなかったうずまきが頼りにする四人の上忍は、その話を聞いて視線を鋭くする。暗部さえも引かせた今、ここにいるのは先の四人に加え、うずまきとヒルゼンの六人だけだ。
リーの出来事を経て自身の考えを改めたうずまきは、この世界が自分たちの辿った筋道通りに行くことはないということを大前提に考え、こうして信頼を寄せる彼らに木ノ葉崩しのことを相談していた。
「第二次試験初日にオレが蹴り飛ばした草隠れの女の正体も分かってんだろ?」
「ああ。本当の受験者の方は顔を剥がされた状態で発見されたらしいな。成りすましていたヤツは今はどこにいるのか知らないが」
苦々しく言うアスマにうずまきは頷いた。
「オレも仙人モードでちょいちょい探ってるけどどうやら里にはいないらしい。…んで今は分からねえけど本戦の日…大蛇丸は風影に成りすまして会場に入り込む」
うずまきの言葉にカカシたちは息を飲み、空気が張り詰めた。全員の頭をよぎった最悪の事態を紅が呟いた。
「なら本物の風影は…」
「大蛇丸に暗殺されたってばよ。と言っても今は…どうかな。ぶっちゃけオレってば自分が関わったこと以外、詳しいことは知らないんだってばよ。もう暗殺されてんのか、あるいはこれからなのか。もしくは今回は違うヤツに成りすまして入ってくんのか…。まあ砂の奴らは風影に成りすました大蛇丸に命令されて木ノ葉崩しに加担しちまうから手遅れの可能性の方が高いけどな。とにかくもうオレの経験とか記憶は当てにならねえ。アイツも多分同じ手では来ないと思うし」
うずまきの言葉にカカシが頷いた。
「大蛇丸はうずまきが未来から来たことを知っているんだろう。だったら間違いなく作戦を変えてくる。もっと精度を上げて。このままほっといたらお前のところより被害は大きくなるだろう」
その言葉を聞いてうずまきは今までの真剣な表情を崩して、眉を下げてカカシを見た。
「そうだよな…。この間までは自分の記憶を頼ってとりあえず誰も死なせないようにって考えてたんだけどやっぱそううまくいかねえよな?オレってばどうしよう…」
「一人で気負わなくていい。お前は木ノ葉の忍だ。起こった事態に対して一忍として速やかに行動し対処すればいい。班を率いた経験もあるんだし、自分で状況を見極めて周りに指示を出すんだ。いいね?」
カカシの言葉に肩の荷が下りたうずまきは、笑顔を浮かべて「オッス!」と元気よく敬礼した。
「と言っても木ノ葉崩しなんて起こらないに越したことはないので警備の強化は見直す必要がありそうですね。木ノ葉崩しというくらいですから住民の避難もできるだけ速やかに行えるように事前に忍たちに徹底しておくべきです。大蛇丸に感付かれないように、ですが」
カカシが三代目に進言すると、ヒルゼンは長く煙管の煙を吐いた。
「無茶を言うの」
「それは承知しています…ですがオレたちはどうしても大蛇丸の後手に回らざるを得ません。これくらいは最低限事前に対処しておかなければ」
実際に木ノ葉を瀬戸際まで追い詰める力のある者を相手に後手に回ると言うのは最初からかなり厳しい状況だ。しかも感付かれないようにとは言ったものの、大蛇丸もこちらが何の用意もせず手を拱いていると考えているほどおめでたい頭の持ち主ではないだろう。必ずそれを上回る策を用意して乗り込んでくる。
「ふっ。最低限とは相変わらず手厳しいのうカカシ。よかろう、もとよりそのつもりじゃ。考えるとする」
「ありがとうございます。オレも微力ながら協力させていただきます」
「そうしてくれ。むしろお主がいなくては始まらん」
二人の話がまとまると、それを待っていたかのようにうずまきがヒルゼンに話しかけた。
「なあじいちゃん。これ持っててよ」
「何じゃこれは」
「へへっお守り!」
うずまきの言う通りお守りの様相をしたそれは一度中を開いて結んだ跡がありありと見て取れた。
「はあ…そうか。まぁありがたく貰っておくとしよう」
「肌身離さず持っとけよ!ずーっと、ずっとだぞ!」
「分かった分かった」
「絶対だかんな!」
「約束する」
うずまきにはヒルゼンが死んだことを本人に話すのは憚られた。
話すことによってヒルゼンが傷つくとか、そんな話ではない。
寧ろ里を守るために死ぬならば本望だとそう考えるような人だから、今一ミリでもそんなことを考えさせては本当に命が危なくなった時に諦めるようになってしまうのではないかとうずまきは不安に思っていた。
(名実共に木ノ葉崩しを成功させるために、大蛇丸は絶対に火影であるじいちゃんを狙ってくる)
ヒルゼンがどのような状況下で戦いそして散っていったのか、実際に見たわけではない自分には詳しいことは分からない。ただ誰も手出しができないような状況に追い込まれ、暗部も他の忍たちも助けることができなかったということは知っている。
(あ〜あ。こんなことならちゃんと木ノ葉崩しの資料よんどきゃ良かった…)
木ノ葉の歴史に残る大事件となった木ノ葉崩しは、その詳細をきちんと記録するために全ての忍が報告書を提出している。それを元に作成された資料は木ノ葉の図書館で誰もが目を通すことができる場所に置かれていた。字を追うことが苦手なうずまきはそれに目を通すことはなかったが。内心げんなり思ってももう遅い。
(まぁ別にこんなことわざわざ言わなくたって、オレがじいちゃんを守ればいいだけの話だ!)
気合を入れ直したうずまきに、それを見ていたカカシがじっとうずまきの瞳に目を向けた。
「お前、また何か一人で抱え込んでないか」
カカシのその言葉にうずまきは思い当たる節がなくキョトンとした後、破顔した。
「おう!大丈夫!」
「…ならいいんだけど」
訝しげに思いながらもカカシはとりあえず、深く追求することはやめた。見た所嘘はついていないようだし、本人すらも自覚していないことならしょうがない。
何もなければいいが、とカカシはざわつく心に蓋をした。
執務室を退出したうずまきたちが会話をしながら歩いていると、カーブする廊下の先に一人の男が立っていた。
「お前は…」
思わず足を止めたうずまきにダンゾウが視線をよこす。
「ワシを知っているか」
「志村ダンゾウ。だろ」
感情のない声で答えると、ダンゾウは踵を返した。
「ならば話は早い。お前に話がある。ついてこい」
「待ってください」
視線を鋭くしながらもついていこうとするうずまきの肩をカカシ掴んで止める。アスマ、紅、ガイの三人も一歩前に進み出た。
「オレも同行させてください」
「断る」
「なぜです」
「元暗部のお前がワシに疑問を呈するとはいい度胸だな」
「オレは火影様直轄の暗部です。あなたのところとは違う」
この男は胡散臭い。それだけならまだいいがダンゾウは闇が深く危険な男だ。うずまきを行かせまいとカカシは肩を握る手に力を込めた。
「平気。カカシ先生」
暖かい手に包まれカカシは力を入れすぎていた手の力を抜いた。うずまきの顔を見ると先ほどの感情のない声や表情が嘘のように優しく笑いかけていた。信頼に溢れる瞳に自分が心底カカシ先生でよかったと思った。
正直この暖かい光には一生触れさせたくない世界だが、手甲から露出したわずかな部分をすっと撫でられカカシは手を下ろした。
「外で待ってる」
「うん」
うずまきもダンゾウのことは知っていると見ていい。名前ではなく根としてのダンゾウのことを。それでも行くというなら自分にはこれ以上食い下がることはできない。
遠ざかる背中をカカシは見えなくなるまで見送った。
ダンゾウに連れられ根の本部がある地下を訪れたうずまきは物珍しそうに周囲を観察した。
地下とはいえ天井は高い。太い柱が高く伸び下にも長く続いていた。どうやらここは橋の上らしい。地下なのにどんな構造になってんだとうずまきは薄暗い室内を見渡した。火影邸が木だというならこの地下はまさに根っこ。自分の知る火影邸の下にこんな広い空間があるとは思わなかった。
「なあ、オレに話ってなんなんだ」
前を歩くダンゾウに問いかけるが返事はない。いったいどこまで連れて行く気なのかとうずまきがもう一度口を開こうとした時。
「うっ…!?」
橋の中央に差し掛かった瞬間、体の自由が急に効かなくなった。
「なんだ…これ」
体を動かそうと全身に力を入れながら、唯一動かすことができる眼球を下に向けると、丁度うずまきが踏みしめている足元で術式が発光しているのが目に入った。
さらに視界に入る自身の左手に、服の中から文様が滑るように現れた。それが指先にまで巡った瞬間、左手に対する拘束力が先ほどよりもさらに増した。感覚を研ぎ澄ませるとそれが首を伝い顔にも廻ったのが分かった。
完全に体の動きを止められたうずまきは、先ほどからこちらを見て黙っている元凶と思われる男を強く睨んだ。
「どういうつもりだ、てめえ…!」
目一杯力を入れているが、もはや体を震わせる事すらできないほどうずまきは体の自由を奪われていた。
低く唸るうずまきにダンゾウがようやく口を開く。
「それは体の自由を奪う拘束術。普段ならば相手の体に一瞬触れるだけでも事足りるが、お前は人柱力だ。指一本動かせまい」
「んな事聞いてんじゃねえ…!何でオレにこんな事すんのかって聞いてんだ!」
「あまり喚くな。話す自由も奪うことになるぞ」
ギラギラと睨みつけるうずまきにダンゾウが淡々と続ける。
「ワシの目的は一つ。お前から未来の情報を引き出すことだ」
「そんなのちょっと聞けばいいだけの話だろ…!答えられねえこともあるかもしんねえけど、少しくらいは」
「少しくらいでは困るのだ。それを予期していたからこそワシはお前を拘束した」
静かな空間にダンゾウの声が低く響く。
「お前の記憶を見させてもらう」
「え!?いや見るって言ったって、オレだってトイレ行ったり風呂入ったりプライバシーってもんが」
「誰がそんなところまで見るかたわけ。時間がいくらあっても足りぬわ。必要なところだけ抜き出すに決まっている」
「あ、そう…」
一瞬ホッとしかけたうずまきだったがそうじゃなくて!と自分を現実に引き戻す。
真っ先に思い浮かんだのはサスケ。もし自分の記憶を見られたらサスケはどうなるのか。里を裏切った抜け忍。果ては木ノ葉を潰すなどと言い、ダンゾウを殺した張本人。この男は間違いなくサスケを危険因子とみなし殺害を企てるだろう。それにサイも、自分たちと関わったせいで感情を取り戻したと知れば、わざわざ彼を送り込んでくることもなくなる。
(サスケは絶対、オレが守る。サイとだって、あいつらにも友達になってほしい)
とにかくダンゾウに自分の記憶を見られて有益なことなど何一つない。なんならナルトの今後の生活に支障が出る可能性も捨てきれない。
(それにこいつには…)
体は依然、一ミリも動かすことができない。それでもうずまきは握りしめるように拳に力を入れた。
同じ木ノ葉の人間だというのに、騙し討ちのように罠にはめられ、うずまきは既に相当頭にきていた。
だがそんなものは瑣末に思えてしまうほど、うずまきは別の理由で怒っていた。
自分が九喇嘛の力をコントロールできていなかった頃だったら、一気に自我を失っていたのではないかというほどの怒りに震えている。
本当にただ話をするだけだったならば、うずまきは大人しくしているつもりだった。
だがダンゾウのこの行動はうずまきの心の炎を見事着火させてしまった。
(お前はやっぱりそういう奴なんだな。よーくわかったってばよ)
この男に人生を狂わされてしまった人たちを知っているからこそ怒りに震える。
話に聞いていた通りの卑劣な畜生だ。
うずまきに感知されないためだろう。遠く離れた位置に待機させていた根の暗部たちが一斉にこちらに向かってきているのがわかる。
(九喇嘛。力を貸してくれ)
うずまきが腹の中の相棒に声をかけると、寝ていると思われた九喇嘛が静かに目を開ける。きっと目を閉じていただけでこちらの話は最初から聞いていたのだろう。のそりと起き上がり不快感も露わにうずまきの中からダンゾウを睨みつける。
(この拘束、なんとかできるよな?)
笑みさえ浮かべての確認は、もはや確認ではなく、できる前提でのお願いだ。
(…いつも通りだ。お前の好きなようにすればいい)
(うん。ありがとう。九喇嘛)
うずまきの仲間たちは、この信頼の瞳には勝てない。
自分もその中の一人だった。
四方八方。瞬身を使いどこからともなく飛び出してきた根の暗部たちは、うずまきの反撃を予期して待機させていたダンゾウの部下たちだ。
動きを封じた次は、念を入れて眠らせる。それが叶わなければ力づくで。
九尾を秘める青年に対しダンゾウは慎重に事を運んでいた。しかしどれだけ慎重に慎重を重ねようとも、それが理不尽なほど圧倒的な力を前に無に帰すこともある。
一人の暗部がうずまきに向かって睡眠弾を投げる。
しかしそれは目標にたどり着く前に突如発生した突風に弾き返されてしまった。投げた暗部の真横を通過し遠い壁にぶち当たった睡眠弾が弾ける。その煙も強風によってかき乱されあっという間に空気に溶けて消えてしまった。空中に身を投げていた十数人の暗部達も為すすべも無く押し返される。うずまきを中心に金色のチャクラが強風とともに吹き荒れ、それと同時にうずまき自身も金色を纏っているように見えた。
暗く静かな根の本部を一瞬で嵐の中心地に変えてしまった元凶に目を向けると、うずまきを取り囲んでいた金色のチャクラが徐々に形を成し大きな耳を持つ狐の頭に変化する。
まだ不安定なそれが、まるで地面から出てくるように橋の上に手を出した。その手が体重をかけるように力を入れると橋の表面にヒビが入り、バキリと大きな音を立てた。
その拍子に術式に亀裂が入りそれを境に不安定だったチャクラが一気に形を成した。
耳を擘く巨大な咆哮に歴戦の暗部達が怯み上がる。ダンゾウはうずまきから目を離さず片腕の枷を外した。
一方のうずまきも九喇嘛の中からダンゾウを睨みつける。
ダンゾウを見ていると、サスケや長門。大切な人たちを失った者達の慟哭を今でも鮮明に思い出すことができる。
(そうだ…こいつには)
今度こそ拳を握りしめ、うずまきはダンゾウの前へ現れた。
「オレの拳で一発殴ってやらねえと気が済まねえってばよ!!」
羽織を靡かせ拳を突き出す。その拳が違うことなくダンゾウを捉え、ダンゾウは勢いよく吹き飛ばされた。
「サスケの分だ!このヤロー!」
宿主を失った九喇嘛のチャクラが崩れるようにスウと消える。
暗部達がそれを見て一斉にうずまきに向かっていった。
それを目の端で捉えたうずまきは瞬身で姿をくらますと、もう一度九喇嘛のチャクラをまとい後ろの壁に移動した。
根の本部を半分近く占領してしまう尾獣は見上げるほど巨大で圧迫感がある。九喇嘛が壁や地面を足場に向かってくる暗部達に咆哮をあげると、チャクラの乗ったそれに暗部達は忍術も含めまたもや呆気なく吹き飛ばされてしまった。
咆哮と同時に大気が波紋を広げるように振動し、爪を立てられた壁が薄皮のようにボロボロと崩れる。囲まれた空間であるため、脳や鼓膜を直接揺らすような振動が体中を押しつぶすように苛んだ。
それでも暗部達はもう怯むことはなく、何度でもこちらに向かってくる。良く言えば勇猛果敢。しかしその機械的な動きからは心の機微が微塵も感じられず、捨て身とも思えるその行動にうずまきは眉をしかめた。
「うずまき!」
「カカシ先生!」
突然名を呼ばれうずまきが振り返ると、入り口に先程別れた四人の上忍が立っていた。予想を上回る光景に一瞬絶句するも、すぐに冷静さを取り戻したカカシがうずまきに声を張り上げる。
「お前これは…いやそんなことより地上が大変だぞ!謎の咆哮に加え地揺れが続いてみんな大パニックだ」
「えっマジで!?かなり抑えてたから大丈夫かと思ってた…」
「抑えてたってお前な」
頬をひくつかせるアスマに、紅も思わず引いたように苦笑いを浮かべてしまった。
「いやあ凄まじいスケールだな!うずまき!」
「おう!けどこれでもまだ半分以下なんだぜ!」
「本当か!それはすごいな!」
「感心してる場合じゃないでしょガイ。どうするうずまき?加勢するか?」
やはりあの男が絡んで平和で済む話などあるわけがなかった。
お気楽なガイをピシャリと叱責したカカシが問いかけるがうずまきは首を振った。
「いや大丈夫。それより三代目のじいちゃんに事情話して、地上の人たちにも大丈夫だって言って安心させてほしいってばよ」
「わかった。わかったが、お前本当に大丈夫で済ませるつもりあるんだろうな。言ってるそばから火影邸が崩落したら笑えないからな」
「だ、大丈夫大丈夫!オレこう見えてもチャクラコントロールバッチシだから!ちゃんと抑えるから!」
「そうか?まあそれなら頼んだぞ」
「負けんじゃないわよ」
もと来た道を走り去っていく四人を見送ったうずまきが暗部たちに意識を戻すと、彼らはうずまきの周囲に隙なく陣取り包囲網を完成させていた。
「懲りねーな」
ニヤリと笑って身をかがめる。彼らと戦う意味はないのだが、このまま外に出ても彼らは追ってくるだろう。
なんとかしなければと一瞬思考をそらした瞬間、うずまきは急に足元を掴まれた感覚によろめいた。
「わっと…なんだ?」
見ると壁から先程までなかった木が生え、九喇嘛の足に絡みついていた。
『木遁だと?一体誰が』
九喇嘛の声にうずまきも辺りを見渡すと、先程手加減なく殴り飛ばしたはずのダンゾウがこちらを見て印を結んでいた。
「ハァ?!あいつなんで無傷なんだ…?しかも木遁まで!」
『木遁は柱間の小僧の細胞でも移植したんだろう。だが無傷というのはおかしい。さっきのお前の攻撃は間違いなく直撃していたからな。なにかカラクリがある』
「くっそ…。涼しい顔しやがって。ぜってー一発ぶん殴る!」
パン!と両手をぶつけたうずまきは、力を込めて絡みついた木を壁ごと引き抜いた。ガラガラと大きな音を立て、建物の壁がおもちゃのように崩れていく。
「ヘッ。お前の木遁大したことねえな。もっと養分くれてやろうか?」
『アホか貴様はァ!ワシのチャクラをなんだと思ってる!』
「ご、ごめん九喇嘛、つい…」
自分のチャクラを養分扱いされて怒る九喇嘛に、つい相手を挑発してしまったうずまきが眉を下げて謝る。
「けどその前にまずはこいつらだな」
今ここにいる暗部達は全員合わせて十数人程度だが、それぞれが里に多大な貢献をしている凄腕の忍達だ。
もうあまり騒ぎにはできない上に、彼らをできるだけ傷つけずに戦闘不能にするなどそんな都合の話は…と考えていたうずまきはふと閃いた。
「あ、いや一つだけあるな」
『何か思いついたか』
「うん。やったことねーけど、多分できるってばよ」
そう言うとうずまきは九喇嘛のチャクラを己の内に戻した。
辺りを煌々と照らしていた巨大な狐が消えると、その場の空気がしん、と一気に張り詰めたような気がした。
群青色の世界で、誰もが先手を打つタイミングを窺い、呼吸の音さえ聞こえない静寂の中。包囲網の中から一番接近しやすい者を視線で探していたうずまきは一人の暗部を標的に定めた。
間髪入れずその暗部目掛けて壁を蹴ると、うずまきを覆っていた金色のチャクラがチリリとその場に残滓を残した。
空気の流れさえ置いて暗部に肉迫したうずまきは、相手が反応する間もなく体に触れ、そのまま己のチャクラと相手のチャクラをくっつけた。
遅れてくる風にさわりと髪をなぶられながら、仮面の中で目を見開く暗部と一瞬視線が交わったかと思えば、うずまきは容赦なく相手のチャクラを引き抜いた。
「くっ…!」
『なるほどな』
腹の中で九喇嘛がククと笑った。
『ワシとやった綱引きと同じだな』
「うん。チャクラを渡すことができんなら、奪うことだってできると思って」
第四次忍界大戦の時と真逆であり、九喇嘛との綱引きと同じことをしている。
もちろん全て引き抜いてしまっては死んでしまうため、動けなくなるギリギリのラインを見極めている。
チャクラ切れを起こした人間がどうなるかは、カカシを見てきたうずまきからしてみれば推して知るべしだ。
「はっくしゅん!」
「カカシ大丈夫?」
「うん…風邪かな…」
そんなやりとりが地上で行われているなど知らず。自分の思惑が成功したうずまきは、よーしと気合を入れて、壁面、天井、柱、様々な場所にいる暗部たちのチャクラを次々引き抜いていった。雷影に認められたスピードについていけるものはおらず、気づいときには既にチャクラを引き抜かれたあと。
チャクラを奪われては当然、壁面や天井に吸着することはできない。落下する暗部達は重い体をなんとか動かしその身体能力で地面に着地していく。
それを横目で確認していたうずまきはふと、壁面にいるひときわ小さな暗部に目を止める。
面をしているため顔こそ見えないが、濡れ羽色の髪に異様に白い肌。
(そっか…そういやお前、十歳で中忍になったんだもんな。オレらより一個上だから、今はもしかして上忍だったりすんのか?…サイ)
幼い頃に根に引き取られ、暗部として育てられてきたサイもまた、幼いながらも感情の機微が薄い。それでもまだ若いサイはうずまきに見られていると気づいた瞬間、わずかだがその呼吸を揺らした。それを見てうずまきは一つ悟る。
(ああ、お前が兄ちゃんみたいに慕ってたシンって人はまだ生きてんだな)
根の最終試験では親しい者同士での殺し合いがあると聞いた。子供同士で共同生活をさせるのは何も彼らに寂しい思いをさせないための優しさではない。
何が何でも取り戻したかった、サスケという兄弟がいるからこそ、うずまきはダンゾウに激しい憤りを感じた。
だが不思議と、それと同じくらいの遣る瀬無さも感じていた。
(里を守るために…か。なあ里ってなんだ?お前にとって守るべき里ってのは、一体なんなんだ?)
ここにいる部下達は、里の一部ではないのだろうか。
切なく眉を寄せたうずまきは、思考に引きずられそうな自分を振り切るように、勢いよく天井を蹴った。
目の前に現れたうずまきを見て、サイはただひたすらに固まった。どうしてこの人は自分を見てこんな目をするのだろうと。
サイ。
声にはならなかったが、サイは確かにうずまきの口元がそう動くのを見た。
唖然とするサイを余所に、それでもやるべきことを見失わないうずまきはサイの手を取った。
瞬間、あっという間に体の力が抜け、足が宙に浮く。
面の中、目を見開いたサイを見つめたまま、腕を伸ばしたうずまきはそっとサイの手を離した。地面に優しく降ろされるような仕草に一瞬自分のいる場所を忘れるが、胃が持ち上がるような浮遊感にサイは慌てて体制を立て直し地面に着地した。
足に力が入らず膝をついたサイがうずまきの方を見上げるが、先ほどまで自分がいた場所にはもううずまきの姿はなかった。
たった十数秒でほぼ全ての者たちのチャクラを引き抜いてしまったうずまきが、残った二人に目を向けると、印を結び何か術を発動しようとしているのが目に入った。
(二人同時か…一人は間に合う)
面倒なことは避けたい。
それにどうせなら誰よりも早く。
うずまきは懐からクナイを取り出しそれを片方の暗部に投げた。三股に分かれたそれは忍界大戦の時に譲り受けた父の形見。
飛んでいくクナイより早くもう片方の暗部の前に現れたうずまきは、印を結び終わる前にその手を掴みチャクラを引き抜く。
そしてもう一方の暗部が印を結び終わろうという時、うずまきはすでにその忍の後ろに移動していた。
遅れてくる突風もなく、ただ現れたうずまきに、暗部の男はグッと自身の手に力を込めた。
印は完成している。しかし術は発動しない。それどころか徐々に抜けていく力に、男は真っ逆さまに地面に落下していった。不思議なほどゆっくりと落ちていく感覚に、男は体を捻って、そらを見上げた。ただ一人天井に立つその姿に、男は久方ぶりの恐怖を感じた。
うずまきが最後の一人からチャクラを抜き取った直後、風が空を切った。
気づいたうずまきが天井を蹴ると、先ほどまで自分が立っていた場所にそれが直撃し、砕けた天井がガラガラと降り注いだ。
しばらく天井を見つめていたうずまきが術を放ったであろう男の方に目を向けると、目の前に風の塊が迫ってきていた。
一つ二つと放たれるそれを身を翻して回避すると、地面に着地したうずまきはダンゾウの元へ駆け抜けた。
うずまきはダンゾウの横面に拳を繰り出すが、咄嗟にそれを庇ったダンゾウの腕を見てギョッと目を見開いた。
石礫のように飛んでいくダンゾウの腕に釘付けになるうずまきだったが、その姿が徐々に薄くなり消えていくさまに目を見張った。
「なんだあれ…」
『奴め…写輪眼を腕に移植していたか。ありゃイザナギだ』
腹から話しかけてくる九喇嘛に、うずまきは精神の奥へ意識をやる。
「イザナギ?」
『写輪眼の瞳術だ。視力を失うことと引き換えに、自分にとって都合の悪い現実を夢に変えることができる究極幻術』
「オレってばまた幻術にかかっちまってんのか?」
『いや。イザナギは自分自身にかける術だ。お前にはなんの干渉もしていない』
九喇嘛と話しているうちに霞みがかっていったダンゾウが完全に消えたかと思えば、少し離れたところに再び姿を現した。
「さっきと同じだってばよ。ピンピンしてやがる」
正直言って、先程の攻撃には腕が腫れるなんてものでは済まないくらいの力を加えた。
腕に埋め込まれた瞳も二つ閉じてしまっているが、それ以外はなんの外傷もない。
「一発も当たらねえなんて」
拳を握りしめたうずまきがダンゾウを睨みつけた。
「一体どうすりゃいいんだってばよ」
『そんなもの決まっている。瞳のストックがなくなるまで殴り続ければいい』
「ハハ、いやまあそりゃそうなんだけどさ!」
『お前は相変わらず甘い奴だ。あんな奴でもジジイを一方的に殴り続けるのは気が引けるか。奴は鬼だぞ』
「わかってんよ」
低く静かに言ううずまきの目を見て九喇嘛がそれにだ、と付け加える。
『ここで引いても奴はきっと諦めないぞ。今キッチリかたをつけろ』
サスケを守るためにもな、と続けてやればうずまきはようやくやる気を出した。
『何も殺せとは言っとらん。どうにかして、いつも通り変えてこい』
「オス!」
言うと同時に駆け出したうずまきは躊躇いなく全力の拳をぶつけた。迷いが消えたのか、先ほどよりも重い一撃にダンゾウを受け止めた壁が四散する。
「仲間の分とやらか?」
しかし背後から聞こえてきた声に、うずまきは視線をそちらによこした。
「なぁにめでたいこと言ってんだ。お前に本当の拳が届くまで、アイツらのためなんて言うつもりはねえ…こいつはオレのムカつきだ!!」
こんな無意味な拳を仲間のためなどと言うつもりはない。彼らの痛みはイザナギのようになかったことになどできない。
そこからのうずまきは早く、ダンゾウの目を一つ二つと着実に使わせていった。
半分ほどの目を使わせた頃。目の前で消えたダンゾウがまたもや背後に現れる。それを振り返りざまブンと腕を薙ぎ払うと、それを跳び退いて躱したダンゾウが印を結びうずまきの足もとから木を生やす。
察したうずまきが跳躍すると、それを見計らったかのようにダンゾウが口寄せをした。
ボフンと煙を上げて現れた見慣れない生き物にうずまきは目を瞬いた。
「なんだぁ?あれ」
『ありゃあ獏だな」
「バク?ってうおおー!?」
『悪夢を喰らう化け物だ。吸引力がすごい』
「なにを冷静に言ってんだ九喇嘛ァーッ!早く言え!!!」
何とか体制を整えたうずまきは獏の口に吸い込まれる前に尾獣化し、両の拳を合わせて頭上高く振り上げると、そのまま勢いよく下ろし獏を橋の下に叩き落とした。
しかしその直前に背後のダンゾウが放った真空波が、獏の吸引に合わせて威力を増し、うずまきの背に直撃した。
背中で炸裂する風遁のあまりの威力に思わず仰け反る。
「いってぇ…思ったより威力強え…!」
『このコンビネーションはサスケが須佐能乎をこじ開けられたと言っていたものじゃないか。かなり効くな…』
「んなマッサージみたいな…」
自分が持つ術の中でも一番威力の強いものを直撃させたのだが、それでもなお余裕を滲ませる姿にダンゾウはゆっくりと目を閉じた。
「もうよい」
「は…?」
突然諦めたように呟いたダンゾウの言葉に、うずまきは声を低く震わせた。
「なにがもういいって?お前がよくてもなあ…こっちは全然、なーんにも、なに一つよくねえんだよ」
目前に躍り出たうずまきの拳を躱しながら、姿勢を低くして睨み上げる青い瞳を淡々と見返す。
しかしそう長くは持たずバランスを崩し、風を纏わせたクナイを振るうもいともたやすく折られてしまう。
折れたクナイのカケラが二人の視線の間をくるくると舞い、互いの瞳を写し出す。
「今までお前が苦しめてきた奴らの意思を、お前は、ちょっとでも考えてやったことがあったか。オレはもうお前のこと一発ぶん殴るって決めてんだ。それがお前にとって理不尽だろうが何だろうが、この戦い、お前の意思でやめられると思うなってばよ!!」
「くっ」
足を払い倒れたところを見計らい、うずまきは瞬時にチャクラを片手に集める。
どうせこれも意味がないんだろう。そう思い、腕を引く間に完成した螺旋丸を躊躇いなく相手の顔に突き出す。
しかしそこで垣間見たダンゾウの表情にうずまきは目を見開いたかと思うと、ダンゾウの顔に螺旋丸が当たる直前で腕をピタリと止めた。
止まる勢いで二人の周囲の砂塵がふわりと舞う。
球となったチャクラがその中で細い線を描くように激しく乱回転し高音を発している。
しかし螺旋丸が小さくなっていくにつれて、ダンゾウの顔を白く照らしていた光が一点に集まるように小さくなっていき、そして最後にはぷつりと消えてしまった。
「お前なんか最低だ」
薄暗い群青色の世界を静寂が支配したかと思うと、呟いたうずまきがダンゾウの胸ぐらを掴み殴りつけた。
殴られる直前、攻撃をいなそうとしたのか、ダンゾウの手がうずまきの腕に触れる。
数メートル吹き飛び地を削るその姿を見ながら、うずまきは拳を握りしめた。
感情のままに突き出した拳は、殴ることを知らない素人のように自身の手を傷つけビリビリと痛んだ。
「なんの真似だ」
「そりゃお前が一番わかってるはずだってばよ」
体制を整えたうずまきは、何とも言えない感情を持て余すようにダンゾウを睨みつけた。
「お前もうイザナギ使う気ないだろ」
片膝を立てたダンゾウが懐から煙管を取り出すと、今までの戦いも、殴られたことも、まるでなかったかのように煙を吸い始めた。
「何も得るものがないのでな」
このまま戦い続けても記憶は手に入らない。それどころか限りある写輪眼をいたずらに消費し、全て失うだけだ。
そう結論に至ったダンゾウの考え方は自己犠牲的かつ合理的。木ノ葉を守るため感情を殺し忍に徹する。ダンゾウが根の支配者たる所以であり、それゆえ得られる利益も莫大なため、穏健派と謳われるヒルゼンでさえ、彼らを廃しきることはできない。
腕に新しい包帯を巻き始めたダンゾウにうずまきが問いかける。
「その目はどうしたんだ…まさかお前その人たちを」
うずまきの声を無視し、ダンゾウは包帯を巻き続けた。
しばらくして包帯を巻き終えたダンゾウがフーと煙を吐く。
「聞いてんのかよ!」
うずまきの苛立った声に、ダンゾウはようやく口を開いた。
「虐殺など無意味なことをした覚えはないが。これは木ノ葉へ謀反を企てた者たちの目だ」
息を詰まらせたかのように小さく顎を引いたうずまきにも、ダンゾウは興味なさげに続ける。
「情だの何だのと生ぬるいことを口にする貴様らにはどうでもいいことだろうがな」
木ノ葉にクーデターを企てたうちは。もしダンゾウやイタチがそれを阻止していなければ今頃木ノ葉はどうなっていたのだろうか。
今、自分たちと当たり前のように笑っている仲間たちも、もしかしたら最所から出会うことすらできなかった可能性もあるのだろうか。
「だとしても…お前ってどうしてこんなにひでーことができるんだってばよ。全部じゃねえけどオレも知ってる。お前がどういうことをやってきた、どういう人間なのか。うちはのことも」
木ノ葉に執着とも言える強い思いを抱きながらも、忍の闇と呼ばれる非情な男。
うずまきはダンゾウのことを知りたいと思った。
「木ノ葉を守るためには仕方のないことだ。忍は強く業が深い者ばかり。躊躇っていては里と言えど足元を掬われる…そうなっては遅い」
くゆる煙の向こうで、揺るがぬ瞳が何かを見据える。
「忍里の大きさはそのまま業の数に直結する。それだけ恨みを買い、狙われる。今この時でさえも。一つ一つの火種に甘さを見せ、時間をかけていては到底守りきることなどできない。我々は常に先へ行かなければならない。お前のような子供には思いもよらぬことだろうがな」
ダンゾウの話をじっと聞いていたうずまきは視線をそらさず答える。
「いや。わかるってばよ」
その言葉にダンゾウは意外そうに目を眇めた。
「オレだってもうただ気に入らねえことを喚き散らすだけのガキじゃねえ。起きちまったこと、どうにもならねえことから何かを守るために自分や他の何かを犠牲にしようとする考え方は、むかつくし胸糞悪い…だけど理解できないわけじゃない。オレの兄弟子やオレと同じ夢を持った先輩が、自分なりに世界の平和を願って行動したその想いが嘘じゃねえように。だけどやり方は気に食わなかった。だから戦って、そんで認めてもらえた」
理不尽な世界に触れ、それでもどん底から世界を変えようとした彼らの叫びを聞いてきたうずまきには、自分と考えが違うからといって相手を力任せにねじ伏せて自分の意見を通そうという考え方はなかった。
ダンゾウをまっすぐに指差し力強く睨みつける。
「オレが気に食わねえのはやり方だ!お前のせいでいろんな奴が狂った。いろんな奴が泣いた。いろんな奴が苦しんだ…!」
「里を守るためには仕方のないことだ。当然恨まれるのも承知の上。もし生き残ったものが木ノ葉に牙を向くと言うならばその都度芽を潰すまでだ」
自身の腕に目を落としたダンゾウにうずまきは息を飲む。
「まさかてめえ…サスケのこと言ってんのか…!!」
震えるほど拳を握りしめたうずまきの髪が逆立った。地面に転がる小さな砂や砂利がざわりと動く。
「そうやってお前が何かを犠牲にするたびに誰かの恨みを買って里が危険にさらされる。そう思わねえのか!」
「お前が言っていることは忍の世のシステムから目をそらした戯言だ。お前がさっき言ったようにどうにもならないことの一つ。ワシらはそう言う世界に生きているのだと理解しろ。何かを守るためならば迷いなど捨て、奪われる前に先手を打つ。その過程でまた危険因子が生まれると言うのならばそれもワシらが責任を持って潰そう。この里は、お前たちはその闇の上でのうのうと生きている。そうして成り立っている平和だ。お前の言うことは所詮陽の当たる世界しか知らぬものの綺麗事でしかない」
「どうにもならねえことを諦めるって誰が言ったよ」
ダンゾウの目を睨みつけるうずまきの青い瞳が、薄暗い根の本部の中で唯一光を放つ。
「少なくともオレは違う。忍の世のシステムならオレたちが変えてやった。もちろん最初はうまくいかなかったけど、少しずつ。今じゃ五里のみんなが強い絆で結ばれた仲間だ」
うずまきによってもたらされた未来の情勢は、如何にダンゾウといえども思いもよらずその隻眼を微かに見張った。
「里どころかうちは一つどうにもならないって諦めたお前に、火影なんざ無理な話だってばよ。お前がいなくても木ノ葉も世界も平和に回ってるぜ」
暗にお前は死んだと容赦無く突きつける。それでもダンゾウは平然と口を開く。
「ワシは火影にはなれなんだか」
「さあな。オレの話思い出して自分の胸に聞いてみろってばよ」
はぐらかしたうずまきにそれを肯定の意と受け取ったダンゾウが言った。
「…それでもワシはワシの考えややり方を改めるつもりはない。お前に対する認識もな。お前は忍の世界の均衡を保ち木ノ葉を守る戦争の抑止力、九尾の人柱力だ」
「好きなだけ言ってろ。傷つきやしねえよ。オレのココにはもうたくさんの愛が詰まってるからな」
そう言ってうずまきは自身の腹にトンと拳を当てる。
「生まれた時からオレの父ちゃん、母ちゃん…今はオレの仲間の想いが。そんでもちろんオレの相棒が詰まってるんだオレの器には…。こんなにいっぱいでスッゲー嬉しい。人柱力になれて幸せだ、オレは」
その言葉にダンゾウは、初めて意図してうずまきの瞳を見た。人柱力の歩む道は知識としては知っているが、この男はイレギュラーだ。この人間は他と何が違うのか。人柱力としてではなく、うずまきナルト本人が今初めて目の前に現れた気がした。
先ほどまでは聞きたいこと、知りたいことが山ほどあったはずなのに、今はそのどれもおぼろげで、明確な一つに絞ることができない。
何か一つ聞き出せるとしたら、代わりにこの微かな興味に手を伸ばしてみるのもありかもしれない。
「この世界で色々と画策しているようだが、お前はこの世界で何をしようとしている」
「なんだよ急に…。別に何もしねーよ。オレがここにきちまったのは事故みてーなもんなんだから」
目を逸らすうずまきにダンゾウは、おもむろに指を二本突き立て再度聞いた。
「もう一度聞く。お前がこの世界でやり遂げたいことはなんだ」
しつこい、と思いながらもその様子を不思議に思い見つめていたうずまきだったが、その直後、舌が熱くなり気づいた時には口が勝手に動いていた。
「じいちゃんを死なせねえこと…って、あ!」
「そうか。ヒルゼンは近々死ぬのか」
「てんめえ!オレに何しやがった!」
「強力な自白の呪印を仕込んだ。さっき一度触れた時にな」
口を両手で抑えるうずまきにダンゾウが続ける。
「だが強力ゆえに一度きりの代物だ。生半可なものではお前のチャクラに弾かれる恐れがあったからな」
ダンゾウの言う通り、舌を焼いていた違和感がスウと消えていくのがわかった。未来のことを知りたがっていたダンゾウが、せっかくつけた呪印をこんな質問に使うとは案外抜けているのかとうずまきは見当違いなことを考えていた。
「だがヒルゼンが死んでもワシは火影にはなれぬと言うことか」
自分の舌を指先で擦っていたうずまきは恨めしげにダンゾウを見遣った。
「火影になりてーならみんなに認められるようにしろ」
「そんな生温い考えでは真に里を守ることなどできはせん。ワシの居場所はここだ」
ダンゾウは立ち上がり衣服の汚れを払う。
「お前火影になりたいんじゃなかったのかよ」
訳がわからないとうずまきがこぼしたが、ダンゾウはその言葉を無視した。
「最後だ。未来から来たお前に聞く…ワシのやってきたことに意味はなかったのか」
うずまきは一拍置き、思い出すように視線を上にやった。
「まあ里のためとか言いながら正直言って結構裏目に出てることの方が多かった気がするけどな。つってもお前相当なジジイだし、昔のことは知らないけど…。お前のおかげで今も笑えてる奴もいれば影で泣いた奴もいるってことだろ。そんで簡単に潰すとかいうけどよ、お前が闇に叩き落とした奴らの力を侮らない方がいいぜ。忍の世のため、木ノ葉のため。そう思うなら憎しみを生むようなことはやめろ」
ダンゾウが何かを守れば、同じだけ世界に牙を剥く者たちが生まれた。
サスケ、長門、カブト。自分が知るだけでもこれだけの奴らがダンゾウによって人生を狂わされてしまった。イタチも小南もどれだけのものを抱え生きていかなければならなかったんだろう。
許せない。だが許せないなら殺すのか。うずまきの心は違うと断言していた。
(今までだってそうだったろ。なぁ、エロ仙人)
自分の意思を証明したいのならば。
戦うだけでは何も解決しないと、師から受け継いだ意思がそう言っている。
「てかやっぱり気にしてたんだ」
「お前のもたらした情報と言葉には一考の価値があると判断したまでだ。木ノ葉を守るためにな」
捻くれているが、ダンゾウの纏う雰囲気は確かに変わっている気がした。それならばもう十分だ。
そうか、と言ってうずまきはその場を後にした。
「ありがとうございましたー」
店員の声を背に聞きながらうずまきは外に出た。
店で一番小さい袋をぶら下げたうずまきの足は、ある場所を目指し勝手に道を歩く。
(オレってば何がしたいんだろう)
自分がどこへ向かっているのかは当然分かっている。
だがそこへ行って自分が何をしたいのかは、いまいち良くわからなかった。
ぼんやり歩いていると見知った二つの気配を感じられた。
木の陰からそっと様子を伺うと、
(いた…)
木陰に座り、筆を動かす大きな背中と、その周りでちょこまかと動き修行をねだるナルト。
(エロ仙人)
うずまきがじっとその背中を見つめ動かないでいると、ちょこまかしていたナルトが視界の端に自分を捉えたのだろう。「あ!」という口の形をしてこちらを見た。
かなり離れた位置にいたので自分の金髪が目に入ったのだろう。上着を黒に変えてもやはり自分の色は目立つらしい。
気配を絶っていたのに、ナルトにすら気づかれてしまうとは、やっぱり忍向きの色ではないよなあと頭の隅で考えていた。
どうした、というように自来也がナルトに視線を向ける。するとナルトがこちらを指差して「うずまき兄ちゃんがいる!」と叫んでいるのが自分のいるところにまで聞こえてきた。
なに?とこちらに目を向けた自来也に、うずまきはサッと反射的に頭を引っ込めてしまった。
(なに?なに?オレってばなにしてんの!?)
うずくまり頭を抱えていると、小さな足音がパタパタと近づいてくるのが聞こえてきた。
来たな…と思い、半ば諦めた気持ちで視線を上げると、それと同時にナルトがひょっこり木から顔を覗かせた。
「うずまき兄ちゃん!って、なにしてんだってばよ。腹でも壊したか?」
「いや腹は壊してねーけど…」
「じゃあ修行見てくれよ!任務ないんだろ?…あ、じゃなくてとにかくこっちきて!」
腕を引っ張るナルトにうずまきがわざと逆らっていると、ナルトが「んぐぐ重いい〜」と呻き出したのでそれが何とも非力でおかしいやらいっそ可愛いやら。
くくっと笑いを漏らすと、顔を真っ赤にしたナルトがギッ!とこちらを睨むので、抵抗をやめ立ち上がってやると、ナルトはうずまきの腕を肩に担ぎ離さんとばかりに両手で握りしめた。
先導するナルトに、腰を曲げおとなしく従っていると、あっという間に森がひらけて太陽の下に晒されてしまった。
近づいてくる二つ分の足音に、未来のナルトと聞いて軽くバカにした面持で振り返った自来也は目を見張った。
「お前ナルトか…?」
予想の範囲内といえば範囲内。しかし予想外といえば予想外。
もっと騒がしいのが出てくるかと思いきや、面影は今のナルトと変わりないが、思ったよりちゃんとしたのが出てきた。
「オッス。エロ仙人」
「ったくその呼び方…間違いなくナルトじゃのう…」
じっとりと睨む自来也にうずまきはにししっと笑い、その目をじっと見た。するとそれを見返した自来也が片眉を上げナルトに声をかける。
「…ほれナルト。ワシら二人はこれから、お・と・な・の!話をするからの。ガキのお前は行った行った!」
「はぁぁ!?そりゃねーってばよエロ仙人!今日なーんにもしてくれてねーじゃん!」
「たわけ。誰も毎日お前の相手をしてやるなんぞ言っとらんわ。ワシとて暇じゃねーってのよ」
「暇じゃん!いっつもいっつもくだらねーエロ小説書いてる暇人じゃん!」
「まあまあナルト。そうカリカリすんなってばよ。明日はちゃんと修行みてやるって…エロ仙人が」
「ワシかい!今の流れだと完全にお前だろうが!」
「オレ明日は任務入ってっからさ…。わりいなナルト、また今度な!」
「ワシは無視かい!」
吠える自来也を無視して、こんな修行はどうかと一人でもできる鍛錬を提案し、一楽を奢る約束をしてナルトに手を振った。
立ち上がりようやく自分を見たうずまきに自来也はケッと言いながら筆を置いた。
「ワシに話があるのだろう」
「いや特にないけど」
「ないんかい!」
出鼻をくじかれガクッと折れる。
神妙に切り出した自分がアホくさくなってくる。
「ないけど…ん!」
「なんじゃこれは」
「差し入れてきな?」
「おお!気が利くのう。コンビニの袋なのが玉に瑕だが…っておいおいアイスじゃねえか。この肌寒い時期に何を考えとるんだお前は」
アイスを取り出した自来也は文句を言いつつも封を開けた。
「若干溶けちまってるが…ほれ」
ぱきりと割った自来也は当然のように片方をうずまきに渡す。
「へへっ。サンキューエロ仙人!」
「お前が買ってきたんだろうが。分からん奴だのう…」
アイスをかじりながら当たり障りのない未来の話をする。身振り手振り話すクセが抜けず、夢中になって話しているとアイスが飛ぶ!と叱られる。
この人を前にすると不思議なほど自分は間違っていないと思える。
半蔵と共謀したダンゾウが弥彦を殺し長門が狂い、その長門が自来也を殺し、そして自分は長門を許した。
だが恐らく始まりはそこじゃないのだろう。
人は変わる。自分が変わらなかっただけで、ダンゾウと半蔵にも今に至るまでの何かがあったのだろう。
自来也はその連鎖をなんとかしようと考え、その答えを自分に託してくれた。
指標だ道標だと言われても、最初から自分がそこにいたわけではない。
自分の見る先にはいつも。
(やっぱりアンタ、オレの指標だ)
思わず眉尻を下げたうずまきだが、ぞれと同時に限界を悟る。
「あー、なぁ眠くなってきたってばよ。ちょっと背中貸して!」
「はぁ?ったく今の今まで元気にしゃべっとったと思えば、成長しても相変わらず嵐のようなやつじゃのう」
それでもほれ、と言って背中を貸してくれる自来也の後ろに周り寄りかかる。
じんわりと背中の熱が伝わってくる。
物書きを再開したのかさらさらと筆と紙がこすれる音がする。
「重たいのう」
呟く自来也の後ろで、呼吸を乱すことなく、体を震わすことなく、
うずまきナルトはーーー。