・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
・いっそ〝ナザリックラジオ〟で章管理しようか迷ってます。
以上を踏まえた上でお読み下さい。
「f8エルダーリッチ。」
「あー!俺のデスナイトが!ならd6ログハウス!」
「e5スケルトン。」
「……e3ジェネラル。」
「d3ガーディアン、チェック。もう、逆転の目は無いな。俺の勝ちだ。」
「ああ……!いやはや、モモン様の前でお恥ずかしい姿を。」
「いえ、見ていて楽しい勝負でしたよ。緊張させた様ならば申し訳無い。」
(ってチェスなんて定石すら知らないよ!動かし方は辛うじて知ってるけれど。)
アインズは久々に〝漆黒の英雄モモン〟として魔導国首都エ・ランテルをナーベと共に歩いていた。本来の姿で街を歩けば民が一斉に平伏しだすので、全く視察にならない。
「何だかチェスっぽいものが流行っているな。」
「はい、恥ずかしながらわたくしも全容をお伝えすることは叶いませんが、らじおを用いた〝ぷろぱがんだ実験〟の一環として、人気の冒険譚番組にて、この盤上遊技を題材としたところ、愚民共へ爆発的に広まったとのことです。」
「なるほど。まぁ我が国の経済が活発になることは喜ばしい。」
他にも特撮ヒーローっぽい格好やグッズを身に付けた子ども達がチャンパラに興じていたり、入った肉料理屋で-もちろんアインズは飲み食い出来ないが-フランベの演出があったりと、街の様子は良い意味で大きく変わっていた。改めて【ラジオ】が及ぼす影響にアインズは驚く。
ラジオの設置台数もかなり増えており、公園などで細々やっていたものが、今では都心のど真ん中に一定区画配置されている。
「………♪ アインズ・ウール・ゴウン魔導国ラジオが、18時00分をお知らせするっす。皆さんアインズ様のためにお仕事お疲れっす!周りや近所に迷惑かける馬鹿は容赦無くつまみ出すっす。大人しく聞いているっすよ!」
【休日・夕方専用放送台】と書かれたラジオ装置の周囲には、相変わらず多くの聴衆が群がっている。酒や珈琲、軽食の売り子が忙しそうに歩いて回っている位だ。商人というのはどの世界でも逞しい。
「みなさんこんばんわ~~!メインパーソナリティーのボルジェでーす!」
「えっと……あの、僕は……ブランケ?です。皆さん、アインズ様のために、お、お仕事お疲れ様でした。」
(アウラとマーレの放送!?どう考えても深夜枠だろ!)
アインズの脳裏にピンク色の見た目に似合わぬ可愛らしい声をしたスライムが浮かぶ。年齢的には-
「ほらマー……じゃなかった、ブランケ!!次はあなたの台詞!」
「ええ、やっぱり僕には無理だよぉ、お姉ぇちゃん。」
(ああ……もう聴衆の反応が完全に〝初めてのおつかい〟を見る大人達だ。)
「もう、貸して。この番組は、わたしたちがトレンドのファッションについて語る番組です。えええ!もっと熱い番組がよかったなぁ~。」
「で、でもお姉ちゃん!僕、図書館でいっぱい司書さんに聞いて!いっぱいご本読んで勉強したよ!〝おとこのこ〟が女の人の格好するのは、あの……上手く説明できないけれど、凄い歴史があるんだよ!」
(だから毎回人選ミスをなんとかしろ!このキャスティングしたの誰だ!?)
しかし、とアインズは考える。基本ナザリックのNPC達は〝共生〟の概念が欠如しており、今のところ安心して現地へ出せるのは、友人まで作ったシズ、孤児院・学園の運営をしているペストーニャとユリくらいだ。ルプスレギナにはカルネ村を任せているが、〝共生〟かと問われれば疑問符が付く。これはこれで、良い練習になるのではないだろうか。……放送側がそこまで考えているか解らないが。
「本当!?流石はぶくぶ……あ、不敬サイン出ちゃった。流石は至高なる御方々のお一人!」
「うん、僕いーっぱいメモしてきた。」
「なになに……。古来より、女児よりも死亡率が高かった男児は、願掛けの意を込めて、世界各国で跡取りとなる男児へ女児の服装をさせる風習が見られた。また神話の中でも女装・男装の場面は枚挙に暇が無く、〝やまとたけるのみこと〟が美少女に化け、敵を魅了して暗殺したのは有名な話である。……え!?女装って<
(違う違う違う違う!!聞いているみんなも納得するな!街が倒錯者だらけになる!)
「うん!やっぱり僕たちの性別を間違えてじゃなくて、深いお考えがあったんだよ。だから国民の皆様も、男の子には女の子の格好を……」
(茶釜ァ!)
…………。
「ということで、次は何時になるか解らないけれどまったね~~♪」
「あ、ありがとうございました。」
(……結局トレンドのファッションじゃなくて、女装と男装の歴史談義じゃん。)
「………♪ …………こちらはAOGR.AOGR、アインズ・ウール・ゴウン魔導国ラジオ。18時30分。ご傾聴。」
「~~♪」
(ヴァイオリン?えらく上手いな。誰が奏者だろう。)
「アインズ様の寵愛を賜りし臣民の皆様初めまして、我が輩、訳有って名は名乗れませんが、魔導王陛下より領地と爵位を賜りし者。この放送は、我が輩の眷属たちと共に、上質な演奏会と歓談をじっくり堪能して頂く本格クラシック番組を予定しております。」
(今すぐ止めろおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!)
アインズの懸念とは裏腹に、甘い声質とインテリジェンスに溢れたトーク、選曲のセンスは素晴らしく、聴衆は未知の放送者に陶酔していたのだが、マイクの先に誰が居るか想像がついているアインズとナーベラルは、気分をどんよりとさせていた。
●
チン と グラスを重ねる音が響く。
ここはナザリック地下大墳墓9階層にあるショットBAR。デミウルゴスとコキュートスはここの常連であり、時折こうして酒を呑み交わす仲だ。
「浮かない顔だねコキュートス。」
「ウム。少シ……ナ。」
「愚痴をこぼさない君の高潔さは美徳だが、わたし達の仲だ。それにここは酒場。多少の愚痴ならば、アインズ様も御赦し下さるだろう。」
「ソウカ……。イヤ、未ダ〝ラジオ〟ノ配置ガ許サレヌ我ガ身ガ情ケナク。」
「リザードマンの集落か……。あそこは、エ・ランテルやバハルス帝国と文明レベルや価値観に差異がありすぎる、リザードマン専用の放送ができるならば配置も吝かではないが、急いで配置するメリットも無い。」
「アインズ様ヨリ、統治トイウ誉レヲ賜ッタ身デアリナガラ、上手クイカナイモノデナ。」
「安心するといい、アインズ様から賜る課題というのは、我々を更に成長させる。流石は至高の御方々のまとめ役であられた方だ。わたしも悩みは尽きないよ。」
「デミウルゴスノ知謀ヲ持ッテシテモ……カ。」
「アインズ様の智謀はわたしの及ぶところではない。正しく神域だ。わたしも今回【魔導国情報先進国化及び、プロパガンダ構想】を任された一員であるが、改めてアインズ様の深淵なるお考えとお力に畏敬の念を強めるばかり。」
「ソウカ……。」
「もし良ければコキュートス。次の放送者になってみるかい?」
「ワタシニ弁ガ立ツトハ思エヌ……。嬉シイ誘イダガ止メテオコウ。」
「……アインズ様にお世継ぎが生まれたとして、御伽噺を語る爺の練習だと思えばどうだろう。」
「ヌ!?」
「ご子息様かご子女様かは解らないが、きっと喜ばれるかもしれないねぇ。」
「苦手デアルカラト逃テハ武人ノ恥!是非御伽衆ノ役目、引キ受ケヨウ!」
「そうこなくては。」
デミウルゴスはやる気に満ちおつまみの野菜を囓るコキュートスを見て、静かにグラスを傾けた。