素材加工メーカーのウチダ(埼玉県三芳町、内田敏一社長)は、脊髄が損傷した患者のリハビリ歩行を助ける機器を開発した。3Dプリンターなどで製造したカーボン素材の器具を下半身に装着し、2足歩行の助けとする。2018年に完成品を仕上げ医療機関で実証実験に入る。20年までの実用化を目指す。
歩行装具「シーフレックス」を国立障害者リハビリテーションセンター研究所(埼玉県所沢市)の河島則天教授と共同で開発した。脊髄を損傷し、自立歩行ができない患者の下半身に装着する。
腰部分と左右の足部分をケーブルでつないでおり、右足を出すと左足が下がる仕組みになっている。上半身を使った体重移動により、リハビリを通して歩行が可能になるという。
カーボン素材のため重さが約4キログラムと軽いのが特徴だ。ウチダは素材加工のノウハウを生かし、つま先の角度を調整して一歩を踏み出しやすくするなど形状を工夫した。また、カーボン素材の弾性により、足を送り出しやすくなっている。大腿部を支える部品は3Dプリンターで作製した。
今後は膝部分の機能向上や、骨格と関節を一体でつくり、より歩きやすく改良していく計画だ。
歩行補助器具は日本人の体格に合わせてまず3種のサイズを用意する。腰から膝までの長さやバネの強さなどは調節可能。19年から国立リハビリテーションセンター研究所でする実証実験での患者の声を反映し、バリエーションを順次増やす。
これまで2人の患者で実証実験しており、そのうち1人の患者からは「地面を蹴る感触が得られた」という声が出た。
販売は外部企業との提携を検討する。医療機関とつながりのある商社を中心に数件の引き合いがきているという。価格は100万円以内を想定している。製造は3Dプリンター以外は埼玉県の自社工場でする。
脊髄損傷患者は国内に約10万人いるとされ、年間4000人程度増えている。交通事故やスポーツ事故などが原因で下半身などにまひが残る。
同様の歩行補助装具では英国の製品があるが、大腿部を支える器具が金属で、耐久性にも課題があったという。また、イスラエルの製品は電動で専門スタッフが帯同する必要があり、価格も250万円程度という。
内田社長は「日常生活で使えるような製品にしたい。デザインにもこだわり、機能と美観を併せ持つ製品にしたい」と話す。19年には車いすと一体になった2足歩行装具の製品化も計画中だ。
ウチダはオートバイや自動車部品や、航空向け部品の試作・製造が主力事業で、17年8月期の売上高は7億円。最近は医療・福祉向けを成長分野と位置づけている。
(企業報道部 薬袋大輝)
[日経産業新聞 2018年4月5日付]