国会図書館の海外デジタル送信が絵に描いた餅になってしまう
国立国会図書館が持つ絶版等資料をデジタル送信するサービスが、国内の大学・公立図書館に普及している。2018年には、それを外国の図書館にも広げる著作権法改正がされ、2019年4月22日からは、海外からの受付もはじまった。これが広がれば、海外の日本研究にとっては大きな福音になるはずだ。
ところが、である。北米の蒼々たる有名大学の図書館が、いまだ一館もこれに申請すらできないでいる。(欧州では一館が申請しており、北米では二館がようやく申請できそうなところまできているとのこと。)
その最大の理由は、国会図書館側が求める条件が、海外図書館にとって厳しすぎることにあるようだ。
国会図書館は、それぞれの大学のUniversity Councilや弁護士がLegality Checklistに署名することを要求している。また利用契約書にも大学の代表者が署名しなければならない。法務部門がない大学もあるし、外部の弁護士に依頼するには料金が発生する。公立と私立とで学内の対応がずいぶんと異なることもあると聞く。大学によっては、それらの署名をもらうことがどれほどハードルの高いことなのかわかっているのだろうかと、北米の司書たちはいう。
パソコンで閲覧するだけのサービスに、そこまでハイレベルの署名を求めるのはおかしいと、上層部から却下された大学もあるそうだ。図書館長の署名ではなぜだめなのか。図書館長が利用契約書に署名するということは、デジタル資料の契約や法律に通じた担当者がすでに目を通しているはずだ。また、大学ごとではなく国単位でリーガル・チェックができればよいわけで、それを国会図書館側で行うくらいの支援があってもよさそうだ。
しかも契約書では紛争時の裁判所は日本になっていて、自国や自州の裁判所を指定できないなら契約しないという大学もある。しかし国会図書館側はこの点を譲らないとのこと。また、契約書は「日本語を正文とする」というのも、日本語ができる司書がひとりもいない大学ではやっかいだろう。
ほかにも日本語サイトの閲覧を支援できる司書の配置の問題や、テクニカルな問題などもあると聞く。
このままでは、せっかくの著作権法改正が絵に描いた餅になってしまう。