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【社会】

補償で終わりじゃない ハンセン病元患者家族 救済方針決定

国に対して差別や偏見の解消にもっと取り組むよう求めた藤崎陸安さん(左)と妻の美智子さん=24日、東京都東村山市で

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 ハンセン病の元患者家族に対する補償法案の基本方針が二十四日、正式に決まった。元患者や家族らは一定の評価を示しつつ、「これで終わりではない」として、差別や偏見の解消に国が本腰を入れるよう求めた。 (井上靖史)

◆差別や偏見根絶へ「国は本腰入れて」

 「補償と同時に、教育や啓発に本腰を入れて取り組むきっかけにしてほしい」

 国立ハンセン病療養所多磨全生(ぜんしょう)園(東京都東村山市)で食堂を営む藤崎美智子さん(68)は、そう期待した。夫の陸安(みちやす)さん(76)は元ハンセン病患者で、全生園で暮らす。

 美智子さんは、誰でも自由に入れる園内の食堂「お食事処 なごみ」の店長。全生園がロケ地となった映画「あん」の撮影を手伝ったことがきっかけで二〇一五年、前の業者が撤退して空き店舗となっていたなごみの経営を引き受けた。

 七年前に前夫を病気で亡くし、なごみで知り合ったのが陸安さんだった。「演歌をカラオケで歌うのが上手。優しくておとこ気もある。普通の人と何も変わらなかった」と一昨年、結婚。美智子さんが神経の難病を患い、三カ月間入院した時も毎日見舞いに来てくれたことも決め手となった。

 美智子さんは市民団体「全生園の明日をともに考える会」代表も務め、同園の最近の十九年間を収めた写真展を六月に市内の駅前で開催。今年から月一度、全生園やハンセン病を学ぶ勉強会も開いて啓発に当たっているが、地元の人でも園について詳しくは知らないと感じることも多いという。

 二十四日の園内での取材に陸安さんは「結果的に国はこれまで何も(啓発を)やってこなかった。今回を機に姿勢を見直してほしい」と強い口調で求めた。

◆要求の半額以下 当事者に不満も

記者会見で思いを述べる原告団の林力団長(中)ら=24日、参院議員会館で

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 「百八十万円で合点する者はだれもいない。でも、考えもしなかった補償金が出るようになったことは大変ありがたい」。二十四日、東京の参院議員会館で記者会見した林力(ちから)・ハンセン病家族訴訟の原告団長(95)は一定の評価を示した。

 今回、増額の対象となった宮城県内の五十代の男性原告は取材に「裁判で求めてきたのは五百万円。受けてきた差別を考えても満足はできない」と率直に言った。男性は成人した子どもが三人いるとした上で「学校でハンセン病の啓発物をもらったことがない。国は本気で差別と偏見の根絶に取り組まないとまた犠牲者は出る」と指摘した。

 原告弁護団の徳田靖之共同代表は「差別偏見の解消を国に取り組ませる最も困難な仕事がまだある。あらゆる知恵を絞り、国を問い直すぐらいでないと、解決は難しいだろう」と話した。

 

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