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(写真:共同通信)

 各地に甚大な被害をもたらした台風19号。被害を受けたインフラなどの復旧が徐々に進む中、長野市の車両基地が浸水し、10編成が冠水した北陸新幹線も10月25日に全線で運転を再開する見通しだ。東京―金沢の直通列車に関しては、被災前の9割以上の本数を確保できる見通しだという。ただ、全30編成のうち10編成が復帰の見通しが立たない中、利用客が増加する年末年始の運行には懸念が残る。利用者の動向にも変化が出てきている。

 北陸新幹線を巡っては、台風19号の豪雨で長野市内を流れる千曲川が決壊、車両基地の「長野新幹線車両センター」が浸水した。センターにあったJR東日本のE7系8編成とW7系2編成の計10編成120両が冠水。JR東によると水位はいずれの車両も座面まで達していたという。また、長野―飯山間の線路が水没した影響で、信号設備の電源が被害を受け、全線での運行を見合わせていた。

 被災当初、JR東は北陸新幹線の運行再開を被災前の5~6割程度と見込んでいた。しかし、10月23日に発表した25日の運転再開以降の暫定ダイヤでは、東京と長野を結ぶ「あさま」が上下計23本と被災前の34本の7割以下となるものの、東京と金沢を結ぶ「かがやき」と「はくたか」は計48本だったものが46本と、被災前とほぼ変わらない本数を運行する。JR東広報は「検査計画の運用を見直し、最大限運行に支障が出ないようにした」と話す。

 運用できる車両が3分の2になった状況の中では、影響は限定的とも言える。ただ、懸念されているのは旅客需要が大幅に増加する年末年始のダイヤだ。北陸新幹線については、2018年12月28日~19年1月6日の10日間で上下合わせて273本の臨時列車を運行して帰省客らの増加に対応した。だが、19~20年の年末年始については、臨時列車などの輸送量拡大は「未定」(JR東広報)だという。

 浸水した10編成はモーターやブレーキ関連の電子機器など床下機器が水没。JR東は現時点で、水没した車両の取り扱いについて明らかにしていないが、廃車となる可能性もある。仮に廃車となれば、新規製造には発注から2年はかかるといい、部品の交換で済んだとしても調達には時間がかかるとの見方もある。

 また、北陸新幹線には他の新幹線路線からの車両の融通が難しい事情もある。50ヘルツと60ヘルツという周波数が異なる複数の電力会社の供給エリアを走行する特有の事情があるためだ。上越新幹線でJR東が導入を進めている同じE7系は転用が可能だが、同社は「現在上越新幹線で運行しているE7系を転用することは考えていない。今後、上越新幹線に導入予定の車両の転用については上越新幹線の運行本数も鑑みて検討中」と話すにとどめる。

 年末年始の北陸新幹線の輸送量見込みが判然としない中、利用客の動向には変化の兆しが出てきた。首都圏と北陸を結ぶ便を運航する航空会社では、例年より早く年末年始の座席が埋まる傾向にある。

 全日本空輸(ANA)によると、10月21日時点で19年12月28日~20年1月5日の羽田空港と北陸新幹線沿線の小松と富山を結ぶ便の予約数は前年同期に比べて1割弱高い水準で推移している。ANA広報によると「曜日の並びが異なるため明確な理由は判断できないが、全国の路線平均と比べても両路線の予約率は高い状況にある。台風の影響で予約が早まっている可能性はある」と話す。日本航空(JAL)でも台風が上陸した10月14日以降に年末年始の羽田―小松の予約件数が他路線以上に増加しており、北陸新幹線の輸送力の回復が見通せない中で、早めの対応を図る動きが見られる。

 15年に開業し、北陸の観光振興にも大きく貢献してきた北陸新幹線。国土交通省の旅客地域流動調査によると、東京都から石川県への旅客は開通前の14年度の147万7000人から17年度の198万4000人と約1.34倍になった。金沢市観光政策課は「新幹線開通以降も金沢圏域への観光客数は伸び続けており、ホテルの建設は現在でも相次いでいる」とし、今後の期待も高かった。年末年始までに輸送力をどれほど回復できるのか、多くの人が動向を注視している。

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