キャッシュレス先進国からやってきた訪日外国人観光客を取り込もうと、先端的な店舗は次の一手を打ち始めている。もはや脱現金だけでは競合店と差異化できず、戦いは次のフェーズに入りつつあるからだ。キャッシュレスだからこそ実現可能な集客術を、しかもコストを掛けずにどう編み出せばいいのか。ヒントは、“ちょい足し”にあった。

中国人観光客に“アリペイ通り”とも称される大阪・道頓堀商店街は、今やキャッシュレス天国になっている。人気ラーメン店「四天王 道頓堀店」には、財布を持たない客がひっきりなしに訪れる
中国人観光客に“アリペイ通り”とも称される大阪・道頓堀商店街は、今やキャッシュレス天国になっている。人気ラーメン店「四天王 道頓堀店」には、財布を持たない客がひっきりなしに訪れる

 「キャッシュレスが、訪日中国人観光客を次々と店へと呼び込む“輪”を作ってくれた」。大阪・道頓堀商店街の人気ラーメン店「四天王 道頓堀店」の篠田正人さんは、ここ数年店を訪れる中国人観光客がうなぎ登りに増え、今では客の8割を占めるまでに変わったことに驚きを隠せない様子だ。「しかも、そのうち90%近くがスマートフォン決済の支付宝(アリペイ)を使って支払っている」(篠田さん)。

 一時の“爆買い”ブームをきっかけに、インバウンド(訪日外国人)対策として中国で普及するスマホ決済のアリペイと「微信支付(ウィーチャットペイ)」を導入する店舗が全国各地で急増した。大阪エリアでいち早くアリペイを入れた店舗が四天王だった。

 「今や、道頓堀商店街の大半の店がアリペイを導入済み。中国人観光客なら財布を持たずに食べ歩きをしながら楽しめる“アリペイ通り”として、すっかり評判が浸透した」(店長の何美旺さん)。その評判を観光客が土産話として持ち帰り、日本への旅行を考えている新たな中国人観光客を道頓堀商店街にいざなう好循環を生み出している。

席に着いたら、QRコードを“パシャリ”

 インバウンド対策としてのキャッシュレスが繁華街や観光地で当たり前になりつつある今、一部店舗はキャッシュレスを生かしてさらに集客の輪を大きくすべく手を打ち始めている。それが、スマートフォン注文だ。

 東京・渋谷にある「Ottotto BREWERY 渋谷道玄坂店」。2019年10月中旬、都内港区にある自社醸造所ブルワリーから直送するクラフトビールが楽しめるとあって、店の外に並べた座席まで満杯になるほど欧米や中国からの訪日外国人観光客で同店はにぎわっていた。ラグビーワールドカップ(W杯)を観戦に来たとみられる自国チームのユニホームを着た人も少なくなく、次々とビールの入ったグラスを干していた。

「Ottotto BREWERY 渋谷道玄坂店」は、スマホ注文で外国人観光客の人気を集めている
「Ottotto BREWERY 渋谷道玄坂店」は、スマホ注文で外国人観光客の人気を集めている

 同店が人気の理由はもちろんおいしいビールや料理にもあるが、客のスマートフォンを“借りて”、日本語ができなくても注文がしやすい独自の工夫を凝らしている点も大きい。

 客が来店して席に座ると、店員はQRコードを印字したレシートを挟んだクリップボードを持ってくる。客はこれを自分のスマホで読み取る。すると、ビールや料理のメニューを英語や中国語で一覧できるのだ。ビールや料理がそれぞれどのような特徴があるのか、自国の言語で読んで理解したうえで、好みのものが決まったら注文ボタンを押す。手順は、「Uber Eats」のような料理の配達サービスとほぼ同じだ。

 料理によっては「大盛り」「トッピング追加」など、細かいオーダーも可能。注文だけでなく、「お水をください」「おしぼりをください」「取り皿をください」といった外国人には頼みづらいお願いごとも店員に対してできる配慮がある。

 会計もスマホでできる。そろそろ帰ろうとなったら、クレジットカードやアリペイなど決済手段を指定したうえで「店員を呼び出す」という画面上のボタンを押すだけ。決済手段にあった端末を店員が持参してくれるので、テーブルに座ったまま支払いを済ませられる。

 「何がおいしくて、こだわりポイントはどこなのかなど、お店の良さを理解してもらえるので、店側にもメリットがある。デジタルの力で客との交流が深まった」。同店を経営するラムラ(東京・中央)でインバウンド向け対策を任されている営業企画部渉外チームの蘇敏さんは、こう胸を張る。言ってみれば、キャッシュレス決済だけに頼る従来型の集客術から、キャッシュレス決済にスマホ注文という付加価値を“ちょい足し”して独自の魅力を打ち出したことが奏功したと言えよう。

注文はすべてスマートフォンでできる。多言語化したメニューを通じて、ビールや料理の詳しい情報を知ってもらったうえで注文してほしいと考えて導入した
注文はすべてスマートフォンでできる。多言語化したメニューを通じて、ビールや料理の詳しい情報を知ってもらったうえで注文してほしいと考えて導入した
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