先輩救急専門医に聞く

羽川直宏先生のプロフィール

高校生の時、テレビで救命救急センターのドキュメンタリーを見て、1人の命を救うために医療スタッフみんなが果敢に挑んでいる姿に感銘を受け、自分もやってみたいと思い救命救急医を志しました。大学に入って病院実習に行った時も、やはり救急が面白く、救急以外の道を考えることはありませんでしたね。
初期研修病院は福井県立病院を選びました。その病院には、有名な北米型ERの救命救急センターがあったからです。将来的には三次救急をやりたかったのですが、救急医としてはERもできなければ、という思いがあったので、初期研修ではERを勉強することにしたのです。ERはどちらかというと頭の中で考えますし、患者さんとのコミュニケーションも大切です。僕自身は頭より身体を使うほうが得意なので、ERには苦手意識がありました。しかし、福井県立病院は教育体制が充実していて、先生方がすごくよく教えてくれましたし、どの科を回っていてもER当直が月6回あり、かなりの経験を積ませてもらえました。夜間に受診してきた患者さんの状態を安定させて帰す、ということに徐々にやりがいを感じるようになりました。一方で、瀕死の状態で運ばれてきて治療の甲斐なく亡くなる方もたくさんいて、家族の悲しむ姿を間近で見ることが多く、突然亡くなる人を少しでも救いたいという気持ちが強くなり、三次救急の道に進もうと決めました。
三次救急へ進むと決めても、3年目の進路選択には迷いました。サブスペシャリティを持ちたいと考えていたからです。将来的には外傷外科、外傷診療をやりたかったので、先に外科へ行くべきか、あるいは救急に行くべきか散々考えましたが答えは出ず、ひとまず三次救急で働きながら1年間じっくりと考えることにしました。
その1年間の間に、外科よりも画像診断、IVR、つまり放射線科に興味が湧きました。三次救急やERではCTやMRIを撮りますが、撮って終わりではなく、それを読影できないと話になりません。外傷診療ではIVRの重要性が増してきており、将来的にも需要は増えると思いました。僕自身、画像診断は苦手な分野だったので、一度しっかり勉強してみたいと考えるようになりました。放射線科で3年間のトレーニングができる救急施設を探し、たどり着いたのが市大救急です。最初は読影が全くできず、放射線科の同期の先生たちとも大きな差があり、厳しい世界に来てしまったなと思いました。5年目で他大学との共同研究に参加することになり、大学院にも進学しました。さらに家庭では子どもが2人生まれ、多くの草鞋を履く生活となりました。一つのことに十分な時間をかけることができず、この2年間は辛いこともありましたが、周りの先生に助けられ、本当に多くのことを学ばせてもらえました。今後、救急医として画像診断やIVRに関わっていく上で、貴重な土台を築くことができ、この選択は間違っていなかったと思っています。それに、「やっぱり自分は救急が一番やりたい」という気持ちに気づけたことも大きかったです。

ラグビーを通して学んだこと

放射線科に行って、学生時代にもっと勉強しておけばよかったと痛感しました。読影は広く、たくさんの知識が必要で、知っていないと先に進めません。大学時代はラグビー部に所属していて、それを言い訳にはしたくないですが、勉強に回す時間が少なかったのは事実です。
ただ、そのラグビーを通して大切なことも学びました。入学時は決して常勝チームではありませんでしたが、新任のカリスマコーチの指導のもと猛練習し卒業までに西医体で2回優勝するまでになりました。コーチやチームメイトたちが発揮するリーダーシップやストイックさに、自分も成長させてもらいました。そんな彼らに囲まれ当時は劣等感もありましたが、今思い返すと、彼らのチームメンバーとしてのリーダーシップを体感できた経験は、何物にも代えがたいものだったと思います。働きはじめてからも、頭の中には彼らの存在があり、こんな時あの先輩ならどうするかな、同期のあいつならこう発言するかな、と常に考えています。

救急は特にチームマネジメントが重要です。リーダーシップをきちんととれ、組織をマネジメントできること。これが僕の理想の救急医なんです。一般企業だと特別なトレーニングや研修を受けたりしますが、医者はそういうことを学ばないまま年功序列でリーダーになっていきます。今はまだこういったことを教えてくれるシステムがありません。市大を選んだ理由の一つは、教授の溝端先生がCRM（クルーリソースマネジメント）を救急の現場に取り入れた方なので、ぜひその先生の下で学びたいと思ったからです。一流の医学知識とスキルを持ったうえで、マネジメント能力やリーダーシップをしっかり身につけた救急医になりたいですし、そのためのトレーニングシステムを作ることができればいいなと思っています。

救急医としての心がけ

どんなに忙しくても、患者さんの身になって考え、丁寧に説明し、接するよう常に心がけています。ERでも三次救急でも、共感力を高めることが大事だと思っています。また、自分一人が成長しても意味がなくて、組織全体で成長することが必要だと思っています。研修医の教育だとか勉強会だとか、組織のレベルアップのために、自分がどれだけ貢献できるかということを常に意識するようにしています。

後輩へのメッセージ

忙しいというイメージが先行し、自分には救急はできないと言う研修医もいます。一度そういう先入観を全部取っ払って、救急を見て欲しいと思います。救急と一言でいいますが、三次救急やER、集中治療など様々です。本質を見極めるように、多くの視点から救急を見てほしい。そうすれば救急の魅力に気づいてもらえるはずです。
救急の魅力の一つは多様性です。患者さんも、病気も、そしてキャリアパスもそうです。サブスペシャリティを考えたり、自分のキャリアを自分で考えて作っていくことができます。新しく始まる当院の専門医育成プログラムもフレキシブルで魅力的なものになるようですし、ぜひチェックしてみてください。
また、急変時対応や危機管理対応能力、組織マネジメントやリーダーシップは、どの科に行っても大切なことです。救急を一生の仕事にしようと思わなくても、学べることはたくさんあります。少しでも興味があれば、ぜひ短期間でも一緒に学んでもらえたら嬉しいです。

羽川先生のキャリアグラフ