[3-20] 美女と筋肉
それをケーニス帝国の面子やエルフの戦士たちの自尊心のために『戦い』と呼ぶのは勝手だろうが、実態はほぼ『虐殺』だった。
エルフたちには驕りがあった。
『弓さえ使えれば勝てる』。
『魔法さえ使えれば勝てる』。
自分たちの得意分野で戦えば勝てるのだと考えていた。
だが、それは間違いだった。
獲物を捕食するスライムのように森を伸ばし、帝国青軍の陣に迫りはしたが、エルフたちは単純に撃ち負けた。
魔法に至っては質は同等、数は言うまでもなく青軍の方が多い。
森とエルフの猛進は、止まった。
動きが止まれば即席の森は脆い。
足を止められている間に大砲は収納魔法で運ばれ、青軍のさらに後方に布陣し直した大砲が次々撃ち込まれ、森は削られていく。
不運なことに、突撃部隊を率いていた戦士長(前任者が死んで二週間前に就任したばかりだ)がこの砲撃に巻き込まれて死に、部隊は一気に浮き足立った。
戦士長が死んだ時、どのように指揮系統を引き継いで戦いを続けるか、実はエルフたちの間に決まり事は無い。部族の戦士としての地位は宗教的な儀礼を経て決まるものであり、混沌とした戦場で柔軟に対応することは特に考えられていなかった。
「退け! 森を
まばらになりつつある木々の防壁の中、声を張り上げる女エルフがひとり。
意志の強そうな、艶やかな木の実のように鮮やかな橙色の目をした女だ。エルフらしいスレンダーな長身を、ボディラインが出る獣革の鎧で包んでいる。革の帽子のような兜の隙間からは、ショートに切り揃えた新緑の色の髪が覗く。
彼女の名は、リエラミレス。
"岩壁を這う白蛇"の部族の戦士であり、10人の戦士を率いる小隊長格でもある。
一般的に男性の方が身体能力に優れるのは言うまでもないが、物理的肉体の限界を超えて身体を鍛える才覚……『練達の才』とも呼び表される、これが発現する割合に男女差は無い。
冒険者も軍人も、下の方は男性が多くエース格になるほど男女差が無くなっていく。それはエルフの戦士たちも同じだった。
部隊は指揮官を失って混乱状態にあったが、その中でも小隊毎にどうにか動こうとする者がある。
だがそれすら、戦おうとしたり、全体をまとめようとしたりで方針が一致していない。
リエラミレスは漏れ聞いた通信から祭司長に迫る危険を察知し、さらにこれ以上の戦闘は無理であると判断し、後退しようとしていた。
そのためにも青軍の攻撃を一時防ぐ手立てが必要なのだが、リエラミレスと部下たちが放った『苗の矢』は、ただ地面に突き刺さっただけだった。
――……根付かない!?
何が起きたのかは明白だった。
木々を急速に育て、森を拡げていた魔法が途絶えたのだ。
――そんな、祭司長様……!
リエラミレスも部族の一員として、宗教的指導者である祭司長サーレサーヤを尊敬している。
戦士長に続いて彼女まで失っただなんて考えたくもない事態だった。
並んだ青軍の大砲がズンと地を揺るがせて火を噴く。
「隊長、また砲撃が……!」
「全員防御! ……≪
「「「≪
リエラミレスの魔法に部下たちが続く。
地面から蔓草が生えてきて編み上がり、鳥の巣をひっくり返したような形でリエラミレスたちを包み込んで結び合った。
直後、頭を滅茶苦茶に揺さぶられるような衝撃があった。
爆発する砲弾、あるいは魔法弾だ。固く結び合った蔦はその爆風を完全に防いでいたが、木々が裂け折れて倒れる音を、地面伝いにリエラミレスは聞いた。
「魔法を解け! 逃げるぞ!」
生き延びたのは、ただの幸運だ。砲撃が直撃しなかったからというだけのこと。
魔法の支援が失われた今、この辺りに生やした木々も、自然魔法で操る植物も、尋常の強度しか備えていない。このまま踏み留まるのは不可能だ。
蔓草の防御陣を解くと、周囲はリエラミレスの想定より二回りくらい酷い状況だった。
強度を失っていた即席の森はほぼ吹き飛ばされ、死体らしきものも周囲に転がっている。
そして、木々の防壁を失ったリエラミレスたち目がけて間髪入れずに青軍の騎兵が突っ込んできた。
馬が最も多い。しかし、先頭を切るのは鎧を着込んだ巨大な牛のような騎獣だ。馬の倍はありそうな巨体が猛進してくる。
あれは恐ろしい騎獣で、生来の頑健さと着込んだ鎧の力で、弓や魔法などほとんど弾いてしまう。巨体故に小回りが利かないので、こちらが防壁を築くなり、森の中に引き込むなりすれば倒すのも容易いが、平野では暴威となる敵だ。
……既にリエラミレスの居る場所は森の中ではなかった。
「くっ……撃て! 撃ち落とせ!」
無駄と知りつつ、リエラミレスは弓を構えた。
もはやこれは戦いではなく残敵掃討だ。
万事休す。これからリエラミレスたちは、死ぬ。
鎧と騎兵の盾によって矢を弾きながら猛進してきた暴牛が、瞬く間に眼前に迫った。
その時、リエラミレスたちの間を割るように、後方からぬうっと姿を現す巨影があった。
「どぉーらぁ!!」
重い鎧を身につけた騎兵が、重い鎧を身につけた重量級の騎獣ごと、
鎧がひしゃげ、牛の魔物は横転する。
「なに……!?」
リエラミレスは我が目を疑った。
牛の魔物を殴り飛ばした武器は、人間が使う攻城兵器『破城鎚』に長い柄を付けたような、馬鹿馬鹿しいほど巨大で大雑把なハンマーだった。
そして、それを振るったのは……
「魔物……!?」
「援軍だ」
「えんぐ……」
意味が分からない事を言ったのは、身長3メートルを超える巨人。
粗野で適当な金属鎧を身につけている、緑がかった皮膚をした、隆々たる筋肉の大男。
オーガと呼ばれる……魔物だった。
先頭の騎兵がやられたことで、青軍の騎兵隊に動揺が走る。
だが、騎獣も馬も急には止まれない。結局そのまま突っ込んできて、そして次々に殴り飛ばされた。
背後から次々と湧いて出るオーガたちによって。
石棍棒で、金棒で、丸太で、薙ぎ払われていく。
最初に出て来た破城鎚のオーガが振り返り、ちょっと皮がだぶついた顔で、アンバランスなほどつぶらで小さな黒い目でリエラミレスを見下ろした。
思わずリエラミレスは後ずさる。
「弱いやづ、戦いに出てくるの、よぐない」
「なっ!」
揶揄でも罵倒でもなかった。
オーガはただ事実としてリエラミレスを『弱い』と言い、戦士である自らが庇護すべき対象と見做したようだった。
「弱いだと? 私は……」
何かを言おうとして、リエラミレスは言葉が続かなかった。結局、リエラミレスは……部族の戦士たちは、何もできなかったのだから。
オーガはもうリエラミレスに興味を無くした様子で、ハンマーをぶんぶん振るいながら戦場へ飛び出していく。
戦いは奇妙な成り行きになっていた。
オーガたちが騎兵の突撃を真っ向から押しとどめて殴り合う。
そう言えば大砲どころか弓も魔法も飛んでこないな、と思えば、青軍の陣地も何やら大騒ぎになっていた。
どこからともなく忽然と現れた、煌びやかな装備の兵士たちが奇襲を仕掛けていた。
さらに骨と皮と白銀の鱗しか無いワイバーンが邪悪なブレスを天より降らせ、大犬の化け物が火を噴き散らかしながら青軍兵たちを蹂躙している。
「……何が、起こっているというのだ」
リエラミレスは呆然と立ち尽くすより他に無かった。
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