このような少年隊トリビアに満ちた「月刊ニッキ」が、ファン必聴のコーナーなのは間違いない。上記エピソードは、ほんの一例である。しかし同時に指摘しておきたいのは、こうした何気ないエピソードの数々は、一方で既存の歌謡曲史そのものを捉え返す契機をはらんでいるということである。歌謡曲と本格ディスコ・ミュージックとのハイブリッドである少年隊の元ネタに、和製アース・ウインド&ファイアとも言われるスペクトラムが存在するのは、例えば「黒人音楽のグローカリゼーション」(中丸雄一!)を考えるうえで興味深い事例である。また、博多が話題になったときに語られた、Be-Bop CrewのSEIJIやYOSHIBOWといった存在。現在でもジャニーズの振付に関わっているSEIJIこと坂見誠二は、錦織がダンスを習うために博多から上京させたとのことだが、錦織によれば「日本のヒップホップ・ダンスのブームがいまでも続いているのは、Be-Bop Crewのおかげと言っても過言ではない」という。ここには、日本におけるダンス・ミュージックの見過ごされがちな裏面史があるかもしれない。あるいは、錦織が重要性を強調する、80年代歌謡曲におけるコーラス隊としてのEVE。「恋はパッション」で有名なEVEは、当時、少年隊、松任谷由実から島倉千代子まで、幅広いアーティストのバック・コーラスとしてレコーディングに参加していたとのことだ。コーラス隊としてのEVEに焦点を当てることで、ジャンルの枠を越えた交流が見えてきそうである。
筆者のような後追い世代からすると、ジャニーズ史にしても歌謡曲史にしても、すでにある程度の歴史なり流れなりが定着している。しかし、そこには当然、見落とされてしまうものがある。現場にいた者の証言は、そのような見落とされがちなものを掘り起こしてくれるのだ。「月刊ニッキ」で披露される思い出話に、耳が離せない。
■矢野利裕(やの・としひろ)
批評、ライター、DJ、イラスト。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)などがある。
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