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悪堕ち魔法少女になってみた 作者:ナイアル
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第七話:離間の計

 笠原市郊外の工場跡地に、じえーたいが機材を持ち込んで作り上げた、笠原仮設駐屯地。

 それを見下ろす廃ビルの上の黒い影が三つ。

 ちょうど夕飯時らしく、戦車横に設営されたプレハブで和気藹々と食事している隊員のみなさんがびみょーにムカつく。

 カレーのにおいが風に乗ってここまで届いて、あたしの胃袋を刺激する。

 うん、ギルティ。……なんつって。

 視覚が制限される夕方かつ油断している食事時に襲撃するのは作戦のうち。

 背後の二人に合図して、深呼吸。



「はーい、ちゅうもーく」

 ことさらにのーてんきな声を眼下に浴びせる。

 一応拡声装置は使ったけど、まだ気がついてるのは数人ってとこかしら。

 ま、これ以上は気づかなかった奴が悪い。

 あたしたちが夕陽を背にしてるから、下手に見上げない方がこの後の展開的には有利な気もするけどね。

 ……はいはい、黒歴史黒歴史。

 いや、太陽を背にするのはほんとに戦闘のセオリーなのよ?

 さておき、あたしの口上は続く。

「ローザックの新幹部がご挨拶に伺いましたー!」

 やっとこ、結構な数の人間がおっとり刀でこっちを見上げだした。

 ……だからせめてカレーは置いてきなさいよ。

「まずはわたくし、ブラックリリー!」

 優雅にスカートをつまみ上げ……ブラックの服だとパンツ見せてるみたいにしか見えないな。

「……ブラックローズ」

 あたしの右後ろに立っていた子が一歩前へ進み出る。

 そのコスチュームは、レッドローズのそれを黒と暗い赤で塗りなおし、デザインを鋭角的かつきわどい感じに修正した――あたしのブラックリリーコスと同様の「悪堕ち」スタイル、もちろん仮面付きで顔はよく見えない。

 その右手に下げているのは、レッドが振るう片手剣とは似ても似つかぬ厳ついデザインの大剣。

「……ブラックデイジー」

 続いて進み出た左後ろの子も、やっぱり「悪堕ち」デザインのデイジーさん。

 こっちの獲物は、ブルーの長刀から騎士が持つような長大なランスに変更されている。

「魔法少女ダークネスフラワー、以後お見知り置きを!」

 ポーズ決めて背後に爆発がどーんとか出ると一生もののトラウマ背負う代わりに格好が付く感じ?……しないけどさ。


 あたしはともかく、残り二人がいきなり寝返るわけもなく、その正体はクローン兵を改造した子たち。

 さすがに遺伝子サンプルとか手に入れようがないので、体型や顔を似せただけのそっくりさん以下の劣化コピー。

 もちろん魔法なんか使えないので、偽装用の武器がやたらごつくなったという裏話もあるんだけど。


 下に集まってた連中がざわめき出す。「まさか」と「もしや」の間で判断しかねてる、と言ったとこかしら。

 こっちは混乱収まるまで待って上げる義理もないので、配下の二人に合図を出す。

 小さくうなずいた二人は軽くコンクリの床を蹴って空中へと踊り出る。


 デイジーが槍を構えると、中程から二つに割れた穂先の奥に紫の光が収束。

 次の瞬間突き出された槍からぶっとい電光が吐き出され、戦車の一台を打ち据える。

 とっさに逃げたじえーたいの皆さんの背後で、真っ黒焦げに戦車がぶすぶすと煙を噴き上げ……爆発した。

 爆風で周囲のテントや機材が吹き飛ぶ。

 同様にローズの剣から打ち出された火球が、こないだよーやっと配備されたばかりの攻撃ヘリを消し炭にした。


 最後に飛び降りたあたしは鞭を一振りして真空刃を発生、敵味方の間にでっかい溝をうがつ。

 これまた偽装用の武器なので、魔法を介してない。

 魔力を自分で扱えるようになってから気づいたんだけど、「魔法を使った形跡」って結構わかるようになるのよね。

 あたしの風刃みたいに打ちっ放しならすぐかき消されるし、デイジーの雷やローズの火球みたいに収束まで制御する奴でもそう長く残るわけじゃない。

 でも、この先の展開を考えると「ダークネスフラワーは魔法を使わない」という設定を保持している方が、いろいろ動きやすくなると思う。

 そんなわけで、あたしもわざわざ偽装兵器を使ってるんだけど……誰だこのデザインを考えたのは。

 なまじ自分でも似合ってる気がしてくるから余計に腹が立つのよねえ。


「き、貴様ら、寝返ったとでも言うのか」

 銃を構える集団のリーダーっぽいおっさんが悔しげに問いかけてくる。

「なにそれ。ダークネスフラワーは元から帝国の配下よ?」

「……今まで騙していたということかっ!?」

「おじさんが勝手に騙されてただけじゃないのー?」

 きゃはきゃはとバカっぽく嘲笑ってやる。

 いちおー嘘は言ってないけどね。

「偽物か」

「偽物?それは、軍隊のようで軍隊じゃなくて軍隊みたいに戦おうとして無惨に負けを重ねてるおじさんたちのこと?」

 ぶっちんと、おっさんの青筋だか堪忍袋の緒が切れた音がした、気がした。

「ききき貴様ぁっ!」

「ごめんごめん、勝ち負けじゃなかったわよね、こっちはハナっから相手にしてないんだもの……よーするに税金の無駄遣い?」

 とうとう腹に据えかねたらしい誰かがあたしたちに向けて銃を撃った。

 障壁展開してるあたしたちに効くわけもないんだけど。

「んっんー?今何かしたぁ?あ、銃とか撃っちゃったー?いーよいーよ、どーんどんぶっぱなしてよ」

 両手を広げておいでおいでしてあげる安い挑発に、それでも何人かが戸惑いながら銃口を向けるのを確認して、にやーりと笑う。

「でもいーいのーぉ?それも国民の皆さんの税金の塊でっしょーぉ?ワンマガジンいくらだっけ?効きもしないのわかっててお金をどぶに捨てて許されるのかなーぁ?」

 はっはっは、困ってる困ってる。

「そもそもーぉ、交戦規定としてはぁ、発砲には指揮官以上の命令が必要じゃなーいのーぉ?さっきの人、営倉行きねー、かっわいそーぉ」

 んー、この口調が癖になるとちょっとアレかもしれない。

「貴様ら、なにが目的だ」

「目的?最初に言ったじゃなーい、あ・い・さ・つ、よ?」

「ここまでの損害を出しておいて、なにが挨拶だ!」

「おじさん、なーにか勘違いしてない?あんたたちがここにおもちゃ並べてキャンプごっこしててもローザックがなーんにも手出ししてこなかったのは、ここに一切戦略的価値がなかったからよ?」

「……くっ」

「戦力が集結してるから迂闊に手が出せないんだとか誤解してたんなら大笑いーってねーぇ。あ、あ、それともー、あんまりかわいそうだからお目こぼしされてるとでも思ってたー?」

「ふっふっ」

 ふざけるな、とでも怒鳴ろうとしたらしいおっさんの懐に、ワンステップで飛び込む。

 人間の跳躍力じゃとうてい越せない亀裂を一歩で越えたあたしに戸惑っているうちに、耳元にささやきかけてやる。

「じゃーあねーえ、『自分たちではなんにも衛れない隊』のみなさーん」

「――!」

 そろそろタイムリミット、おっさんの言葉になってない絶叫を無視して戦艦へと転移する。


「たっだいまー」

「お、おう」

 なぜかひどく怯えたバカ皇子に声だけかけて、変身解除、そのまま転送装置でカモフラージュ用のアパートへ。

 敷地から一歩外へ出た途端、通信封鎖が解除されてショーコのけたたましい呼び出しが脳裏に響く。

『……リちゃん、ユリちゃん!ああもう、どこでなにしてんのよう!』

『ごめんごめん。やっぱ、彼のアパートは通信入らないみたいね……なにしてたか、ねえ。じっくり聞きたい?』

『え、あ、うん、えっと……と、とにかくじえーたいのおっちゃんたちが大変なの!』

『なに?またろくでもない無理難題でもふっかけてきた?』

『違うの!じえーたいのみなさんが何者かに襲撃されて』

『集団で掘られたか』

『……?なんかおっきい穴は開いたみたいだけど、とにかくちゅーとんちにしゅーごー!』

『はいはい』

 むう、ローズのくせに薔薇系のネタは不発だったみたいね。まあいいけど。

 人気のない路地裏に飛び込むとホワイトリリーに変身、風をまとって空へと飛び上がる。

「おお、これは快適」

 背中を押す風の流れを作り出すと、今までとは比べものにならない速度で景色がすっ飛んでゆく。

 思わず急制動や急カーブ、曲芸飛行なんか堪能しちゃったり……おっといけない。



「ユリ……リリーってばおっそーい!」

 すでに駐屯地付近に到着していたローズが頬を膨らます。

「ごめんごめん……で、状況は?」

 そのほっぺをむにっと引っ張りつつおざなりに謝罪、なぜか余計に腹を立てるローズはスルーして、あきれ顔でこっちを見ていたデイジーに質問。

「私たちが異変を察知した時にはもう撤退してしまっていたようで……」

「どいつがきていたかもわかんない、と」

「ええ」

 まあそのために速攻と即時離脱を心がけたんだしね。

「で、なんでこんなとこにたむろってんのよ」

「うん、そこはやっぱり名乗りもしないといけないかなって!」

いきなり機嫌を取り戻したアホの子・ローズが指さすのは、予想通りさっきあたしが名乗りを上げた廃ビルのてっぺん。

 ここまで予想通りだと感心を通り越していっそ泣けてくるわね。

「事情聴取するだけで、なんでんなアホなことをしないといかんのか」

「戦闘になるときは『んな余裕あるか』って怒るくせにー」

「当たり前でしょ!」

 戦闘力が飛び抜けてるせいか、どうも真剣味とか切迫感が足りてないのよねえ、この子。

 ま、素人にんなもん求めんなって話ではあるし、それを利用しようっていうあたしの言うことじゃないんだけど。



「うわあ……」

「これはちょっと……」

 屋上から見下ろした駐屯地は予想以上にひどいことになっていた。

 消火活動はもう終わったようだけど、多くのテントが焼け落ち、地面のあちこちが黒くすすけている。

 直接破壊したのは戦車とヘリ各一台だったはずなんだけど……そーいや爆発炎上したあとの鎮火とか確認してなかったっけ。

「……よし、みんながんばろう!」

「いやもう遅いって」

 握り拳を固めたローズに思わずつっこみ。襲撃どころか片づけも終わったっぽい現場でなにをがんばるのか。



 沈みかけた夕陽を背に、屋上に立ち上がる三人の影。

 真ん中の人物が一歩進み出ると、ずびしっと奇態な決めポーズを取る。

「炎の赤き薔薇、レッドローズ!」

 ……あのポーズと名乗り、何回くらい練習したんだろうなあ。

 左後ろに控えていた人物が同じく進み出て優雅にお辞儀。

「ブルーデイジーと申します」

 ……いや、いーんだけど、名乗りの口上くらい統一すべきじゃないかねお二人さん。

 っつーか、これあたしもやらんと収まらんのか。

 はあ。

「……ホワイトリリー」

 半歩だけ踏み出してとりあえず名乗る。

「魔法少女シャイニーフラワー、華麗にさんじょ……きゃあああっ!」

 再びアホな決めポーズ取ったローズを出迎えたのは万雷の拍手じゃなくて銃弾の雨。

 障壁に阻まれてダメージはないんだけど、いきなりやられたらびっくりはするわね。

 しかしこれまた予想通りというか……斉射してるんだけど、今度こそちゃんと発砲許可取ったのかしら?

「ちょっともー!なにするんですか!」

 マガジンを撃ちきったらしく銃撃が止んだ隙にローズが叫ぶけど、返ってきたのは拳銃の発砲音のみ。

 さすがにそりゃ届かないでしょとあきれてたら、

「くそっ、貴様等降りてこいっ!」

 いやまあ言われなくても最初からそのつもりでしたけど?

 三人であきれた顔を見合わせて、屋上から跳躍。

 すると、一斉に防御姿勢をとるじえーたいの皆さん。

 一部には逃げ出してる人もいるのは、さっきの襲撃が相当なトラウマになったのかな。ざまあ……いやいや不憫なことですわねヲホホホホ。


 謎の亀裂かっこわらいを挟んでシャイニーフラワーとじえーたいがにらみ合う、並び順以外は先ほどとほとんど同じ構図になった。


「貴様ら、なにが目的だ」

 ようやく銃を構えなおした隊長らしきおっさん……そんなとこまで前回とおんなじじゃなくてもいいと思う。

「えーと……なんだっけ?」

 アホの子には少々難しい質問だったか。まあしょうがないね。

 実際、援護にせよ救援にせよもうあらかた片付いた後ではどうしようもないし。

「……追撃とか」

「そうそうとどめを刺しに……ってユ……リリー、なんかおじさんたちの顔がすっごく怖いから!」

 どっちかってーとうろたえてるとか怯えてるってえ方が近いと思うけど、ね。

 蚊が刺したほどにも効果がないとはいえ、銃口がずらりとこっち向いてるってのは心臓に悪いし。

「いちおーは状況の確認と……できれば襲撃時の情報収集?」

「あ、そう、それそれ!」

 「じょーほーしゅーしゅー」が何かわかってないんじゃないかって気がするのはあえて無視しよう。

 っていうか、いつもならそろそろ事態の収拾に乗り出してくれるデイジーが、今日に限って険しい顔で油断なく薙刀構えてんのが怖い怖い。

 おーい、ヒナギクわかってるー?そいつら敵意バリバリだけど一応味方だぜー?

 ……ま、いい感じに双方の敵意をあおってくれてるのはありがたいんだけど。


「貴様らのせいだろうが、ふざけるな!」

 ほーら、もう隊長さんてばわけわかんないこと言い出したし。

「はへ?……えっと、確かに到着遅れちゃったのは申し訳ないけど」

「つってもねえ。下手に手を出せば『貴様らなどいなくても勝てたのだ!』とか言っちゃうおっさんたちじゃねえ」

 あとは「素人が邪魔するな」とか「余計なおせっかいだ」とか。

 よくもまあ色々言ってくれたものである。

「……一度も勝ったことないくせに」

 思わずもれちゃった台詞は幸か不幸かおっさんたちには届かなかったようだけど、耳ざといデイジーだけは眉根を寄せた。


「しらばっくれるな!貴様らが何をたくらんでいるか知らんが、さっきは……」

「さっきもなにも、プライベートタイムに襲撃だって呼び出されたんだけどなあ、こっちは」

 半ばあきれ半ばイラついた表情で、口をさしはさむ。

「あんたたちが、えらっそーに叩いてる口の半分程度でもまともにお仕事がんばって撃退してくれてれば、こーやってわざわざ出張ってくる必要もないんですけどねえ、税金泥棒の皆さんや」

「我々だって、日々市民の平和を守るためにだなあ!」

「守れてないし。つかむしろ迷惑かけてるし。三丁目の田中さんちのブロック塀ぶっ壊したのってどなたさんとこの90式でしたかね」

「ぐっ」

「そもそも、ところ構わず超信地旋回とかかましてやわな舗装路耕したせいで、市の土木課の皆さん頭抱えてるし」

「……あれは作戦上仕方なくだな」

「んで、その御大層な作戦で何回帝国の連中を撃退できたって?毎度毎度可憐な少女にただ働きで尻拭いさせておいて、よくも偉そうな態度がとれるもんだわね」

「だからといって、駐屯地を襲撃していいわけがあるかぁっ!」

 見事な逆切れ。いやいーんだけど、鉄砲を地面に叩き付けんのは危ないぞ?


「……は?」

「……え?」

 デイジーとローズは首をかしげてしまう。

 そりゃそーよね。

「その言い方じゃ、あたしらがこの惨状を引き起こしたみたいに聞こえるんだけど」

 実際、正確にはあたしがやったんだが。

 残り二人にはまったくもってあずかり知らぬ話なわけで。

 あたしもせいぜい「このおっさん頭大丈夫か」とでもいうようにこめかみに指などあてたりして。

「あくまでしらを切るというつもりか!」

「そうだ、この裏切り者!」

「前から怪しいと思ってたんだ!」

 我慢の限界に達したのか、雑魚……隊員たちからも罵声が飛んでくる。

「え?え?」

 思いがけない敵意の渦にローズがうろたえる……のは計画通りなんだけど、デイジーさんはなぜに構えを深くしておられるのでしょうか。

 はあ。

 わざとらしいくらいでかい溜息を一つ。

「つまりあんたらは今までさんざん『たかが素人の小娘』とバカにしてた相手にぼっこぼこに負けましたと、こう言いたいわけだ」

 実のところ、クローン兵を無理やり未成人で作り出したうえ魔法を介さない装備しかしてないダークネスフラワーは、単体戦闘力ですらあたしらには敵わない。

 だから、油断したとはいえそんなのにぼっこぼこにされてる時点で完全に戦力外通告なわけだけど、激昂してるおっさんどもはまったく気が付いてないみたいね。

「だからさっきからそう言って……」

「市民も守れない、自分たちの身ひとつさえろくすっぽ守れない、小娘以下の軍隊モドキのみなさんが、自分のプライド守るのに必死になって喚き散らしてると」

「なっ」

「リリー、言い過ぎですよ」

 さすがに見かねたデイジーから制止の声がかかる……いや、発言否定してよ。

 ヒナギクも結構腹に据えかねてたんだなあ。

「おっと、ごめんごめん。つい本当のことを言いすぎちゃったわ……んじゃ、付き合ってられないし、帰りますか」

 扇をかざすと、風の刃を食らうのを恐れたのかじえーたいのみなさんが身構える……防御すり抜けてぶった切れるから意味ないと思うんだけどねえ。

 苦笑しながら発生させたのは、広範囲にちょっと強く吹くつむじ風。

 巻き上げられた砂埃が、狙い過たずおっさんたちの目をふさぐ。

 その隙に。

「じゃあねえ……『自分たちではなんにも衛れない隊』のみなさん」

「――!」

 後半の小さなつぶやきは、風に乗せて隊長のおっさんだけに届くように。

 その「意味」に気づいたおっさんの顔が真っ赤になるけど、見なかったふりでそのまま飛び去った。



・・・



「なんなのあれー!」

 ファミレスで本日の反省会……っつーかもうただのぐち合戦だけど。とりあえずテーブルバンバン叩くのはやめてあげなさいショーコさん。ウェイトレスさんがめっちゃおびえてるから。

「普通に考えればあたしたちの偽物が襲ってきたってことなんだろうけど」

「それにしたってさあ!これまで色々助けてあげたのに……」

「……むしろそうしたことが恨みとして積もりに積もっていた、ということでしょうね」

 ぶーっと膨れるショーコと対照的に、ヒナギクはなんかすごく冷静……いや、すっごく冷たく怒っているみたいね。

「なにそれ、わけわかんない」

 腹いせとばかりずずずっと大きな音を立てて行儀悪くオレンジジュースを飲み干すアホの子。

「時々いらっしゃるんですよ。困っているのを助けて差し上げても、『助けなど必要としていなかった』とかえって怒り出す方が。百合子さんの言うように、ちっぽけなプライドを必死になって守ろうとしているんでしょう」

 言ってない、あたし「ちっぽけ」とか言ってない。

「そうして恨みと反感が積もり積もっていたところに『偽物』登場で、私たちを敵として糾弾できる『言い訳』がみつかってしまったんですね」

「あたしたち何もしてないのに!」

「何もなくてもいいんですよ。『あいつらは疑わしい』と思えればその方が楽、それだけなんですから」

 そーゆーこと。

 連中は疑ってるんじゃなくて、そう考えたほうが自分の心の平穏が保てるからそっちに逃げ込んでるだけ。

 自分たちの思うに任せぬ現状を、あたしらを貶して引きずり落とすことで満足したいだけなんだもの。

 仕向けておいてなんだけど、ほんと小物臭いっていうかゲスいっていうか。

 真っ当な「プライド」を持ってるようなのがいないってわかってたから仕掛けたんだけどさ。


「うー、よくわかんないけど許すまじだよ」

「どのみち戦力になっていませんでしたし、どうでも良いと言えばどうでもいいんですけど、ね」

 真面目っ子なヒナギク的には職業意識や責任感が希薄なのが許せないのかな。

 味方だと思ってた相手から向けられる敵意にもうちょっと揺らいだりするかと思ったんだけど……敵意を向けられた時点であっさり「敵」カテゴリに放り込んじゃったっぽいわね。

 ショーコもいまいち悩まないっていうか、「嫌い」が先に立っちゃった感じだし。

 こっちからのアプローチに使うには今までのじえーたいのみなさんの素行が悪すぎたか。



「でも、これからはますますやりにくくなりますねえ」

「足引っ張ってくるだろうね……出てってくんないかなあ、ほんと」

 ヒナギクにつられるように盛大にため息。

 今後の現場ではじえーたいがますます「利敵行為」――ありていに言えばサボタージュや妨害――をやらかしてくれることだろう。

 「こんな奴らと同じ戦場にいられるか」と逃げ出してくれれば御の字なんだけど、「疑わしい奴は見張ってないと」とかあらさがし始める流れよねえ。

 疑念ゆえに足を引っ張り、それで失敗することでますます疑念を深める悪循環。

 これがもう一つの狙いなわけだから、うまくいきそうだってことは喜ぶべきとこかもしんないけど。

 それはそれとしてますますうざくはなるのは明白で、頭の痛いとこではある。 


「いっそもう『悪』って断罪してヤっちゃう?」

「だめですよ薔子さん」

 考えることを放棄したショーコが物騒なことを言い出すけど、それはさすがにヒナギクが制止する。

「そういうのはもっと決定的な失敗をやらかしてくれてからです」

「そうそう、きっちり罠にはめてから……っておいヒナギク」

「あら、つい本音が」

 おほほと笑うヒナギクのどす黒いオーラに、さすがにショーコがドン引いてた。



 その辺の仕掛けはあちらさん待ちにならざるを得ないってことには同意するけどさ。


百合子「むくつけきじえーたいのおっさんどもにストレス解消と称してまわされるシャイニーフラワーの画像ください」

薔子「まわす……回転寿司?」

雛菊「寿司よりもお刺身が一般的じゃないですか?」

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