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悪堕ち魔法少女になってみた 作者:ナイアル
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第六話:黒百合

「ん、違和感はなさそうね」

 戦艦内部、グルバスのじーさまが管理する研究室の一角に、不自然に置かれた姿見の前。

 ようやく完成した「新コスチューム」の着心地を確認している最中である。


「物質転送によって変身を偽装いたしますので、変身や維持そのものには魔力を消費いたしません」

 魔力で構成されていた以前の衣装と違って、これには一応実体があるってこと。

 それにともなって、不思議技術で透けない白インナーは色々無理があったとして黒にマイナーチェンジしてたり、細かいデザインの変更もそこかしこにはあるんだけど、全体としては「新コスチューム」の域を出ないで誤魔化せるんじゃないかな。


「さいわい、皇子より魔力をお分けになったということで、そちらをご利用いただければ、よりパワーアップする事も可能です」

 いわれるままに、すっかり体に馴染んでいた闇の魔力を衣装に通す。

 衣装に吸われるというより、しみとおって広がるような感覚とともに、衣装の端々までがあたしの体の一部のように感じられる。

「元々の性能は以前のユリコ様のそれよりも二割少々落ちるのですが、その状態であれば五割ほど補強……総体としては前コスチュームの二割増しの出力とお考えいただければ」

 前の衣装は借り物の魔力で構成されてたせいか、ここまで馴染んでることはなかったし、それも含めると数値以上に向上してそうな気もするけど。


 続いての実験。

「……《転換(コンバージョン)》」

 小さくつぶやいたコマンドワードをきっかけに、白を基調としていたコスチュームが真っ黒に染まる。

 ワンポイントに使われていた若草色が毒々しい赤に変わり、丸みを帯びていたパーツの一部が微妙に鋭角的に。

 顔を覆い隠すような禍々しいデザインのヘルメットが転送されてきて、完成。

「ブラックリリー、誕生……なんつって」

 うあー、さすがに自分で言ってて恥ずかしいわ。

 なーにが「ブラックリリー」だ、中二病とか黒歴史ってレベルじゃねーぞ、自分。

「そちらの方はいかがですかな?」

 顔真っ赤にしてうずくまっちゃったあたしに、じーさまが我関せずとばかりに平然と話しかけてくる。

 わかってて追い打ちにきてやがるな、クソジジイ。

「……っと、もーちょっと盛った方が良かったかな」

 スカートのフレアや胸元のパーツがそこはかとなく露出度ときわどさを演出する程度に変形したのは注文通りなんだけど、セクシーと言うにはもうちょっとこう……いろいろ足りない。

 いやうん別にコンプレックスとかそーゆーのではなくて、体型が変化すれば転換後の姿の印象が変わって即バレしにくくなるとゆーだけで、おっきいのがいいとかそーゆーことでは……。

「さすがに生体変形はお体の方に負担が大きすぎますので……では、もう少し『寄せて上げる』方向に」

「元から無いものは寄せて上げてもぷぎゅる」

 脇でつまんなそーに眺めてたポンコツが聞き捨てならん暴言を吐きやがったので、鋭さを増したエナメルのピンヒールでおもいっきり踏みつけてやる。



 続いて訓練スペースに移っての性能試験。

「んじゃ、よろしく」

「……うむ」

 ホワイトリリーに戻ったあたしの前に立つのはディスクート将軍。

 ショーコにやられた傷は翌日にはあらかた治ってたってんだから、このおっさんも大概タフよね。


 一蹴りで懐まで飛び込む、その勢いを利用して肘打ち、軽くいなされて体勢が崩れたのをそのまま回転力にして後ろ蹴り、ブロックされたところを支点にして回転蹴りは弾かれてあたしの体が浮く。

「っと」

 浮いた体を捻って、華麗に着地。

「お見事」

「コスチュームのサポートのおかげだもの、自慢にもなんないわ」

 これを魔力だのなしの素でやっちゃうこのおっさんやショーコの方がおかしいと思うけどね。

 着地までの不安定な状態に追い打ち入れられてたらそこで終了、性能試験じゃなければおっさんの一方的な勝利確定なシチュエーションだし。

「んじゃ、次は魔法……っと」

 扇の形をした武器を取りだし、一あおぎ。

 空気の塊となった風が将軍に襲いかかるけど、障壁に散らされる。

 ……うん?

「あー、ちょっと全力全包囲で障壁張って」

「了解した」

 おっさんがこっちへ攻めることとか一切考えない防御態勢をとったのを確認して深呼吸。

 扇で空気を切るように一薙ぎ。

 ぴうとどこか気の抜ける風切り音とともに解き放たれた真空の刃が、将軍の障壁に当たって散らされる。

 本来ならそこで一切の物理法則を無視してかき消えるはずの真空波は、けれどそのまま無数の刃となって周囲に被害をまき散らす。

「……ローズの使った『バースト』か?」

「んー?まあもっかいやってみるから防御よろしく」

 奴のあれは任意で炸裂するような動きだったけど、ちょっと違う。


 風は壁に当たってもかき消されるわけじゃなく、ぶつかった場所から拡散して周囲へと広がる。

 拡散したままなら威力は減衰していくけど、今将軍が張っているような球形の障壁なら。


 魔力が扇の先端まで通じている感覚を意識する。

 薙ぎ払った瞬間、本来なら真空の刃を生み出すだけで消え去る魔力、それを刃に乗せるように誘導していく。

 障壁に当たってかき消される風を、刃に乗せた魔力による力技で押さえ込んで前へと押し出す。

 ずがん。

 予想外にバカデカい音がして、将軍の背後の壁に斜めの傷が入った。

「……なるほど、下手に一点で受けていたらすり抜けてくるか」

「さすがに全力の障壁ぶち抜くのは無理っぽいけど、こーゆー小手先の技ならね」

 一応全力でやればぶち抜けそうな気もするけど……ここですべての手の内を明かす必要はないし。

 それよりも驚くべきは魔力制御のやりやすさと精度の向上。

 これが借り物じゃないってことのメリットなのか、コスチュームによるサポートもあるんだろうけど、まるで手足のように魔力を操れる。

 ……と、でも、それはそーゆーこと、よね?


「よっと」

「もう終わりか?」

 変身を解いたあたしに、将軍がいぶかしげに声をかけた。

「いやさ、魔力があたし由来になったってことは」

 コスチュームで魔法を発動したときの魔力の流れを思い出す。

 ……うん、うまくいきそう。

 小さく深呼吸。

 魔力を込めた手刀で薙ぎ払い一閃。

 どんっ、と地面に亀裂が走った。

「とーぜん、こーゆーこともできるようになる、と」

『……お見事にございますな』

「精度はともかく、威力と射程ががた落ちだけどね」

 モニタルームから賞賛よりも驚嘆の度合いのほうが強そうなグルバスの声が届くのに、あたしは頭をかきながら苦笑で返す。

 魔力をまとわせた真空刃だと、せいぜい3メートルくらいしか収束しきれない。飛び道具ってよりは格闘武器の間合いだわ、これじゃ。

 最初みたいに打ちっぱなしなら一応まともな射程にはなると思うんだけど……威力は落ちるからせいぜい護身用ってとこかしら。

『今後の修練次第というところですな』

「ま、小細工はいろいろ考えとくわ」

 それしか考えない、とも言う。



「そいじゃ、続き行きますか」

 再びホワイトリリーに変身、障壁を最大出力で展開……これも、かなり即応性が上がってる。

 くいくい、と手で招いて攻撃を誘う。

 とたんに吹き付ける殺気。おーい、おっさんマジになってないー?

「ふっ」

 呼気とともに踏み込み、全力の一刀両断。

 しかし、あたしの障壁はびくともせず。

「……と、とりあえず防護強度も問題なさそう、ね」

 いや、止められるのはわかってたし、万が一抜けても将軍なら寸止めできるだろうとは思ってたけどさ、本気で怖いって、これ。



 その後も部分障壁出してみたり全域技ぶっぱしてみたりと試験項目は続き。

「……二割増しなんてもんじゃないよーな気がするんだけど」

「予想以上に皇子の魔力との親和性が高かったようですな」

 モニタルームに戻って試験データを確認するあたしたち。同時に流れる映像では、ブラックリリーがダミー代わりの石柱を竜巻で粉砕していた。

「師団級……いや、災害指定か?」

 将軍の言う「~級」ってのは、どのくらいのクローン兵集団を相手取って余裕で勝てるかっていうざっくりとした強さの目安らしい。

 師団級ってことはうちの待機兵力全部吐き出してもお釣りがくるレベルってことなんだけど……災害指定って何よ。

「わかりやすく申しますと、ですな。ユリコ様が全力でお暴れになりますと――」

 不満げに口をとがらすあたしに苦笑したグルバスが、おもむろに下を指さす。……床?地面?

「――カサハラ市が全壊いたします」

「いや、せんし」

 大げさすぎる表現に思わず否定したけど、グルバスもディスクートも、ポンコツドランまでもが、大真面目な顔だった。

 ……え、まじ?

「それなりに力のある広域破壊型能力者は大抵指定を検討されるのだが……ユリコ殿の場合、戦略的に行動可能なのがさらに厄介だな」

「帝国内部ですとかなり厳重な管理下に置かれることになりますな」

「人を戦略兵器みたいに言うんじゃないっ!」

「みたいじゃなくてそのもの、って話だと思うドラあががが」

 アイアンクローでポンコツの後頭部を握りしめつつ溜息。

「……とりあえずその辺は後で検討することにして、ちょっとお風呂入ってくる」

 ちょっと現実逃避したい乙女心なのよ。

「では、案内させましょう」

 じーさんが何やら合図をすると、部屋に入ってきたのはメイドさんの一人――みんな無個性クローンだから区別とかつかないんだけどさ。

 丁寧にお辞儀する彼女について廊下を進む…もういい加減通いなれた場所だから案内なんていらないんだけどなあ。



・・・



「……」

 うん、ごめん、案内必要だった――部屋の中の。


 通されたのはいつも泊まっててすっかりマイルーム化してる「賓客用客室-C」――同型艦のフロアプランより。実際はなんかこっぱずかしい部屋名ついてたけどしらん――じゃなくて、さらに豪華になった客室……あー違うわこれ、「居室」だわ。

 寝室と応接室だけじゃなくて居間とか食堂とか付き人用の寝室とか使用人用の待機室とか全展望の庭園風ティールームとかまでくっついてるのはもはや部屋って言わないでお屋敷って言いたくなるんだけど、なんだこれ。

 ベッドも天蓋付の、クイーンサイズとかキングサイズとか言われるバカでっかいのだし、お風呂に至っては……ええと、なんで脱衣所にバーカウンターが設置されているのか問い詰めてもいいですか。


「……なにこれ」

「ユリコ様の居室でございますが」

 案内してくれたメイドさんはあたし専属のメイドってことになるらしいんだけど、もうここまで来ると何に驚いていいのやらわかんないからスルーした。

「いやそーでなく。なんでこんなドアホウな居室を用意されねばならんのかと」

「ユリコ様が、正室候補となられましたので」

 無感情無表情に受け答えしてくるメイドさんのそのセリフに、思わずめまいがした。


 ローザック帝国の皇族の慣わしとして、異性に魔力を分け与えるとゆーのはプロポーズすっ飛ばして結婚と同等の意味があるとか。

 バカ皇子とんなことやらかしたあたしは、当然「奥様」として扱われる……って、んな話は奴の口から一言も聞いとらんぞ。



「どーゆーことだ、バカ皇子!」

「……いや、どーゆーことと言われても、何の話だ」

 奴の執務室に飛び込むと、無駄に立派な机の上で何やら書類処理をしているところだったらしいバカ皇子が驚いた顔を向けた。

「今日は新コスチュームの動作試験だとか聞いていたが、何か問題でも発生したのか?」

「なんか戦略兵器だか自然災害だかみたいな失礼な扱いされたから、それは後で問い詰める……じゃなくて!」

「災害指定まで出たか。それは確かに想定外だったが……百合子なら制御不能に陥る気遣いもなかろう」

 制御不能って……またなんか厄介なワードがぽろっと飛び出したのは聞き捨てならないとこだけど、目下の問題は別!

「あたしが正室候補ってなあ、何の冗談だって聞いてんのよ!」

「……は?」

 人間――厳密には違うけど――の口が、あそこまで間抜けに開くもんだとは、あたしゃ今まで知らなかったよ。



「――なるほど。そりゃまたえらく古いしきたりを引っ張り出してきたもんだな」

「古い?」

「今でも婚姻の儀で一応真似事はするが、今時その程度で男女の関係を確定するなどありえんな。そんなことになったら、姉上など後宮に何人男女を囲わねばならんか」

 くっくっと潜み笑いをするところを見ると、いかがわしい意味でなく魔力を分け与えてる「姉」がいるようなんだけど。

「……じゃあ、正室候補っていうのはうそ、なのね」

「お前が望むなら筆頭候補にしてやっても構わんが」

「お断り、よ!」

 思いっきり舌を出してやったら、大爆笑しやがった。ぐぬぬ……あとでしばく。


「正室云々はグルバスの差し金としても、だ。部屋や取扱いに関しては現状の働きに対する正当な報酬と思ってくれ……まあ、うかつに給金を払うわけにもいかんというこちらの問題も多分にあるのだが」

 通貨の単位どころか両替もできない世界のお金なんかもらってもねえ。あっちの本国に行くのも無理そうだし、通販とかも……辺境まで届けてもらえそうにはないしなあ。

 ま、そーゆーことならお姫様扱い満喫してあげようじゃないの。

「……とはいえ、先ほどの話を聞くと、手放すのには惜しい人材ではあるからなあ」

 どうやらあたしの戦闘データを閲覧したらしいバカ皇子がにやりと笑った……あ、いやな予感。

「いっそ本当に正室候補にぶぺっ」

「戦闘能力が欲しいから結婚しましょうとか言われてオーケーできるか、ばかっ!」

 バカなこと言いやがったバカ皇子を、魔力で固めた空気の塊でぶん殴ったら、少しすっきりした。


「だいたい、どーせあんたも国元に許嫁の一人や二人や一個連隊くらいいるんでしょうが」

「ああ、まあ、いるにはいたがな。どれもこの遠征と前後して丁重なお断りを頂いた」

「そりゃそうか」

 事実上の島流し、だもんね。政略結婚な許嫁はみんな逃げるわ。

「あー、なんかごめん」

「顔を見たこともない相手にいくら断られても胸は痛まん」

 そんなもんかしらね。

 あれこれとめんどくさいばかり、みたいなことはヒナギクも言ってはいたけど。庶民にゃわからん悩みですな。

「ん?じゃ、あたしに断られたのは結構痛んだんだ?」

 にやにや。

 奴のセリフの裏を返せば、そーゆーことに曲解できるわけで。

「ああ、もうこの胸が張り裂けんばかりだな」

「ほんとに切り裂いてやろーか、このロリコン」

 全く気のない様子で返事しやがるバカ皇子をジト目でにらむ。

 ま、最初っから冗談だってわかってるやり取りなんだけど、さ。

「14で婚約ならそう気の早い話でもあるまいに」

「……そー言われればそーなのよねー」

 もうあと二年もすれば一応あたしも結婚できるわけだし。親子どころか祖父と孫ほども違ってもおかしくない政略結婚的なソレからすれば、許容範囲どころか誤差レベルの年齢差だし。

「ま、ないわ」

「ないか」

「ないわねー」

 ははは、とお互い乾いた笑いを交わすのであった、まる。



・・・



「あー」

 ふかふかすぎて埋もれそうなベッドの上で泳ぐあたし。

 だめだ、これはなんかいろいろダメになる。


 高級旅館の浴場とか言われても不思議じゃないようなお風呂アンドサウナを独り占め、なおかつ体の隅々までメイドさんに洗ってもらいました。

 頭のてっぺんから足のつま先まで、髪の毛に至っては普段自宅でもしてないトリートメントのフルコース、フェイシャルマッサージに全身オイルマッサージまで、熟練の技で徹底的に磨かれたうえ、湯上りにはテラスでソフトドリンクまで給仕してもらっちゃって、で、とどめがこれだ。


 これを毎日?で、正当な報酬?

 はっはっは、もうここに引越しちゃおっかなー。

 まあ、義務教育終わるくらいまではさすがの母さんにもお許しいただけないだろうけど。

 今日もそろそろ帰らないと夕飯に間に合わなくなるし。


「……お気に召しましたかな」

「じーさんか」

 だから女性の部屋に入るときはノックくらいしろと……ここまで来たらわざとやってんだろうなあって気はするけど。

「皇子のほうがよろしかったですかな?」

「誰が正室候補か、このクソジジイ」

 睨み付けられるのも想定通りなのか、動揺した様子は一切ない。ほんと、食えないジジイだわ。

「悪い話ではない、と愚考いたしますが」

「まーねー」

 地位も発言力も保証されるし、バカ皇子の性格的な物を考えれば、結果破談になるにしろ悪いようにはしないだろうし。

 バカ皇子側としても、「支配地の一般人女性と婚姻」というのは宥和政策の一環として十二分に説得力がある。

 功利的な意味で行くと見事な互恵関係、ではあるのだけど。

「どうもピンとこないというか」

 別にモラトリアムしてたいとかそーゆーぬるい気持じゃなくて、結婚してる自分って奴を想像できないのよねえ。

 ヒナギクみたいな特殊事例が身近にいたってのも原因なのだろうけど、「夢はお嫁さん」みたいなキラキラした言葉とは無縁に生きてきてしまったというか。

 恋とか愛とかは人並みにときめくんだけど、結婚という「リアル」が前に来るとどーもね。

「ではいっそ、女王として立ち、皇子を王配として迎えるというのでは」

「いきなり下剋上を勧めるんじゃないっ!」

 このじーさまの中で、あたしはいったいどれほどの外道なのかと。



「魔力を分け与えた者を配偶者とするという話は聞かれましたな?」

「おかげでひと騒動あったわけだけど」

 その元凶がしれっと言うこっちゃないわよ。

「あれは昔、時の皇帝が魔力のない市井の娘を嫁に迎えるとき、『魔力がなくとも正妃はお前だけだ』と誓って分け与えたという故事に由来してましてな」

「……ああ、話が逆なのね」

「ご理解が早くて助かります」

 魔力のない人間を正室に迎えるのに魔力を与えたということは、裏を返せば「皇族の妻」たるもの、本来は相応の魔力が必要ということ。

 皇族の力を衰えさせないってことを前提に考えれば、これは無理からぬことではある。

 で、まあ。

 現状バカ皇子は孤立無援、今後の勢力拡大を視野に入れるとしても力が衰えるのは断固として避けたい。

 そこで魔力を分け与えられた娘っ子が、災害指定レベルの魔法連打して見せたらどーなるか。

 まあバカじゃなければ囲い込むわね。

 さらには女ってんだから、その力と技術を血筋として取り込む好機なわけで。

「まー、少なくともあんたは外さんわねえ」

「御意」

 寝返りを打って仰向けになり、大きくため息。

 いやうん。

 わかってる、あたしだってこのじーさまの立場ならそーする。

 むしろ、今現在の状況・立ち位置だって、合理的にも功利的にもそれが一番正解ってわかっちゃいるんだ。

 でもなあ。

「そーすっと、ますますお断り、って感じ」

「……感じ、ですか」

 合理性から外れてる以上、「感じ」としか言いようがないのよね。


 さっきも言ったようにあたしはどーにも自分がまっとうな意味で結婚生活を送れるとは信じられない。

 なのに、利害関係だけではい結婚しましょうと言うのは、どうもフェアじゃないというか。

 相手に対してずいぶんと失礼なことをしているんじゃないかなと、なけなしの良心がちくちく痛むのよねえ。


「所詮は結婚など男女間の契約関係の一形態にすぎませんが」

「そこまで達観できるほど、あたしゃ枯れてないっつーの」

 ヒナギクみたいに「結婚してから愛をはぐくんでいけばいいんですよ」とか開き直れるほど悟ってもないし。

 ……あの子は結婚相手がダメ男でも、きっちり自分好みに調教してしまうくらいやりそうだからなー。


「皇子はまんざらでもないと思いますが」

「……その辺はこの先のがんばり次第ってことで」

 あたしも、この先いろいろ整理をつけなきゃいかんのだろーけど。


 いやしかし、ほんとーにバカ皇子の方はまんざらでもない、のかしら?

 ここでもし「お前だけだ」とか言われたら……

 あー……

「ないわー」

「ありませんか」

「ないない」

 うつ伏せになって、ばふっと巨大な枕に顔をうずめる。


 ……ないない。


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