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悪堕ち魔法少女になってみた 作者:ナイアル
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第五話:闇の浸食

「行ってきまーす」

「朝ご飯までには帰ってくるのよー」

 ……夜の十時に一人で出かけようとしてるちゅーがくせーの娘にかける言葉がそれですか、おかーさま。

 どーせ行き先聞かれても誤魔化すつもりだったけどさあ。


 パジャマ代わりのトレーナー上下にスニーカー、「ジョギングついでにちょっと近所のコンビニへ」という、体重を減らしたいのか増やしたいのか本人にすらわからん平均的女子の生態を模倣しつつ、夜の住宅街を早足で進む。

 背中にかついだボストンバッグが時々がたがた揺れるのを誤魔化すため、「ついうっかり」電柱にぶつけたりブロック塀の曲がり角にぶつけたりぐるぐる振り回したりしてるのが不審人物まる出しではあったけど。

「――!――!」

「鞄の中汚したら……裂く」

「……!」

 ぼそりとささやきかければその場はおとなしくなるんだけど、三分ももたずにすぐじたばた暴れ出すのは、さすがに学習能力足り無さすぎだと思うのよねえ。



・・・



 駅前商店街の裏手、雑居ビル群と住宅街の境目に、それはひっそりと立っていた。

 それ――あたしが、バカ皇子たちに借りさせた安アパート。


 奴らにこの「地上拠点」用意させた最大の目的は、あたしが戦艦へ行く際の転移の痕跡を誤魔化すことだ。

 バカ皇子たちはほいほい転移して帰ってくけど、あれって観測してると結構目立つ。

 正確な位置まではわかんないけど、誰かが転移してきた・転移していったというのはバレバレ。

 この問題を解決するには、常設型のゲートを使うのが一番簡単らしいんだけど、これがでかい。

 具体的には四畳半一間をがっつり占拠しちゃうくらい。

 ホイホイ動かせるようなもんでもないとなると、こうしてカモフラージュ用の拠点が必要になるってわけ。


 ……とはいえ、「男一人住まいの部屋に女の子が夜中に押し掛ける」というシチュエーションが周囲に与える影響にまで気を回さなかったのは失敗だったわね。

 バカ皇子のことなんてどーでもよかったし、どうせ実際には住人不在の空き部屋だって意識があったからかなあ。


 勝手知ったる他人の家とばかり、キーホルダーに最近追加された合い鍵でかちゃりとオープン。

 ……ますますなにがしかのけしからん噂を助長している気がするんだけど。



 玄関から地続きのダイニングキッチンから居間になってる六畳間へ入る。

 そこに、バカ皇子がいた。

 ご丁寧にちゃぶ台の前にあぐらをかいて。

 カップラーメンを今まさに大口開けて食わんとしていやがった。


「……なにしてるのよあんた」

 悲鳴も怒声もあげなかった自分の自制心をほめてやりたい。

 ジト目で、精一杯あきれた顔でにらみつける。

「それはむしろ私の台詞だと思うのだがな。貴様こそ、夜中に男の部屋に忍んでくるなど……」

「あ?」

「いやすまん。しかし、貴様が言ったのだぞ?庶民の生活を知ることも大事だ、と」

 あー、そーいやそんなことも言ったっけ。

 バカ皇子を引きずり回して色々おごらせる方便のつもりだったから、忘れてたわ。

「それにしては嬉しそうに食べようとしてたけど」

「うむ、このカップラーメンとやらはなかなか旨いな。携行食や保存食というのはどうしても味が二の次に……んんっ、で、こんな夜中に何のようだ」

 咳払いして誤魔化しても、ラーメンの容器と箸を持ちっぱなしじゃ説得力無いぞ。

 心配しなくても奪ったりしないっての。


「んー、いいおもちゃを確保したんで色々調べようかと思って」

 ボストンバッグの中身を引きずり出し、しっぽを掴んで吊り下げる。

「ほう、随分旧式のおもちゃのようだが」

 ようやくラーメンと箸をちゃぶ台に置いたバカ皇子が顎をさする。

 ちらちらカップの中身を気にしてるのは、あれはラーメンが伸びるのが心配なのか。

「あれ?おもちゃ?」

「貴様もそう言っただろうが。私の母が幼少の頃だから五十……い、いやっ、十年前に流行った『マテリアルパペット』という子守兼用の知育玩具だな」

 じゅーねんまえに母親が子供ならあんた今何歳だ、というつっこみは、なぜかあたしも身の危険を感じたからスルー。

 それにしても、このボンクラ妖精の正体がそんなおもちゃだったとすれば、ますますクソババアが胡散臭いってことなんだけど。

「なんであんたが硬直してるのか」

 吊り下げられつつもじたばた抵抗していたボンクラ妖精(自称)が、バカ皇子の「知育玩具」発言からぴたりとその動きを止めていた。

「……どーせ『今まで妖精だと信じていたのに、ただのおもちゃだったドラか?』とか、無駄にショックを受けてるんでしょうけど、悩むだけ無駄よ。どーせ無駄なことしかしない無駄生命ってことには無駄変わりないんだから」

 一瞬ぴくりと元気を取り戻しかけたドランは再び硬直。

 そのまま力無く垂れ下がっている様子はもう完全に「狩りの獲物」状態。

「……もともと通信機能などは存在せんし、何らかのカスタマイズを受けている可能性は高そうだが、な」

 フォローするバカ皇子の目に同情の色が浮かんでいる気がするのはなぜだろう。


 ピクリとも動かなくなったドランを持ち上げて顔を覗き込むと、恐ろしいものから逃げるように目をそらされた。

「ボンクラ妖精改めポンコツロボット、あんたに選択の機会をやろう」

「生体ベースだからロボットというよりはバイオノイドなのだが」

「だまってい。……さあ、選びなさい。あたしの下僕として忠誠を誓い、今まであんたをだまくらかしてた光の聖霊を名乗るクソババアに目にものを見せてやるか、それとも……あくまで光の聖霊様とやらに殉じて、ここで殺されるか」

 鬱陶しいくらいでかい瞳がようやくこちらに向く。

「別に殺すこともなかろうに」

「そりゃカモフラージュのためには思考改竄ってゆーかプログラムし直し?したうえで横にいてもらわなきゃ困るけど、そーなった場合、今の『ドラン』としては死んだも同然でしょ」

 いっそぶっ壊して外見だけ同じおもちゃを持ってくるほうが楽ではあるけどね。

 一瞬、救いの手にすがるようにバカ皇子を見たポンコツだけど、あんたそいつが「敵」のトップだって忘れてないか。

 ……まあ、この二人がシンパシー感じて仲よくなってくれる分にはやりやすくなるからいいんだけどさ。


「さあ、どうする?あたしもいい加減手がつかれてきたから、めんどくさいのはほっぽり出して楽になりたいんだけど」

 あたしの暗示した意味が分かったんだろう、奴らに怯えの色が走る――だからバカ皇子まで一緒になっておびえてどうする。

「死にたい?」

 必死でフルフルと首を横に振る。

「じゃ、あたしに仕えて戦う?」

 一瞬逡巡して、その後決然と首を縦に振った。

 にやりと笑って猿轡を外してやる。

「……縄もほどいて欲しいド……ひいっ」

「その前に、言うことがあるわよ、ね」

 しっぽを掴んでた手に力を込めて、ポンコツを震え上がらせる。

「ど、ドランは……百合子ちゃ……百合子様に忠誠を、ち、誓いますドラ」

「よろしい。安心していいわよ、あたしは別にあんたを騙したりはしないから」

 こき使ったり虐待したりはするけど、まあその辺は今まで通りだし。

「……なぜだろう、私にはまったく安心できるように聞こえないんだが」

「奇遇ドラ……百合子ちゃ……様の心には悪魔が住んでいるドラ」

「悪魔というか丸々ヤクザの所業に思うがな」

 せっかく縄を解いてやったというのに、二人そろって失敬な事をささやき交わすバカども。

「……その悪魔だかヤクザだかの恐ろしさを存分に味わいたいのはどっちの方かしら」

「ひいいいいっ!?」


 最低限の家具しかない六畳一間で、可憐な女子高生を前にしたいい大人&ぬいぐるみもどきがしきりに土下座を繰り返す、そんな愉快な風景が繰り広げられましたとさ。

 ほんと、失礼しちゃうわ。



・・・



「で、話はそれだけか?」

 すっかりおとなしくなって部屋の隅で控えてるドランを、憐れみ半分同情半分の目で見やりながら、バカ皇子が尋ねる。

 どーでもいいけど、いい加減ラーメン食うのはあきらめろ。

「お昼の戦闘なんだけどさ――」

 そこであたしはドランにしたのと同様、魔法の利きが悪くなっていたという話をする。

「ふむ……で、ドランはどう思う?」

「光の聖霊が魔力供給を絞ってるドラ」

「仲いいわねあんたたち……ま、そんなわけで早急に代替手段を見つけないとまずいのよ」

 戦闘能力の低下はこっちを言い含めればいいとして、最低限、変身ができないのをごまかせる程度にはどうにかできないと。

 一応、そのための機材はグルバスのじーさんに用意してもらってる最中だったんだけど、もうちょっと余裕があると思ってたのよねえ。

 のっぴきならなくなりそうだから、こうして急かしに来たというわけ。


「手っ取り早く、かつ抜本的な解決がないではないが」

 腕を組むバカ皇子は実にめんどくさそーな顔になった。

「そんなのがあるならとっととお願いしたいとこなんだけど……危険はないわよね?」

 じーさんがその手段を知らなかったとは思えないので、危険か確実性がないか……あるいはめんどくさい付帯事項がいろいろあるか。

 バカ皇子の顔からしても、とにかくおすすめできない何かしらの理由があると踏んだほうがいい。

「危険はない。他は……まあ、貴様なら大丈夫だと思うが」

 まったく大丈夫そうでないつぶやきを返してきやがったバカ皇子は、よっこらしょとえらくオッサンくさい掛け声と共に立ち上がると、あたしの後ろに回った。

「ちょっと、何する気?」

 無防備な背後に立たれるというのは、相手がバカ皇子とはいえどうにも不安で気持ちが悪い。

 どこぞの凄腕暗殺者じゃないけど、「あたしの後ろに立つなあ!」とか言って殴りかかりたい衝動を必死で抑え込む。

「……じっとしていろ」

 両肩におかれた手と、いきなり耳元でささやかれた声に、背筋がぞくりと震えた。

 いきなり今まで聞いたことないようなイケメンボイスとか、ずるくない?

 なんか負けた気がするので、内心の動揺は表に出してやらん。


「俺の魔力を分ける……しばらく我慢しろよ、百合子」

 いやいやいや、「俺」って。あと「百合子」って。「私」と「貴様」はどこ行ったっていうか急に態度変わったら気持ち悪いから。

 体勢と相まって、微妙どころでなく恋人っぽい雰囲気に思わずつっこみも上滑りになる。

 そんな中。

 じわり、と、肩に置かれたバカ皇子の手から何かがしみ込んできた。


 光の聖霊に与えられた力、太陽のような暖かくも激しい熱を持ったそれとは全く異質。

 深い洞窟の奥底のように、静謐な、冷たい力。

 でもそれはどこか包み込まれるような、心地よく優しく安心できる冷気。

 ……ふと、バカ皇子に守られた時のことを思い出しちゃったけど、それは多分関係なく。

 そんな力が、ゆっくりとあたしの中に染み透ってゆく。


「……夏場の水風呂?」

「なんだそれは」

「うーん、『闇の魔力』の感想。プール、海水浴……打ち水とか?」

「……なんにせよ、拒否反応が出ていないならよかった」

 いやに露骨に安堵のため息を漏らすんだけど、それって……。

「やっぱり危なかったんじゃない!」

「なに、失敗したところでせいぜい十日ほど寝込む程度で済む」

「じゅーぶん危険だわよ!」


「……で、どうなんだ」

 あたしの向かいに座りなおしたバカ皇子が尋ねてくる。未練がましく見つめるカップラーメンはすっかり伸び切ってぶよぶよだ。

「ん?んー?なんかすっごい馴染んでる、感じ?」

 光の魔力を使ってる時の、どこか焼かれるような引っ掛かりが全くない、体の中で冷たい水に似た何かがゆったり流れてるのを感じるのは不快じゃない。

 たぶん、今までよりもずっと自然に魔法を使えるんじゃないかって確信がある。

「もともと光の魔力とやらで親和性があったのもよかったんだろうが、普通なら馴染むまでに数日かかる。明日……もうそろそろ今日だが、一日くらいは家で寝ていろ」

 言われて壁にかかってる時計を見たら、日付変更ぎりぎりライン。

 門限なんてあってなきがごとしな我が家だけど、さすがに午前様ってのは外聞が悪い。

 それも男の部屋訪ねて?翌日体調不良でお休み?

 ……この後待ち構える事態に頭が痛いわ。

「ま、まあ一応感謝はしておくわ。今日はいろいろありがとう……ってなによ」

 あたしがお礼の言葉とともにきちんとお辞儀をしたら、顔を上げたところにあったのは、鳩が豆鉄砲を食ったようなバカ皇子の顔。

「い、いや……お前が礼を言うところなんて予想外だったのだが」

「頭下げるだけならタダだもの」

「……それを聞いて安心した」

「よし殴る」



・・・



 翌日は、バカ皇子に言われたとおりにベッドでゴロゴロと自堕落に半日過ごしていた。

 言い訳をするわけではないけれど、ほんとに朝起きたら軽いめまいと吐き気に襲われてしまったのだ。

「慣れないうちはそういうこともあるわね」

 とか満面にニヤニヤ笑い浮かべた母さんに、あんたは何を知っているのかと問い詰めたくはなった。

 ある意味母さんの想像以上のことをしでかしてる気はするんだけど。


「しかし、魔法、かあ」

 バカ皇子からかっぱらってきた小型端末を操作しながらため息。

 検索したアーカイブによれば、帝国では超能力や特殊能力よりも再現性の高い「事象改変能力」として市民権を得ているらしい。

 使える奴は使える、使えない奴は使えない。

 種族差以上に個体差の激しい能力群だけど、サンプルが多ければ法則性や分類も可能になるわけで、現代地球の超心理学よりはトンデモ度合の低い科学の一分野として認知されてる。

 クソババアが胡散臭いとなってから改めて疑ってかかってはいたんだけど、「魔法」そのものは実在しているという前提で理解を進めるべきなんだろう。

「つまり、精神的にどうこうというよりも、『貸し与える光の魔力』に親和性があるかどうかってのが選別基準?」

「ドランたちは『資格』って教わったドラ。でも、この資料を見たらそういう結論になるドラね」

 地球人にそのまま適用できるかは難しいところだけど、先天的に魔法能力を持たない炭素生命体で「使える」と言えるレベルの親和性があるのは大体1%。

 百人に一人、と考えたら、あたしたちの中学校だけから抽出すればせいぜい三、四人。

 近場でてっとり早く済ませたらその程度の人数ってことで、他校にまで手を伸ばせば市内だけでも結構な数にはなりそうだけど。

「で、そーゆー連中に変身アイテムを経由して力を『貸し与える』と」

「それも『授ける』と教わったドラけど……皇子が『分け与える』のとは違うドラ?」

「全然違う」

 クソババアのそれは、あくまで魔力の根源は奴にあって、あたしたちは「道具」の延長としてそれを使ってるだけ。

 バカ皇子のは、分け与えられた魔力はあたしの中を巡回してて、外へとつながってない。

「たぶんだけど、これ『馴染んだ』あとはあのバカに返せない、と思う」

 わかりやすく言えば、「光の魔力」が水道で、「闇の魔力」は貯水池……うーん、再生産されてる感じがしてきてるから、井戸を掘り出されたみたいなたとえのほうが近いのかしら。

「つくづく、人間離れしてきたドラね」

「一応気にしてるんだから言わないで!」



 夕方、だいぶ遅くなってからヒナギクの奴がお見舞いと称して訪ねてきた。

 見舞いの定番、桃缶……というのは少々どころでなくはばかられるような桃のシロップ漬けの瓶詰下げて。

 くそう、これだからぶるじょあはっ!ああっ、でも上品で爽やかな甘さが素敵っ!

「ショーコのアホは?」

「昨日の今日ですし……その、こういうことにはあまり免疫がないので」

 足りないもう一名について尋ねたら、理解に苦しむ答えが返ってきた。

 免疫っつったって、ショーコは風邪を引かないほうの人種だし……とか思ってたら、ヒナギクってば頬を染めて顔そらすし。

「……よし、待とうか。何かすっごい誤解があるよね?」

「夕飯はお赤飯だそうで」

 母さん……

「だから、前も言った通りあたしはまだ処女だってのに」

「まあ、失敗したんですか?」

「……生々しいわっ!」

 あたしのツッコミにコロコロと楽しげに笑うお嬢様。

 同じ中学の制服が、着る人が変わるだけでどーしてこうお上品に見えるのやら。会話の内容は下品極まりないってえのに。

 ショーコ?山猿に服着せても猿回しにしかならんわよ。

「わかりました、百合子さんはまだ処女、と。まだ、ね」

「……そこ強調すんな」

 頬が熱い……ああもう、具体的な想像するんじゃないぞ、自分。

「大体、そーゆーのはあたし向きじゃないし」

「向き不向きでなさるものでもないでしょう」

 にこにこと笑ってるくせに、まったく攻撃の手を緩めるつもりがない。

 こないだからかったのを根に持ってやがるなー。

 しっかし、母さんといいヒナギクといい、どんだけあたしをバカ皇子とくっつけたいんだか。

「ほんと、わりに合わないし」

「理非や欲得ずくのものでもないでしょうに」

 呆れたように言い放ってるけど、ヒナギクあんた政略結婚の許嫁いたでしょうが。

 ……はあ。この件に関してはこの子に勝てる気はしないのよねえ。



「冗談はおきまして、本題なのですが」

「……後で覚えてろ」

「捨て台詞にしか聞こえませんよ……本当は薔子さんもお見舞いに誘おうと思ったのですが、『特訓』と称してどこかへ消えた後でした」

「悪い予感しかしないワードね」

 確実にまた何かやらかす、としか聞こえないわよ。

 誰かに歯止めになって欲しいとこなんだけど、お目付け役まで熱血バカだから、一回ああなると手がつけられなくなるのよねえ。

「薔子さんなりに力量不足を痛感なさっているのではないでしょうか」

「奴に足りないのは思慮とか戦略眼であって、力や技じゃないんだけどなあ」

 ほんと脳筋というか、パワーと根性だけで何もかも押し通せるとかたくなに信じてるのは、いっそ尊敬に値する。

 だから、あたしやグルバスのじーさんみたいに「まず搦め手」って思考で来られると実にもろい。

 何かしでかす前に深呼吸しろって何度も何度も言ってるんだけど、まったく改まる気配がないのよねえ。

「ですが、私たちだけでは決定打に欠けているのも事実ですし」

「どーせ新キャラ参入とかすんじゃないのー」

「……マンガじゃないんですから」

 と言われても、あたしは発見してしまったのだ。

 ドランのベースになってる「マテリアルパペット」、そいつは「四種」の動物をモデルにした製品だったということを。

 うちのドランはドラゴン型。

 ヒナギクのレオンはライオン型。

 ショーコのピョコタはユニコーン型。

 そして、鳥……多分フェニックス?のもう一体。

 こうなるとあのクソババアのことだし、隠し玉を用意してるのは間違いないとこでしょ。

 とはいえ、それはまだヒナギクにも言えないこと。

「乙女の勘ってやつよ」

「……勘ですか」

「そうそう」

 ひそかに膠着状態を抜け出し始めた今、その「新キャラ」投入がいつになるかは未知数。

 それまでには「魔法少女」内部での戦力比を拮抗まで持っていきたいとこなんだけど。

 最悪、他の学校から新戦隊が投入されるなんて事態も想定しておかないといけないのよねえ。

 さすがにそーなるとお手上げに近いから、ほんと勘弁してほしい。


「で、あの子がアホやってるのはいつも通りとして、あんたは何したいの?」

「私も、どうにかパワーアップを果たすべきかと思ったのですが……」

 伝手がなくて、と小首を傾げるお嬢様なのだが。

「おじょーさまなあんたにない伝手が、あたしにあると思うのか」

「ええ、ですから、乙女の勘、なんですけど」

「……勘ですか」

「ええ」

 あーもー、どこまで読まれてるかなあ。

 別に隠す必要もないのにベッドの上でぬいぐるみのふりをしていたドランが、硬直してる。

 昔っからヒナギクには、特に脈絡もなくずばっと本質を突いてくることがある。

 周りは偶然だと思ってるし、ヒナギク自身に問い詰めてもよく分かってなかったりするんだけど、現状でこーゆーことを言われるのは本当に心臓に悪い。

「あー……パワーアップかあ」

 頭をぼりぼり。

 心当たりはないでもない。

「バ……シャキールの知り合いに、強いおっさんがいるにはいる」

 まあ、たぶん、本人も一応引き受けてはくれそうなんだけど。

「百合子さんの恋人さんの知り合い?」

「いやだからアレとはそんなんじゃないってば」



 シャキールことバカ皇子の線にヒナギクが食いついてこないから、ここでディスクート将軍を引っ張ってくるのは間違いではない気もする。

 何度も剣を交えた相手ともなれば、さすがにその正体がばれるのも時間の問題になっちゃうけど、これまた現状である程度織り込み済みの話ではあるし。

 でも渋っているのはそこじゃなくて。

「ヒナギク、最近あんた悩んでるでしょ」

「ええ、まあ」

 割合素直にうなずくのは、こないだそういう話題になってたからかな。

「偉そうなこと言うようだけど、その悩みを突き抜けたら、勝手にパワーアップしてんじゃないかな」

 悩みは人を強くするっていうけど、今ここであっさりこっちへ引き入れるように動くと、安易な解決に飛びついちゃって、新しい問題が起こった時にまた悩みがぶり返しそうなのよねえ。

 ……その悩みを生み出した人間の言うことじゃないって?ごもっとも。

「だから、今はもーちょっと自分で悩みを抱えてていいと思う」

「……それも勘ですか?」

「そうね、これも勘、かな。……ま、吹っ切れたと思ったら紹介してあげるわ」

 将軍としてか、ただの知り合いとしてか、その時になってみないとわかんないけど。

 そのほうが多分、みんなにとっていい結果を引き寄せると思う。

 それ「だけ」が、純粋なあたしの勘ってやつだ。

「そうですね、その時になったら改めてご相談します……百合子さんが何を企んでいるのかはわかりませんけど」

「いたいけな女子中学生が企むだなんて大それたことするわけないって」

 そう言って微笑みあう二人の浮かべるのは――なんというか、悪代官と越後屋的な?

 間違いなく「いたいけな女子中学生」が浮かべちゃいけない類の笑みだった。

 それを見ていたドランが愉快なくらいおびえてたけど、そこは敢えていじらないでやるのが仏心ってもんだろう。



 一言でいえば。

 ヒナギクも「面白いやつ」なのだ、うん。


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