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悪堕ち魔法少女になってみた 作者:ナイアル
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第四話:疑惑の増幅

 ディスクート将軍とレッドローズがにらみ合う。

 こないだブルーデイジーが切り離されたとき、ずっと移動を妨害されてたのがよっぽどしゃくだったんだろうけど、そんなに突出したら、今度はあんたが孤立するでしょーに。


 案の定――というかまあ作戦通り、あたしとブルーデイジーはクローン兵に阻まれて動けない。


「余裕なさそうだね!今日こそ決着をつけーる!」

 武人肌の将軍の苦しそうな顔をどう取ったのか、かさにかかって攻め立てていたローズが魔力をチャージし始める。

 必殺技の予備動作――隙だらけになるから接近戦で使うなとゆーに――に、将軍の顔がさらにゆがむ。

「くらえ!『レッドファイヤー』!」

 ローズ渾身の必殺技が発動、巨大な火球が将軍めがけて一直線に襲いかかる。


 ……だから、なんでファイヤー。



・・・



「――とゆーわけで、将軍にはローズの必殺技を打ち返していただきます」

「やれと言われればやらせていただくが……」

 複雑な表情を浮かべた将軍の発言は実に歯切れが悪い。

「緒突猛進のローズらしく、どーせまっすぐにしか突っ込んでこないし、このところやたら前のめりで行動パターン単純化してるから、読んで打ち返すなんて朝飯前じゃない」


 戦艦内部の作戦会議室、幹部全員雁首そろえて作戦の打ち合わせ中。

 戦争ものなんかで出てくるサイバー&メカニカルな風景を予想してたら、むしろファンタジーなお部屋に案内されて驚いたのも今は昔。

 どう見ても木製の立派な作戦卓にしか見えないものが、非常に多機能な三次元投影装置だったりするあたり、帝国のデザインセンスは侮れない。


「デイジーが弾かれた火の玉にとっさに対応できないところを、あんたがかばって」

「いや、奴の対応力なら避けるか弾くかするだろう」

 指名されたバカ皇子もやっぱり渋い顔。

「大丈夫……って言い方も変だけど、あの子、こないだの一件以来動き鈍ってるからね」

「それを聞くと実に心苦しいのだが」

 お人好しのバカ皇子だけじゃなくて、将軍までうなずいてやがった。

 まーヒナギク美人だもんね。困らせたくはないよねー。

 ……ちくしょう。

「そこで『すまん、つい体が動いてしまった』とか言って微苦笑を浮かべる、これでイチコロね」

「イチコロってお前」

「美形にかばわれてぽっとならない女子なんかいません!ましてそれが敵対する相手とか、あたしですら惚れるわ」

「えー」

 なんでグルバスのじーさんまで微妙な表情になるかな。

 あんたら、あたしが恋に恋するお年頃の女の子だって忘れてないか。

「……まあ、それは半分冗談だけど。ヒナギクのことだから、そこまですれば色々考えてくれると思うのよ」

 これがショーコだと、そのままバカ皇子の胸に炎の槍とかぶち込みかねないけど。

 真面目で優しいヒナギクは、「帝国=悪」の構図への疑念をもっと深めてくれると思うのよね。

 これが欲得ずくの策略まみれでどっろどろの奴ならともかく、バカ皇子は純粋にお人好しだし、お人好し同士通じるものがあると信じたいところ。



「少し時間よろしいか」

 会議後、すっかり第二の自室となった「賓客用客室」に、ディスクート将軍が訪ねてきた。

「やっぱり、元敵の立てた作戦は信用できない?」

 からかうように問い返す。

 ところが、将軍はきっぱりと首を振って否定する。

「将軍などと呼ばれていても、所詮は一部隊を率いる程度の経験しかない。作戦に疑義を唱えるほどの見識はない」

 そうなのよね。占領地の軍組織トップだから「将軍」ってことになってるけど、グルバスのじーさんの「軍師」同様名誉職。元は辺境の冷や飯喰らい――多分部隊長とか小隊長程度の階級っぽい。

 その分実戦経験は「しかない」なんてレベルでなく豊富だから、結構な無茶振りでもこなしてくれる安心感があるんだけども。

「実際、士気の維持はどんな戦線でも重要課題だからな。ユリコ殿の作戦は理にかなっているとは思う」

「そりゃどーも」

 そう言いながらも困った顔されてたんじゃ素直に喜びにくいわよ。

「ただ、その……あれが少々不憫で」

「デイジー?」

「うむ、彼女の……ナギナタだったか?槍術は非常に筋が良い。それがこのところの作戦で萎縮しているのがな」

 迷いが切っ先を鈍らせる、だっけ?

 とはいえそこを狙って謀略を仕掛けてるわけだしなあ。

「今が伸び時だというのに、妙な感情で枉げてしまうのは惜しくてな」

 ヒナギクにしてみりゃ、お茶やお花と同様にお嬢様的お稽古ごとの一環でしかないから、将軍が気にかけるほどには気にしてないと思うけど、ね。

 とゆーかさっきから照れたように頬を掻くおっさんが微妙にキモ……

「……惚れた?」

「そ、そうではない!……どうも、自分の娘を思い出してな」

「へー、娘さんいたんだ」

「……ああ、『いた』」

 おおっと、ヘビーな展開きましたー。

 まあ、こんな辺境に無期限単身赴任の片道切符って時点で、現在独身なのは間違いないとこだしさ。

 ここでお涙頂戴のお話引き出して同情するようなキャラでもないしなー。

 だから……

「娘さんに似てるってことは、奥様にも似てるってことよね」 

「ぬっ」

 全力で混ぜっ返してやる。

「娘みたいだけど娘じゃない、ってことはさあ」

「だから、そう言う意味ではなく」

「あら、どういう意味?」

「ぬぐぐ」

 いやあ、真面目一辺倒のおっさんからかうのも楽しいものよね。

「ま、作戦はもう動いちゃってるんだから今更方針変更は難しいわよ。せいぜい、ヒナギクが悩みを乗り越えて成長することに期待しましょ」

 あの子ってば、ふわふわ物腰柔らかそーに見えて、その実妙に芯の通ってるとこあるし、そのあたりあたしはあんまり心配してないんだけど。

「これでショーコの突撃癖も治ってくれたら万々歳なんだけど」

「ショーコ……レッドローズか。いや、それはやめた方がいい」

 期待するな、じゃなくてやめろ?

 むしろあっちの方を気にかけてそうな将軍からこんな言葉が飛び出すのは意外だわ。

「あれの持ち味は火のような気性だろう。ああいうのは下手に矯正しようとすると歪む」

「……歪む?」

「文字通り火を枠型に入れて押さえ込もうとするようなものだ。消沈してしまえばまだよし、下手をすれば……」

「爆発する、と」

「そうなったら手に負えん」

 お手上げとばかりに肩をすくめる将軍。いつになく険しい顔は、何か似たような経験でもしたことがあるのかしら?

 グルバスのじーさん以上に経歴が謎だなあ、このおっさん。一度色々聞いたほうがいいかもしれないわね。

「……ま、せいぜい気を付けておくわ」

 やれやれ、こっちも前途多難、か。せめて今回の作戦で何かしらの問題点があぶりだせればいいんだけど。



・・・



 まっすぐに飛ぶしか能のない火球を、ディスクート将軍が手に持っていた剣で弾く。

 うん、さすがにうまく返した……と作戦の成功を確信した瞬間。

「――『バースト!』」

 拳を握りしめたローズの叫びとともに、火球が轟音を上げて炸裂した。

 ……はい?


「くっ!?」

 分裂した無数の火弾の大半は、至近距離での爆発に対応しきれてない将軍に襲い掛かる。

 しかし、ただ爆発しただけで例によって全く制御されてない火弾の残りは、周囲に無差別に撒き散らされた。

 そのうちのいくつかが、驚きで硬直していたあたしに向かって飛んでくる。

「ちょおおおっ!?」

 ヒナギクならともかくあたしに咄嗟によけるような反射神経ないって!

 ま、まず防御障壁を……っ。


 いつもなら即座に張れるはずの風の防御障壁が、その時はなぜか妙に発動が遅れて。

 気が付けば、火弾の一つがもう目の前まで迫って。

――あ、これやばい。

 思わず目を閉じた。


 次の瞬間。


「ちぃっ」

 ぐっと体が引き寄せられ、誰かの胸元に抱きかかえられた。

 その「誰か」が代わりに障壁を張ってくれたのを感じて、細身ながらよく締まったその胸板に守られている感覚に安らぎを覚える。


「……大丈夫か?」

 こちらを気遣う声に目を開けると、そこには心配そうな――バカ皇子の顔が。

「な……なんで、あなたが?」

『っだー、違うでしょバカ皇子!あんたがかばうのはあっち!デイジーの方!』

「す、すまん……つい体が動いてしまった」

『そんなこと言われてもだな……あれは助けるだろう』

「どうして……」

『ああもう、いいから演技続けるわよ。せめてヒナギクに見せつけましょ』

「仲間に打たれれば、貴様も奴も傷つくだろう。そういう事態はこちらとしても本意ではない」

『まったく……ああ、火弾個々の威力は分散した分大したことない。あれならディスクートもデイジーも大した被害はあるまい』

「……お優しいことで」

「褒め言葉として受け取っておくさ……ではな」

 口と念話の両方で、どっちが裏だか表だかわかんないお芝居を交わした後、バカ皇子たちは姿を消す。



「……ったく」

「ユリ……リリー!」

「リリーさん!」

 苦々しげに髪をかき上げたあたしに、やっと我に返ったのか二人が駆け寄ってくる。



・・・



「だーかーらー、ごめんってばあ」

「殺人未遂がごめんですんだら、ほんとに警察いらないわよ。なんだったのよ、あれ」


 反省会と称してケーキバイキングに突撃。もちろんバカをやらかしたショーコの奢り。

 あたしは一人でソファ席の方を占領してどっかりと腰かけ、向かいのチェアに座ったショーコを睨みつつも尋問中。

 ヒナギクはそんなあたしたちを困ったような微笑で見守っている。


「最近レッドファイヤー単体だと避けられちゃうから、工夫してみたの」

「避けられるからって広範囲無差別殲滅なんぞかまされたらたまらんわ」

「だから、そこはこれからの課題で……つうっ!?」

「そんな未完成で不安定な技をぶっつけ本番で使うんじゃねえってのよ!」

 テーブルの下で大馬鹿者の向う脛を思いっきり蹴っ飛ばしてやる。

「でも、中盤の必殺技パワーアップは定番で……あだっ!?」

 だめだわ、この子。まーったく反省してないわ。


「これからは、秘密兵器も新必殺技も、事前に、いい、事前によ?きちんとメンバーに教えておくこと」

「はーい」

「『こんなこともあろうかと』と『とっておきの切り札』はなしだかんね?」

「……ちぇー」

 くぎを刺してはみたものの、これは確実にまた何かやりだしかねないわ。

 作戦立てるのにイレギュラーは可能な限り排除しておきたいんだけどなあ。

 せめてヒナギク落とすツメだけでも、この子は排除したほうがよさそうね。


「それにしても……まさか、あの男が助けに入るとは思いませんでした」

 こちらの「話し合い」がひと段落するのを待っていたように、ヒナギクが口を開いた。

 そっちから話題を振ってきてくれるのはありがたいんだけど、思った以上に帝国への関心が高まってたみたいね。

 それならむしろあたしはちょっと突き放す感じで。

「特に考えなしだったみたいだけど」

「考えなしでとっさに取る行動こそ、その人の人柄が出るとは思いません?」

「……そーゆー見方もあるか」

「え、ちょっと二人とも何言ってんの?相手は悪の侵略者だよー?」

 約一名、抗議の声をあげてるすがすがしいほどの脳筋バカに冷たい一瞥。

「その悪の侵略者が、正義の味方様からのフレンドリーファイヤを防いでくださったんですけど」

「だから、ごめんってー」

 へらへらと誤魔化すように笑ってるこいつは、絶対に反省してない。

 もーちょっと懲りないとダメそうだなあ。

「あ、おねーさん、タルトタタン1ホールお持ち帰りでー。もちろんショーコのおごりで」

「あら、では私も同じものを。もちろん薔子さんのおごりで」

「ちょー!?」



「でも、意外とまんざらでもなかったんでしょう?」

「いやいや、そんなことはありませんって」

 遠い目でお財布と相談を始めたショーコを尻目に、ヒナギクがとんでもないことを言い出した。

「ああやって、危ないところをかばわれるというのは胸がときめくシチュエーションではないかと」

「あー、それはねー。ちょっとわかるけど」

 なんだか妙にのどが渇いてアイスティーを一口。コーヒーの方がよかったかな?……ここのってインスタントよりもおいしくないからなあ……

「だから敵にそーゆー……はい、ごめんなさい」

 復活して抗議の声をあげかけたショーコを一睨みで黙らせる。

「敵同士というのはこの場合むしろ恋を彩るスパイスですよ。敵味方に引き裂かれる恋人同士のロマンス……」

「こここここい!?」

 うっとりと妄想を始めたヒナギクの言葉に、お子ちゃまなショーコが真っ赤になった。

 いやほんと、そーゆーんじゃないんだけど。……そもそも「敵味方」ってえのが微妙に当てはまんないし、この場合。

「ああ、でも百合子さんはもう良い方がいらっしゃったんですよね」

「だからそんなんじゃないって」

 あれから実は何度かあたしのいない場面で鉢合わせとかしてるはずなんだけど、興味を持つどころか「百合子さんの良い人」で刷り込み完了してたらしい。

 しまったなあ、もうちょっとニュートラルな状態で初対面を済ませる予定だったのに、バカ皇子の反応が面白くて遊びすぎてたのが敗因ね。

「浮気はだめですよー?」

「浮気って」

 思わず苦笑。そもそも、同一人物だから浮気も何もあったもんじゃないんだけど。

「い、いつのまにそんなお相手が……」

「お泊りまでなさったとか」

「お、おと……」

 ヒナギクの発言に、ショーコがもはやパニック状態になってる。

 こいつってば、こないだの仕返しのつもりなのかしら。さすがにあたしもちょっと恥ずかしいぞ。

「やましいことは何もしてないってのに」

 ……実は敵方のトップと地球侵略のための打合せしてましたってのはあたしの中じゃ別にやましくもなんともないし。

「真摯なおつきあい?」

「そんなんじゃ……あー、いや、そうかも?」

 二人どころか数十億人の未来がかかってるって時点で、真摯も真摯、大真面目な「おつきあい」ではある。



 紛らわしい回答にきゃあきゃあ興奮してるところは、ごくごくふつーの女子中学生なんだけどねえ、あたしらも。



・・・



「っだー、まいった」

「――!――!」

 あの後延々根掘り葉掘り聞かれて、さすがに疲れちゃった。


 力を抜いて、ぼすんとベッドに体を投げ出す。

――意外とまんざらでもなかったんでしょう?

「いやほんと、そんなんじゃないって」

 脳裏に響いたヒナギクの言葉に改めて否定の言葉を返す。

「――!――!」

「意外と、たくましかったな」

 胸元に触れていた手に残る温もりと、しっかりとした感触を思い出したりなんかして……うあああ。

 頭を抱えてじたばたのたうつ。

 これじゃまるで本当にあれだ、恋とかしちゃってるみたいじゃないか。

――あたしですら惚れるわ。

「いやいやいやいや、ないない、ないって」

「――!――!」

 自分の言葉に全力で否定。耳まで真っ赤だ、多分。

「――!――!」

「だああ、うっさい!」


 さっきからいちいち人の思考を邪魔する窓際の物体にかましていた猿轡をひっぺがす。

「ひ、ひどいドラ!」

「いちいちうっさいから口までふさいだってえのに、四六時中もがもがゆーてる貴様が悪い!」

「誰だって縛られたらもがもが言うと思うドラよ」

「どやかましい、ボンクラ妖精。無駄飯くらって口からクソ垂れ流す前に有意義な情報を吐かんかい」

 我ながら見事な後ろ手菱縄縛りで逆さ吊りされてるうちのボンクラ妖精ことドランは、その言葉にむむうと唸って沈黙してしまった。

 ……ほんっとーに役に立たないなあ。

「ま、大して期待はしてなかったけど」

「うう、ほんとにひどいドラ。この間行方不明になってからユリコは変わったドラ」

「あたしとしては自覚ないけど。大体いつもこんなもんだったでしょ」

「……言われてみれば、初対面では鼻フックつきだったドラ……むしろマシ、ドラ?」

 いやうん、あれはさすがに悪かったと思ってるから。


 考えても見てほしい。

 バスケットボール大の奇怪な色をしたドラゴンのぬいぐるみがいきなり目の前に現れて、くっそ鬱陶しい語尾と頭に響くキンキン声で話しかけてきて。

 しかも、やたらでかい鼻の穴を一息ごとにスピスピさせつつ、悪の侵略者だの光の聖霊だの、アニメと現実の区別が付かないダメな大人みたいなことをほざきだしたら。

 誰だって目の前のムカつく鼻穴に指突っ込んで吊り下げようと思うんじゃないだろうか?


「……ユリコちゃんだけドラ」

「そうかなー。わりと共感を得られると確信してるんだけど」

「ユリコちゃんはどこの蛮族の出身ドラ……いひゃひゃひゃ」

 可憐な乙女を捕まえて失敬なことを言い出した大ばか者の口を思いっきり引っ張ってやる。

 見た目はぬいぐるみのモフ感たっぷりなくせに、意外にしっかり骨格とか体温とか生物特有のむわっとした湿気?があるから気持ち悪い。

 最近こやつへの体罰に道具を使うのも、あんまり直接触りたくないからだったり。



「……で、また聞きたいことが増えたんだけど」

「せめて縄をほどいてからにしてほしいドラ」

「それは返答と今後の態度次第かしらね……減点1」

「ちょ、ちょっと待つドラ!今の減点って何ドラ!?」

「それはこの後のお楽しみってことで……減点2」

「ううううう……」

 無駄にでっかい目から滝のような涙を流しだす。出窓が汚れるからやめてほしい。

「減点30」

「一挙に増えたドラ!?……ああ、聖霊様。ドランはとんでもない子に力を分けてしまったドラ……」

「自業自得よね、減点400」

「わ、わかったドラ!はやく質問をするドラよ!」

 ようやくこれ以上の遅滞行動は自らの死期を早めると悟ったらしい。

 だからボンクラだってのよ。



「今日、ちょっとショーコに殺されかけてね」

「ローズもやっと真の悪を倒す気になったドラね」

「……減点一億とんで五百万」

「は、早く本題に移るドラ」

「とっさに障壁を張ろうとしたけど、なんか妙に反応が悪かったのよねえ」

 今までだったらあのタイミングで十分防げたと思う。

 なのに、あの時は全く障壁が形成されず、不覚にもバカ皇子に助けてもらう羽目に……あー、今思い出しても腹が立つ。

「あ、ちょ、ちょっとやめるドラ!ドランは何もしてないドラよ!?」

 抗議の声に気が付くと、無意識のうちに奴にデコピンを食らわせまくっていたらしい。


「……それは多分、光の聖霊様の加護が薄れてきているドラ」

「力の出し惜しみまでしやがるのか、あのクソババア」

「そんなこと言うユリコちゃんに力を授けて下さるんだから、海より心が広いお方ドラ」

「じゃあなんで今更力の出し惜しみなんてするのよ」

「とうとう堪忍袋の緒が切れた……ぎゃああああ!?」

 ふふんとバカにするような表情にムカついて、全力で目つぶしをしてしまった。にゅるぐしゃっと湿気を帯びた微妙に抵抗のある物体をつぶす感覚がほんっとーに不快だった。

 うう、後でよく指洗っておこう。


 心当たりというか、おおよそ想定していた事態ではある。

 あのクソババアの下僕であるドランの背中には、余計なことを連絡できないよう、グルバスのじーさんから借り受けた通信遮断装置を貼り付けている。

 四六時中のべつ幕なし話しかけてくるボンクラ妖精と違って、光の聖霊は時折思い出したように一方通行で「お告げ」を送ってくるだけらしいけど――たぶん常時接続や双方向通信だと下僕どものおしゃべりがうぜえからだと思ってる――それでも通信がつながらないのは異常事態と判断したんだろう。

 結構日が経っているのに今更かい、っていう気はするけど、肉体的にも心理的にも一番ダメージを与えられるクリティカルなタイミングを狙いすましてたかと思えば、奴の底意地の悪さを思い知らされた。

 こうなってくると、「敵」の貸してくれる力に頼ってる現状はまずすぎる。

 いつ変身すらできなくなるか……あの子たちにあたしの「裏切り」が知らされるほうが先って気もするけど。


「……どっちにせよ、あんまり悠長にはしてられない、か」

「こ、今度は何する気……モグァ」

 あたしの浮かべた笑みに戦慄したボンクラ妖精に再び猿轡をかますと、窓辺から外してボストンバッグへと叩き込んだ。


 

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