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悪堕ち魔法少女になってみた 作者:ナイアル
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第三話:身元と関係性の偽装

 笠原市全域をネットする「かさはらケーブルテレビ」本社ビル前、あたしたちシャイニーフラワーとローザックの激闘も今が佳境。


 ディスクート将軍とクローン兵たちが巧妙に立ち回り、ブルーデイジーと残り二人を引き離す。

「ヒナ……デイジー!」

 焦った口調でローズが叫ぶけど、バカ皇子と睨み合ってるデイジーに、それにこたえる余裕はない。


「……覚悟してください、『ブルーサンダー!』」

「ちぃっ!」

 デイジーの必殺技である雷撃がバカ皇子を襲う、それを舌打ち一つして弾くと、バカ皇子は顔を背けて、

「   」

「えっ?」

 デイジーにようやく届く程度の声で辛そうに何かを呟くと、そのままかき消える。

「ちっ、ここは退く!」

 将軍もしぶしぶといったように配下のクローン兵を引き連れて撤退、後には呆然と立ちすくむデイジーとあたしたちだけが残された。



「勝利っ!」

 花を模した魔法少女のドレス姿のまま、こぶしを突き上げ勇ましく勝ち名乗りを上げるレッドローズ。

「油断しないっ!」

 その後頭部をあたしが軽くはたくと、ようやく我に返ったらしいデイジーがこちらに振り向いた。

「ヒナ……デイジー、大丈夫?」

「あ、うん。平気よ、ショーコちゃん」

「だめだよ!変身中はローズって呼ばないと!」

「……あんたもさっきから言えてないし」

 今更そういう様式美にこだわってどうしようってんだか、やっぱショーコの奴はどこかごっこ遊び的っていうか、「憧れのヒーロー」になれたことに酔ってるのよねえ。

 必殺技の名乗りが必要とか言い出したのもこやつだし。

 「ブルーサンダー」って何よ、デイジーとどー関係があるのよ、と小一時間いじめ倒したのもかれこれ数か月前か。

「もー、リリーひどーい」

 考え事しながら頭をぺしぺし叩いてたら、さすがにむくれてローズがこっちにクレームをつける。

「……ほんと、大丈夫?」

 いつもならここいらでやんわり口をはさむはずのデイジーのやつがおとなしい。

 口元に手を当てて何やら考え込んでいる様子。

「え?ええ、大丈夫大丈夫」

「何かあの幹部に変なことでも言われた?」

「……えっ?い、いえなんでもないの」

 そこまで動揺したら「何か言われました」ってバレバレなんだけど。

「ま、いいわ。話したくなったら話してね」

「ええ……その前に、薔子さんのほっぺを放してあげてね」

「放したくなったらね」

「ひゃりぇひゃゆまひひょひょいひぇひょ……った!?」

 意味不明な抗議をしだしたローズのほっぺたを、ひときわ強く引っ張った後解放。

「ひどいってばもー」

 真っ赤になったほっぺたをむにむにマッサージしながら抗議継続。無駄に根性あるなあ。

「……お菓子控えなさいね」

「えっ、うそ、太った!?」

 ほっぺた触ってた手をいろんなとこにペタペタ当てて感触を確かめうろたえだす。

「うんうん、太った太った」

「ユリちゃんじゃ信用できないもん!ね、ね、ヒナちゃん、あたし太った!?」

 すっかり本名で呼んじゃってるんですけどね、ショーコさんや。

「……ええと、その、ごめんなさい」

「なんでそこで謝るのおおおお!?」

 話をそらすべきというあたしの意を汲んでくれたのか、ヒナギクが苦笑交じりにショーコいじりに参加する。


「うう、明日からダイエットする……」

「何時間もつかなー?」

「そういえば百合子さん、明日は駅前の喫茶店で新作ケーキが……」

「うわーん、悪魔ー!」

 周辺住民が避難して閑散とした現場に、ショーコの絶叫が響き渡った。



・・・



「さんじゅってん」

「うぐっ」

「大根にもほどがあるわよ、まったく」

「しかし、不必要にだますようなマネはだなあ……」

 あたしの厳しい採点に不満げな声を漏らすバカ皇子は、いつものよーわからん服ではなく、ジーンズにセーター、ジャケットと、「ちょっと身ぎれいにした大学生」みたいなかっこをしてる。

 対するあたしも、セルフレームの眼鏡にオールドアメリカンなワンピースに革のポーチで「ちょっと背伸びしちゃった文学少女」風。

 遠目には若干年の離れたカップルか兄妹がカジュアルデートって雰囲気で。

「あんたがここに骨を埋める以外に道がないのは事実じゃないの」

 手を広げ、「ここ」と言って指し示すのは先日激闘を繰り広げたかさはらケーブルテレビ前、でもある日曜の人混みもにぎやかな笠原駅前広場。

 口論するあたしたちを微笑ましい物を見る目で見ていく通りすがりのみなさんの視線がちょっと痛い。

「それはたしかにそうであるということを否定するわけではないのだがしかし……」

「だったら、嘘は言ってない、でしょ?」

「う、うむ……」

 本当のことも言ってない、んだけどね。いくらバカ皇子がバカでも、そこまであっさり納得はしないか。

 上に立つものとしてこの程度の腹芸は基礎教養だと思うんだけどなあ。

「それじゃ、とっとと買い物しちゃいましょ」

「……それもいまいち必要性を理解できんのだが」

「あら?支配地域の庶民の生活を知っておくのも支配者の務めじゃない」

 いまだに納得がいってない様子のバカ皇子の手を引きずって、本日の作戦開始、である。



「そうですなあ、このご予算ですと……」

 なんじゃこいつらと、露骨に不審そうな目でこっちを見てくる不動産屋のじーさま。ま、ここであっさりお客様扱いされても逆にこっちが信用できないけど。

 「母の知人のつてで、留学生の下宿探しを手伝っている」とゆー無茶な言い訳&偽造した母の委任状だけじゃ、さすがにきつかったかしら。

『しかし、本当に地上に居住施設を確保する必要があるのか?』

『あたしがそっちに直接行くのはいろいろまずいから、カモフラージュする必要があるのよ』

 物件のカタログを見ているふりをしながら念話で口論。

 ボンクラ妖精のせいで、こういう小手先のテクニックはずいぶん慣れちゃった。

 ……バカ皇子に言ってる理由は半分は本当、半分は方便。その目的は……ここでは秘密。ま、しょーもないことではあるんだけど。


「日本はことさら土地家屋が高いと聞いてはいたが、あれほどとは……」

「これでも随分お安いと思うんだけど?」

 築年数こそアレだったけど、駅近、バストイレや空調設備まで完備であのお値段はそうそうない。

 ……まあ、こないだ泊めさせてもらった「賓客用客室」の方がよっぽど居住環境整ってたのは事実なんだけど。

「帝都では救貧院ですらもう少し広い個室が与えられるぞ」

「今あんたは日本中の人間を敵に回したわよ」

「……まあよい、所詮は擬装用の拠点だ。予算内であればどうとでもなろう」

 あたしの声に含まれた剣呑な気配に、思わず硬直するバカ皇子はおいといて。

「じゃ、あとは家具やら日用品を買っておしまいね」

「いや待て、そこまでそろえる必要は……」

「下手に探られてなんもない部屋見られたら、どう言い訳するつもり?」

「うぐっ……そ、それはだなあ」

「『うちの隣の外人さん、部屋に帰ってもなーんにもないとこでなにやってんだろう』とか噂になっちゃうわよ?」

「……わ、わかった」

 がっくりと肩を落としたバカ皇子は、あたしに手を引かれるままふらふらとついてくる。



「お、いいところにソフトクリーム屋が」

「……それは間違いなく必要ないだろう」

「部下をねぎらうための高々数百円の出費すら拒むのかしら、このダメ上司は」

「くっ……わかった、どれがいいんだ」

「ウルトラスペシャルデラックス三段盛り」

「……二千円もするだろうがっ!」

「冗談よ」

 そんなに食べたら、いくらあたしの胃袋が鉄壁でも確実におなか壊すし。

 結局二人そろって一番安いバニラを一つずつ……そこは別の味にしておけばお互い交換とかできてお得なんだけどなあ。

 このバカ皇子にそこまで気を回す神経はない、か。

 それにしても美形引き連れてアイスおごらせるってなかなか気分いいものね。みんななんとなくこっちに注目してるし。

「ふふん」

「おい、そこでなぜ腕を組む」

「アイスの御礼、よ。美少女に腕組まれてうれしくないの?」

「……何をたくらんでいるのかと不安になるわい」

「なんだと?」

 ちょっと周りに見せびらかしてやろうってだけの、かわいいお茶目心になんて言い草だ、バカ皇子め。



「あ、百合子さん……その方は?」

 あたしを見かけて声をかけてきたヒナギクが、その付属品を見て硬直する。

 慌てたふりをして、極めたままだった腕を乱暴に振りほどく。

「え、えっと、その、ね。近所に越してきた留学生で……」

「シャキール・シェデクールと申します、以後お見知りおきを」

「これはご丁寧に……百合子さんの同級生の青井雛菊と申します。こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします」

 腕の痛みなどどこ吹く風と優雅に挨拶しやがったバカ皇子に、これまた優雅に挨拶を返すヒナギク。

 これが上流階級同士のハイソな空気ってやつですか。

 そんな豪華でもないシンプルラインのドレスが、お嬢様オーラを伴って輝いて見えるとは。

 バカ皇子の奴も、ヒナギクの一味違う雰囲気に少し感心したような顔をしてるし。

 こ、ここで割り込んでおかないとなんか負けた気がするのはあたしだけだろうか。

「それで、ヒナギク。あたしになんか用なわけ?」

「ええ……先日のことでご相談が……その……」

 そこでちらりと申し訳なさそうな顔でバカ皇子の方を見やる。

「こちらの用事は済んでおりますので、私はこれで……白川さん、今日はお買い物におつきあいくださりありがとうございました」

 ぐあー!さっきまでと態度違いすぎるだろ、あんたー!

 頭かきむしりたい衝動を必死に我慢して、にこやかに笑って手を振るあたし。

『後でしばく』

『いやちょっと待て。これはあくまで作戦通りの行動で……』

『問答無用』

 念話で脅迫だけして、笑みのひきつったバカ皇子とはお別れ。

「……どういうご関係?」

 二人の間に流れた不穏な気配を察したのか、不審そうに首をかしげるヒナギクに

「なんでもないない」

 と、ここはさらっと流しておくことにする。



 バカ皇子も言う通り、ここまでが今日の作戦のうち。

 ヒナギクのことだから、「先日の件」でそろそろ相談に来る頃だと思ってた。

 だから、母さんに行先だけ言って――おめかししてる時点で色々勘ぐられてはいたけど、それも考慮のうち――偶然ばれた風を装って接触させる。

 この先何度かこういう「偶然の出会い」を重ねて奴の人柄に触れさせていけば、いざ正体を知ったときに色々悩んでくれるだろうという……正直随分と気の長い作戦ではあるんだけど。

 まずは、「知り合いの知り合い」程度でも面識作らせないと、ってとこ。



・・・



 駅前からはちょっと入ったところにある、隠れ家的喫茶店。落ち着いた雰囲気の店内にはジャズピアノの音が静かに流れてる。

 マスターは映画にでも出てきそうなロマンスグレーの上品なおじいさん、気配り上手なくせに適度に放っておいてくれる絶妙の距離感が、あたしのお気に入りの理由。

 それだけに結構お高いので、中学生のお小遣いじゃ月に二度ほどが限界なんだけどね。


「それで、相談って?」

 目の前には湯気とともに良い香りを立ち昇らせるコーヒーが一杯。豆をもらって帰ったこともあるけど、この味と香りはどうしても再現できない。プロの技ってやつだ。

「……先日、ローザックのみなさんと戦った時ですけど」

「ああ、ごめんね、雑魚連中に囲まれちゃって助けに行けなくて」

「ううん、それは仕方ないんだけど」

 クローン兵どもときたら、「上官登録」されたあたしのことをお芝居とはいえ襲えなくなってるみたいで、囲まれて阻止されてるって絵を作るだけでひと苦労だったのよねえ。

 あれは改善点……下手にいじると余計なトラブルを起こしそうだから、襲えないことを前提に作戦を立てたほうがいいか。


「あの時、あの幹部の方が去り際に……『ここにも私の安息の場はないのか』と」

「ふうん」

 おっと、思わずまったく興味なさげな声が。セリフの内容知ってるどころか言わせたのあたしだし、仕方ないよね。

 バカ皇子、一応ちゃんと作戦通りのセリフは言えてたのね。

「その時の顔が、なんだかとても辛そうで」

 ほんとは「もっと憂いを含んだ表情で!」と何べんもリテイクしてたんだけどね。

 辛そうってのはたぶん、「騙すようなことをしてるから辛い」とかそーゆーお人よしきわまる理由だわ、絶対。

 ま、ヒナギクがそれをこうして自分なりの解釈で受け止めてくれたんなら問題ない。


「あの方たち、聖霊様が言うようにとにかく悪いと思ってましたけど……攻めて来られるには何か事情があるのかな、と」

「そりゃあるでしょ、意味もなく襲い掛かられちゃたまんないわよ」

 知ってるけど、今ここでそれをぶっちゃけるのはね。

 だいたい、普段のあたしからしたら相手に事情があろうがどーだっていいんだから、ここで必要以上に興味をもって接するのはおかしいし。

「気にならない、の?」

「気にしたところでしゃーないでしょ。こっちが悩んだってあっちは勝手に攻めてくるんだから、下手にとらわれてたら足元すくわれるわよ?」

 あたしがことさらに「気にするな」って繰り返すと、ヒナギクは却って悩ましげな表情に変わる。

 優しくて真面目な子だから、こうしてあたしがドライに切り捨てたら、余計に気にするしかなくなると。

 まずは、「もしかしてあいつら単純に悪い奴じゃないのかも?」って思わせただけでひとまず第一段階は成功、そのままクソババアへの疑念を高めてくれれば好都合なんだけど。

 これまたぼちぼちと気長にやっていかないとダメよね。


「で、結局ヒナギクはどーしたいの?」

「どうって?」

 困ったように小首を傾げる仕草も様になってるのよねえ。

 いつの間にか近寄っていたマスターが、すっかり冷えた飲み物をさりげなく交換してくれる。

 お礼を言う間もなく、すっとカウンターへ戻っていく後姿が、実に洗練されてる。

「……話をしたい、かな」

「もう何度もしようとしたじゃない」

 思わず見とれていた視線をヒナギクに戻し、即否定。

 無理っていうか、見敵必殺とばかりに突撃していくショーコのバカのせいで、会話や交渉の間もなくなし崩しに戦闘になっちゃうのよねえ。

 奴曰く「悪の言葉に耳を貸すな!」だそうだけど、それじゃ避けられる戦闘も避けらんないわよ。

「それでも、もう一度ちゃんと話すべきじゃないかしら」

「……はいはい、好きにすれば?」

 わざとらしくならないように肩をすくめる。

 ダメって言わないだけ進歩、その程度の譲歩に納めないと逆に訝しまれちゃうし……まあ、身内のおバカを説得してからじゃないと「話し合い」はむりそうだしねえ。



「……そういえば、ドランちゃんはどうしたの?」

「奴なら部屋で新たな扉を開きかけてるわよ」

 窓際に逆さテルテル坊主状態でつりさげ中、それだけだとうっさいので猿ぐつわもセットした。

「そ、そう……ほどほどにね」

 にやりと悪い笑みを浮かべるあたしに、思わず身を引いたヒナギクが、困ったような笑顔を浮かべた。

「だってうっさいんだもん」

「この間のあれはやっぱり心配するもの。本当に大丈夫……あっ」

 こないだの通信断絶は「なんかたまたまそんな不思議現象ポイントにいたらしい」で強引にごまかした。

 ただ、わが母からの「お泊り」情報がそれとなく洩れてたらしく……

「そこは乙女の秘密ってやつ?」

「え、ええっと、あの、その……ご、ごめんなさい」

 今日出会った「男の人」との連想でいろいろつながっちゃったヒナギクは、顔を真っ赤にしてうろたえるのだった。

 ……くそう、こうやってあわあわしてるとこまで可憐とか、ずるすぎだろう、お嬢様。

「別にいいけど……そっちこそお目付け役はどーしたのよ」

「レオン君ならお昼寝中……こっそり抜けてきちゃった」

 ペロッと舌を出すとか、なにこのかわいい生き物。

「あのグータラ妖精め」

 とりあえず怒りの矛先はヒナギクのお供に向けておこう。

 あと帰ったら腹いせにドラン叩こう。

「でも……こんな話、あの子たちに聞かせられないし」

「それはそうだけどねえ」

 光の聖霊のことを疑ってますなんて、いくらボンクラ揃いとはいえその下僕どもに知られた日には何されるかわかんないし。

 ……そういう意味では、クソババアから押し付けられた力頼りの現状も何とかしておくべき、か。



「あ、そうそう。あたしまだ処女だから」

 ぶふぉおっとヒナギクが口に含んでいた紅茶を吹きだした。

 けっけっけ、ざまあみろ。


 ……まあ、向かい合って座ってたあたしも無事じゃなかったんだけどさ。


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