第1話 最強への近道、それは「ホワイトブリーチ」
「今まで育ててくれてありがとう。必ず、父さんや母さんみたいな立派な冒険者になるね」
俺はフェンニル。今日、16歳の誕生日を迎えた。
16歳の誕生日は成人になることを意味していて、今日から親元を離れ1人で生きていくことになるんだ。
ただ、16歳に成り立ての人間がいきなり自立して生活するってのは無理がある話だ。
だから、大抵の家庭では16歳の誕生日に親から餞別をもらうことになる。
「はい、これ。元気で生きていくのよ」
そう言って、母イーアルは金貨12枚と探知魔法の経典を俺にくれた。
金貨12枚あれば、質素に暮らせば1年間は生きていける。
……もっとも、だからといって1年間だらだら過ごして良いわけではない。この1年間は自立のための
要は、「1年の間にダンジョンの2〜3階しか入れない、護衛依頼も受けられない雑魚冒険者を脱却しろ」ということなんだ。
「お金の使い方は大事だぞ。俺のオススメ初期投資は攻撃魔法の経典を1種類と回復魔法の経典の組み合わせか、装備と回復魔法の経典の組み合わせかのどちらかだな。まあ、自由にすればいいが」
そうアドバイスをくれたのはハレクレ、俺の父さんだ。
要は攻撃手段+回復魔法をまず揃えろってことだね。
「父さん、母さんも元気でね。じゃあね」
そう言って俺は、住んでいた家を後にした。
「ステータスオープン」
街の中を歩きながら、俺は改めてステータスを確認する。
HPとMPはそれぞれ体力と魔力、右が最大値で左が現在値だ。
AGLは敏捷性、値が大きいほど敵より素早く動けて戦いに有利になる。
PWRは攻防力。値が大きいほど少ないMP消費で高いダメージを与えられるし、同じ威力の攻撃をくらった時のダメージが小さくなるんだ。
EXPは経験値。左が現在溜まってる経験値で、右は次のレベルアップに必要な経験値だ。条件が揃ってる時に「レベルアップ!」と唱えると、右の数値分左の数値を消費する代わりにレベルが1上がる仕組みなんだ。
で、ここからが問題なんだけど、神通力ってのが何のことだかさっぱり分からない。他の人に聞いてまわったこともあるけど、誰もが「ステータス表示にそんなのが出た事は無い」と言うんだ。
ま、現在値も最大値も0だからあんまり気にしないようにはしてる。
そして、備考の「根性」ってやつ。これに至っては、黄色で表示されててなんか怖い。
ずっと前に前恐る恐るタップしてみたら、「HPが0になる攻撃を受けた際、HPが全回復し10秒間敵の全ての攻撃を無効化する。この効果は一度だけ使える」とかいう説明が出てきたんだ。
これも他の人は誰も持ってないらしい。胡散臭いので、極力頼らない方針で行きたいと思ってる。
実を言うと、この「神通力」や「根性」という謎のステータスが出てきたことに心当たりが無いこともないんだ。
というのも、これらのステータスが出るようになったのは「あの実験」に成功した日以来なのだから。
〔回想〕
「世の中には、2種類の人種がいるの。それは黒髪族と銀髪族よ」
ある日の夕食時。両親が、こんな話をしてくれた。
「私たちは黒髪族。髪が黒いからそう言われてるの。そして私たちと違い、髪の色が銀色の人たちが銀髪族よ」
「銀髪族の特徴は、圧倒的に強いことだ。俺たち黒髪族はどんなに頑張っても、それこそSランクの冒険者まで上り詰めたってダンジョンの50層までしか攻略できない。ダンジョンの51層は急激に魔物が強くなるからな。でも銀髪族の奴らはといえば、Lv.1の駆け出しの奴でさえ51層の敵と渡り合えてしまうんだ」
「銀髪族は圧倒的に強いけど、その分数が少なくってね。10000人に1人くらいしか生まれないの。だから、いくら彼らが強いと言っても私たちの仕事が無くなる事は無いのよ」
「それに、あいつらは生まれつき『銀髪聖騎士隊』という国の軍に所属しないといけない決まりだからな。多忙な上統率が厳しいって話だし、あいつらが1〜50層で道草食ってる事はまずねえよ」
父さんと母さんが、代わる代わる教えてくれたんだ。
でもこれ聞いたらさ、誰でも一回は思うよね?
「僕も髪の色を変えたら強くなれるかな?」
僕は当然の疑問を口にした。でもこれは、僕が子供で初めてこの話を聞いたから出てくる疑問にすぎず、当然大人たちは現実を知ってるんだよね。
「かもな。でも髪の色を変える方法なんてある訳ないだろ?そんな方法があったらみんなとっくにやってるよ」
と、当たり前の常識で論破されちゃったんだ。
☆ ☆ ☆
数年後、僕が10歳だった頃のある日。
僕は父さんに髪を切ってもらってた。
この頃には、「髪の色を変えたら強くなれるかも?」なんて幼稚な仮説はすっかり忘れてた。
この日、父さんはエールを飲みながら俺の髪を切ってたんだけど、父さんは切った髪が散らばってる床にエールを零しちゃったんだ。
父さんは「すまん、掃除しといてくれ」と言って家を出てしまったんだけど、僕は「父さんが零したくせに」とその場を放置してたんだ。
数時間後。やっぱり父さん忙しいだろうし、掃除しとくかって思って床を見たら信じられない光景が目に入ったんだ。
なんと、髪の色が若干、金色っぽくなってたんだ。
幼稚な仮説、すっかり再燃しちゃったね。僕は急いでエールがかかってない髪を収納魔法にしまい、残りを片付けた。
それから数年、僕は散髪のたびに髪を回収し、それらを色んな液体に浸けては毎日実験を繰り返した。
熱を加えたりとか、考えつく事は全てやってみたよ。
その過程で髪を整えるのにちょうどいいジェルとか、熱で髪型を整える方法とかも発見して女の子に「髪カッコいいね」って褒めてもらえるようになったりもしたんだ。
そして14歳くらいだったかな?僕はついに発見してしまったんだ。「森の臭いキノコ周辺の水たまりの水とスライムが攻撃で使う毒液を混ぜて髪に塗り、数十分置いてから紫キャベツの煮汁で髪を洗うと銀髪になる」ということを。
早速、僕は自分のステータスを確認した。
「何……だ……これ……」
正直、訳が分からなかった。いやこれはれっきとして自分の努力の成果なんだけど、やっぱりこうして結果を目にしたら感動より混乱が勝っちゃうよね。
その後は、すぐに頭に回復ポーションをかけたよ。頭皮が尋常じゃないくらいヒリヒリしてたからね。
頭皮の痛みはそれで引いたけど、髪も黒色に戻ってステータスも元に戻っちゃった。
実際に冒険で使う時には、頭皮に液体がつかないよう髪を染めようと思ったよ。
で、俺は確信した訳だ。
「俺は黒髪だから、銀髪聖騎士隊には所属しなくていい、というか所属できない。でもダンジョン内では銀髪族のステータスで戦える。これ……最高じゃね?」
〔回想終わり〕
黒髪に戻っても、全てのステータスが元に戻った訳じゃない。
確かに戦闘能力や必要経験値は元に戻っちゃったんだけど、謎のステータス「神通力」と「根性」はついたままなんだ。
それだけじゃなく、銀髪族だけが使えるという攻撃魔法「聖龍」も、(威力はお遊び程度ながら)黒髪のままで使えるのを確認済みだ。
あと、収納の広さはPWR値に比例するらしいんだけど、明らかに俺の収納はPWR10の広さを大幅に超えている。
あれ、「PWRの過去最大値に比例」の間違いじゃないかな。まあ俺以外には関係ない話だろうけど。
そのお陰で、俺の収納には大量の森のキノコ周辺の水たまりの水とスライムの毒液と紫キャベツの煮汁が詰まってる。
その収納に俺は金貨と経典をしまい、昼飯のパンを取り出して食べ始めた。
あ、収納内は時間が停止してて、臭いが移ったりはしないようになってるからそこは大丈夫。
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