女猫たちの戯れ
失踪してしまった彼女
・2005年に書いた小説を2018年に加筆修正しました。
・ドロドロな昼ドラのノリが好きな方には打ってつけ!
……かもしれません。
・感想など頂けたら幸いです。
※ 著作権は著者である南あきおに有り、放棄してはおりません。
※ 無断転載、複製、盗作は禁止します。
何処からか、猫の鳴き声が聞こえてくる。
レースカーテンを開いて窓から外を覗くと、二匹の猫たちが戯れていた。
……発情期だろうか?
つけっぱなしのラジオから、懐かしい曲が流れた。
Cyber Babeは、MAMIとKUMIから成る女性デュオ。
私の名前はマミ。
幼馴染みの親友の名前は、クミという。
偶然にもCyber Babeの二人と、私たち二人の名前は同じだった。
それがきっかけで、この曲がヒットしていた頃、よくクミと一緒にカラオケでCyber Babeの曲を歌っていたっけ……。
「クミ……」
戯れる猫たちを見つめながら、私は呟いていた。
クミとは、小学校から大学まで、ずっと一緒だった。
同じ中学に進学し、高校も同じ、一緒に受験勉強をして、同じ大学にも入学した。
彼女とは、何でも話し合えた。
恋の話やオシャレ、悩み相談、親には言えないような話も……何でも。
クミは明るくてよく話す女の子で、私はだいたい聞き役になる事の方が多かったが、それでも彼女と一緒の時間を大切に思っていた。
社会人になったとしても、いつまでもこの友情が続くものだと私は信じていた。
しかし、ずっと一緒に居られると思っていたクミは、何処かに行ってしまった……。
一年前。
大学三年生の時、クミは出会い系サイトで知り合った男と、周囲の反対を押し切って駆け落ちしてしまったのだ。
相手の男は当時17歳の無職の少年で、クミより4つも年下だった。
二人は結婚を考えていたようだが、お互いの両親に大反対され、絶対に結婚は認められなかった。
私も反対した。
クミが私に彼との結婚話を相談してきたからだ。
クミは彼を好きな事は分かっていたが、二人ともまだ若過ぎるのもあったし、結婚するにしては急すぎるし、とても17歳の彼にクミを養っていける能力がないと思ったからだ。
実際にクミに紹介されて何度か彼に会った事があるが、私から見たら、とんでもないダメ男だった。
働きもせず、パチスロで日々の小遣いを稼ぐような男で、真面目さや、誠意、希望、未来などが彼からは感じられなかった。
クミは昔からそうだった。
不良の同級生や落ちこぼれの同級生だったり、ダメな男に引っかかりやすい女の子だった。
ある日、突然、二人は消息を経ち、何処かに駆け落ちしてしまった。
何でも話せた親友の私にも、内緒で。
携帯電話も繋がらず、
──二人で駆け落ちします──
と、書かれた置手紙だけを残し、消えてしまった。
……今でも私は、クミを心配している。
お互いの両親は呆れ果てて捜そうとさえしなかったが、私は色々なツテをたどって探し回った。
しかし、二人を見付けられないまま、時間ばかりが流れていった……。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
火曜日。
大学の講義が終わり、私は学食で一人、昼食を食べる事にした。
……いつも、クミと一緒に食べていた学食。
うちの大学の学食は美味しくて、彼女とおしゃべりしながら食べている時は楽しかった。
私は突然、親友を失ってしまい、ふせぎがちになって、大学でも一人で居る事が多くなっていった。
いつもそばには、あの屈託のないクミの笑顔があったのに……。
ずっと一緒に居られると思っていたのに……。
ふと私は、クミの事を思い返していた。
学食の唐揚げ定食が乗ったトレイをテーブル置いて、椅子に着席しようとした時、背後から誰かが私に声をかけてきた。
「となり、いいですか?」
聞き覚えのある声の持ち主の顔を見て、私は仰天した。
……そこに立っていたのは、駆け落ちしたはずのクミだったのだ。
「クミ!!」
私は大声で叫んでしまった。
「フフフ……マミ、ビックリした?」
久しぶりに見たクミの姿は、派手というより、少しあばずれた感じの格好をしていた。
美しかった黒髪はブリーチで酷く痛んでおり、メイクも昔より数段濃くなっていた。
「あんた、今まで何処に居たのよ! 私、ずっと捜してたんだよ!」
「……ごめんね」
一年ぶりの再会。
クミの話によると、あれからクミと17歳の彼は、二人で埼玉県まで駆け落ちしていたらしい。
「あんた、元気にしてたの!? 病気とかしてない?」
「うん、まぁね」
「今、彼は何してるの? 二人はどうやって生活してるの? 何で急に戻ってきたの?」
私はクミに質問ばかりぶつけてしまう。
聞きたい事なら山ほどある。
すると彼女は、こう言った。
「ここじゃあ話し難いから、どっか落ち着いた場所で話そうよ」
「ここで充分、落ち着いてるでしょ!」
「……あ、カラオケ行きたい! 久しぶりに二人でCyber Babeの曲、歌いたいし!」
一年ぶりの再会だというのに、いきなりカラオケだなんて……とは思ったものの、いつものクミのワガママに付き合ってしまうのが私。
私たちは、大学の近くにあるカラオケBOXに入った。
カラオケBOXに入るやいなや、早速クミは選曲し、歌い始めた。
私は先走る気持ちを抑え、じっと彼女の姿を見つめながら、歌を聴いた。
昔はガーリー系のオシャレを好んでいたクミ。
それが今は、どうしてこんなに派手な格好になってしまい、化粧も厚くなっているのか……
もしかしたら、彼にまともな収入がなくて、クミは水商売でもしているのかもしれない、と私は心配になった。
クミが一曲歌い終わったところで、私は話を切り出した。
「クミ、さっきの話の続きなんだけど──」
「あ、Cyber Babe一緒に歌おうよ! 入れるよ~!」
クミが選曲し、Cyber Babeのヒット曲『Reincarnation』のイントロが流れる。
どうやら彼女は、話を先延ばしにしたいらしい……。
私はあえて、それ以上問い詰めなかった。
彼女が自分から話し出すまで待つ事にした。
一時間が経過した。
クミは、まだ話し出そうとしない。
私は、しっとりとしたバラード曲を歌っていた。
間奏の時に、ふとモニターからクミに視線を移すと、クミは何故か泣いていた。
「クミ?」
「……あ、ごめんね。この曲、彼氏とよく歌ったから……」
とうして泣いているんだろう?
彼と何かあったのだろうか?
私は尋ねた。
「どうしたの? 彼と何かあったの?」
「……実は……私……彼氏の子供、妊娠しちゃって……」
クミの言葉が、頭の中で何度も繰り返す。
妊娠!?
あのクミが!?
「嘘……でしょ……?」
私は、頭の中が真っ白になった。
「本当なの……彼氏は堕ろせって言うんだけど、私は産みたい」
「そ、そんな……。なんで堕ろせだなんて言うの?」
「……だって、お金ないもん。彼氏、今も働いてないし」
クミの話によると、彼は全く働かず、クミのアルバイトから得る収入に頼りきっているらしい。
「マミ……マミに会いに来たのはね、お金を貸してほしいからなの。私、親にはもう頼れないし。頼れるのは、マミだけしかいないの。……私、どうしても産みたい」
私には、中学生の頃からコツコツと貯めてきた貯金がある。
親からの小遣いと、高校生時代からガソリンスタンドでアルバイトして貯めてあるお金。
派手な買い物をしない性分なので、並みのOLくらいの貯金はあった。
もちろん、クミはその事を知っている。
「……分かった、お金は私が何とかする。子供、産みなよ。でも、彼とはもう別れるんだよ」
「……うん。マミ、ありがとう……」
クミは私に抱きつき、私の胸の中で泣き続ける。
私は、クミをギュッと抱きしめた。
本来なら、親友といえども、お金の貸し借りは良くないのかもしれない。
しかも、出産費用という大金だ。
──何故、私が彼女にそんな大金を貸すのか?
それは、私はクミの事が大好きだから。
親友としてではなく、女として……。