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私の呼吸は蛍光ピンク 作者:笹尾
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キャンバスを塗り直そうか

死ぬかと思った。

超ヤバたん。息って自由に吸えるだけでマジ感謝。


あの日の記憶は今も鮮明に覚えている。



父は世界に名を轟かす大企業「YOYOTA」の社長であった。

なので私や弟はこのご時世に珍しく何かしらの「パーティ」という場所に足を運ばされていた。


日本人特有の黒く長い真っ直ぐな髪。

小柄なのに、鋭いツリ目。三白眼すれすれの黒い瞳。

それが思い知らされるパーティという場所は大嫌いだ。


カタコトの外国人から言わせれば大人しくしているだけで「オー!ヤマトナデシコ!ブラボー!」らしいが。


センスは人それぞれだろう。


私はこの容姿があまり好きではない。


社交場に行くとよく思う。

黒って可愛くない。


私は金髪や、茶髪の人間を羨ましく思っていた。


「ねえ、彰。明日私があのお姉さんみたいに縦巻きロールの金髪にピアス付けて胸元バーンと開けた真っ赤なドレス着たらどう思う」


「別に構わないけど、乳がないからやめた方がいいと思う」


「うん…」


私の弟はクールだな。

弟も私と同じく社交場という場所が嫌いらしい。

私と同じ黒い髪に、キリッとつり上がった目、唯一違うのは私と違い黒目が小さい三白眼。

私とよく似た特徴であっても男であればかっこよく見えると私は思う。


だが、こいつも自分の容姿が嫌いらしく、パーティでこそ前髪をオールバックに顔を出させられているが、普段はいつも前髪で髪を隠している。


お互いこの容姿には苦労をしているものだ。


「姉さん、宝治さんいる。多分挨拶くるよ、姉さんの分のグラス持ってるし」


「うわ、本当だ。あれは来るね。あのニコニコ笑顔、信用ならないなぁ…」


宝治さん、というのはこれまたこのご時世に珍しい私の婚約者「宝治 孝春」さん。

お父さんはアパレル業界で名を馳せる有名デザイナー。お母さんはパリコレ出身という肩書きを持ったフランス人モデル。

お母様に似た金髪に青い瞳、長身に整った顔立ち。

だが、性格はなんとも謎。

あまりプライベートで会うことがないので対して知らないのだが、少なくとも私の前では好青年。

悪評も少ない。


これが、真実なら私の婚約者ってのは気が引けるなぁ。

どんな感情で私の婚約者やってるんだろ。

「資産家の娘!将来安泰!」とかだろうか。

その身一つで路頭に迷っても「あっ」という間にスカウトがかかってトップモデルになったり、お金持ちのお姉様が拾って一生衣食住に困らないヒモとかになれそう。


「こんばんは静さん、彰くん」


「こんばんは、宝治さん。今日のスーツも素敵ですわね」


「ふふ、ありがとうございます。とは言っても父が作ったものなので僕のセンスではないのですが。ところでこれ、静さんにと思って持ってきたのですがどうです?白ぶどうのジュースです」


「頂きます、ありがとうございます」


これが私たちのいつもの会話の切り口。

とりあえず私は衣服を褒める、あっちはドリンクを持ってくる。

婚約者と言いながらもあまりお互いのことを知らない私たちはとりあえず話題がない。

他愛のない話…世間話とかすればいいのか。

あぁ、最近の君の父の会社の株価は上がっていて良いなとか、そういう話でいいのか。


いやー無いな笑


「そう言えば、受験どうだった?うちの高校受けたんだよね」


「あ、そう。そう、ですの。先日受けましたわ、輝月学院。結果はまだですけど感触は良かったと思いますの。やはり名門と言われるだけあって難問が多かったですけど」


「静さんって成績良さそうに見えるけど」


「いえ、そこまででは。私よりも彰の方が賢いと思いますよ」


あ、今彰「え、急に俺に振る?」って顔した。


「僕は理系なら自信ありますけど、文系はそこまで…」


「ところで…」


私の記憶はそこでまどろむ。

何も無い、日常。

今までの当たり前が、変わった日。




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