お金の集まるところに文化が生まれる
時代の半歩、一歩先を行く堤さんの発想を実現した当時の社員もすごかったのでしょうね。
林:私のことをかわいがってくれた西友の宣伝課長さんはまだ若かったけど、抜擢されて、好き放題にやっていました。堤さんは才能ある人を見抜く目利きだったのではないでしょうか。
それも当時は広告宣伝にふんだんにお金を使っていました。どうでもいいような広告のために、みんなでロサンゼルスまで出張して。「つまらないコピーをつくってるな」って思ったことがありましたもん。
もちろんバブルだったというのもあるかもしれません。けれどやはり広告は、好き放題のことをやらせなきゃダメですよね。マスコミもそうでしょう。
私はマガジンハウスの全盛期、みんなが使いたい放題にお金を使っていた頃のことをよく覚えています。やっぱりお金が集まるところで文化が生まれるし、文化が生まれるところにお金が集まる。相乗効果なんですね。
林さんから見た堤さんはどんな経営者でしたか。
林:下で働いていた人の中には、堤さんのことを怖いと言っていた人がたくさんいました。優しくて穏やかな方だとこんな大きな仕事はできませんので。
私が堤さんの本当のすごさを知ったのは、毎日出版文化賞の選考委員でご一緒させていただいた時です。文学部門、科学、自然科学、人文科学、特別賞と分かれていて、私は特別賞と文学を担当すればいいと言われていました。
「アリの生態」なんて質問されても当然、分かりません。そんな時に私は「パス」と言っていたのだけれど、選考委員長の堤さんは信じられないことに、それぞれの部門で7冊くらいの候補作を、すべて読んでいました。
しかもすごく上手に「このテーマは誰々先生のご専門ですね」と選考委員にテーマを振り分けていました。その知識量には驚きましたよ。
もちろんご自分でもちゃんと内容が分かる。自然科学や人文も、学者さんレベルの知識でした。「私も読んでみましたが、やっぱりこれは賞に値しますね」という感じで的確にコメントされていたのを、今でも鮮明に覚えています。
(後編に続く)
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