岡本裕志

道徳心を採点される――中国で広がる「信用スコア」の内実

10/23(水) 7:15 配信

あなたの道徳心を数値化したら、何点なのか。「信用スコア」――いま、中国で個人の信用を採点するシステムの導入が進んでいる。システムの運営は地方自治体が行い、その目的は秩序維持やマナーの向上にある。ルールを破らない、寄付をし、ボランティア活動に従事する。そうした「善い」行いを続ければ、スコアは上がり、さまざまな優遇が受けられる。導入によって何が変わったのか。また懸念はないのか。現地で取材した。(取材・文:高口康太、撮影:岡本裕志/Yahoo!ニュース 特集編集部)

信用スコアで「きれい」になった街

中国東部の山東省にある威海大水泊空港からタクシーで約30分、栄成市に入った。大きな道路や広々とした緑地帯を眺めながら車は走る。一台も路上駐車の車を見かけない。警官やパトカーの姿は見えない。ハンドルを握るタクシー運転手の李さん(40代男性・仮名)は、こう言う。

「(警官は)目立たないようにしているだけです。監視カメラで見ているんです。路上駐車をしたらすぐに見つかりますし、スピード違反をしても同じです。次の十字路に警官が待ち構えていて、すぐに飛んできます」

栄成市内

運転者が負うペナルティーは、その場で違反キップを切られることだけではない。個人の「信用スコア」が減点されるのだ。栄成市のスコアは警察のデータベースと連動していて、違反行為を記録された段階で、該当する個人のスコアが減点される仕組みになっている。栄成市の信用スコアは、同市に戸籍がある全住民が持っている。文字通り、住民それぞれの「信用」を数値化したものだ。交通違反のほか、市が定めたさまざまな規定に応じて加点・減点される。

その仕組みはこうなっている。

まず住民のスコアは1000点からスタートする。違法行為や不道徳な行為をすると「減点」、社会に役立つ行為をすると「加点」というシンプルなルールだ。1050点以上がAAA級、1030~1049点がAA級、960点から1029点がA級。850~959点がB級。600~849点がC級。599点以下がD級と評価される。

栄成市民の信用スコア

タクシー運転手の李さんはこう説明する。

「スコアが高いと、冬の暖房費補助金の申し込みなどの行政手続きで提出書類が免除されたり、職員が個室で優先的に対応してくれたりと、様々な優遇措置をしてもらえます。逆にスコアが低いと手続きが煩雑になります。もっと低くなると申請すらできなくなってしまいます」

李さんは「スコアが下がって、不利益を受けるのは嫌ですよ」と言い、こう続けた。

「冬に雪かきボランティアをやっています。不注意の交通違反で信用スコアが下がるようなことをやらかしても、あらかじめ点数を上げておけば安心ですから」

栄成市にある行政センター。様々な行政サービスの担当部署がここにまとまっている。下はサービスの窓口ごとに表示されたQRコード。スキャンすればチャットでやりとりもできる

栄成市によると、ボランティアは「10時間従事してプラス2点、20時間でプラス5点、50時間でプラス10点」とある。最大300時間従事すればプラス50点まで加算されるという。たとえば、違法駐車の場合はマイナス3点になる。先に20時間のボランティアをこなしておくことで「保険」をかけておける。

他にもさまざまな加点項目がある。拾ったお金を届ければ1000元(約1万5000円)以下でプラス2点、5000元(約7万5000円)以下でプラス3点される。貧困者支援など公益団体への寄付は1000元で10点、献血は1回ごとに10点となっている。「同じ団地に住む、高齢者や病人を手助けする」「無料で隣人の子どもの送り迎えをする」「子どもが人民解放軍に入隊する」で5点といった項目もある。

栄成の行政センターに置かれている端末。銀行の信用情報に関する記録にアクセスできる

細かく規定されているのは加点項目だけでない。減点項目も同様だ。

軽微な交通違反はマイナス1点。免許取り消しの重大な違反でマイナス60点となる。他にも「借金を返さない、契約を守らない、公共施設を壊した」などの行為、さらには「道に落書きをした」「爆竹や楽器で騒音を出した」「共産党員の党費未払い」といったものまで含まれる。減点、加点は誰が見て、スコアに反映するのか。李さんによると、市職員が市のデータベースに登録することもあるし、居民委員会(団地ごとに設置される、もっとも小さな行政組織)の担当者が市に報告することもあるという。

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