ホストに学ぶ育児のテクニックとは?

海猫沢めろんさんと下田美咲さんの対談最終回です。これまで、理想の育児の在り方、夫婦で子育てをする秘訣、男性をパパにする難しさなど、さまざまな内容を2人が縦横無尽に語ってきました。ラストのテーマは「ホストのテクニックは果たして育児に通用するのか」。果たして最後にどのような話が飛び出すのでしょうか? 海猫沢めろんさん原作『キッズファイヤー・ドットコム(1)』と合わせてお読みください。

床上手な男は子どもにも優しくできる

下田美咲(以下、下田) 旦那さんのホスト能力が役に立った話でいうと、赤ん坊の話を通訳できるところかも。

海猫沢(以下、海猫沢) お、それはどういうことですか?

下田 まだ喋れない時期の子どもって、何を求めて騒いでいるのかを当てるのが難しいんですけど、彼は分かるっぽいんですよ。たとえば、子どもがおっぱいを吸っている最中に泣き出したことがあったんですが、彼がとっさに「求めてるのは、右の乳首じゃないんだよ。今の気分は左」って言ったんです。言うとおりにしたら、本当に泣き止んじゃって。

海猫沢 え—! それはすごい!

下田 「赤ん坊にも気に入っている乳首があるんだよ。俺もそっちの乳首のほうが調子いいって思うもん」っていってましたね(笑)。

海猫沢 神がかってますね。男同士だから分かるのかな……?

下田 もしかしたら男にしか分からないことなのかもしれないです。そういう感情の機微を読み取る能力は、彼に教わることが多いかも。ホストって枕営業スキルが結構、大事じゃないですか。このスキルって、子育てにも応用できるんじゃないかなって思ってます。普段から女の子の息遣いや感情の波を観察しているからこそ、子どもの身体の変化にもすぐ対応できる。

海猫沢 アダム徳永みたいですね(笑)。

下田 だから旦那さんは寝かしつけるのとかも私よりうまいんですよ。「首の温度が高いからもうすぐ寝る」とか言うんですけど、そんなの考えたこともなかった。だから、床上手な男の人が持っている感覚って、乳幼児の育児にもすごく活きるんだと思います。

海猫沢 たしかに子育てに特化してもらえばいいですよね。ちなみに出産後すぐの時期はご実家にいましたか?

下田 いえ、全く帰らなくて、最初から夫婦二人きりで育児をしていました。旦那さんには仕事からの帰宅後にオムツ替えをしてもらったり、一緒にお風呂に入れたり。夜泣きとかはしなかったから、深夜に起きて面倒見るってことはなかったですね。

海猫沢 それはすごいレアですね! 旦那さんが子どもに怒っちゃうこともありませんでしたか?

下田 ふたりはライバル関係になってますね。私をとりあう相手として対立している感じです。今でもわたしのおっぱいをとりあっている(笑)。旦那さんはよく片乳を吸おうとして子どもに引っかかれているんですけど、それでも引かないんですよ。男同士、意地を張って戦っているのは面白いです。

海猫沢 なんていうか、すごいな……。お乳で思い出したけど、ウチは妻が乳腺炎になってしまって大変でしたね。乳が詰まってしまって出なくなってしまったんですよ。「桶谷式母乳育児相談室」にも行きました。

下田 私も乳腺炎になりかけました。対処法はあらかじめ調べていたから何とかなったけど、実際になったら辛いですよね。

海猫沢 妻が病院で授乳のやり方を教わったんですけど、ナースの方々がかなりスパルタでしたね。3時間で睡眠を区切られながら授乳の指導を受けるんです。夜泣きで眠れないし、すぐに乳が詰まっちゃうしで、つらい時期だったみたいです。本当はミルクにしたかったんですけど、病院の方針でできなかったし。

下田 私の息子も大きくなってきてから気分次第で飲まなくなってきました。あまりにも飲まなくて、乳腺炎になりかけた日があったんですけど、旦那さんが「じゃあ俺が吸い出してやる!」って(笑)。母乳を吸い出すのって単純じゃなくて、本来は赤ん坊ならではの独特の吸い方でないと出ないんですけど、なぜか旦那は難なく吸い出せていました。

海猫沢 旦那さん、赤ちゃんそのものじゃないですか!

下田 吸い出したものを桶に吐き出してくれたんですけど、結構な量が出ていて感動しました。こういうところで役に立っているから、私は彼と暮らしてるんだろうな。

セックス以外での旦那が全部嫌いだったとき

海猫沢 たしかにホスト的な才能が育児に活用されている例かもしれないけど、普通は真似できないんだよな……。

下田 私、旦那さんのことは、床上手であるという一点だけで結婚相手に選んだんですけど。そもそも婚約するまで、ご飯を食べたり、会話をしたりしたこともなかったんですよ。だから、婚約をして一緒に過ごすようになってしばらくしてから「床以外は嫌いかも」って思ったときがあって。言葉遣いの一つ一つや、ちょっとしたリアクションの方向性が、気になるようになってきて「この人と夫婦生活続けられるのかな」って不安になって。

海猫沢 うんうん。

下田 それであるとき耐えきれなくて本人に告げたんですよ。「エッチしてる時のあなただけは好きだけど、普段の言葉遣いとか発想は全部が苦手で、どうすればいいか分からない」って。そしたら、「分かった、それならこれからは全部エッチのときのテンションで対応するから大丈夫!」と返してきて、それ以来性格が本当に変わりました。

海猫沢 そんなすぐに変えられるものなんだ……。いい意味で、自分というものがない(笑)。

下田 私もこんな無理な注文が通るなら、この人には結構いろいろ言っても大丈夫だなって安心しました。

海猫沢 一般的にはカップルの一方が「自分のダメなところ治すから」って言い出した時点でアウトじゃないですか。

下田 普通そうですよね。ただ彼は「そういうことに関して俺は天才的だから」と話していたし、実際そうだったんで。

海猫沢 なるほど……。2人のうちの一方が相手を嫌だと思ってしまったときって、「その人自体が嫌」になってしまったのと同時に、「その人と一緒にいる自分が嫌だ」って気持ちもないですか。

下田 たしかに育児が始まってからはそう感じたことがあるかも。

海猫沢 実は相手の何かが原因っていうより、嫌だと感じてしまった自分の側に問題があったりしますよね。

下田 出産後まもなくの女性はホルモンバランスが狂いまくってるから、そういうメンタルに陥りやすいかも。ホルモンバランスが整ってメンタルが元に戻るまでは、夫は菩薩のように接してくれるくらいが理想的ですね(笑)

大丈夫、育児はいつか必ず終わるから

海猫沢 さて、そろそろ話も締めに向かわないといけないんですが……どうまとめましょうか(笑)。

—おふたりの考える、ホスト的な育児のポイントをまとめると「かっこいい」「おもしろい」「子どもとコミュニケーションがとれる」の3つになると思いますが、夫になる男性はこれら全て備えているべきなんでしょうか?

下田 バランスの問題だと思いますね。例えば、妻の側が「おもしろい」とか「かっこいい」とかって条件を満たしていれば、夫にはそれ以外を補ってもらえば大丈夫。夫婦それぞれで足りないところを補完できればいいと思いますよ。

海猫沢 僕もそれには同意見ですね。RPGゲームでも、パーティーの中でヒーラー役が被るより、それぞれ別のジョブについていた方が安定しますから。

—また、「お父さんはダサい」という話がありましたが、そもそも男性は結婚育児後も見た目について努力すべきなんでしょうか?

下田 そうですね。たとえ容姿がいくらダメでも、カッコつける姿勢は大事だと思いますよ。カッコよくありたい、という気持ちが可愛いなって思うんですよ。「もう服装なんてどうでもいいや」ってスタンスはうざいですから。ファストファッションでもうまく着こなせばダサくはなくなるし。

海猫沢 もちろんブランドの服はよだれでベタベタになって着れないとか、おしゃれなスニーカーが履けなくなるとかありますね。僕は当時、甚平にスニーカーを合わせた未来からきた落ち武者みたいな姿でした。モテの原動力がなくなったときにカッコよさを維持するのは大変かもしれない。

下田 私たちの場合は、「夫婦は、お互いにとって常にドタイプの男と女であるべき、そうでないと浮気されて当然」ってスタンスで生きているから。旦那さん好みの女であり続ける努力はすべきと思って生きているし、彼もそうじゃないと困る。よく「あなたが襟足の髪の毛を切ってしまったら、私にとって男じゃなくなる」と話しています。

海猫沢 下田さんの場合大事なのは襟足なんだ(笑)。僕は昔からモテたいという気持ちはないんです。だけど、心の中にいつも思春期の中の俺がいて、昔の自分に対してカッコよくあり続けたいんですよ。今の子が思春期に突入したときには、師匠キャラっぽいポジションになりたいので、なるべく狂気を失わないようにしてます。

—最後に、育児中の方々に向けてアドバイスしたいことはありますか?

下田 自分の育児スキルを疑う前に、子育てのための環境がちゃんと整っているかを確認することです。赤ん坊をいかに笑わせるかっていう大きな壁はありますが、それに至るまでの問題は、環境を改善すれば解消することが多いと思いますよ。

海猫沢 育児はいつか必ず終わります。相手が言葉を話し出すようになると格段に楽になるんです。3歳までは先の見えなさに不安になると思いますが、いつかその時期が終わるってことを心に留めておいてほしいですね。



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この連載について

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海猫沢めろん×下田美咲 ホストに学ぶ育児のテクニック

下田美咲 /海猫沢めろん

2019年7月に発刊された、海猫沢めろんさん原作の漫画『キッズファイヤー・ドットコム』(画・川口幸範/講談社)は、歌舞伎町NO.1カリスマホストが、突然現れた赤ん坊の育児に奔走するストーリー。1巻では、赤子をあやしながらのホスト仕事に...もっと読む

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