日曜の日本×南ア戦、結果は少し残念なものとなったが、ちょっと苦し紛れっぽくポストしたプレビューで試合の見所を紹介でき、観戦の良い補助線になったというコメントもいただき、多くの人に楽しみを提供できたかもしれないと思うと嬉しかった。
------
日本代表の試合となると、勝ち負けの結果が最大の観戦ポイントとなるのは避けがたいが、そうなると負け試合になった時、ただ悔しい、辛い、つまらない、みるんじゃなかった、という思いも心に湧き上がってしまう。
------
増田としては、それだけではなくて、事前に何をもって戦いに臨み、実際にフィールドで何が起きているのか、というところに目を向けて、このスポーツの面白みを発見できる見方を知って欲しかった。
------
また、見方において日本戦だけでなく他の試合においても思うところあり、スコットランド戦のレビューでも触れたように、「勝者の物語」はまた「敗者の物語」という側面を持っている。
日本に敗れたチームや、強豪に敗れたチームの詳細にも触れて、普段の観戦よりもう少しだけ多くの視点からの風景を共有したいと思った。
そう言った意味では、ウェールズ×ジョージア戦や、ちょっとお説教を頂いた日本×スコットランド戦のレビューも、その遂行面ではともかく、視点としてはまあまあ気に入っている。
------
さあ、準々決勝の4試合だが「多分リアルタイムで観るの難しいっぽいなー」と言っていたものの、蓋を開けてみるとクアラルンプールからの帰国便は6時間余りあり、機内のモニタでも国際スポーツチャンネルがあったので、19日の2試合はリアルタイム観戦ができた。
------
さらに、南ア戦の翌日は1週間の旅の疲れを癒すために休暇をとっていたので、オンデマンド放送でウェールズ×フランス戦も観戦できた。
------
詳細なレビューは書ききれないが、これらの試合を概観し、準決勝の展望についても触れたいと思う。
------
イングランド×オーストラリアの試合は、伝統的な重くてシンプルなフィジカルラグビーに4年で鍛え上げた強力なオープン攻撃を組み合わせたイングランドの「進化型フィジカルラグビー」と、「ストラクチャー」ではあるが地上戦のランで組み立てる今となってはクラシカルなオーストラリアの「シークエンスラグビー」の激突となった。
「シークエンス(台本)」と言いながらも、オーストラリアはその布陣においてSHのウィル・ゲニア、SOのクリスチャン・リアリーファノ、FBのカートリー・ビールと試合のタクトを振れる3人を並べ、トリプル司令塔で攻撃に冗長性と予測不能性を加えていた。
------
しかし、その3人をもってしてもイングランドの強固なディフェンスの穴を見つけることができず、長時間ボールを支配したにも関わらず、その時間に見合ったスコアを獲得できなかった。
------
スタッツをみることができるなら、「ボール支配率(possession)」と「ゲインメーター(meters made)」に注目してほしい。
オーストラリアは62%もポゼッションし、イングランドの2倍以上の距離をメイドした。
にもかかわらずスコアにはつながっておらず、これは多くの場合、エラーやディフェンスにあって突破ができなかったという事で、非常に効率の悪い攻めをしていたことを意味する。
このことの視点をひっくり返してタックルに注目してみると、イングランドはタックル数において86回のオーストラリアに倍する193回のタックルを見舞っていたにも関わらず、オーストラリアの13回のタックルミスに対して21回のタックルミスしかしていない。
6.6回に1回捕まえられなかったオーストラリアに対し、倍の数を試して10回に1回しかミスしていないということだ。
------
効率を無視したメーター数と運動能力で圧倒するのはオーストラリアのスタイルであり、簡単に変えるのが正しいとは言い切れないが、ボールを持たずに白い壁を作り、切り返しからの一発で獲るのもまたイングランドのスタイルであり、オーストラリアは自分たちのプランに持ち込めたが、遂行の面でイングランドに問題を突きつけられた、という形になった。
------
オーストラリアとイングランド、双方のHC、マイケル・チェイカとエディー・ジョーンズはコーチボックスでブチ切れる事で名高いが、フラストレーションの溜まる展開も、結果はかなり一方的なものとなり、チェイカはキレるというより憮然としてしまった。
こうしてイングランドが準々決勝に次いでまたも準決勝に一番乗りした。
------
スタイルを貫いたのに壁に跳ね返される展開となった第一試合だったが、第二試合で増田はさらに息を呑むような衝撃的な光景を目の当たりにする。
------
今年のテストマッチでオールブラックスを破り、直前まで獲得した世界ランキング1位を引っ提げてW杯に乗り込んだアイルランドだったが、彼らはその「1位」という数字の当てにならなさを残酷なまでに突きつけられた。
------
36%しか獲得できなかった「地域獲得率(territory)」、オールブラックスと比して8割ほどの回数はボールキャリーできたのに半分ほどしかメイドできなかった「ゲインメーター(meters made)」、クリーンブレイク僅か2回、そして最終スコアの46−14は、「どんなプランを持っていたにせよ、ほとんど何もさせてもらえなかった」という事を意味する。
オールブラックスとほぼ同じ回数タックルを見舞っていたにも関わらず、2.5倍もタックルミスをしてしまい、8回ものターンオーバーを喫している。
実際見ても、あの緑の壁が地上戦でズルズルと下がっていたのは恐ろしい光景だった。
------
オールブラックスはアーディー・サヴェア、ブロディ・レタリックなど強力FW陣が躍動し、コーディー・テイラー、デーン・コールズ(驚くべきことに2人ともFWだ)、ジョージ・ブリッジなどの驚異的なランナーが次々とラインを破り、アーロン・スミスやボーデン・バレッドがその閃きで違いを作り出したが、増田は個人的POMとしてSOのリッチー・モウンガを挙げたい。
------
この地味な司令塔は、敵陣に侵入し、すわ驚異的なアタックが始まるぞという時でも、デフェンスラインが浅いとみるやゴロパントを蹴って22mのさらに深くからのセットプレーを相手に強い、ボールが暴れるやドリブルで蹴だしてボーデン・バレットへ脚でのパス。
黒子に徹しながらも異常な反応速度と驚異的な回転の早さで黒衣の王者を動かした。
------
緑の巨体を一蹴したオールブラックスが今度は白い壁がまつ準決勝に駒を進めた。
------
細かい数字の話が続いたのでスタッツからは少し離れることにしよう。
ウェールズ×フランスは、準々決勝で唯一、1点を争うクロスゲームが演じられた。
------
緑の芝に赤と青のユニフォームが映える一戦は、個人の閃きで予測不能な攻撃を仕掛ける青のフランスに対し、壁を作って切り返し、直線的なランとハイパント、サインプレーからの一発を狙う赤のウェールズという展開となった。
------
前半からボールを支配し、次々と不確実性を突きつけるフランスに対し、守勢に回るウェールズは、数少ない攻撃のチャンスを得ても、ダン・ビガー、ガレス・デービス、リーアム・ウィリアムズの個人技しか出来ることがない。
そもそもウェールズは3フェイズ以上の攻撃になるとすぐに手詰まりを起こしてしまい、そこから先はキックと個人技と密集戦くらいしかやることがなくなってしまうのだが、その3フェイズの切れ味で尸の山を築いてきたチームだ。
ボールをもってジャズセッションを奏でたいフランス相手に気分良い時間を提供してしまう。
------
しかし、しかしだ、フランスにはなぜかW杯で顔を出す、悪い、致命的に悪いクセがある。
前回W杯で密集のどさくさに紛れてオールブラックスのリッチー・マコウに芝との挟み撃ちにするプレスパンチを繰り出し退場者をだした様に、今回もLOのセバスティアン・ヴァーマイナがモールのどさくさに紛れてウェールズの選手に肘打ちを見舞ってしまう。
掲げられた赤いカードは同じ赤のジャージを着たウェールズにとっては幸運のカード、青のフランスにとっては逮捕状に見えたことだろう。
------
ここからウェールズは徐々に息を吹き返し、ついには土壇場で勝負をひっくり返した。
フランスは優位に進めていた試合を自ら壊してしまい、涙を飲むことになった。
------
W杯が始まってからというもの、「あーこりゃマズいな」という状況を執念でひっくり返し、薄氷の勝利の道を踏み抜かずに歩き続けるウェールズは感嘆に値する。
毎度毎度、怪我人の穴埋めで呼び出されて司令塔になるW杯男、ダン・ビガーは、男であればこうありたいと思わせる勝負強さだし、肘打ちを食いながらもPOMに輝いたアーロン・ウェインライトは全てのパパが見習うべきで、父たるもの大男はちょっと厳しくてもヤンチャな娘の肘打ちくらいには耐えないといけない。
------
土壇場に強い男たちの活躍で準決勝3番目の椅子はウェールズのものとなった。
------
------
準決勝はニュージーランド×イングランド、ウェールズ×南アフリカという組み合わせとなった。
------
ここまで圧倒的な強さを見せつけるオールブラックスだが、相手に付け入る隙を与えずねじ伏せてきたのはイングランドも変わらない。
------
しかしオールブラックスが優位に試合を運ぶのではないだろうか。
重厚でクラシカルなスタイルから進化して、未来型フィジカルラグビーとでもいうべき戦法で次々と対戦相手を沈めてきたイングランドだが、その選択肢の多さが逆にオールブラックスの付け入る隙となるかもしれない。
いっそランニングを捨てて激しく前に出る高速ディフェンスによってオールブラックスのモメンタムがつく前に潰し続け、ロースコアの展開に持ち込んだほうが勝機が見えて来るのではないかとも思う。
オールブラックスとしては、いかにして前に3mのスペースがある状態でボールを持つかということになる。
------
名将スティーブ・ハンセンと、勝負師エディー・ジョーンズの采配に注目だ。
また、エディーがいつコーチボックスでブチ切れるかにも注目だ。
------
南アフリカとウェールズの戦いに関しては、ともにフィジカルを盾にしたディフェンスに特色のあるチームであり、小細工を弄するような対戦になると考えづらい。
双方ともペナルティゴールを積み上げた上で、試合合計でも3個以内のトライを奪い合う展開になるのではないかと思う。
------
自分の自尊心を守る為に見えてるものに目を瞑る誘惑には耐えなければいけないが、それでも南アフリカが優位にゲームを進めるのではないだろうか。
------
翻って必殺の一撃が世界最高クラスのフィジカル相手にも通じるのか試さないといけないウェールズだが、どうもクロスゲームには縁があり、かつて日本相手のテストマッチでも70分過ぎのドロップゴールで逃げ切った経験がある。
今回ももし75分を過ぎて手が届く点差なら何でも起き得る。
綱渡りのうまい大男達がまたも勝負の谷を超え、頂への挑戦権を得るだろうか。
------
日本の挑戦は終わったが、W杯で残された4試合はいずれも興味深いものばかりだ。
みんなも是非もう少しお付き合いいただきたい。
土曜日の日本×アイルランドの大一番のレビューに非常に多くのブクマをいただけて嬉しい。 文章や情報には色々なスタイルがあり、たくさんの人に注目を浴びるスタイルはきっと色々...
前回、オーストラリア×ウェールズの試合をパブリックビューイングの模様とともにお伝えしたが、1日遅れのレビューもたくさんの人に読んでもらえて嬉しい。 今日は日本×サモアのレ...
「私たちは胸を張っていきたい。間違いなく大きな体験で、感極まってしまうほどだ。私たちのパフォーマンスが祖国のパワーになれば」 プールA、0勝4敗で大会を去る事になったロシア...
1週間のご無沙汰、レビュー増田(ありがたく名乗ることにした)です。 ------ これがポストされる19日は、イングランド×オーストラリア、ニュージーランド×アイルランドという非常に...
「先に我々のメンバーを見たことで、相手が作戦を変更してきても、それは私がどうこうできることではない。関係ありません」試合3日前に登録メンバーを発表した南アフリカのエラス...
こんにちは。 レビュー増田です。 日曜の日本×南ア戦、結果は少し残念なものとなったが、ちょっと苦し紛れっぽくポストしたプレビューで試合の見所を紹介でき、観戦の良い補助線に...
ブログでやれ。ここはオタクとフェミの遊び場なんだよ
無理。日本人は雑魚。体格が違う。
南アに勝った試合見てて泣いた https://anond.hatelabo.jp/20150921132712
4年後、というが日本代表の未来は楽観できる状況にない。 ワールドカップで優勝できる国は4年の間に平均して50試合程度をこなしている。 Tier1はシックスネーションズやチャンピオン...
本当に前半は手に汗握るというか、もしかしたら勝ってしまうんじゃないかって感じだったよなぁ。後半は自力が出ちゃったけどさ。 本当に面白かった。ここまで楽しめたのもラグビー...
ラインアウトから日本がボールを投げ込むのをほとんど南アにとられてたのはそういうものなの? 今までの試合ではあれが相手チームにボールとられた時はハプニングって感じで滅多に...
日本は4年間見てたけど、ティア1クラス相手になるとラインアウト強くないですね。 色々サイン工夫したりするんですけど問題は高さなんですよ。 ------ あのプレーは鍵になるのはボール...
試合前に注目点を教えてくれてとても助かる。あと安村アナは元ラガーマンだけあって結構分かりやすいと思う。今日勝ってくれたら本当に世界が驚愕するだろうなぁ。楽しみ。
にわかファンです。ラグビー詳しくありません。誰か教えて下さい。 先だってのスコットランド戦後半で、相手のパス回しがサイドに出た場合、日本の選手がいない、という状況が幾度...
アドバンテージ中かな? アドバンテージは反則によって試合が中断すると盛り上がりに欠けるので、反則が出ても試合を中断せず続行し、プレーの結果が反則された方に有利ならば継続...
ディフェンスシステムは前に出て相手の勢いが出る前に止める「シャロウディフェンス」と、相手がボールを横に回しながら前進してきた時に、待って外に移動しながら追い出す「ステ...
なんという予言w 脱帽です。
これはひどい。何も内容がない。 元増田への冒涜だから、消してちょーだい。
ラグビー増田お疲れ様やで。 昨日の試合アチアチ過ぎたわ…。前半は本当にゲームを掌握してたよなぁ。
サッカー好きなのでは?
伝統芸能「ゆっくりスクラム」www
消耗を避けるっていうよりスコットランドは追い風だからキックつかってたように思えるけど
選択する戦術の相性が先に頭にあったんで、そのフレーミングで見て、「あ、ここ蹴り方はサモア戦の日本と似てるな」って判断したのはありますね。 でもちょっとスコットランドのキ...
フォワードの体重差が40キロくらいスコットランド有利だったのに何度も日本が押し勝ったのは疲労蓄積の差なの? それとも40キロ程度ならアドバンテージにならないとか
もちろん疲労の影響はあると思うんですけど、押し合いでも、スクラムは技術のツメとメンバーで組んだ回数、反復練習がモノを言う世界らしく、日本のスクラムは足を置く位置や、8人...
意外と試合部分のレビューがあっさり。Youtubeとかで簡単にハイライトを動画で見られる時代に、文字情報でこういうの書き出す正当性はあるのか?
完全なにわかなんだけどラグビー面白いなって思っていろいろ記事も読むようになった。 でも戦術のゲームだっていうわりにはチーム戦術の基本を教えてくれたり分析をするような日本...
元増田です。 ————— 自分も戦術を上手くレビューに組み込めればもっと面白さが伝わるかも、と思うし、ブコメで言ってくれた人いるんですけど、自分は細かい戦術にはそれほど詳...
YouTubeでレビューしてるような連中は試合見ながらちゃんとメモ取ってるゾ。
無理せず、試合後に録画を使い、一時停止と巻き戻しを繰り返しながらメモりつつ書いてもいいのでは。
今日の試合も面白かった。なんか強豪国の雰囲気を感じる試合運びだったなぁ。
この解説を読んだあとでもう一度試合を見たいと思いつつ、録画した番組をもう一度見る時間はないのが残念。 今日のオールブラックス戦も楽しみにしてます。いつもありがとう。
今大会は日本のコンディションが非常に良くて、終盤に走り勝つことが多いけどなんで?自国開催(含む日程)が有利に働いてるためだと思うんだけど…
気候が影響してんのは確かでしょうね。 湿気は効くみたいなんですよ。 あとラグビーって60分ぐらいでゲームが動くことが多く、日本はいままで逆に「60分まではいい戦いをする」...
なんか今日のレビューはコマ切れでごちゃごちゃしてるしポエムっぽいぞ
ウェールズファンのガラの悪さには草。自分もパブリックビューイング行ってみようかなぁ。ミーハーなのでジャパンのユニフォーム欲しくなってきた。