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【国際】

<引き裂かれた香港>(上)2色分断 デモ後「警官の夫怖い」

20日、香港・九竜地区の繁華街で、デモ参加者らに破壊される中国銀行の店舗。身元の特定を避けるため、ほかの参加者らが傘で隠している

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 香港の小学校でソーシャルワーカーとして働く張重之(ちょうじゅうし)さん(40)=仮名=は八月下旬以降、十四年間連れそった警察官の夫(40)と離婚に向け話し合いを続ける。

 「夫が自分とは全く違う人間と感じるようになった。身近な存在なのに怖い」

 夫婦の間に亀裂が入ったきっかけは、七月二十一日に中国本土に近い新界・元朗(ユンロン)で起きた事件だという。白シャツを着た集団がデモ帰りの若者や居合わせた妊婦などを暴行した。多数の通報にもかかわらず警察はなかなか到着せず、負傷者は四十五人にのぼった。白シャツ姿の屈強な男たちが、無抵抗の若者をこん棒でなぐり続ける映像は、香港市民に衝撃を与えた。

 香港メディアによると、逮捕された十二人は暴力団関係者だった。香港では、警察が暴力団の暴行を黙認した、あるいは警察が暴力団を使ってデモ隊を攻撃させたとの見方が広がる。

 「なぜ警察は何もしなかったのか」。張さんの疑問に、夫は「警察は正しい」「デモ隊は殴られて当然だ」と不機嫌に応じた。張さんは「警察はプライドが高く、間違いを認めない。十九歳から警察官の夫もそうなのだろう」と推し量る。

 「人間性を信じるか、(警察などの)システムを信じるか」。この事件をきっかけに鮮明になった夫との違いについて、張さんはこう表現する。「以前は政治的なことは家庭内であまり話さなかったが、(一連の抗議活動に対する)警察の暴力はあまりにひどい」。九歳と五歳の子どもに話題を向け、「抗議活動が普通にでき、正義の通じる社会で生きてほしい」と話す。

「警察の暴力は許せない」と話す張さん=いずれも中沢穣撮影

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 この事件以降、デモ隊は警察に怒りの矛先を向け、「平和的なデモでは政府は動かない」と過激な手段もいとわなくなった。デモでは「黒警」とシュプレヒコールがあがる。「黒」にはヤクザの意味もある。一方の警察もデモ隊を「ゴキブリ」と罵(ののし)り、強硬姿勢を一段と強めた。

 先鋭化するデモ隊と警察・政府との対立を巡り、香港社会は二色に割れている。デモ隊支持を意味する「黄」と親政府の「青」だ。黄色は二〇一四年に民主化を求めた雨傘運動の際に使われた黄色い傘、青色は運動に反対した人が着けた青いリボンに端を発するといわれる。

 企業やメディア、飲食店も色分けされ、青と見なされればデモ隊の攻撃を受ける。攻撃の対象は、中国系の銀行や企業にとどまらない。米コーヒーチェーン大手・スターバックスや日系の元気寿司も、香港での運営会社が青とみなされ、一部の店舗が破壊された。

 祖父母の代から香港に住む張さんの親族も「口論になるのを避けるため、集まる回数が減った。集まるときは、黄と青の人が別々のテーブルに座る」(張さん)という。飲食店など公共の場で政治の話題を避ける市民も増えた。

 親中派でありながら香港政府を批判してきた立法会(議会)議員、田北辰(でんほくしん)氏は「香港の人々は物事の道理ではなく、黄か青かでしか物事を判断できなくなった」と嘆く。デモ隊と警察、市民と政府、香港と中国など深い亀裂があちこちで生じている。田氏は「香港社会のすみずみにまで毒が回ってしまった。先が見通せない」と付け加えた。

 ◇ 

 犯罪容疑者の中国本土への移送を可能にする「逃亡犯条例」改正案に、香港市民は激しい拒否反応を引き起こした。抗議活動は四カ月が過ぎても終息が見えず、香港は分断の痛みに苦しむ。背景を探った。

 (この連載は中沢穣が担当します)

 

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