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次は、キリマンジャロ。エルさんが山へ登る理由。エルドーシュ・バーリント(株式会社スタディスト)~Forkwell エンジニア成分研究所

「伝えることを、もっと簡単に。」をミッションに掲げ、現在はビジュアルSOPマネジメントプラットフォーム「Teachme Biz」を開発・提供している株式会社スタディストさま。

※SOPとは:標準作業手順書(Standard Operating Procedures)

「学ぶ」「研究する」「人」という名前の由来に違わず、エンジニア陣にも学習意欲・向上心の高い人が多くそろっていました。

計4名、4回のシリーズとなる2回は、ハンガリー人のエンジニアであるエルドーシュ・バーリントさん(@valerauko 以下、エルさん)に登場いただきます。

ハンガリーからただ1人、国費留学で来日

――エルさんの業務内容から伺います。今は、どういうお仕事をされているんですか? 

エル 主にバックエンド、サーバーサイドの開発を担当し、設計から実装、場合によってはデータ分析や事業に関わることまでやったりします。

人があまりいないので、誰がやる?って感じになると「やります」と手を挙げるんですね。ちょうど昨日CTOに「エルはオールラウンダーだな」って言われたところです(笑)。

――直近では、どういうことをやられているんですか? 

エル 会社のプロダクトである「Teachme Biz」も歴史が古く、各データがあまり清潔ではないところがあります。それを整理するための処理をやっていますね。

――来日した経緯から改めて伺いますが、きっかけは何だったんですか? 

エル 18歳で高校卒業した時点で「今からアメリカ行って学費無料で、奨学金も貰えるよ、留学してみませんか?」って言われたらしてみますよね。そういう経緯です(笑)。

――学費も無料というと、国費で招待されたとか? 

エル 皆さんはご存じないかもしれませんが、日本国にはそういう素晴らしい制度があります。

――なるほど。それは、成績優秀者が選ばれるんですか? 

エル   バラつきがあって、どういう基準で選ばれるかは自分もわかりません。成績は確実に関わるし、試験も面接もあります。対象にされる国かどうかも、成長途中の国が優先的に採用されます。日本と関係を近づけたい国や東南アジアとか、そういう国が多いです。

――それで、ハンガリーからはエルさんが選ばれたと。

エル そうです。ここ20年くらいは、年に1人来れるかどうかみたいですね。

――この制度全体で1人? 

エル ハンガリー全体からは1人です。

――ものすごい確率ですね。スーパーエリートじゃないですか。

エル まあ、そうですね(笑)。ただ、ここに来ると同級生にもケタ違いに優秀な方々がいるので。「東大の学績1位を目指します」って勢いの人もいますから。

――滋賀大学にいて、どういうことを勉強されていたんですか? 

エル 経済です。学問としての経済学、ミクロマクロをメインで、結構数学ガチガチでやってました。

――授業も全部日本語だったんですか? 

エル そうです。いくら留学生でも、第1外国語を英語を取らないといけないんですよね。でも日本語で授業されるから、俺にとっては「日本語の授業」なんです(笑)。英語の試験なのに、回答するよりも質問を読むのが難しい(笑)。

――なるほど。英語の授業を日本語でやるんですよね。それはかなり大変ですね。

エル 苦労しました。

6月まで決まらず、「身の回りのものを作る会社」にエントリー

――卒業されて、前職は「ガンダム」シリーズを制作されているアニメーション制作会社「株式会社サンライズ」さんにいられたんですね。

エル そうですね。

――なかなか入れない企業ですよね。どういう経緯で入社したんですか? 

エル 就職活動が始まって、興味のある会社に適当にESを出していたんですね。当時は就活解禁が11月だったんですが、次の年の6月でもまだ決まっていなくて。「ちょっとやばいな」と思って、身の回りにあるものを作ってる会社に片っ端からエントリーしました。

――身の回りのものを作っている会社にエントリーした? 

エル 片っ端から。大学時代はヒマだったので、結構アニメを見たんですが、エンドロールでアニメスタジオがザーッと並んでますよね。で、その中に名前があったので「サンライズさん、エントリーします」って感じで(笑)。

――その中で、内定を取ったと。 

エル そうです。そもそも他のところはお祈りの書類すら返ってこなかったんですけどね。サンライズでは最初の面接で、「徹夜は大丈夫?」って聞かれました。「やったことあります、連日は厳しいですけど生き残れます」って答えて通りました(笑)。

――どういう仕事をやられていたんですか? 

エル 制作・進行です。素材の有無のチェックをして、中身は専門家や監督、演出が見ます。スケジュールを決めるのも仕事で、場合によっては絵描きさんを口説いたりもします。

――1日のスケジュールは、どんな感じだったんですか? 

エル 13時あたりに出勤して、溜まったメールとか電話を確認して、スタジオを回って、夜にできあがった素材を集めて、処理して適切なところに回して。

17時になると、仕事をお願いする電話をかける。そこから外向きの仕事をやっているうちにクリエーターさんが出勤するので、そこから上がりをもらったり、スケジュールの相談をしたり。

夜になるとそれまでできあがったものを集めて、次の工程に回します。帰るのが大体、良い時で24時ぐらいですね。つらい日は、28時まで運転してました。

――過酷ですね。

エル 13時出勤で、短い時は10時間くらいで終わるんですけどね。

「ガンダム」のキャラクターモデルに起用

――同社で就業中に、ガンダムのキャラクターモデル(編集部注:「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」エルドゥシュ中尉 )になられたとか。

エル プラモデル、持ってきますね。僕が元になったキャラクターが乗っています。

――当連載にプラモ画像が載るのは、初めてです(笑)。どういう経緯でモデルになったんですか? 

エル 勝手に(笑)。監督からコンテが上がる時期で、僕はクリスマス帰国をしていたんですね。そうしたら同僚からLINEが届いて。「おいお前、殺すぞ」って。「なんなんすか」って返信したら、「絵コンテにお前のキャラクターが登場してる」と(笑)。

――ご本人がわからないところで決まったんですね。

エル そうです。監督からコンテが上がって、ちゃんとキャラ設定もされて。キャラデザインの担当者さんに、写真をたくさん撮られました。

――他にそんな人いないですよね。

エル 滅多にいないです。たぶんいてもわからないですよ(笑)。基本的に制作は誰も知らないので。

――一生モノですね。

エル そうですね。ネット上のアイコンも、全部そのキャラ設定です(笑)。

自分がエンジニアだとは思いません、「開発」だと思います

――人生2社目が、スタディストさんなんですね。貴社とエルさんの出会いは学生時代のインターンと伺いました。 

エル 三菱系列のIT企業で、就活生向けの夏季インターンがあって。3回生の末だったので一週間ずっといて、何人かと仲良くなったんですね。その中に、北野がいたんです。

結局その会社には書類で落とされたんですけど、北野とは「一緒にプロダクトを作ろうよ」って話で盛り上がって。卒業してしばらくしてから、彼がスタディストに入ったんですよね。

サンライズの仕事は楽しかったんですが、なかなか外の人と会えないのがしんどかったですね。周りを見ると、結構子持ちも多かったんです。朝に出勤して、22時あたりに帰宅するのを見ていて「(この人たちは)いつちびっ子に会うんだ?」って思って。

22時じゃ、子どもの寝顔しか見れらないですよね。将来的に昇格してプロデューサーになっても、この時間まで働かないといけないなら、今のうちに出たほうがいいなと思いました。そのタイミングで、北野から「うちに来い」って言われたんですね。

――サンライズでは、エンジニアの仕事はしていなかったんですよね? 未経験入社ということですよね。

エル そうです。ちなみに個人的に、エンジニアと呼ばれるのはあまり好きじゃないです。文化の違いなんですけどね。エンジニアって、僕のイメージだとすごく専門性の高い学歴を持って、資格を取って建物を作る人というイメージです。基本的には「開発です」と言っています。

――その方がしっくりくるんですね。

エル エンジニアとは言えないです。「俺、エンジニアリングあんまりしてないんだけど」って(笑)。

――このインタビューに限っては、開発で通しましょうか?(笑) 開発として入ってくれと言われて、スキルチェックってされたりするものなんですか? 

エル 実際に面接する時に、コードを書けと言われることはありません。北野が「こいつはできる」と言ってくれたのが大きいと思います。一応面接は経ていますよ、当時のCTOの吉田さんの。

――入社してから、入社前と印象が違うところはありましたか? 

エル ぶっちゃけ、事前に印象はあまりなかったです(笑)。都心にある、会社っぽい会社だなと。

どんな課題も、一番難しいものを探す

――日本で働いてきてポジティブな印象とネガティブな印象両方あると思いますが、特に気になる部分はありますか? 

エル 思うことを言わないというか、あまり発言しない人が多いことですね。僕は適当なことを言うのですが、とはいえ一応発言はするので。場が沈黙することが多いんですよね、みんなもっと発言すればいいのに。

――逆に、こういうところが良いなというのは? 

エル ほっといてもらえること。日本人は、おしゃべりするために邪魔してくることは滅多にない。みんな気を遣ってくれるんです。

――そういうところは肌に合った感じなんですね? 

エル そうですね。16種類性格診断みたいなのがあるじゃないですか。とりあえず僕はIで始まるので、内向きな方です。

――なるほど。ほっといてくれるのが、居心地いいと。

エル いいです、合います(笑)。転職サイトも、自分の性格を説明するところで選ぶんですよね。「みんなでワイワイ」か「ひとりで黙々」。僕は、極端な「ひとりで黙々」タイプ。社内は「みんなでワイワイ」タイプもいますから、人それぞれですね。

――ありがとうございます。ところで、登山を今かなり本格的にやられているそうですね。

エル そうですね。

――七大陸の山を登るという目標を立てられているとか。

エル 7月に、エルブルス山に登りました。ロシアの山で、標高5,642メートルです。

――富士山よりはるかに高い(笑)。次は、キリマンジャロを目指されるそうですね。登山計画を拝見しましたけど、合計3週間くらいかかるとか? 

エル そうですね。エルブルスは12日ぐらいでしたが、キリマンジャロは登山自体は8日ぐらいです。

――その間仕事はお休み? 

エル そうです。今のところ有休は足りてますが、消化が激しくて(笑)。

――どういう準備が必要なんですか? 

エル 装備はちゃんとやります。エルブルスは勝手に登れるんですけど、キリマンジャロは入山許可が必要なんです。なので、ひとりで勝手に行くのが困難です。

エルブルスは国境に近いので、軍のチェックポイントがあちこちにありました。勝手に出歩くことはできないんですよね。なので、ガイド会社を通じて行くんですけど、そこで装備についてはうるさく言われます。

靴だけで、10万円するんです。とりあえず足が凍らないように。また、寝袋は4万円から始まります。他にも暖かいジャケット、風や雨から守ってくれるジャケットが何枚も必要になります。全身だとかなりの金額になりますね、だいたい50万円くらいです。

6~7,000メートルを超えると、全く別の防寒が必要になってくるんです。マイナス20度で風が吹くと、体感温度がマイナス40度になっちゃう。すると、手袋が取れなくなるんです。取ると、一瞬で手が凍るから。何枚も薄い手袋、さらに厚い手袋が必要になります。

――南極にも行かれるそうですが、南極もおそらくそんな感じですよね。そもそも、なんでそんなに過酷な挑戦をしたいと思ったんですか? 

エル 性格かな。開発でも、課題サイトみたいなのがあるじゃないですか。一番難しいのを探すんです。とりあえずやって「一番難しいのがこの程度か」を理解して、自分の身の丈を知るのが好きなんです。

――登山のためのクラウドファンディングをなさっていますけど、どういう経緯で始められたんですか? 

エル 七大陸最高峰ってやると、装備だけに収まらないですよね。装備で50万円出て行くんですけど、そのうえにガイド料、入山料、現地までの交通費がかかります。

アフリカまで飛行機で行くと往復15万円、南アメリカまでは20万円。となると、支援があった方が動きやすいです。いくらお金を稼いでも足りないので。南極大陸にもなると、500万円くらいかかりますから。

――500万円! 今回は100万円で出されてますけど、全然足りないわけですね。

エル とりあえず、キリマンジャロに必要なところまでは集めました。それ以降の、例えば来年行く予定のところは、今回が成功するかどうかで決まります。

――この記事で少しでも集まったらいいですね。

エル ぜひ。

どんな仕事でも、ある程度の楽しさは見いだせる

――ここからは、エルさんが働く上で大切にしていることについて、「事業内容」「仲間」「会社愛」「お金」「専門性向上」「働き方自由度」の6つの項目から合計20点になるよう、点数を振り分けていただきます。

・専門性向上:5

この仕事は、好きでやってます。だから、新しいことをやる機会がないと困るんですよね。会社名が「学ぶ人=スタディスト」だから、そうでないと困る感じですね。

・仲間:4

専門性に関わることではありますけれども、「みんなで集まりワイワイやりましょう」というのは別にいいです。環境的に専門性を磨く文化がないと、磨けません。似たような思考の仲間がいないと、専門性は向上できないので。

・お金:6

やっぱりお金は貰いたいですよね(笑)。面接で「何のために弊社にご興味を持ちましたか」って言われたりしますけど、本音は「お金貰いたいからだよ」でしょう(笑)。働かないと飯食えないもん、それは(笑)。

残念ながら会社愛は食べられません。会社愛でお腹が満ちたら、会社愛で山への交通費が出たらそれはうれしいですけど、残念ながらそういう仕組みではありませんので。

・事業内容:1

どんな仕事でも、ある程度の楽しさは見いだせるでしょう。例えば今はエンジニアをやってるんですけど、千代田区のゴミ収集の車に乗ってくださいって言われたら、それはそれで、それなりのやりがいとかを見いだせると思います。「武器とか作ってください」とかでもなければ、基本的に何でもいいかなというのはあります。

・働き方自由度:4

仕事は、毎日やらないといけないじゃないですか。そこで毎日スーツを着てこいとか、こういう形に収まってくださいといわれても。それに収まってない人が、ほとんどだと思います。

形に収まってくださいって言われたら、楽しいわけがない。気持ちが落ち着かないでしょう。それを毎日、場合によっては何十年も我慢しろっていうのは。人を尊敬するというのは、絶対的に求めます。

・会社愛:0

会社が嫌いという話じゃないですよ。そもそも、概念がよくわからないです。

「会社が好きです」って、会社の文化が良いのか、組織構造がいいのか、仕事が楽しいのか。それ以外の点数がそこに並ぶじゃないですか。それで、そこで働くことが好きかどうかが決まるような気がしますけど。

――最後に、キャリアに迷っているエンジニアの方に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。

エル 僕は転職した時には、結構(労働)時間が過酷で、そういう不満は多いんですよね。じゃあなんで3年間も働いたか。それは、「芽がでるまでは3年間は働いてみろや」と誰かに言われたこと。

1カ月で辞めても、それ履歴書に書けるのとか、逆になんで辞めたのかっていちいち聞かれるじゃないですか。別に好きじゃないことを長く続けろとは言わないんですけど、頃合いを考えてちゃんと転職しましょうと。

転職することで失うことは、どうしてもある。場合によっては給料がリセットされる。また新人からやり直せとかって、そういうところの人にとっての重要性と、それによって得る、理想的なポジティブな方向の変化がちゃんと天秤にのせて、転職した方が良いのか否かをしっかりと考えてやった方がいい。

時は遡ってくれないので、1回やっちゃったら先に行くしかないので。

<了>

ライター:澤山大輔


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