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 多くの人が驚き、そしてあきれていることだろう。全日本テコンドー協会が機能不全に陥っている。東京五輪が来年夏に迫っているというのに、目を覆うばかりの混乱ぶりだ。

 きっかけは選手らの間に広がった執行部への不信だ。

 手続きミスで昨年の国際大会に参加できない選手が出た。合宿や遠征では多額の自己負担金を徴収された。所属チームと代表コーチとの間で意思の疎通がなく、指導内容も食い違った。今年6月に改善を求める意見書を出したが回答はなく、強化選手のほとんどが9月の合宿への参加を拒否するに至った。

 協会の使命は、選手が競技に打ち込める環境を整え、また、大勢の市民に楽しんでもらえるよう普及に努めることだ。選手との間に信頼関係がなければ、どちらも成り立たない。

 今月初めの理事会は代表コーチの退任を決めただけで、理事の総辞職を求める提案はたなざらしとなった。改めて28日に臨時会を開くというが、正常化の道筋は見えない。08年以来、会長を務める金原昇氏の責任は重大だ。体制の速やかな一新はもはや不可避ではないか。

 大切なのは、選手たちの練習や士気にこれ以上の支障を来さないことだ。当面は所属チームがしっかり支えてほしい。

 ここまで事態を放置した日本オリンピック委員会(JOC)の対応も問われよう。

 テコンドー協会は12年、税制上の優遇措置のある公益社団法人になったが、補助金も絡む不適切な会計処理が発覚して資格を返上した。さかのぼれば、内紛のあおりで選手が個人資格で04年アテネ五輪に出場するという、異例の出来事もあった。

 協会をめぐる問題は昨年から広がっていた。遅くとも選手らが行動を起こした今年6月の時点で、JOCが指導に乗り出すことはできなかったのか。実際は9月以降に協会側から形ばかりの聞き取りをし、解決を促す文書を送ったにとどまる。

 むろん個々の競技団体の自主自立は尊重されなければならない。だが、いくつもの団体で不祥事が続き、ガバナンスの確立がスポーツ界全体の課題になっていたことを考えれば、対応は遅きに失したといえよう。

 JOCが傘下団体の会計を監査したり事務処理をサポートしたりする仕組みはある。英国などの取り組みを参考に、執行部の体制やふだんの業務についても、日頃からモニタリングをして、相談や支援にあたるようなことを検討してはどうか。

 競技団体の運営が安定して初めて、選手は躍動できる。「選手第一」を、かけ声だけに終わらせてはならない。

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