・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
以上を踏まえた上でお読み下さい。
「はわわわわわわわわ…………。」
円卓を囲むのは質素な服装に身を包み、胸や腕に『魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)』の胸章や腕章を佩用した者達だ。この場は、感謝を送る会(仮)の各支部の支部長達で構成されている。会議室の空気は余りにも重々しく、代表からして動揺が見て取れる。ネイアは全身から汗を噴きだし、顔は涙で濡れていた。
……円卓の中央には、会の代表ネイア・バラハが聖地アインズ・ウール・ゴウン魔導国へ巡礼し、『魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)』の同志達が、自らの牙を研ぐ場所の確保に難儀していることをお嘆きになった魔導王陛下から賜った神代のマジック・アイテム。
曰く信仰形魔法の極致、第10位階魔法
その1つを預けていた支部長は、それは見事な土下座を披露している。
「バラハ様!大変申し訳ございません!魔導王陛下から下賜品をお預かりした身でありながら!この命ひとつで足りるなどとは思いませんが、この首を……」
「同志支部長、謝罪はわたしにではなく魔導王陛下へ行うものです。そして、下賜された神器の責任所在は全てわたくしにあるのです!まずシズ先輩を通じて、魔導王陛下へ謝罪に赴く旨を伝えます。皆様はそのまま待機していて下さい。同志支部長も、倚子に掛けて。」
声も手も震えた状態だが、真実を隠蔽するという背信など最初から選択肢に無い。ネイアはシズ先輩からもらい受けた、緊急時に連絡をしてくれという
『…………ネイア。どうした?』
「ししししし、シズ先輩!すみません!アインズ様から賜りました真なる神器の1つを、わたしの不信心により、宿したる奇跡を穢してしまいました!」
『…………ああ。うん。伝える。ちょっと待って。』
そのままシズ先輩との
「邪魔をする。」
「魔導王陛下!?」
「アインズ様!?」
突然虚無の空間から現れたのは、神々しいまでの黒い後光を発する
会の一同は誰もが一斉に平伏し、自らの不信心さを呪った。
「よい、頭をあげよ。……動揺が著しいな。見るに、内心から湧き上がる恐怖。<
ネイア達はアインズの優しげな口調に、ゆっくりと顔を上げる。皆その慈悲深さに感涙し、床は涙に濡れていた。アインズは件のマジック・アイテムを手に取り、しげしげと解析する。
「……なるほど。他の49個をみせて貰えるかな?」
「はい!アインズ様!ご用意して御座います!」
ネイアは丁寧な箱に1つずつ祀られる
「ふむ、このひとつだけ信仰系と魔力系の調整に不備があったようだ。この中に閉じ込められている者はいないかね?」
「はい。昨日までは正常にそのお力を発揮し、鍛錬を終え祭壇に祀ったと同志支部長より聞いております。」
「それはよかった。水が確保出来るから死ぬことは無いだろうが、中に人が居ては大変だった。……褒美として与えておきながら済まない。これは我々のミスだ。貴君らが気にすることではない。」
「魔導王陛下!そのようなことは御座いません!魔導王陛下が道を誤るなど、有り得ないことです!」
「そうか?……わたしも全知全能ではない。言い訳は好まないが、今後二度とこの様なことが無いように、製造責任者から案を語ろう。このマジック・アイテムを管理していた者は?」
件の真なる神器を管理していた支部長が「わたくしに御座います。」と頭を下げ、大声を挙げた。
「あ~……何度も言うようにこちらの……。まぁよい。見たところ保有する魔力量が少ない様に思える。位階魔法を扱える
「はい!同志の中にはアインズ様に忠誠を誓う元神官や
「では次からその者にこの紐を引いて貰うと良い。支障が出ない様に製造したつもりだったが、万全とまではいかなかった様だ。まぁ待っていろ。」
突如部屋の内部が神々しいまでの青白い光を発し、幾多もの強大な魔法陣が累積される。そして発生した魔法陣がすべて件のマジック・アイテムに吸収され……、その光景に一同はただ呆然と、自然に祈りを捧げていた。
「これで問題無く稼働するはずだ。立ち上がってこちらへ来ることを許す。その後紐を引いてみるといい。」
件の神器を任されていた支部長が震える足で立ち上がり、アインズより修理が施された真なる神器を手にとって、恐る恐る紐を引いた。すると景色が光に満ちあふれ、広大な草原へと姿を変える。アインズとシズは草原の至る所を調査し、皆が待機していた出口の前に戻ってきた。門を潜ると、何事も無かったかのように会議室へ戻る。
「うむ、問題は無いようだな。……改めて褒美の品に不備が有ったことを詫びよう。他の品もチェックしたので無いとは思うが、また問題が起きたならばシズを通じて言ってくれ。」
「ありがとうございました!魔導王陛下!」
『魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)』の一同が一斉に跪き、礼を言う。
「魔導王陛下には、わざわざご足労をいただき、感謝に言葉も御座いません。…………アインズ様へ
ネイアの静かな、最後の誰にも聞こえない様な一言に、<
「……失礼、ネイア殿と改めて話をしたい。他の皆は出て行ってくれるかな?」
支部長達は静かに頷き、一斉に会議室から出て行く。そして部屋にはネイアとシズとアインズの3人だけとなった。アインズは情報系魔法で、会議室の空間を封鎖する。
「ネイア・バラハよ。先の発言はどういう意味かな?」
アインズの後ろには禍々しいまでのオーラが漂っている。そこには間違い無い
常人であれば恐慌に陥り逃げ惑うそのオーラを浴びても、ネイアが浮かべるのは笑顔だ。
「そのままの意味にございます。」
「そのまま……であれば、わたしをアインズ・ウール・ゴウンではないと?」
一層益々絶望のオーラは増していくが、ネイアに怯えは見られない。いと尊きアインズ様の深淵なるお考えに理解が及ぶなど自惚れていないが、感謝は本人にしっかりと伝えるべきだ。……アインズ様ほど素晴らしき王の中の王だ。影武者の5人や6人居るだろう。影武者の存在を知った人間がどのような末路を辿るかも、ネイアは知っている。
それでもネイアは、本物のアインズ様へしっかりと感謝を伝えたかった。なので答えるべきは1つしかない。
「はい。いと尊くも偉大なるアインズ様の御身を護られます、誉れを賜った羨望すべき方かとお見受けします。」
「……シズ、この者以外に気がついた様子の者は?」
「…………おりません。絶対に有り得ません。」
「わたしも同意見だ。ネイア・バラハ、返答次第では最期の質問となる。心して答えよ。」
「はい。」
「何故、わたしを見破った?」
「魂の輝きです。」
ネイアは当然の様に笑顔で答えた。最初こそ動揺していて気がつかなかった。だが、段々と違和感が蓄積してきた。具体的にはネイアも説明出来ない、言動こそアインズ様に違いない、それでもあの偉大にして無二の存在たるアインズ様から発せられる魂の輝きが、どうにも薄く見えたのだ。
「た、た、た、た……」
「…………うわぁ。」
「
アインズ――もといパンドラズ・アクターは自分の演技が見破られた悔しさよりも、未だ及ばない偉大なる自らの想像主へ、益々羨望を募らせ、瞳を輝かせていた。
アインズはシズの報告-納品先に不良品があった-を聞き、直ぐに駆けつけなければならないと考えたのだが、当のアインズは別件で忙しく、このマジック・アイテムの共同開発者であり、影武者でもあるパンドラズ・アクターが赴くことになったのだ。
「…………わたしも驚いた。やはりネイアは味がある。流石。」
「これはアインズ様へご報告せねば!麗しのバラハ嬢、少々お時間を。」
アインズならば有り得ない仰々しい動きをシュバシュバさせながら、パンドラズ・アクターは
「アインズ様!?申し訳御座いません、わたくしの不徳が致す所で、ネイア・バラハに正体を見破られました!魂の輝きがその深淵なる御身に届かなかったわたくしを御赦し下さい! ……はい、マジです。他に気がついた者はおりません、ネイア・バラハただ1人です。 ……どうすればよいかですか?そうですね、懸念されるのは、ネイア・バラハが魔法により<
ネイアは殺される覚悟など出来上がっているが、シズ先輩は不安そうにネイアとアインズ様の影武者をチラチラと見ている。
「お嬢様、少々お待ちを。」
そういってアインズ様の影武者はカーテンコールの役者が如き仰々しい一礼をして<
「ではバラハ嬢、こちらを手首に。出来れば、利き腕で。」
ネイアはそのままリストバンドをはめる。
「ギルド〝アインズ・ウール・ゴウン〟の名に懸けて、わたくしが現れてから一切の出来事を他言無用と誓えますね?」
「はい!」
いと尊きアインズ様の名であれば、自らの持つ全てを懸けて誓える。ネイアからすれば当然のことだ。その瞬間、リストバンドが光を発しそのままネイアの身体に溶けていった。
「シズさん、ちょっとテストを。」
「…………後輩。わたし達が来てからのことを全部話して。」
「いえ、シズ先輩でも話せません。」
「…………う~んと困った。じゃあ話そうとしてみて。アインズ様の命令。」
「そうですか。では、あ…………れ?」
ネイアは渋々話そうとするが、脳が停止したように口が動かなくなった。
「うん、バッチリですね。いやはや、わたくしもまだまだ精進が足りないと実感させられました。あとでアインズ様にお叱りを受けて参りましょう。ではバラハ嬢、お元気で!」
そのまま漆黒の外套を大きく靡かせ、アインズ様の影武者は<
「あの、シズ先輩。わたし、このままでいいので……ふわぁ!」
シズ先輩がネイアを強く抱きしめる。その強さは痣がクッキリ残るのでは無いかと言うほどの力だ。
「…………ネイアは馬鹿。大馬鹿。すごく馬鹿」
「すみませんシズ先輩。ですが、アインズ様にお礼を伝えないのは失礼かと思いまして。」
「…………殺されたらもっと失礼。悲しむ。アインズ様も悲しむ。」
「そう、ですよね。軽率でした。」
「…………気持ちは解るけれどダメ。沈黙は金。博士が言ってた。」
「はい、ですがどうしてもアインズ様に感謝をお伝えしたくて。わたしたちの無力さへ、あれほど偉大な御方に足を運んで下さり。」
「…………こっちのミス。アインズ様も言っていた。危ない真似はダメ。」
「……ごめんなさい。」
「…………解れば良し。許す。」
ネイアはシズ先輩の痛いくらいの抱擁を解かれる。シズ先輩の無表情には見たこともない複雑な感情が宿っており、ネイアでも読み解けなかった。
「ところでシズ先輩。アインズ様の影武者様に置いて行かれましたが大丈夫ですか?」
「…………うん。困った。」
「泊まっていきます?」
「…………そうしたいけれど。あと23時間19分この会議室の扉は開かない。これほど強固な情報魔法の防壁では。わたしの力で<
「へ?」
「…………大丈夫。食べ物と飲み物はある。」
「いや、この会議室であと丸一日過ごすんですか!?」
「…………そうなる。安心。最悪150日まで籠城可能。」
「何でちょっと楽しそうなんですかシズ先輩!」
結局、シズが居ないとナザリック内で騒ぎになり、10時間後にはちゃんと迎えが来た。シズは少しだけ残念そうだった。