開演時間を回って会場が暗転すると、ステージの両サイドに設置されたLEDモニタに、メンバー3人の幼少期から少年時代、学生時代、そしてthe pillows結成後までの写真が年代順に映し出され、それぞれの母親たちが息子の思い出を語るインタビューが流れた。母親たちはいずれも、the pillowsが30年続いた理由を「ファンあってのこと」と感慨深げに答える。映像が終わるのと同時に「聴こえてくるのはキミの声 それ以外はいらなくなってた」という山中さわお(Vo, G)のアカペラが響き渡り、ステージを囲っていた赤い緞帳がゆっくりとオープン。母親たちからのメッセージ映像で感傷的なムードになった客席に向けて、彼らは激情をぶつけるように「この世の果てまで」を演奏した。
ライブはステージ後方に設置されたLEDモニタにCG映像を流しながら進行。MCは少なめにして次々に曲を詰め込み、各年代にライブを盛り上げてきた曲を網羅するようなセットリストでライブが行われた。また、会場の大きさを考えると抑えめな演出で、アニバーサリーライブ的な雰囲気もほとんどなく、いつもとは違う広大な会場でいつも通りの全力のライブが繰り広げられた。
最初のMCで「俺たち、30年間ロックバンドを続けてきたんだ。今夜はその集大成。俺たちの音楽を受け取ってくれよ」と挨拶した山中は、ギター1本で「ああ、今日は新しい僕の誕生日なんだ」と弾き語ってから「アナザーモーニング」を披露。「結成した頃に20歳だった俺が50歳になってしまった。歳取ったな、俺たち。でも、俺たちは今でもサリバンになりたい」と宣言してスタートした「サリバンになりたい」では、真鍋吉明(G)がステージの端に移動して観客の目の前でギターソロを披露。「Please Mr. Lostman」は収録アルバムのジャケットそのままの枯れ木と夕暮れの絵を背にして、山中が感情を込めて歌い上げた。山中は客席のあちこちから上がる「さわおさーん!」という声に反応し、「今日は30年間で一番人気があるな。もしかしたら売れるかもしれない」と微笑みを浮かべた。
中盤には最近のライブではセットリストに入る頻度が少なかった楽曲もセレクト。「Kim Deal」や「ぼくは かけら」を経て披露された「1989」では、終盤に山中が「Please, catch this my song!」という熱いシャウトを響かせてオーディエンスを胸を震わせた。さらに彼らは、2009年に初の東京・日本武道館公演を行う直前にリリースしたシングル「雨上がりに見た幻」を10年ぶりに演奏。切なくもエモーショナルな歌をオーディエンスはじっくりと聴き入っていた。
メンバー紹介の際、佐藤シンイチロウ(Dr)は自身の母親が横浜アリーナと横浜スタジアムを勘違いしていて、説明してもなかなか理解してもらえなかったというエピソードを話し、会場は温かな笑いに包まれた。真鍋は「この先何かあっても、今日のことを思い出したらいい気分になれるような、そんなライブにしたい」と意気込みを語りつつ、「夢を共にしたメンバーはもちろん、スタッフや関係者の方々、そしてバスターズの皆さま、30年間付き合ってくれてありがとう!」と感謝の気持ちを口にした。その流れから「Swanky Street」がスタートするが、イントロで演奏をミスしてしまい曲がストップ。会場が笑いと歓声であふれかえる中、山中は照れたような表情を見せながら「横浜アリーナでやるようなバンドじゃねえんだよ(笑)。おまえ(真鍋)が柄にもなく感動的なこと言うから食らってんだよ」と苦笑した。
「Swanky Street」以降は、メンバーの後ろに掲げられていたLEDモニタが撤去され、演出は照明だけのシンプルなものに。彼らは「About A Rock'n'Roll Band」「LITTLE BUSTERS」「Ready Steady Go!」と畳み掛け、観客は拳を突き上げて跳ねながらシンガロング。最後にステージから銀テープが発射され、広いアリーナが幸福感で満たされる中でライブ本編は終了した。アンコールでステージに戻ったメンバーは、the pillowsの屈指の人気曲「ストレンジ カメレオン」「ハイブリッド レインボウ」を演奏。声を振り絞って「きっとまだ限界なんてこんなもんじゃない」と歌い上げた山中は、ほかのメンバーが去っても拍手に包まれながら1人でステージに残った。彼はオーディエンスに向けて「俺たちみたいな偏屈なバンドが、横浜アリーナのステージに立って、こんなにたくさんの人がアニバ-サリーを祝ってくれるなんて不思議だ。俺は音楽業界を信用してない。けど君たちのことは信じたいよ」と、この瞬間の胸を思いを吐露。彼がステージから去ると客電が灯り、BGMとして「Thank you, my twilight」が流れ始めた。
すると観客はBGMに合わせて「Thank you, my twilight」を歌い始め、まもなく会場内が大合唱に。曲が終わっても鳴り止まない拍手に呼び戻されて、メンバーが三度ステージに戻った。彼らは缶ビールで乾杯しながら「Swanky Street」でのミスを振り返り、「あんなに練習したのにね。やっぱ俺たちポンコツだわ。大学生バンドだよ」と笑い合う。なごやかな雰囲気の中でダブルアンコールとして披露されたのは、こちらもthe pillowsの代表曲である「Ride on shooting star」「Funny Bunny」の2曲。「Funny Bunny」ではサビの部分で山中がマイクから離れて観客を煽り、会場には満員のオーディエンスによる合唱が響き渡った。そしてこの曲のラストで山中は、「好きな場所へ行こう キミならそれが出来る」という歌詞を「僕らはそれができる」と替えて歌った。
この日のライブで彼らは、さらにトリプルアンコールも実施。山中は「若者だった自分を救ってくれたもの。そして50代になった今でも救ってくれるもの。新しいも古いもない世界、それがロックンロールだ!」と絶叫し、その勢いのままなだれ込むように「Locomotion, more! more!」に突入。派手に明滅する照明を全身で浴びながら、メンバーは渾身の力でアグレッシブに演奏し、盛大な拍手に包まれながら27曲に及んだアニバーサリーライブを終幕させた。