戦姫絶唱シンフォギアMR 外伝~alchemist friend~   作:リア充支援団団長 hero

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ヒーローさんとの示談の末、ようやく本家ヒロイン多過ぎ問題が解決。恋愛対象は多くても3~4人くらいが丁度いいですよね。

さて、堅苦しい制作陣トークは置いといて!
アナザーオーマジオウも撃破したので、遂に2章も終わりが見えてきました。
もうすぐ完結です。最後までお付き合い願います。


俺がお前で、お前が俺で

「……お前……何を……」

 

 真優に抱きしめられながら、鏡像真優はわけも分からず呟く。

 先程まで自分の命を狙ってきた存在を、どうして抱き締められるというのだろうか。鏡像真優には理解出来ていない。

 真優は先程までの厳しい表情から一転。涙の後を残した顔で優しく微笑みながら、もう1人の自分自身へとその言葉を伝える。

 

「人間誰しも、心の中に獣を飼っている……。昔の文豪が書いた通り、どんな人間の心にも、闇の一つや二つあるもんだ。それは俺だって変わらない……。それを否定しちまったばっかりに、俺は……。ごめんな……お前にこんな思いをさせてしまって……。俺がお前に、自分の闇を押し付けてしまったばっかりに……」

 

「……ハッ……ったくよォ、お前ホントにバカだろ……」

 

 真優の言葉に、鏡像は呆れたような声でそう返した。

 

「……でも……そーいう所だぞ……お前の名前はよォ……」

 

「……ああ」

 

 鏡像真優の穏やかな表情。そこには、遭遇した時から顔に張り付いていた歪みは、もうどこにも無かった。

 

「……で?……どうすんだ……?」

 

「俺は……お前を受け入れる……。闇も光も、善も悪も、どちらも俺の中にあって然るべき存在だ。……だから、俺はもうお前を否定しない。俺の中にあるお前を抱いて、未来へと進んでいくよ」

 

 それを聞いた鏡像真優はフッ、と満足気に笑った。

 

「そうかよ……。なら、こいつを受け取れ」

 

 鏡像真優が渡したのは、左右が反転したジオウライドウォッチ。

 真優が驚いて、自分のミラージオウライドウォッチを確認すると……それはもう、鏡写しではなくなっていた。

 そして、二つのミラージオウライドウォッチが眩く輝き、次の瞬間、鏡像真優のジオウライドウォッチは、形を変化させていた。

 

 〈ジオウⅡ!〉

 

「ッ!?これは……?」

 

「喜べ、それはお前が自らの手で掴み取った未来。本来、与えられる事なかったはずの力だ……。まあ、オーマジオウである以上、こいつが手に入るのは必然かもしれないが……お前の手は、奪う為にあるモンじゃねぇ。お前の手は……“未来を掴むための手”だ……。お前が望めば、運命は何度だって味方する……。何度でも、他の誰にも掴めない、お前だけの未来を手繰り寄せられる……」

 

 身体から光の粒子を舞わせて、鏡像真優の姿が薄れ始める。消滅が始まっているのだ。

 粒子は真優の身体へと吸い込まれていく。帰るべき場所は、真優の心の中だ。

「俺様の出番はこれで終わりか……。ま、当然だったのかもな……」

「……俺はお前で、お前は俺だ。……ありがとう。ゆっくり休んでくれ」

「へいへい、休ませてもらいますよっと……。……じゃあな」

 ジオウⅡライドウォッチを残して、鏡像真優は真優の中へと戻っていった。

 砕けたアナザーオーマジオウドライバーは、そのまま砂になって崩れ落ちる。

 辛く厳しい試練の夜が、終わりを告げる。昇る朝日に照らされて、真優は振り返った。

 

 ~~~~

 

「これでお別れ……ですね」

 横一列に並ぶロストライダーズ。彼らが元の世界へと戻る前に、真優は一人ずつ握手を交わして、別れを告げた。

「皆さんとお会い出来たこと……肩を並べて戦えたこと……本当に嬉しく思います!」

「また、俺達の助けが必要になった時は……いつでも呼んでくれ」

 ライダーマン……結城丈二は、真優の左手をしっかりと握って笑った。

「これからもその力を、人類の自由を守るために使ってくれ」

「仲間達と力を合わせる事、忘れるなよ!」

「君が私の事を忘れない限りは……また、どこかで」

「坊主、いい顔付きだな。今のお前ならきっと、帽子がよく似合う」

「貴方の進む王道が、正しき方角であり続ける事を」

「俺から言えることはあんまり多くないんだが……自分の笑顔も、大切にな」

 背後に出現した灰色のオーロラに、ロストライダーズが消えていく。

 オーロラをくぐる直前、変身を解除して振り返り、それぞれの言葉を贈りながら。

「命ある限り戦え、たとえ孤独でも……。だが、お前はもう独りではない。今のお前なら、何処までも走っていけるさ。傷だらけになってもな。──この世界の未来は今……君の手に」

「……ありがとう、ございます……。また会いましょう、ロストライダーズ!」

 結城丈二が最後にオーロラを潜ると、灰色のオーロラは消滅した。

 

「行ってしまったな……」

 黙って見守っていたサンジェルマンが、オーロラの消えた場所を見ながらそう言った。

「あれが、仮面ライダー……。こんなに沢山のライダーが、世界を守っているんだな……」

 クリスは自分の知らないライダー達の姿に圧倒されながらも、その目を輝かせていた。

 彼らこそは、自分が憧れた人に尊敬されている諸先輩方……それぞれの在り方を心に刻み、クリスは自らの夢を再確認した。

 

「ああ!やはり仮面ライダーは、なんて素晴らしいんだッ!」

「鳴滝ッ!?」

「誰っ!?」

 真優は突然現れた鳴滝に驚き、響と共に少し仰け反った。

「真優くん、君達の戦いは最後まで見届けさせてもらったよ」

「まさか、本郷さんや一条さん達を呼んだのは……!?」

 鳴滝はその問いに答えず、ただ微笑んだ。

 それを肯定と取った真優は、無言で頭を下げる。

「私の役割はこれで終わりだ。だから最後に、君に言っておきたくてね」

「俺に……?」

 鳴滝は懐から二枚のカードと灰色のケータッチを取りだし、真優に手渡した。

「ディケイドは全ての物語の主人公を。ディエンドはそれ以外の全てのライダーを網羅する。しかし、君はそのどちらとも違う。二人でさえ補完出来なかったライダー達を、次へと繋ぐのは君だ。どうか彼らの事を、忘れさせないでいてほしい」

 渡された内の一枚は、クウガからキバまでの顔が描かれたカメンライドカードだった。カード名は『FINAL KAMEN RIDE DECADE』……何処かの平行世界にて、我々が良く知る方とは異なる旅路を歩んだ門矢士が、最後に手に入れたカードである。

 もう一枚は、灰色のケータッチとそれ専用のカード。真優はその使い方を察し、受け取ったそれらを懐へと仕舞った。

「はい!絶対に忘れさせません!例え歴史から忘れ去られようとも、守るべきものを胸に戦った、彼らの事を!」

「その答えが聞きたかった!それでは真優くん、それから響くん、そしてその仲間達!私は君達の物語を、離れた世界から見守ろう!」

 そう言って鳴滝は、灰色のオーロラと共に消えていった。

 鳴滝から受け取ったカード、そしてロストライダーズから受け取った未知のライドウォッチ……。新たな絆と縁が、ここに結ばれた。

 

「あ……」

 クリスの声に振り向くと、真優は目を見開いた。

 なんと、クリスや雪音夫妻、ノーブルレッドの三人、そしてサンジェルマン達の思念体が、消え始めたのだ。

 ……そう。彼女たちは元々異なる時代、異なる世界から呼び寄せられた存在。元の場所へと戻らなくてはならないのだ。

「あたしから、か……。でも、悪くねぇ。()()()を見させてもらったな……」

(夢?……そういえば、クリスのこの服装は……)

 クリスの服装は、ルナアタック当時の頃のものであった。

 真優は薄れていくクリスの頭に手を置くと、優しく微笑んだ。

「いつかまた、必ず会おう」

「ッ!……ああ、必ず……!その時までに、あたしは夢を叶えるからッ!」

 クリスは涙を流しながらも、真優に精一杯の笑顔で応える。そして、両親の方へと目を向けた。

「ありがとう……パパ、ママ。……あたし、パパとママの夢を、きっと未来へ繋げてみせるから……ッ!」

 最後にそう言い残すと、クリスは元の時代へと戻って行った。

 

「……あんなに大きくなるんですね……私達の娘は」

 続いて雪音夫妻。こちらの服装は、真優に救われた当時のまま……つまり、コールドスリープ中の二人の意識だ。

「雅律さん、ソネットさん……。娘さんは必ず、俺が再会させてみせます。どうか、安心してください」

「ああ、信じるよ。クリスが生きているのなら……」

「ええ。私達はいくらでも待ち続けます」

 そう言って、雪音夫妻の思念も元の時代へと戻って行く。

 真優は二人との約束を胸に、あるプランを組み立て始めていた。

 

「次は私達みたいよ」

 今度はヴァネッサ、ミラアルク、エルザらの番だった。

 服装……というより、その外見は真優もよく見なれたもの。今よりも成長したミラアルクとエルザの姿から、恐らくルナアタック前後だろう。

「三人とも、ありがとう。俺に力を貸してくれて」

「最っ高にいい笑顔、あざまーす!」

「ずっと、あの時の恩返しがしたかったであります!」

「真優くん……お疲れ様。また会いましょう」

 三人は笑顔で真優に手を振る。

「ああ……。いつかの未来で、また!」

 手を振り返した際、真優はエルザの腰に()()()()()()()()()()()()()を見つけた。そして、継承の義にてキバの箱に入っていたレイキバット……。二人が継承した仮面ライダーを確認して、真優は独りごちる。

「やれやれ、俺も拘るねぇ……」

 

「む?私達の番みたいね」

 サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティの三人は、今現在の現実世界からだ。恐らく、この中で最も再会は早いだろう。

「私達にここまで苦労をかけさせたワケダ。この借りはツケにしておいてやるから、後でしっかり返すワケダ」

「ちゃんと返すよ。うちのお好み焼き、奢るからさ」

 プレラーティはそう言われると、満足気に笑った。

「早く帰って来なさい。あなたの叔母様、心配してるわよっ」

「そうだな……。早く帰って、ただいまを言わないと」

 カリオストロは腰に手を当てながら、安堵を浮かべつつ笑っていた。

 そして真優は、サンジェルマンの方を向く。

「……サンジェルマン。すまない……俺の力の一つは時の王者。君が嫌う、支配者の──「みなまで言うな」

 サンジェルマンは真優の言葉を遮ると、彼の目を真っ直ぐに見つめる。

「確かに私は、支配者という存在が嫌いだ。人々を虐げ、私腹を肥やして、誰かを踏みにじる事に躊躇がない。そんな存在が嫌いだ」

「……」

「だが……真優、お前はそうではないのだろう?」

「ッ……!」

 サンジェルマンはそう言って、優しく微笑んだ。

「王としてのお前はとても気高く、皆を背負い、導く者としての誇りを感じた。そんなお前を拒絶する理由が何処にあると言うのかしら?」

「そーよそーよっ!さっきのまーくん、かっこよかったわよっ!」

「まあ、我々が嫌う部類の支配者とは真逆だったワケダ。喜ぶといい」

「そっか……ありがとう、三人とも」

 笑い合う真優と錬金術師達。すると響が、少し不満げな顔で真優の袖を引いた。

「……響」

 真優は響の方を振り返る。

 それを見て、サンジェルマン達は場の空気を読んで離れる。

「真優、また会いましょう。元の世界で待っているわ」

 サンジェルマン達の思念体も、現実世界へと帰っていった。

 残ったのは、平行世界から呼び出された響だけだ。

 

「響……君には一番助けられた。本当にありがとう」

「ううん……。わたしは、真優さんから貰ったものを返したかっただけ……。あの時、真優さんがくれた光を……今度は、わたしが……」

 真優は微笑むと、響の肩に手を置いて、その瞳を見つめる。

「……君に出会えて良かった……。あの時、君と出会えていなかったら……今の俺は、きっと……」

「……真優さん……また、会えますか?」

 響からの言葉に、真優はハッとなった。

 そう、いつまた会えるようになるのかは、彼にも分からないのだ。

 愛してくれると言ってくれた彼女と、再び別れることになる。世界という隔たりの向こう側へ……。

 本当なら帰したくない。でも、それはいけないことだ。あちらの世界を守る者を減らすわけにもいかないし、何より彼女を取り巻く人々が心配するはずだ。

 

 それに……今の彼女には、自分との強い繋がりがある。元のオレンジに戻ったガングニールオルタナティブウォッチは、きっとまた、自分と彼女を繋いでくれる。

 その時が来るのは、彼にとっては“いつかの明日”だけど、彼女にとっては──。

「……ああ。きっとまた、会えるさ。こっちの世界ではあと8年だけど、君の世界では何日か、何週間か……或いは何ヶ月かもしれない。でも、半年とは待たせない筈だよ」

「そっか……。じゃあ、次に会う時には……真優さん、もう大人になっちゃうんだね……」

「そうだね……。だとしても、寂しくはないよ。俺と君が次に会う時、その日が来ればもう、俺と君はいつでも会えるようになる」

「本当に!?」

「ああ、約束だ」

 真優は優しく笑いながら、響の背中に手を回した。

 愛する彼女、IFの世界からやってきた最推しを優しく抱き締め……彼女が背中に回した腕に力が入るのを感じて、それに応えるように強く抱擁する。

 逢えない間に、その温もりを忘れてしまわぬように。二人は互いの熱を確かめ合った。

 

「……真優さん……目、閉じててくれる……?」

「ん?分かった」

 響に言われて目を閉じた直後、首に回される細腕。

 それから間を置かず、彼の唇に柔らかいものが触れた。

 目を開き、両腕をゆっくり離すと、響は彼を離れ、両腕を後ろに回して笑う。

「えへへ……。じゃあ、またね……真優さん」

「ああ……。また会おうな、響」

 響の手に握られたウォッチが輝くと、光に包まれた彼女は、元の世界へと戻って行った。

 最後まで彼女を見送った真優は、しばらく彼女が立っていた場所を見つめる。

 

 すると、その前髪の色が変わり始める。

 どうやら、この世界でライダーの力を継承した者は、その証として前髪の色がそのライダーのパーソナルカラーに変化するらしい。

 しかし、真優の前髪に変化はなかった。おそらく、特異体質が『どんなライダーにでもなれる』彼の心象を反映して、どの色にも変色させなかったのだろう。

 しかし、試練を乗り越えた彼は、今や立派な“仮面ライダー”だ。

 そしてその色は、あらゆる色を混ぜ合わせたかのような、混沌の黒。その中に一筋だけ、淀みのない金色の房が輝く。

 全ライダーの力を受け継ぐ時の王者。幾つもの鮮やかな色を並べるよりも、その風格に相応しい色が、真優の前髪を染め上げた。

「……またいつか……必ず……」

 最後にそう呟いて、真優は踵を返す。

 

「我が救世主、傷の方は?」

「ああ、白ウォズ。心配いらないよ」

「しかし、君に何かあったら大変だ。私も同行させてもらうよ」

「……なら、もし倒れたりしたら、その時はよろしく」

 余裕のあるゆったりとした足取りで、少年と従者は歩を進める。

 昇りかけの朝日に照らされるボロボロの背中には、哀愁と修羅場の残り香が漂っていたが、そこに陰はなかった。

 晴れ晴れとした表情で、真優は鏡を潜り、帰路へ着く。

 後に残ったのは、激戦の跡地となった誰もいない、鏡合わせの世界だけ……。

 この戦いを知るものは……ここに集った者たちを於いて、他にいない。

 風里真優の試練は、これで終わりを迎えたのだった。

 

 ~~~~

 

 商店街の中に位置するお好み焼き屋、ふらわー。

 その出入り口であるガラス戸の前に立つ女店主の方へと、一人の少年が駆け寄る。

「叔母さんッ!」

「ッ!真優くん!?今まで何処に──!」

 もう二度と会う事は無いものと覚悟していた、たった一人の家族の顔。

 真優は涙で頬を濡らしながら、その腕に飛び込んで行った。

「叔母さん……ただいまッ!」

 叱ろうと思っていた甥っ子の様子に、おばちゃんは言おうとしていた言葉を口の奥に留め、それから優しくその言葉に応えた。

「……おかえりなさい、真優くん」

 

 家族の元に無事、戻ってきた真優の姿。

 それを向かいの家の屋上から見守る、サンジェルマン達。

 三人の顔には揃って、温かな笑みが浮かんでいた。

 

 ~~~~

 

「ふわ~ぁ……よく寝たんだぜ……」

 パヴァリア光明結社のアジトの一つ。ヴァネッサにもたれかかって寝ていたミラアルクとエルザが目を覚まし、ヴァネッサも目を開く。

「なんだか、凄い夢を見ていたような気がするわね……」

「わたくしも、であります……」

「マジで!?ウチもなんだけど……」

 三人は同じ夢を見ていた事に驚きながら、揃って顔を見合わせる。

「不思議ねぇ、三人揃って同じ夢を見るだなんて……」

「でも、()()()()への恩は、ちゃんと現実で返さなきゃ行けないんだぜ!」

「まだまだ頑張らないと、であります!」

 すると、三人のポケットの中にある通信機から、アラームが鳴り響く。

 サンジェルマン達からの招集命令だ。三人はソファーを立つと、それぞれの仕事道具を確認する。

 エルザは右手中指に指輪を嵌めて。ミラアルクは相棒の白いコウモリに声をかける。そしてヴァネッサは、上着の裏に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を仕舞い、部屋を出て行った。

 

 今日もまた、三人の頼れる上司達と、そして自分達を救ってくれた恩人と肩を並べて、世界を守る為に……。

 

 ~~~~

 

 夜明け前。崩れた魔塔の頂で、クリスは目を開ける。

(──あたしは……そうだ、確かあの人気者と一緒に、発射前のカ・ディンギルに突っ込んで……それで……)

 崩壊に巻き込まれたのは覚えていた。気付けばギアも解除されている。

 自分が無事でいることを確かめて……そして、彼女は目を疑った。

 すぐ隣に腰を下ろしていたのは、ずっと追い続けた背中だ。

 あの日から、一日たりとも忘れた事は無い黒のレザーコートだ。

 そして、青年は彼女がうっすらと目を開けた事に気が付き、優しい声をかけてくれた。

「クリス……よく頑張った。ちゃんと夢、叶えられたんだな」

「あ……あぁ──ッ」

 柔らかな微笑みと共に、褒めてもらえた。それだけでクリスは、胸の内側から溢れ出したものを堪えきれなくなる。

(ああ……あたしは……ようやく……あんたの背中に、追い付いたんだな……)

 

 逆転の夜明けの、その前に。少女は再び、青年から勇気を貰った。

 

 ~~~~

 

「──真優さん……またいつか、必ず……」

 真優との繋がりであるウォッチを握り締め、響は空を見上げた。

 既に雨は上がっていて、割れた雲の合間からは太陽が姿を現し、暖かな陽光が七色の橋を架ける。

 天からの光に照らされて、響は眩しさに手を翳す。

 その表情はこれまでと違い、とても晴れ晴れとしたもので。今の空模様はまさに、彼女の心象を映していると言っても過言ではない。

 その眼から翳りは消え失せ、まだ彼女が純粋であったあの頃に近い、太陽の如き輝きが灯る。

 

 約束の明日がやって来る日まで、少女は再び歩き出す。

 復讐ではなく、「誰かの為に」。受け取った光を、繋いで行くために──。

 

 ~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ああ……身体が、溶けていく……)

 光射さぬ虚無の奥底へと、彼は真っ逆さまに沈んでいく。

 その身体は四肢の先端から消え始めており、闇へと溶けていく。

 役目を終え、また一つに戻るのだ。元々一人の人間から分かたれただけの存在、最後はこうなる運命だったのだ……と。そう受け容れた彼に、未練はない。

 ……いや、あるとしたら、一つだけ。

 

(……あーあ……結局……最後まで、彼女達を……人形のままで……終わらせちまった……な……。……俺様は、結局……約束一つ守れなかったってわけだ……)

 

 両目を閉じて、時を待つ。もはや自分に残るのは未練のみ。

 しかし、その未練もまた妄執から生まれたもの。報われる理由など、ある筈がない。

 

 ……そう思っていた彼の瞼の向こうで、光が射した。

 ゆっくりと目を開くと……そこには、消滅したはずの彼女の姿があった。

 

 罅割れ、崩れ始めている両腕で、彼女は彼を抱き締める。

 

「バカだな……こんな所まで着いてきやがって……」

 

 呆れたようにそう言いながらも、彼は彼女の背中へと、闇に溶けていく両腕を回す。

 

 亀裂と共に、彼女の顔から消えた黒。その口元には、慈愛に充ちた優しい笑みが浮かぶ。

 

 彼女だけでは無い。彼の周囲を、八色の光が飛びまわり、その形を人の姿へと変えていく。

 

 もう形は失われているけれど、それは紛れもなく自らが召喚した彼女達。オリジナルの手に届かなくなってしまった……或いは、もしかしたらもう一度、手繰り寄せられるかもしれない、世界から消えた可能性の数々。

 

 消えゆく鏡像が最後に見た夢は、本物が失ったものだった。

 

「ああ……最期に……ようやく……推しに囲まれて死ねた、だなんて……。……(あいつ)は……どんな顔を……する……ん……だろう…………な…………」

 

 奈落の底へと消え往く中で、そう呟く彼の顔は、歪みのない微笑みを広げていた。




……というわけで、MR外伝『〜完〜』!

だと思いましたよね?まだですよ!まだあります!
まだ回収していない伏線もあるし、助けないといけない人達が残ってますからね!
でもMR外伝は次で一旦終わりを迎えます。伴装者も書かなくちゃいけませんからね。しばしの別れ、というやつです。最後までお楽しみください。
再開は本家がもう暫く進んでからかなぁ。

次回、戦姫絶唱シンフォギアMR外伝!

──試練を乗り越えた真優に祝辞を述べる為、魔王は再び彼を呼び寄せる。

──自らの継承者を見定めるオーマジオウを前にして、真優は何を語るのか。

──『始まりの場所』にて、真優の手により引き寄せられた新たな力とは……?

──そして遂に、彼の時間がプロローグへと繋がる。

エピローグ『錬金術師を友として』
孤独は終わり、新たなる物語へ──!

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