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【社説】

海自中東派遣へ 必要性、根拠に乏しい

 政府が中東情勢の悪化を踏まえ、自衛隊派遣の検討に入った。米国主導の有志連合ではなく、独自の活動だというが、派遣の必要性や根拠に乏しい。調査・研究という「便法」を乱用すべきでない。

 米国とイランとの対立により、中東情勢が緊迫の度を高めていることは否めない。原油輸入の八割以上をこの地域に依存する日本にとって、中東の緊張緩和と情勢安定化は死活問題ではある。

 とはいえ、日本関連のタンカーへの攻撃が頻発しているわけではなく、自衛隊艦船による警護を必要とする状況でもない。自衛隊を派遣する切迫した必要性がどこにあるのだろうか。

 安倍晋三首相の指示を受け、菅義偉官房長官は記者会見で現在、ソマリア沖アデン湾で海賊対処活動をしている海上自衛隊の護衛艦や哨戒機の活用に加え、護衛艦の派遣も別途検討すると表明した。

 トランプ米政権が参加を求める有志連合とは一線を画す日本独自の活動として、護衛艦などを年内にも派遣する見通しだ。

 自衛隊を中東派遣することで米政権の顔を立てる一方、活動範囲からホルムズ海峡やペルシャ湾を除外し、友好国であるイランへの刺激を避ける苦肉の策ではある。

 実力部隊である自衛隊の海外派遣は「国家意思」の表明だ。対話による緊張緩和を探ってきた日本外交の方針転換と受け取られるかもしれない。周辺国を刺激し、派遣部隊が偶発的な衝突に巻き込まれる危険性はないのか。

 自衛隊による有事の活動や海外への派遣は、国権の最高機関であり、国民の代表である国会の承認を原則必要とする。国民の意思によって自衛隊を運用する「文民統制」である。

 しかし、今回の中東派遣は、国会の承認を必要としない防衛省設置法の「調査・研究」が根拠だという。自衛隊の海外派遣という重大事を国会の判断を経ないで決定する「便法」でもある。

 そもそもほかに根拠となる法律が見つからないから、「調査・研究」目的で派遣するのだろう。便法を乱用し、海外派遣を拡大することは許されない。

 政府は自衛隊派遣の検討に当たり、「中東の緊張緩和と情勢の安定化に向けたさらなる外交努力」の方針も確認している。

 中東各国と築いてきた信頼関係を生かすことこそ、平和国家としての道だ。良好な関係を犠牲にしてまで、自衛隊派遣をはやるようなことがあってはならない。

 

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