余白とか余裕みたいなものは、どう捉えていますか?
BOOKSHOP TRAVELLERっていう本屋で60店以上の本屋に棚を貸して出店してもらっているコミュニティの運営みたいなことをやっていく中で、すごく気にしているのは、絶対に先頭を走らないようにしています。店が成り立つように何かやるときの建付けや仕掛けの準備はちゃんとするけど、前に立つのはコミュニティのメンバーだと思っているんです。でもライターの仕事も考えると、しばらくは僕が前に出た方がうまくいくんだろうなっていうところもあり、ちょっと悩んでます。
自分個人の余白としては、歩く時間を作っています。最近は少し出来てないんですけどあとルーティンを意識的に作るようにしてますね。例えば、仕事が忙しくてどうしても深夜に書かなきゃいけないときは、気分を上げるためにジンを飲んだり、好きな音楽を聴きながら書いたりですね。
それと意識的に休むようにしています。普通なことなのかも知れないですが、週2日の休みを取るようにしている。いま独立して4年目なんですけど、この店を始めるときにまず週1で休みを確保したんですよ。それまで週1でも休めていなかったんで。店も始めると決めたときに、絶対週に2日の休みを確保しようと。そうしないと店の安定的な運用が出来ないと思ったので。
でもよくよく考えてみると僕は余白って言われてもあんまりピント来ないんですよね。外からみたら余白って表現できる部分はたぶんあるんです。でもそういうメディア的な意味合いというか、例えば余白だったり消費だったり、そういう言葉が僕は全然ピンとこない人で、人から見て余白と見える部分は多分あるんだなーというくらいの感じなんですよ。8時間は必ず寝るとかね、それにやっぱりルーティーンみたいなものは作らないと空いているところにどんどん仕事を入れちゃいがちですしね。楽しくても無理しすぎたら人は死ぬと思っているので。だから、それが出来ていないときは、相当追い詰められていてヤバい状態の時です。朝コーヒーを入れるみたいないつもやっていることが出来ていないときは、俺いまヤバいなって思いますね。だから、余白というか、検知器みたいな感じかもしれないです。ルーティンが出来ていないときは、だいたい全体のクオリティも落ちている。感覚じゃない部分で判断しないと余裕が無いときって余裕が無いって分からないじゃないですか、だって余裕があるか無いかを感じる余裕がないから。外から見てくれる人、僕の場合は奥さんがいると、そういうとき助かりますよね。
実際に本屋ライターの活動はいつから始めたのですか?
2010年の夏頃から始めています。会社員時代に独立したいと思って、自分なら独立したら何がしたいかなと考えると本屋をやりたかったんですよ。本屋をやりたいけど、出版業界とはまったく関係のない業界で働いていて、そもそもの本屋へのなり方がわかんなかったんでこの活動を始めました。その当時インターネット上にあった本屋のなり方は、新刊書店についてのもので取次会社のWebサイトにたしか「駅前の10坪で何千万円の開店費用が掛かる」というようなことが書いてあったんです。さすがにこれだと自分にとっては絶望しか無いと思った。
でも古本屋へのなり方がインターネット上で書いてあるものがほとんどなくて、本でも体験談やエッセイばかりで細かいお金の話とか仕入れはどうしているのかとかそういうものはほとんどなかった。その当時は仕事で大阪にいたから、神保町の古書店に行くわけにもいかず、ツテもなかったので、まずは自分で調べようって思って活動をはじめましたね。
やっぱり本屋ライターは、本屋巡りから始めるの?
まずは本屋巡りから始めました。最初は大阪が怖かったんで京都から本屋巡りを始めましたね。いまはそんなことないですし大好きな街なんですけど、東京から出たことがなかったので先入観で大阪は怖いってなぜか思っていたんです(笑)。本屋へ行ったときは実際にその本屋で掛かっているBGMだったり、匂いや棚の並び、どのジャンルがどのぐらいの冊数であるかをメモしまくったものを、アメブロにアップしたのがはじまりです(当時のブログ名は「本と私の世界」)。
自分のなかで古本屋のほうが始めやすいイメージがあったので、はじめは個人経営の古書店に伺っていました。梁山泊という古本屋から始めましたね。そこから古本屋ばかりを巡り、2年くらい経ったとき、朝日新聞の大阪版に当時「あのブロガーに会いたい」というコーナーがあって、ブログがそのコーナーに載ったときにスタンダードブックストア心斎橋の代表の中川和彦さんが見てくれていたんです。発信していけば本屋の中の人と知り合いになれるんだと嬉しくて、そのあとは大阪の知り合いも少しずつ増えてきて面白くなって来たタイミングで、東京へ転勤になったわけです。
それで2012年で転勤で東京へ戻った際、下北沢の本屋B&Bで河尻亨一さん(編集者)のセミナーがあり、その時に同じ受講生として、この場所のオーナーと出会ったんです。ここのオーナーはこの場所の他にもバロンデッセ ラテ&アートギャラリーカフェを経営していて、下北に来るときはいつも通っていました。
僕はというとブログ「本と私の世界」を意外と見てくれている人が多くなってきていたので、ブログの名前をBOOKSHOP LOVERに変えて、地域ごとの本屋まとめや本屋で開催されるイベントお知らせなど、よりメディアっぽい方向に舵を切りました。
もう日本のほとんどの本屋は見ましたか?
日本の西の地域は割と見たと思います。ただ四国と山陰地方はまだ行けていないですね。それに奈良はまだ行けてないし、京都も本屋が増えてからはあまり行けてません。だから知っているだけで実は全然行けてない店も結構あるんですが、同じくらいサイトに取り上げてないだけで行っている店もたくさんあります。あと東京から北の地方がまだあまり行けていないんですよ。北海道も行けていないし。先日盛岡と八戸には行ったんですけどね。今度の10〜11月は金沢や高松に行く予定です。今年と来年の冬くらいで日本はもう少し周りたいですね。その後は台湾に行こうと計画中です。
望月
トータルではどのぐらい本屋は巡ったの?
和氣
もう約400店舗ぐらい行っているんじゃないでしょうか。BOOKSHOP LOVERのサイトで紹介しているものだけで140ぐらいあります。まとめやSNSだけで出している本屋も100以上ありますね。伺った本屋のほとんどが独立系の本屋さん(以下、独立本屋)なので、本屋が減っているとよく色々なメディアで聞きますが独立本屋は実はいっぱいあるんだぞって話はしたいですよね。それに大手の書店じゃなくて、やっぱり小さい独立の本屋ができるところは街として面白い気がしますよね。
本屋が廃れていくという本当の意味とは?
たぶん色々話が混ざっていると思っています。まず大型店があり地域のチェーン店(地元の大きな本屋さん)があるんですよね。そこに個人がやっているような個人商店があります。そこには昔からやっている書店とは別に、ここ10年ぐらいで出来た新しい本屋さんがあって、それは明確に存在として別なんですよね。
大型書店は紀伊國屋書店さんや丸善&ジュンク堂書店さんのような資本が大きい書店だし、地元チェーンは全国規模ではないけれど地方都市の駅前にあるような街の本屋さんみたいなイメージですね。廃れるイメージがあるのは、たぶん昔からやっている個人書店に対してだと思うんですけど、実は廃れるのが当たり前だと思えるところがあります。
なぜかと言えば、もともと本屋さんは経営的にやりやすい商売だったわけです。出版市場は96年くらいにピークを迎えたのですが、調べてみるとそのときは、それこそお店に本を並べたら売れたみたいなんですよね。在庫リスクがない状態で並べれば売れる商売って言い方は悪いですけどボロいじゃないですか。だからバブルがくる前の時代は、土地持ちや物件持ちの人が、そこを継いだときにサラリーマンを辞めたあと、何をしようかとなった際に本屋さんだったら楽だからいいよねと思って始めた方が結構いたらしいんです。しかも良い商売だってイメージがすごく強いじゃないですか。そういう理由で始めるわけです。でも、いまはコンビニでもスーパーでも本が買えますし、ネットもあればスマホもある。娯楽の数は昔よりも遥かに多いわけです。
さらに、本屋は取次というすごく盤石な構造の上に乗っかってやってきたのですが、最近綻びが見えつつある。市場環境も厳しい。構造も綻んできている。そんなタイミングで本屋のほうでも世代交代になったとき、子供にやらせるくらいだったら、コンビニにしたほうが儲かるし、儲からない商売を子供に継がせたくないじゃないですか。そういう理由で、どんどん個人経営の本屋が無くなっているのが本屋が減っている大きな原因のひとつなんですよね。
それとは別に若い人が、例えば本屋しか自分にはやれないと思ってやっている人や、もしくは自己実現としてやり始めた人が増えているのがここ10年くらいで、10年前と今とで全然本屋を始めるタイプが違います。特にここ1〜2年でこの独立系本屋がめちゃくちゃ増えているように思いますね。
たしかに書店は減っているイメージがあるし、実際に全体の数は確実に減っている。これは覆らないんですけど、個人の本屋さんはいろんなやり方でどんどん増えている。例えば週末だけ本屋さんを開くとかね。つまり、毎日営業して本だけを売って食べていくような従来の「本屋さん」のイメージだけでない、週末だけ本屋をやったり、事務所を兼ねた本屋を開いたり、ここ何年かでいろんなやり方が認められるようになってきているんです。
そういう人が増えてきた理由のひとつに仕入れの部分の情報がオープンになってきたことがあります。5〜6年前までは仕入れをどうすればいいか業界外の人間にはほとんど分からなかったんですよ。でも、辻山良雄さんの『本屋、はじめました: 新刊書店Title開業の記録』(苦楽堂)や内沼晋太郎さんの『これからの本屋読本』(NHK出版)、『本屋がなくなったら、困るじゃないか: 11時間ぐびぐび会議』(西日本新聞社)などいろんな本が出版されたり、内沼晋太郎さんや僕が本屋を開くための講座などを開催していく中で本の仕入れ方をはじめとした本屋になるための情報がオープンになってなってきたんです。情報面の他にも、新刊の仕入れは金銭面のハードルが高かったのが少しずつ低くなってきたことがあります。雑誌やコミックがある新刊書店を開くには取次と契約しなくちゃいけないんですがそのときの保証金がめちゃくちゃ高かった(活動当初、新刊書店の開き方を調べたときに絶望した理由ですね)。これも担当者にはよるけど柔軟になりつつあります(雑誌やコミックがなければ他の方法でも新刊を仕入れることができます)。
それに、こういう流れがあるのも、本屋を開くハードルが以前より低くなってきたことと同時に、「少なくとも本はないよりもあったほうが良いもの」という共通認識が、本を読まない人にもあるからだと思う。そこの部分がなくならない限り、本屋は続いていくと思うんですよ。