この夏は7月の西日本豪雨に始まり災害の多い夏でした。台風シーズンは過ぎていないので今後も予断を許さない状況で、特に被災地域は地盤が弱まっていたり、復旧途上であったりして、再度災害に見舞われると被害を防ぎようがない状態にある場合もあり、警戒が必要だと感じています。
このような大規模な災害が起こるたびに皆が思うのは被害が大きかった地域の多くが以前から危ないと指摘されていたのに整備が進んでいなかったということです。
だからこそ、優先順位をきちんと考えた上で、公共事業を行うべきなのですが、残念ながら、あれもこれも手をつけようとして、結果、本当にやるべき整備が遅れ、次に被害に遭ってしまうということの繰り返しのように感じます。
今回こそ、本当に必要な事業は何か、そして、今やらなくても良い事業は何かのメリハリをつけて、人命だけは守るべく計画を立てて行く必要があると感じます。
以上のことを考えると、我が江戸川区が計画予定地の住民の意思に反して進めようとしているスーパー堤防は作るべきではないと、水害が多発した今だからこそ、敢えて言いたいと思います。
江戸川区はゼロメートル地帯だから水害が起こりやすいと思っている方が多いようですが、海抜がゼロであることと水害が発生しやすいかどうかは関連はありません。洪水が起こるかどうかは川の流量と堤防の高さによって決まってくるのであって、ゼロメートルだろうが海抜以下であろうが、川の流量がしっかりあれば、水が堤防を越えることはないのです。
水害の多くは比較的上流部の堤防の整備が進んでいない地域で起こっていることを考えれば、理解していただけると思います。
基本的に河川の堤防整備は下流から整備して行くものなので、江戸川区のように最下流の地域は江戸川も荒川も河川整備計画上の堤防は概ね整備済みであり、むしろ、上流部の埼玉県などの整備が遅れていて、西日本で発生したような豪雨が降って危ないのは上流部になるのです。
水は高いところから低いところに流れるので当然下流部に水が流れてきます。その結果、江戸川区まで水が流れ滞留してしまうということは起こりうると思いますが、それは排水の問題であり、堤防を強化しても解消できるものではありません。ですから、海抜の低い下流部は堤防よりも下水処理の問題を考えるべきなのです。
多くの方々が、スーパー堤防の整備がされると堤防が今よりも高くなると誤解されているようですが、これは間違いです。前述しましたが、下流部は堤防の高さは計画通りに整備済みなので、地盤沈下などで数十センチ沈下してしまった分は元に直すことはあっても大きく堤防の高さが変わることはありません。
ですから、堤防を越える流量に達すれば、スーパー堤防でも今のままの堤防でも堤防を水が越える越水は起こり、浸水被害は起こってしまうのです。何が変わるのかといえば、スーパー堤防は堤防の高さは既存堤防と同じですが、堤防の幅が計画では高さの30倍にすることになっているので、堤防が決壊し難くなるだけなのです。
多くの既存の堤防は土を盛り上げただけなので、越水により堤防がえぐられていき、堤防が崩れ出し、決壊に至ってしまうのですが、スーパー堤防は堤防幅があるので決壊には至らないというメリットがあるという訳です。確かに決壊してしまうと一気に水がなだれ込んで行くので、家屋が押し流されたりして被害が多くなるのに対して、決壊せずに緩やかに堤防を越えて水が流れていけば建物が押し流されるようなことは食い止めることが出来るかもしれません。
しかし、越水してしまえば浸水被害は起こるので、まずは浸水しない対策も取る必要があります。川の水が堤防を越える越水を防止する為にはスーパー堤防を整備するのではなく、河道流量を増やす為に、河床に堆積した土砂を浚渫して河床を下げれば良いのです。
今回の豪雨でダム放流により死者を出してしまった愛媛県の肱川では、以前から堆積物を浚渫するよう住民が求めていたにもかかわらず、実施せれず、二ヶ所のダムが容量オーバーとなるからといって、大量放流に踏み切って、死者を出してしまいました。人の命を守る為に作られたダムなのに、ダムを守る為に人に命を奪う結果となってしまったのです。
河床を掘削して水深を深くしておけば、越水するまでの時間をもう少し稼ぐことが出来たし、もしかしたら決壊せずに済んだかもしれません。