「ゆうて」という言葉をご存じだろうか。「そうは言っても」との意味を持つ若者言葉で、関西弁から派生した表現である可能性が高い。最近は関西弁の影響を受けた若者言葉が増えているとされる。理由を探った。
東京都出身の記者(27)がゆうてを初めて耳にしたのは大学生のころ。友人たちが多用するようになって面食らった。「あした提出の課題、全然終わってない」「ゆうてオールすればワンチャンいける(そうは言っても徹夜して頑張れば何とかなる)」。自分が使うには抵抗を感じたものの、いまではすっかり聞き慣れてしまった。
「ゆうてが西日本の言葉であることは間違いない」。方言を研究する関西大学の日高水穂教授は指摘する。ゆうては口語文法、ワ行五段活用の動詞「言う」の連用形にあたる。連用形は「~して」のように、後ろに別の動詞をつなげるときなどに使われる。標準語では語幹「言(い)」に促音便「っ」が付いて「言って」となる。
ところが、一部の方言ではワ行五段活用の動詞の連用形に促音便ではなく、ウ音便が付くケースがあるという。言うは「言って」ではなく「言うて」と表現される。ほかに「買って」は「買うて(こうて)」となる。国立国語研究所によると、ウ音便は主に滋賀県以西の地域で使われている。日高教授は「若者言葉のゆうては、言うの連用形の言うてが広まったものと考えられる」と話す。
インターネットの掲示板などで嘲笑的な意味を込めて書かれる「ワロタ」も西日本の言葉だと推測される。「笑う」はワ行五段活用の動詞で、関東の言葉であれば「笑った」となるはずだからだ。
「あしたの授業、まじ行きたくない」「それな(そうだよね)」。学校などでの会話に含まれる「それな」は同意を示す。それなの「な」は間投助詞と呼ばれ、文中で語調を整える役割を持つ。東日本では「ね」が広く使われる。例えば、東日本だと「きょうね、学校でね」となるのに対し、西日本では「きょうな、学校でな」になる。
それではなぜ、西日本の方言が全国に普及したのか。大阪大学の金水敏教授は「SNS(交流サイト)が大きな役割を果たした」と語る。関西弁で話すタレントがテレビ番組に出演するなど、以前も若者が方言に触れる機会は多くあった。実際、「めっちゃ」のように幅広い地域で使われる関西弁はある。
一方、「アクセントが異なるため、話し言葉で使うことに抵抗感を持つ人は少なくなかった」(金水教授)。それがツイッターなどSNSの普及に伴い、スマートフォンでの「打ち言葉」として仲間内のやりとりに採用され、次第に話し言葉にもなっていったようだ。特に首都圏に次いで人口の多い関西の影響力は大きい。ゆうてなどは「関西で流行していた言葉を関東の若者が知り、広まったと考えるのが自然」(日高教授)。
SNSを介して広がったことの裏付けとなり得るのがアクセントだ。関西で使われる「言うて」は1音目の「ゆ」が高いのに対し、若者言葉のゆうてには高い音がない。字面だけがネットで広まり、独自のアクセントで読みあげられるようになった。
江戸時代には歌舞伎役者が役柄に合った方言を話し、観客を楽しませる文化があったという。戦後はテレビなどで方言を耳にする機会が増えて「方言=かわいい」と好意的にとらえる見方が広まった。なかでも関西弁は漫才ブームの影響もあり「面白い」との好印象がついた。金水教授は「日本には多様な話し言葉を受け入れる土壌がある」とも話す。若者言葉にもそんな日本らしさが反映されているのかもしれない。
(渡辺夏奈)