観光地に過剰な観光客が押し寄せる、いわゆる「オーバーツーリズム」。この問題を解決しようと、世界各地で様々な試みが始まっている。例えば、イタリアのベネチアでは、「入場料」を徴収する計画がある。ベルギーのブルージュは、すでにクルーズ船の数を1日2隻に制限する取り組みを始めた。フランスのパリも、観光客向けのバスが市中心部へ乗り入れることを禁止する予定だ。
こうした「抑制策」とは別のトレンドもある。あまり人気が高くない観光地が、あえて「アンダーツーリズム」を掲げて観光客を取り込もうとしているのだ。どこも、観光客でごった返していないこと、順番を待つことなく“インスタ映え”する写真が撮れることなどを、魅力としてアピールしている。
確かに、自撮り写真を撮る観光客の波にうんざりという人は、オーバーツーリズムがテレビやネットで報道されるたびに、旅に出たいとは思わないだろう。アンダーツーリズムの動きは、そうした人々にうまく目をつけた。その代表は、ポルトガルの首都リスボンかもしれない。かつては人気の旅先ではなかったリスボンも、近年は観光客が増えた。同時期にスペインのバルセロナでオーバーツーリズムが社会問題となったことは、リスボンへの観光客増と無関係ではないだろう。(参考記事:「グエル公園、2016年5月号 都会の公園で憩うひととき」)
1カ所の旅先に長く逗留して深く味わう
ただ、こうした観光地も、訪問客が増えてしまえば、オーバーツーリズムの問題を避けられない。英国の旅行会社「Responsible Travel」のCEO(最高経営責任者)、ジャスティン・フランシス氏は、「責任ある計画を立てないかぎり、次にオーバーツーリズムの被害を受けるのはアンダーツーリズムを売りにしている観光地です」と話す。(参考記事:「パリだけじゃない 厳選フランスの美しい都市5選」)
では、どうすればいいのだろうか。解決策の一つとなるのが、名所を巡るのではなく、1カ所の旅先に長く逗留して深く味わうことだ。実は、これはオーバーツーリズムに悩む観光地でも対策として採用された方法だ。ベネチアで言えば、サン・マルコ広場の代わりにリド島に行くのだ。この島にはビーチが素晴らしく、地元の人が運営するレストランやホテルがある。「Venezia Autentica」という若い会社は、地元のバーや店、レストランに足を向けてもらって、観光客が訪問してがっかりということがないような試みを始めている。このように、あまり客が訪れることがなかった場所が、積極的に宣伝されている。
訪問した場所をじっくりと味わう、アンダーツーリズムのもう一つの例は、オーストリアの首都ウィーンだ。「スマホの電源を切って心ゆくまで町を堪能しよう」というキャンペーンを行っている。また、アグン山の噴火が一息ついたインドネシアのバリ島、ハリケーン「マリア」の大きな被害から復旧しつつあるプエルトリコ、爆弾テロ事件後の混乱から安定しつつあるスリランカのように、旅行客の足が遠のいた旅先を選ぶことでもある。(参考記事:「プエルトリコ、「最強」ハリケーンの被災地は今」)
こうしたアンダーツーリズムの観点から、ここで、有名な観光地に行くことを考えている人に向けて5つの代替案を提案したい。
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