LCCやエアビー…旅のシーンはこの数年で大きく変わった!
丸山ゴンザレス(以下、丸山) 僕が「海外旅行最強ナビ」シリーズを立ち上げたのは2013年なんですが、そこから現在までのわずか5〜6年のあいだに、旅のシーンが変わってきた気がします。当時はまだ、バンコクのカオサンロードを起点に旅をする感覚が辛うじてあったけど、今はもうカオサンは役割が変わってしまった。そんな印象もありますね。
室橋裕和(以下、室橋) カオサンはいまでも欧米人や中国人、韓国人は昔と変わらずたくさんいますが、日本人はグッと減りました。これはバンコクに限らず、世界的な現象だと思うんですが、「ホステル」とか「デザインドミ」と呼ばれるこぎれいな安宿がすごく増えていますよね。きれいなドミトリーがあって、1階には宿泊者が交流できる、ちょっとした共有スペースとロビーがある。どこへ旅しても、そういう宿が非常に増えたなと感じます。そんな宿がカオサンだけでなくバンコクのあちこちに増えているので、旅行者の分散が進んだ印象です。
丸山 そういう宿って、日本人や東南アジア人もいるんですか?
室橋 いますよ。そういうところのほうが、若い人たちは居心地がいいのかな。
丸山 そうかもしれませんね。ほかには、LCCが完全に定着したこと、SIMフリーの携帯・スマホを使って、海外でスマホを使うことが普通になったこと、エアビーアンドビーの発達が著しいことなども、2013年当時との違いとして挙げられると思います。この3点は、ここ数年の大きな変化だと思いますね。
髙田胤臣(以下、髙田) この3つは連動していますよね。現地のエアビーに泊まって、そこからスマホでLCCを取るというふうに。
丸山 3つを連動させて上手く使えるほうが、旅の上級者というムードがありますね。足を使って宿を探すみたいな旅の仕方をすると「お前、この時代に何やってんの?」みたいな……。ホテル側からも「ちゃんと予約してきてよ」って、迷惑な客扱いを受けてしまいますし。欧米などでは、ちょっとしたレストランでも予約してから行くのが当たり前になりつつあって、いきなり訪れると「え? 予約ないの?」って言われちゃう。
室橋 先日、タイを1ヵ月くらい取材でウロウロしていたときに、カンボジア国境に近いクード島という辺鄙な島を訪れたんですよ。宿を予約していなかったので、島にあるゲストハウスに、ウォークインでふらりと入ったんです。そうしたら「予約してますよね?」「してないんですけど……」「本当ですか? 部屋を全然用意していないので、ちょっと待ってもらえますか」ってやりとりがあって。辺境の島の小さいゲストハウスでさえ、客が飛び込みで来るっていうことに驚く時代になっているんですよね。
トレンドを押さえることが、旅人の条件になりつつある
丸山 行き当たりばったりの旅でも、上手にモバイルを使いこなさないといけない。そういうふうに、旅人を取り巻く環境が大きく変わってきた気がしますね。お金に関しても、カード払いが当たり前になってきましたし。
室橋 航空券にしてもホテルにしても、ネットで取ってしまえば余計な現金を持たなくていいですしね。
丸山 トラベラーズチェックも絶滅しましたね。
室橋 最後の販売が終わったのが、2年くらい前?
丸山 そのくらいです。トラベラーズチェックなんて、今の若い旅人は知らないんじゃないですか?
室橋 いやー、僕ですら十数年使っていないですよ。
丸山 あれはでも、お守り的な側面がありましたけどね。僕は最後の切札として持ち歩いていました。
室橋 初めて旅に出た20年くらい前は、トラベラーズチェックを持ち歩いて両替することで、旅している気分を味わえましたよね。
丸山 旅の醍醐味よりも、効率を重視する流れになってきているのかな。初めて訪れる街でも、バスの乗り方とかを聞かなくなりましたね。ほぼウーバーで移動するから……。
室橋 バイクタクシーにもウーバーがありますよね。タイも確かそうじゃなかった?
髙田 タイではウーバーが買収されて、全部グラブですね。フィリピンやベトナムもそうだし、東南アジアではグラブが最大手です。
丸山 そういうふうに、最新テクノロジーやトレンドを押さえていかないと、楽しい旅ができなくなってきている気がします。主流に乗らないと、旅がどんどん不便になっていく。
室橋 旅を受け入れてくれる側がテクノロジーに対応しちゃっているので、こちらもそうしていくしかないですよね。おじさんとしては、ちょっとついていくのが面倒だなと……。
丸山 そういえば、観光地で地元の人に「こういうところを回りたい」ってリクエストすると、最近はインスタ映えスポットを勧められる割合が高いですね。僕はいつもインスタ映えしない観光地を探しているので、余計なお世話だなと思ってしまいます(笑)。
(次回につづく)
(構成:東谷好依)
室橋裕和(むろはし・ひろかず)1974年生まれ。週刊誌記者を経てタイに移住。現地発日本語情報誌『Gダイアリー』『アジアの雑誌』デスクを務め、10年に渡りタイ及び周辺国を取材する。帰国後はアジア専門のライター、編集者として活動。「アジアに生きる日本人」「日本に生きるアジア人」をテーマとしている。おもな著書は『日本の異国』(晶文社)、『海外暮らし最強ナビ・アジア編』(辰巳出版)、『おとなの青春旅行』(講談社現代新書) など。
髙田胤臣(たかだ・たねおみ)タイ在住18年超のライター、タイ心霊スポット研究家。タイのユルい心霊に魅せられてスポット徘徊するも、最も霊現象が多いのが自宅だったりする。著書に『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)、『バンコクアソビ』(イーストプレス)、『ベトナム 裏の歩き方』(彩図社)など。電子書籍も多数。