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Text by COURRiER Japon
グレタに向けられる「年齢」「性別」「障害者」差別のトリプル批判
“How dare you!”(よくもそんなことを!)。今年9月、ニューヨークで開催された国連気候行動サミットで、スウェーデン出身の16歳、グレタ・トゥーンベリは、激しい怒りと悲しみの表情を湛え、各国の首脳らにいますぐ温暖化対策の行動に出るよう強く訴えた。
彼女の主張を要約すると、「地球は悲鳴をあげている。環境システムは瓦解していて危機的な状況だ。いますぐ全世界で温暖化対策の行動にでなければ、私たちが大人になる頃には地球上の生態系は崩壊する。子どもの将来を真剣に考えているというならば、きちんと行動で示して」である。
もちろんスピーチでは、具体的な科学的調査結果や数字も述べており、それはパワフルで説得力のあるものだった。絶賛する政治家やジャーナリストは多く、事実、60ヵ国以上が、2050年までの実質排出ゼロ(ネットゼロエミッション)の達成を誓約したと報じられている。
ただ、 “How dare you!”(よくもそんなことを!)の「You(あなた)」が指すのは、サミットに参加していた各国の首脳らだけではない。彼女よりも年上で、有権者で、これまで環境問題に取り組んでこなかったすべての「大人たち」であり、これをいま読んでいるあなたも含まれているかもしれない。
この単刀直入な物言いや強い口調の強さゆえか、彼女への注目が高まるにつれて、彼女の主張を「大人への憎悪」だと捉える人、また、指摘を受けて防戦・反撃体制になる大人も増えている。特に「中年以上の男性」「保守派の権力者に多い」と、保守派のおじさんがグレタを過剰に攻撃する様子を、米誌「アトランティック」、英紙「インディペンデント」、「ファイナンシャル・タイムズ」など各メディアが報じている。
トランプ米大統領をはじめ、保守派の政治家には温暖化を否定する人たちが少なくない。
米国の右派で保守的な福音主義の著作家のエリック・エリクソンはオンラインメディア「ザ・リサージェント」で「この子は恐怖心に支配されている。そして、彼女の両親は彼女が恐怖心にコントロールされていることに何も手を打とうとしていない」と彼女の両親を批判。「彼女の両親は子どもから健全な教育の機会を奪っている。だから、大人に説教を垂れるような子になるのだ」。
保守派オンライン誌「フェデラリスト」に寄稿するジャーナリスト、ジョナサン・S・トービンは、「両親を強制的にビーガンにさせ」「オペラ歌手だった母親を、空路での移動が多いことを理由にキャリアを諦めさせた」ことを持ち出し「子と親の立場が逆転している」と問題視。
また、オーストラリアの保守派の社会・政治コメンテーター、アンドリュー・ボルトは、「こんなに若くて、たくさんの精神疾患を患っていて、たくさんの大人からグル(指導者)と仰がれる少女を見たことがない」と発言。「彼女は、恐怖を求めて慢性的に終末論的に惹きつけられているようだ」といい、オーストラリアの政治評論家のクリス・ケニーは、助けが必要な「ヒステリックな10代」と中傷する。
温暖化を否定する“おじさん”たち
この単刀直入な物言いや強い口調の強さゆえか、彼女への注目が高まるにつれて、彼女の主張を「大人への憎悪」だと捉える人、また、指摘を受けて防戦・反撃体制になる大人も増えている。特に「中年以上の男性」「保守派の権力者に多い」と、保守派のおじさんがグレタを過剰に攻撃する様子を、米誌「アトランティック」、英紙「インディペンデント」、「ファイナンシャル・タイムズ」など各メディアが報じている。
トランプ米大統領をはじめ、保守派の政治家には温暖化を否定する人たちが少なくない。
米国の右派で保守的な福音主義の著作家のエリック・エリクソンはオンラインメディア「ザ・リサージェント」で「この子は恐怖心に支配されている。そして、彼女の両親は彼女が恐怖心にコントロールされていることに何も手を打とうとしていない」と彼女の両親を批判。「彼女の両親は子どもから健全な教育の機会を奪っている。だから、大人に説教を垂れるような子になるのだ」。
保守派オンライン誌「フェデラリスト」に寄稿するジャーナリスト、ジョナサン・S・トービンは、「両親を強制的にビーガンにさせ」「オペラ歌手だった母親を、空路での移動が多いことを理由にキャリアを諦めさせた」ことを持ち出し「子と親の立場が逆転している」と問題視。
また、オーストラリアの保守派の社会・政治コメンテーター、アンドリュー・ボルトは、「こんなに若くて、たくさんの精神疾患を患っていて、たくさんの大人からグル(指導者)と仰がれる少女を見たことがない」と発言。「彼女は、恐怖を求めて慢性的に終末論的に惹きつけられているようだ」といい、オーストラリアの政治評論家のクリス・ケニーは、助けが必要な「ヒステリックな10代」と中傷する。
ほかにも、「彼女に必要なのは、お仕置きなのか心理的治療なのか。おそらく両方だな」といったツイートや、彼女の活動を中世の魔術に紐づけて論じている男性コメンテーターもいると、英紙「インディペンデント」は報じている。
「彼らは、グレタのことを話すとき、必ずといっていいほど『チャイルド(子供)』という言葉を使いますが、あれは言葉のあやではありません」。そう同紙に語るのは英国の作家、カミラ・ネルソン。彼女は、こうした保守派の中年男性たちについて「いかにもミソジニーらしい常套手段を使って、彼女のメッセージや論点を意図的にすり替えようとしている」と述べている。
「感情的だ、ヒステリックだ、精神障害だ、といった攻撃は、公に向けた女性の声を封じたり、女性の権威を弱体化させるのによく使われる手法です」
「保守派の中年おじさんたちが、グレタの言動を煙たがっているのは明らか」。しかし、なぜ、彼女はこれほど激しく誹謗中傷されているだろうか。ネルソンは、保守派の権力者たちが彼女の言葉に刺激される理由について、こう語る。
「温暖化を否定する言語は、深層レベルで、産業資本主義に基づく、昔ながらの『男らしさ』からくるアイデンティティと結びついている。それゆえに、行き過ぎた産業資本主義を真っ向から否定するグレタのメッセージは、結果として、保守的でプライドの高い男性たちの信念や価値観だけでなく、彼らの存在価値の否定にも繋がっている」
「彼らは、グレタのことを話すとき、必ずといっていいほど『チャイルド(子供)』という言葉を使いますが、あれは言葉のあやではありません」。そう同紙に語るのは英国の作家、カミラ・ネルソン。彼女は、こうした保守派の中年男性たちについて「いかにもミソジニーらしい常套手段を使って、彼女のメッセージや論点を意図的にすり替えようとしている」と述べている。
「感情的だ、ヒステリックだ、精神障害だ、といった攻撃は、公に向けた女性の声を封じたり、女性の権威を弱体化させるのによく使われる手法です」
「問題はメッセージの内容ではなく、誰が言うか」
「保守派の中年おじさんたちが、グレタの言動を煙たがっているのは明らか」。しかし、なぜ、彼女はこれほど激しく誹謗中傷されているだろうか。ネルソンは、保守派の権力者たちが彼女の言葉に刺激される理由について、こう語る。
「温暖化を否定する言語は、深層レベルで、産業資本主義に基づく、昔ながらの『男らしさ』からくるアイデンティティと結びついている。それゆえに、行き過ぎた産業資本主義を真っ向から否定するグレタのメッセージは、結果として、保守的でプライドの高い男性たちの信念や価値観だけでなく、彼らの存在価値の否定にも繋がっている」
今年9月、ニューヨークで開催された国連気候行動サミットでのスピーチ。Photo by Stephanie Keith/Getty Images
だが、グレタのメッセージ──、地球上の自然や人類の終焉を警告する内容は、これまでに何度も語られてきたものだ。「ハリウッド俳優で環境活動家のレオナルド・ディカプリオやマーク・ラファロも同じ趣旨のメッセージを発信してきたが、彼らはグレタほどは非難されていない」と話すのは英国のジャーナリスト、ソフィー・ウィルキンソン。「問題はメッセージの内容ではなく、誰が言うか」。
これと同じことを、ファイナンシャル・タイムズでも述べており「子どもに叱られて気分をよくする大人はいない、それが的を射ているならなおさらだ。グレタは大人にとんでもなく大きな罪悪感を抱かせている」とコメント。
一方で、「社会(大人)はいつだって若い女性に興味津々だ」とも語る。ただし、興味をそそられる“少女”に限る、とし、
「ポップスターや女優、モデルなど、彼女たちは思春期の頃から、大人に好まれるように振るまうことを教え込まれてきた。多くの場合、その選択肢は、無邪気で純粋無垢な少女か、はたまた『ベイビー・ワン・モア・タイム』の時の制服姿のブリトニー・スピアーズのような危なっかしい色気を振りまく挑発的なスクールガールか」と続けた。
グレタといえば、おさげがトレードマーク。高校生とはいえ化粧っ気はなく「実年齢よりも幼く見える」と、実際に彼女にインタビューをしたアトランティックのライターは語っている。それでいて「公の場での口調は鋭く、幼い子どもらしさはない」。
上述の国連気候行動サミットでのスピーチでは、各国の首脳ら相手に「あなたたちが語り合う、お金や途絶えることのない経済成長といった “おとぎ話” 」と、なかなか挑発的な発言もしている。また、人を動かしたり意見をするときに社会でよく使われる「相手を褒めてから突く」といった手法も、彼女の言動からはほとんど見受けられない。要するに、大人への媚びがないのだ。
以前、カナダのジャーナリストで社会活動家のナオミ・クラインは、グレタについてタイム誌にこう語っていた。「彼女を『こういうタイプの子』だとカテゴライズするのは難しい。理由は、彼女が他人からの承認を求めていないからだと思います」
他人から好かれたい、好感度をあげたいといった欲望もなく、「偉いね」「勇気があるね」といった褒め言葉も効かない。自分の信念と直感に従って行動する彼女を前にして、「戸惑う大人も少なくない」。
こういった彼女の性格や姿勢に対し、アトランティックは「この突き抜けた感じこそ、彼女の影響力のキーである」と述べ、インディペンデントは、中年の、特に権力を持ったおじさんたちが、彼女に“イラつく”理由はここにあるとした。
権力を持つ大人が作った社会──たとえば、銃社会や産業資本主義社会(および温暖化社会)に意義を申し立て、大人に愛想を振りまかない10代の女性アクティビストたちは、グレタに限らず牙を向けられてきたと述べ、大人たち、特に男性に向けてこう発信している。
「上から目線で若い女性を値踏みするのを今すぐやめるべき。女性の発言の自由を奪うために作られた値踏みほど愚かで古臭いものはない」。
他人から好かれたい、好感度をあげたいといった欲望もなく、「偉いね」「勇気があるね」といった褒め言葉も効かない。自分の信念と直感に従って行動する彼女を前にして、「戸惑う大人も少なくない」。
こういった彼女の性格や姿勢に対し、アトランティックは「この突き抜けた感じこそ、彼女の影響力のキーである」と述べ、インディペンデントは、中年の、特に権力を持ったおじさんたちが、彼女に“イラつく”理由はここにあるとした。
権力を持つ大人が作った社会──たとえば、銃社会や産業資本主義社会(および温暖化社会)に意義を申し立て、大人に愛想を振りまかない10代の女性アクティビストたちは、グレタに限らず牙を向けられてきたと述べ、大人たち、特に男性に向けてこう発信している。
「上から目線で若い女性を値踏みするのを今すぐやめるべき。女性の発言の自由を奪うために作られた値踏みほど愚かで古臭いものはない」。