医師との会話がどうしても「ズレまくる」理由

「合併症」「確率」などの言葉にご用心

患者と医者のコミュニケーションで起こる“すれ違い”の原因とは?(写真:horiphoto/PIXTA)
医師とうまく意思疎通できない――。そう思ったことがある人は多いのではないでしょうか。
知ってはいけない 医者の正体』の著者であり、現役の医師である平松類氏は 全国各地の病院に勤務し、延べ10万人以上の患者さんと接してきたことから、「医者が発する言葉」と「患者さんが受け取る言葉」について、解釈の違いを実感していると言います。
解釈が違いがちなのが、「治療」「正常値」「標準治療」「最新治療」「合併症」「確率」といった言葉。病院などではよく聞く言葉だからこそ、注意しなければなりません。医者がはたして、どういう意味で使っているかを、平松氏に聞いてみました。

「治療」の正しい意味、知ってますか?

まず「治療」とは、「病気をなくして健康な状態にすること」だと思っていませんか? 実は、これは完全に正解とはいえないのです。

例えば、「肺炎」であれば、抗生物質を使って治療をすれば、すっかり治って何もなかったかのようになります。これが「治療」のイメージでいちばん多いものです。

けれども、高血圧の場合は「高血圧の治療をしましょう」と言われて薬を出されたとして、患者さんは来月には高血圧が治って薬がいらなくなるでしょうか? そんなことはありません。ずっと薬を飲み続けなければいけません。

このように医者にとっての「治療」とは、「病気をなくして健康な状態にする」ということだけでなく、「数値が改善するだけで、何にも実感がない状態」や「病気自体は消えないが、症状だけが落ち着く状態」にするということも含んでいます。「医療行為によって、完治に限らず、状態をよい方向に向かわせること」が「治療」の正しい意味となるのです。

ほかにも例を挙げましょう。緑内障になって見にくくなり、視力0.1まで下がったとします。「緑内障の治療をしましょう」と言って治療をしますが、視力は上がりません。どんなに治療が成功しても0.1のままです。このまま放置すると失明する可能性が高い病気なので、失明しないように治療しているだけなのです。

患者さんにとっては「治療しているのに、ちっともよくならない」と思います。一方で医者は「治療したおかげで、悪くならずに済んでよかった」と思っています。

すれ違いをよく起こす言葉として「お変わりありませんか?」があります。「症状がちっともよくならないよ」という不満の気持ちで「変わりません」と患者さんが言っている一方で、医者は満足げに「変わってないのか。それはよかった」と思って同じ治療を続けます。

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  • 大吉254751bcddb2
    患者は100%元に戻ると期待する事が間違えの一つでしょうね、手術になればまず切る中を触る縫うだけでも傷跡が残る気になる又しばらくは疼く事が理解出来ない人が多すぎる事も患者は医師が全部覚えてくれていると思い込んでいる事もトラブルになる理由ですね、沢山の中の患者の一人でパソコンで確認しないと医師は全部覚えれる訳が無い事が理解出来ない患者が多すぎますし、周りの素人やテレビで見た情報が正しいと、自分の病気を自己診断して医師が違う意見を言っても素直に受け入れ無い人も多いと思います
    私は緑内障で残りの視野を維持する為の治療に医師の指示に従い信頼し全て任せる事が全てだと理解出来ますが、周りからは手術で治るや病院が悪いから紹介するからとか病気を理解せずに自分の間違えた知識を押しつけてこられる方がストレスですね
    医師の中にも合う合わないがあるので信頼できる医師を探す方が良いと思います
    up23
    down2
    2019/10/21 08:24
  • 如月五月ブログ6407c324596e
    そもそも、

    「治療」「正常値」「合併症」と言う言葉の意味を
    医師と患者で取り違えているという実態を明らかにした
    点でこの記事の意味は大きい。

    要するに、どちらも自分の立場に立った定義をしている訳
    で、双方から歩み寄る姿勢は必要だと思うが、個人的には
    専門家である医師側からのアプローチが優先されるべきでは
    ないだろうか。

    語弊があるかもしれないがある意味、医師と患者は「治療」と
    いう商品の売り手と買い手の立場にある。

    対価を受け取る側の方に説明責任があるというのが普通の見方
    だと思うのだが。
    up10
    down5
    2019/10/21 08:49
  • カオナシd97cde8a9067
    パソコンやスマホ初心者に専門用語で教えようとして混乱するのと同じかな?

    日本語だし考えればそこまで難しくはないけど‥でも「治療」と「正常値」は分かるけど‥「合併症」を2つの意味で使ってるのはややこしい。普通に1つ目の病状と合わせて起きる複数の症状としか思わなかった。

    本当の医学用語ってドイツ語だらけらしいから、医者はこれでも分かりやすく説明してるつもりかもしれないけど‥
    up4
    down1
    2019/10/21 09:08
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