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ん?今何でもするって言ったよな?~鬼畜な蛮族王と性奴隷に堕とされた媛巫女~《全年齢版》 作者:桜木桜
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第玖(9)話 モルヒの戦い 起

700ptに達したので、公約通りに投稿致しました


「戦力を分断させても、良いのですか?」


 バータルは五〇〇〇〇の本隊を率いて、ケーロン州へと向かっていた。

 兵力が劣っているのは明らかにも関わらず、どこか余裕の表情を浮かべているバータル。

 ミィーミアはそんなバータルに疑問を投げかけた。


「うん? ああ、兵を分けていることか」


 バータルは総兵力、一〇〇〇〇〇を大きく三つ分けていた。

 一〇〇〇〇はツェレンが先遣隊として率いており、五〇〇〇〇の主力はバータルが、そして残りの四〇〇〇〇はその後方を進軍している。

 この三つの集団同士は八十里(四十キロ)以上の距離が離れていた。


 加えて主力五〇〇〇〇も一〇〇〇〇ずつに小分けしていた。

 本隊であるバータルが中心に、そしてそれを取り囲むようにそれぞれ三十里(十五キロ)程度の距離を保ちながら四人の万騎長が一〇〇〇〇を率いている。



 ミィーミアは各個撃破を心配しているのだ。


「もともとこちらは兵数で劣っている。だからその心配は今更……一〇〇〇〇〇で動いても変わらん」

「なればこそ、ではありませんか?」


 そういうミィーミアに対し、バータルはやや面倒くさそうに言った。


「一を十倍にするよりは、十を十倍にした方が良いだろう?」

「どういうことでしょうか?」

「ファリン、愛しのミィーミア様に説明してやれ」


 お前ならばわかるだろう、とでも言うようにバータルは言った。

 ファリンは静かに――やや不服そうに――頷いた。


「聖下、こちらはすでに兵数で劣っています。それをさらに分けるのですから、無論、危険は跳ね上がります。ですが……分けることで速度は上がる。兵数を抑えれば、その分渋滞の発生は緩和され、そして補給への負担も軽減します。それに……軍はもっとも足の遅い部隊に、引きずられますから」


 ここで言う最も足の遅い部隊とはポンクスを含めた将軍たちが率いている後続の四〇〇〇〇だ。 

 これに合わせて動けば、敵に兵力を集中させる猶予を与えることになる。

 兵力差がさらに開いてしまうのだ。


「ですが……バータル殿。やはりあまりにも危険ではありませんか? 各々が一〇〇〇〇など……せめて二〇〇〇〇ほどに再編成するべきではありませんか」


「ふむ……これは兵法書には書かれていないか?」


「……何がですか?」


「地図を広げろ。万騎長たちのいる方角と、距離を教えてやる。それを見て考えろ」


 バータルはそう言いながら各方向に指をさし、その距離を口にする。

 勿論、実測はできないため「馬の足でどれほどの時間が必要となるか」という曖昧な記述になるが。


 淡々と距離を言ってみせるバータルに、ファリンは慌てた様子を見せた。


「待ってください! どうしてそこまで正確に距離が分かるのですか?」

「早馬でやり取りをすれば良いだけだ」


 そんな話をしていると、丁度早馬がやってきた。

 伝令兵は鬼狄語で、バータルに万騎長からの言葉を伝える。


 それからバータルは、先ほど教えた距離と方角を少しだけ、修正するようにファリンに言った。


「な、なるほど……馬の数が違うということですか」


 替え馬に馬を交換してから、再び万騎長のもとへと帰っていく早馬の背を見送る。

 鬼狄軍の騎兵は常に三頭から四頭の替え馬を率いながら進軍しており、早馬となれば五、六頭を超える。


「しかしいくら迅速にやり取りをしたとしても……」


 ファリンは地図とにらめっこをしてから……ハッとした表情を浮かべた。


「四角形……ですか」

「そういうことだ」

「どういうことですか?」


 置いてきぼりにされたミィーミアが尋ねると、ファリンは空中に指で四角形を描く。 

 自らも確認するかのように。


「五〇〇〇〇の軍勢は五つに分かれ、中心とそれを取り囲む四つの頂点で構成された四角形を描いています。常にこの形は崩れず、距離も開かない。故にもし仮にどこかの頂点が攻撃されても、馬の足で半日以内に存在する別の頂点がすぐさま援軍として駆けつけるのです」


「ついでに言えば、その四角形の前方ではツェレンが走っている。あいつが前にいる敵を報告してくれる。だから余計な戦いは事前に回避できる」


 もし進軍方向に強固な城があれば、避ければ良い。

 もっとも……中にはどうしても進軍の都合上、避けられない城もある。

 そういう時はそこへ兵を一時的に集め、強引に突破するしかない。

 この城が強固であればあるほど、鬼狄軍の足は止まる。


 故に……実は勝利できるか否かは別として、嫌がらせとしてはルクロウス・ロウエンの提言は正解だった。


「しかし彼女は……ツェレンさん、でしたっけ? あんな幼い少女に、一〇〇〇〇騎もよく預けますね」


 ファリンは皮肉混じりに言った。 

 それに対し、バータルは淡々とした声で答える。


「あいつは機転が利く。どうとでもなるだろう……無理そうならば、一度リンネイ州に戻れば良い。略奪するだけでも敵に損害を与えられるし、儲かる」


 バータルはそもそもケーロン州の占領に拘っていない。

 遊牧民にとって国は土地ではなく人だ。

 だから土地が得られないことはそれほど嘆かない。人がいる限り、それを得る機会はいくらでも巡ってくる。


「バータル様、お一つ聞いても?」

「どうした?」

「彼女は、ツェレンさんはえっと……何者ですか?」


 ミィーミアが尋ねる。


「俺が先代単于を殺して、この地位を奪い取ったことは知っているだろう? 彼女はその娘だ」


 思っていたよりも複雑そうな関係に、ファリンとミィーミアは何とも言えなそうな表情を浮かべた。

 ミィーミアはふと何かを思いたった様子で、恐る恐るバータルに尋ねた。


「……まさか、あんな幼い子を抱いていませんよね?」


「そんなわけあるか。下手に孕ませれば、死んでしまうだろう。まだ手を出したことはない」


 まだ、ということはいつかは手を出すのか。

 ミィーミアとファリンは内心で思ったのだった。






 一方、その噂のツェレンはバータルたちよりもはるか前方を進軍していた。

 すでにツェレンはケーロン州に足を踏み入れていた。


 敵の懐に僅か一〇〇〇〇騎で乗り込んでいるのだから、すぐに敵に撃退されてしまうのではないか。

 そう思うかもしれないが、しかしケーロン州の軍はツェレンの侵入を感知していながらも、その位置を捕捉できていなかった。


 理由はその進軍速度である。

 通常、エルトニア王国の軍隊はそれなりに訓練された兵ならば一日に三十里(十五キロ)から四十里(二十キロ)が限界であり、精鋭でも六十里(三十キロ)以上は厳しい。


 が、ツェレンの一日の進軍速度は百四十里(七十キロ)を超えていた。

 これはツェレンが率いているのが騎馬隊――それもただの騎馬隊ではなく、一騎につき二、三頭以上の替え馬を持っている――からである。


 加えてツェレンは自軍を中心に二十里(十キロ)以上先の前方に軽騎兵を分散させて走らせていた。

 彼らが一早く敵部隊を補足し、それをツェレン率いる本隊に伝えるのだ。


 故にツェレンは前方にどれくらいの敵がいるのか、地形がどうなっているのかを予めしることができ……

 戦闘をするべきか、否かを事前に判断できる。


 もし撃破が容易と判断すればそのまま敵のもとへ向かい、難しいのであればそれを避ければ良いだけだ。


「ツェレン様、二十里(十キロ)前方に敵の歩兵部隊を発見致しました」

「……かずは?」

「二〇〇〇〇です」

「どんなかんじ?」

「武器は不揃い、そして長々と列を作って歩いております。おそらく、新たに募兵された兵かと。編成前のようですな」

「わかった」


 ツェレンは全部隊に早馬で指令を出す。

 このまま真っ直ぐ進み、敵を蹂躙すると。





「むむむ……敵は昨日までは百五十里(七十五キロ)先にいたはずではないか。鬼狄の騎兵は早いと聞いていたが、ここまでとは……」


 ケーロン州の州知事は苦虫を噛み潰したような表情で言った。

 敵の先遣隊に襲われたこちらの部隊は十を超え、焼かれた村落は百を超える。

 ケーロン州の連絡網にも混乱が生じており、兵は思うように集まっていなかった。


 ……実際のところ、ツェレンがケーロン州の軍に与えた損害はさほどでもない。

 彼女は進軍中の無防備な敵軍へ、奇襲や強襲を繰り返していたが、しかし決して深入りだけはしなかった。


 故に与えた損害は小さい。

 ……が、いくら死傷者が少なくとも、一度散り散りにされた兵を再び集めるのは数日、下手をすれが一週間以上は掛かってしまう。


「敵本隊の移動速度も、想定より早いですな」


 歩兵を随伴しているバータル率いる本隊の移動速度は一日五十里(二十五キロ)を超えていた。

 四十里(二十キロ)は超えないだろうと高を括っていた軍師たちであるが、その予想は外れたのだ。


「ふむ、どうすれば良いか、考えを聞かせてくれ」


 州知事は軍師たちに尋ねた。

 彼はまだまだ余裕だった……それは彼が抱えている兵はすでに一〇〇〇〇〇を超えていたからである。


 どう転んでも数の優位は絶対だ。


「敵が集まる前に、決戦を挑んだ方が良いかもしれませぬ。このままではいたずらに被害が拡大します」

「不幸中の幸い、敵は速度を優先するあまり、戦力を分断させるという愚行を犯しております」

「こちらは一〇〇〇〇〇以上、一方の主力五〇〇〇〇は、一〇〇〇〇ずつに分かれています。これだけの兵力差があれば勝利は容易いでそう」

「あと数日待てば、こちらは一五〇〇〇〇になります。もし敵が兵を集中させることに成功したとしても五〇〇〇〇。三倍の兵力差であれば、いかに鬼狄が精強であろうとも、数の差で押しつぶせるでしょう」


 一見、ケーロン州側が追い込まれているように見えるが……

 しかし考えようによっては、ケーロン州側が有利である。


 もともとは一〇〇〇〇〇対三〇〇〇〇〇を予定していたが、それが五〇〇〇〇対一〇〇〇〇〇、もしくは一五〇〇〇〇に持ち込むことができるのだから。


(このまま三〇〇〇〇〇が集まるのを待つか……否、それだとかなり時間がかかる。それでは敵が再集結してしまうだろう。軍師たちの言う通り、敵が孤立しているうちに叩くのが得策。今の一〇〇〇〇〇、いや念を入れて一五〇〇〇〇集まるのを待った方が良いか。あと五〇〇〇〇ならば、あと数日でこちらに合流できる)


 州知事はそう判断し、一五〇〇〇〇が集まるのを待ってから進軍を開始した。


 一方バータルはツェレンからの偵察部隊からの報告により、この一五〇〇〇〇の動きをいち早くしった。

 バータルはこれを避けることなく、逆に決戦を決意する。

 故に速度を調節しつつ、徐々に四角形の距離を縮め、五〇〇〇〇を終結させた。


 結果、バータル率いる五〇〇〇〇とケーロン軍一五〇〇〇〇は街道上で鉢合わせすることになった。






「歩兵一三〇〇〇〇、騎兵二〇〇〇〇……歩兵に対し、随分と騎兵は少ないな」


 バータルは呟いた。

 もっとも、それは当然の話である。歩兵は農民に武器を持たせただけでも作れるが、騎兵はそうはいかない。

 維持費がかかることもあり、どの州もせいぜい一〇〇〇〇程度。

 むしろ二〇〇〇〇という数字は多い方であろう。


「さ、三倍ですよ? バータル様。だ、大丈夫ですか?」

「つまり一人三殺、簡単だな」


 簡単ではない。

 が、しかしすでにイスウの戦いでは一人二殺を成功させていることもあり、妙な説得力があった。

 故にミィーミアはバータルを信頼し、安心することにした。……その方が精神的に楽だ。


 しかし軍人であるファリンは、詳しいからこそ『一人五殺』が難しいことを知っている。


「そもそも、バータル殿は歩兵指揮の経験があるのですか?」


 懸念を口にするファリン。

 バータルはそれに対し、質問で返した。


「歩兵と騎兵の違いは分かるか?」

「違い、ですか。そうですね、最大の違いは機動力……」

「馬に乗っているか、否かだ」


 そっちかい。

 ファリンは内心で突っ込んだ。


「馬がなければ戦えないほど、我々は軟弱ではない」


 バータルはそういうと部下に戦鎚を持ってこさせた。

 ブンブンとそれを振り、調子を試す。


「少し挨拶に行ってくる。バヤル、一時指揮は任せたぞ」

「はい、単于」


 バヤルと呼ばれた黒い二本角の鬼狄族の男性は頷いた。

 どこか軽薄そうな雰囲気を身に纏っている。

 鬼狄族の万騎長の一人であり、また同時にバータルの乳兄弟でもある彼は、バータルの腹心の部下の一人である。


 バータルは三〇〇〇〇の騎兵を率いて敵へ向かってしまった。


 斯くして、『モルヒの戦い』が始まろうとしていた。


面白い、続きが読みたいと思って頂けたら、評価、ブクマ等を頂けると幸いです


次回更新は明日の12時です

ただ明日の12時までに1000ptに達していれば、1000に達した段階で記念として最新話を更新する予定です(12時の更新は固定なので、つまり明日の更新回数が+1話になります)

※明日は平日なので1000pt達成時にすぐに投稿するのは難しいかもしれませんが、1000ptに(12時までに)達していた場合は+1話という公約は守ります


追伸

あと、もしかしたらタイトルが変わるかもしれません

その場合、


『復讐のためなら「何でもする」という天子ちゃん(金髪碧眼エルフ)の天下統一を手助けする代わりに、天子ちゃんを性奴隷にし、ついでに暴力と権力でハーレムを作ってしまう鬼畜な蛮族王の(かなり)Hな戦記モノ』


みたいな長文になります。

案外、こっちの方が分かりやすいのかなと思ったり、思わなかったりしています

タイトルって難しいですね



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