5.BABYMETALの世界的ヒット~さくら学院の部活動がもたらしたもの
現在「楽曲派」の最高峰と言えるのは、今や世界的存在となったBABYMETALであることは間違いないのですが、その活動は母体となったアイドルグループさくら学院の「部活動」まで遡ります。
さくら学院は2010年のデビュー時から、ライブでの音楽的バラエティとして「部活動」という形で全メンバーから数人が選抜される形のグループ内ユニットを組み、その部活の内容に合わせたジャンルの楽曲を歌うことが通例となっています。
年1枚リリースされる「さくら学院」名義のアルバムにもその楽曲は収録されていて、現在までの部活動の総数は10に及びますが、シングルを単独リリースしたのは2010年から2011年、「バトン部 Twinklestars」「科学部 科学究明機構ロヂカ?」そして「重音部 BABYMETAL」の3組。
バトン部 Twinklestarsは「渋谷系」的シティポップ、科学部 科学究明機構ロヂカ?はテクノポップ、重音部 BABYMETALはヘビーメタル的楽曲と、その部活動ごとに音楽的ジャンルを分けることで、さくら学院としての活動にアクセントをもたらしていました。
しかしバトン部 Twinklestarsの「渋谷系」的音像は、すでに2007年デビューのバニラビーンズが取り入れていたものであり、さらに遡ればおニャン子クラブの渡辺満里奈のソロ活動の一時期、リアルタイムの「渋谷系」と同時進行で行われていたもの。科学部 科学究明機構ロヂカ?は、当然テクノアイドルとしてPerfumeがヒットを飛ばし続けている中だということもあり、その音楽スタイルはあまり注目されませんでした。
しかし、BABYMETALの「本格的なメタルサウンド+アイドル」というスタイルは過去にはない衝撃的なものでした。メタルファンを中心にした「非アイドルファン」からの反響も高く、そこに可能性を見出したのでしょう、さくら学院はデビュー当初はトイズファクトリー所属だったのが、2011年半ばにはユニバーサルにレーベル移籍しているのですが、BABYMETALだけはトイズファクトリーに在籍し続けることになります。そして他の部活動はメンバーの卒業と共に消滅するか、新メンバーに入れ替わるのが通例の中、BABYMETALは中元すず香のさくら学院卒業以降も固定メンバーで独立して存続し、「部活動」的な活動から脱却してさらに独特の世界観と楽曲を突き詰めることで世界的なヒットに至ります。
さくら学院の部活動は、様々な「ジャンル」をグループに与えていく方針の先駆けになると共に、コアな音楽性を突き詰めることでアイドルファン以外にもその音楽を広く訴求可能になることを知らしめることとなり、その後他のコアな音楽性を持つアイドルグループが生まれるきっかけになっていきます。
6.ジャンルをクロスオーバーするアイドル~「何でもあり」の時代の到来
一方、ジャンルにはこだわらなくても、高品質な音楽を届けようという動きは継続的にあります。
J-POPのプロデューサーチーム・agehaspringsが手掛けたグループTomato n’Pine、様々なパロディジャケと共に洋楽を含む様々な音楽ジャンルに浸食していくゆるめるモ!等がその例になりますが、「楽曲派」の方針に則らない形で高品質な楽曲を提供する代表例としてはスターダスト所属の各グループが挙げられます。
前山田健一による破天荒な楽曲によって注目を浴びたももいろクローバー(ももいろクローバーZ)は、その後のヒット以降、中島みゆきやKISSをはじめとした海外を含む様々な大物ミュージシャンとのコラボレーションを行うことになりますが、後発の私立恵比寿中学以降のグループはそのコラボレーションのベクトルを同時代の若手バンドミュージシャンに向け、夏のロックフェスにも登場するような人気ミュージシャンからも多数のオリジナリティ溢れる楽曲提供を受けて活動しています。そのため、楽曲ごとの振れ幅はとてつもないことになっているのですが、むしろそんな「振れ幅の大きさ」を「次に何をするのかわからない」演出を添え、それをグループの個性として打ち出すことで、お奇想天外なアイドルグループとしての位置をキープしています。
ジャンルとしての固定のない、狭義では「楽曲派」とは捉えられないグループでも、様々なスタイルを持つミュージシャンと様々なコンセプトで音楽性の高い楽曲を輩出していくことで、アイドル界全体が音楽としてさらに「何でもあり」の方向に進んでいくことになります。
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