アント フィナンシャル サービスグループは、自社が運営する世界最大のモバイル決済およびライフスタイルプラットフォームであるアリペイ(Alipay)について、国慶節期間中(中国の大型連休:10月1〜7日)における中国人観光客(香港、澳門、台湾を除く)の消費統計データを発表しました。
アリペイアプリを通じた海外での取引件数増加に加え、中国人に人気のある旅行先や旅行体験についても報告しています。
アリペイと中国人観光客の関係性から、日本のインバウンド経済に及ぼす影響を考察します。
アリペイ決済の海外躍進を示す調査結果に
アント フィナンシャル サービスグループが発表したアリペイ消費統計データによると、日本におけるアリペイでの取引件数は前年同期比124%増で、海外旅行先別の取引件数ランキング世界1位でした。
一人あたりの消費額が前年同期比15%増となるなど、中国人のアリペイを使った取引が増加していることがわかります。
他国を見ると、アリペイの導入店舗が増えたカンボジアをフィリピンがランキングトップ10入りしています。
2018年同期比で取引件数の増加幅が最も大きかったのは、ポルトガルの64倍です。2番目に増加幅が大きかったフィリピンの26倍の、倍以上の数値でした。
これは、海外旅行先として人気が急増しているヨーロッパと東南アジアにおいて、直近12ヶ月で多くの現地店舗がアリペイを導入したためと考えられるようです。
日本へ旅行に訪れる中国人観光客の特徴とは
アリババグループの旅行プラットフォーム、フリギー(Fliggy)のデータによると、中国人観光客に最も人気な海外旅行先が日本であることがわかりました。訪日中国人観光客は、上海、北京、浙江省から最も多く訪れています。
日本を訪れる中国人の過ごし方には変化が起きているようです。
当サイトで既報の通り、「爆買い」という言葉に象徴される大量に物資を購入する「モノ消費」から、サービスや体験に価値を見出す「コト消費」へと移行しつつあります。
2019年の国慶節では、9月に台湾の人気歌手ジェイ・チョウが発表した新曲のMVが東京を舞台にしており、聖地巡礼をする中国人ファンが多いと見込まれました。
東京タワーや皇居周辺、谷中銀座など、MVに登場するロケ地を巡りってその世界観を楽しむなど、中国人観光客が日本でしたいことも多様化してきています。
中国人はなぜアリペイ(Alipay)を使用するのか
アリペイは中国語で「支付室」と書き、「ジーフーバオ」と読みます。中国の大手IT企業アリババグループが運営のトップのため英語でアリペイ(Alipay)と呼ばれています。
QRコードを使ってモバイルで決済する仕組みで、誰でも気軽に利用できる点が特徴です。
アリペイが拡大しているのには、中国の国内事情が関係しています。中国では偽札による被害が横行しており、キャッシュレス決済の普及が急がれていました。
また、中国人はクレジットカードを作れる人が少なく、より簡単に利用できるモバイル決済が浸透したという見方もあります。
さらに中国では、露店などでもアリペイが使用できる店が豊富で、運営側がどこでも気軽に利用できる地盤を積極的に構築していることも、アリペイの普及を広めているようです。
実際、この国慶節の日本におけるアリペイ使用の場所トップ3は、3大コンビニエンスストアチェーン、マツモトキヨシ、関西国際空港となっていて、小さな買い物からアリペイによるモバイル決済を活用していることが伺えます。
アリペイには、資産や返済といった5つの項目で評価される信用スコア「ゴマクレジット」という機能があります。
ゴマクレジットを高めると、後払いが可能になったりローンの金利が優遇されたりといった特典があり、そのメリットを最大限に活用したいユーザーも多いようです。
参考:https://money-pentagon.com/setsuna/alipay/
https://webkikaku.co.jp/site/creditcard-capture/alipay/
アリババグループのサービス、日本のスマホ決済事業者と協力
アリペイの決済サービスは、2004年にスタートしました。2019年現在で、グローバルパートナーを合わせたアクティブユーザー数は12億人以上となっています。
日本においては、2018年にPayPayとの連携が開始されるなど、日本のスマホ決済事業者と協力関係を築いています。
PayPayは、ソフトバンク株式会社とヤフー株式会社の合弁によって運用されているQR・バーコード決済サービスです。
アリババグループの日本法人、アリババの社長香山氏は、アリペイを導入する店舗側にとっても中国人観光客の来店が見込める利点が大きく、「日本でキャッシュレスの普及が進むエンジンになる」との見解を示しています。
参考:https://www.sankei.com/economy/news/190418/ecn1904180033-n1.html
インバウンドと国内消費とどちらに焦点をあてるのかが課題に
中国では、アリペイとWeChat Pay(ウィーチャットペイ)の二大モバイル決済が普及し、中国人は財布を持たずに外出するほどキャッシュレスな世界にりつつあると言います。
日本に旅行に来た時にも、気軽にアリペイで支払いができることは、訪日中国人観光客に大きなメリットとなるでしょう。
他方、日本人が使用するモバイル決済サービスは既に多く存在し、各会社でさまざまな特典を提供しながら事業を展開しています。
便利である一方で、モバイル決済サービスが乱立しすぎて対応しきれないといった声が若者からもあがっています。
その背景の中で、アリペイでは敢えて日本人向けのサービスを提供することは考えていないようです。
インバウンド消費に向けてアリペイの導入を進めるか、国内ユーザーの利便性向上のために数多く存在する国内モバイル決済を徹底させるのか、悩ましい課題と言えます。