「野菜の値段の9割は中間マージン」の衝撃

2019年10月20日 06:00

野菜の値段の9割は中間マージン

みなさん、例えばスーパーで200円のキャベツを買ったとします。その「原価」つまり、農家の方が手にする収入はいくらかご存知ですか?ざっくりいって、20円です。つまり、180円が中抜きされています。これが、日本の今の経済社会の歪みを象徴的に表しています。

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マッキンゼー のレポート「日本における農業の発展、 生産性改善に向けて」の調査レポートを引用します。

「サプライチェーンにおける中間業者のコストは、生産額の約 9 割にも上る」

加工用や外食向け以外で、直接、消費者に販売される生鮮食品の生産・輸入額は3.1 兆円だ。驚くべきことに、それに対して実に2.8 兆円の流通マージンが上乗せされている。これらは、主に卸市場における手数料や配送にかかっている費用である。

深刻化する日本の農業

今、日本の農業が危機的状態にあります。生産者の高齢化が進んでおり、60 歳以上の生産者が占める割合は2015年で77% となり、後継者不足が深刻です。なぜ、誰も農業をやりたがらないかというと、「きつい・汚い・危険」の現業忌避傾向もあるでしょうが、一番大きいのは、収入が低く「農業でご飯が食べられないからです。」全国平均の農家1戸あたりの耕地面積は23.5反(千平米)で、反あたり平均農業収入は  5.9万円、一戸あたりの農業収入  139万円です。

これはあまり知られていませんが、実は、日本は世界第9位の「農業大国」です。1970年に120億ドルであった農業GDP は、1985年には410億ドル、2013 年には 580 億ドル と、堅調に成長しています。しかし、それでも農業人口が減少していったのは、日本が飛躍的な高度成長を遂げる中で、第二次・第三次産業の労働需要が拡大し、結果、労働者の収入≒サラリーマンの給料の伸びが、農業所得の伸びを大幅に上回ったからです。それは、みんなお金を稼げるほうがいいですから、農家の子女が都会に流入し、地方は寂れていったわけです。

農業の相対的地位の復活

それから50年が経ち状況は反転しました。低成長が深刻化し、都会には非正規労働者が溢れています。本当だったら、相対的な農業の優位性が高まり、都会から地方へ人口の逆流が生じてもいいはずですが、先ほどの「中間マージン9割問題」で、それが起きていないわけです。

では、なぜ「中間マージン9割」という異常な状況が定着してしまったのでしょうか。

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なぜ「中抜き」が起こるのか

話を簡単にするために、大手スーパーが中間マージンの取得者だとします。ここで、大手スーパーは経済学的に3つの機能を果たしています。

第一に、物理的な流通機能です。生産地からスーパーまで野菜を運んできて、都会に住む消費者に届けることです。

第二に、クリアリングハウス機能(市場機能)です。農家には、消費者の顔が見えないので、誰に売っていいかわかりません。そこで、スーパーに販売を委託します。スーパーには消費者が集まってきますので、売り手と買い手をつなぐことができます。いってみれば、スーパーそれ自体が市場というわけです。

第三に、リスクヘッジ機能です。農作物は(そして私が常々申し上げている、労働力とエネルギーも)、基本的には、貯蔵ができません。売れ残ると腐ってしまい、コストと労力をかけて作った野菜の価値がゼロになり、これは農家に取って大打撃です。スーパーは基本的には、安定的に買い取ってくれます。それを消費者に「特売セール」したり、天ぷら弁当にしたり、野菜ジュースにしたり、冷凍食品に加工したりしてくれます。従って、農家に取って、スーパーは、保険会社のようなものです。

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しかし、スーパーはそれ自体が資本主義経済に組み込まれていている会社組織です。従って、慈善事業でやってくれているわけではありません。だから、スーパーは自社の利益を極大化しようとします。どうするかというと、簡単にいうと、生産者から安く仕入れて、消費者に高く売ることです。そこで、「9割中抜き」が現出します。しかし、流石に9割はひどいというかもしれません。これを経済学的には、「超過利潤」と言います。

資本主義経済の基本は市場競争です。完全市場といって、無数の売り手(農家)と無数の買い手(消費者・あるいは八百屋)が市場に集まれば、価格競争によって、例えば、白菜の値段は150円に落ち着いて、売り手も30円の5倍の値段で売れるし、買い手も300円の半額で買えるわけです。

しかし、スーパーを批判することはできません。日本に無数にいた八百屋は、スーパーに駆逐されて市場から退出してしまいましたが、それも資本主義でいえば競争原理が働いたことであって、国民はスーパーを支持したからです。

では、スーパーが異常に儲けているかというとそうでもありません。店舗を維持するための膨大な設備投資、土地代や、人件費、広告費、商品廃棄費用、万引き対策費などをかけていて、その収支は厳しかったりします。従って、結局のところ、生産者も消費者もスーパーも誰も得をしない状況に陥っているのが現在です。

「地産地消」のリアリティ

そもそも、食べ物も(人もエネルギーも)その土地に張り付いているのが自然で、資本主義経済が行き詰まりを見せている中で、「地産地消」「地域循環型ビジネス」がクローズアップされているのもそこにあります。例えば、茨城県で取れた野菜が、一度東京に集荷されて、それがまた茨城県のスーパーに出荷されて、消費者が買うというのは、明らかに無駄です。

だから、地域の中で、野菜を適正価格で売買できれば、生産者も消費者もハッピーで、農家の所得が5倍の1000万円になって、都会から労働力が流入し、地方が栄えるということになります。

しかし、口で言うのは簡単ですが、それを実現するのは全くもって容易ではありません。「地産地消ビジネス」は農業にしても再エネにしてもコンセプトは綺麗でも、きちんとお金が回るようにしなければ絵に描いた餅に終わります。

「地産地消」を実現するには

それを実現するには、スーパーが担っていた機能をいかに外部化できるかにかかっています。

第一に、どうやってサプライチェーン・ロジスティクスを確保するかです。野菜が、茨城ー東京ー茨城を往復する、総輸送距離よりは明らかに短くなるので、よく知恵を絞れば不可能ではないでしょう。参考になるのはUber Eatsです。あれは、トラック輸送のような大動脈ー毛細血管の中央集権的なものではなく、GoogleMapとゲーミィフィケーションの手法を使って、個人がまるでスマホゲームをするような感覚で、最短経路を導き出して、P2Pで飲食店と出前先を結んでいます。このような、バーチャルで柔軟なサプライチェーンの構築が求められるでしょう。

第二に、クリアリングハウス機能です。要するに、売り手と買い手を結びつければいいわけです。例えば、今はやりのAIでパートナーをマッチングするようなアプリをAIとビッグデータを使って構築することになるでしょう。最適な恋愛相手を見つけるよりは、近所で野菜を買ってくれる消費者のBig Dataで見つけることはそう難しくないはずです。しかも、一度買ってくれる顧客を見つければ、その顧客はリピーターになる確率は極めて高いからです。

第三に、リスクヘッジ機能です。農家の様々なリスク、台風リスク、売れ残りリスク等々をヘッジする保険商品を構築することはそれほど困難ではないでしょう。国民の自動車離れが進んでいる損害保険業界には強力なインセンティブがあります。さらに、ITの時代、消費者にもある程度リスクを負ってもらうことも可能です。電力で言うところのDemand Responseというやつです。供給が変動するのに、消費者が追尾してもらう考えを野菜にも応用が可能でしょう。

牛乳が余って、農家が廃棄するような状況があれば、少しでも買ってあげるようなシステムにしたり、例えば農家を応援するクラウドファンディングで1万円を支援して、収穫に応じて野菜を分けてもらうとか、あるいは、いわゆる曲がったキュウリや台風で落ちたりんごをそれなりの値段で買ってあげるとかそういったシステムは可能です。

世の中のベンチャー投資の流れは、「食物工場」などいわゆるアグリビジネスに集中して、すでにレッドオーシャン化していますが、こうした、ERPならぬ農業支援トータルソリューションパッケージを構築して、As A Serviceで売っていくほうがより儲かるし、社会のためにもなると考えます。是非、みんなで知恵を絞って、地産地消ビジネスでしっかりお金が回るようにしていければと思います。

また、別途書きますが、私はさらに、「農業X再エネ」を組み合わせること、さらに、「農業X再エネX労働力」を組み合わせることで、地産地消ビジネスを、実際の地域で、実際に設備投資をして、よりリアルに実現していこうと考えています。ご一緒いただける方は是非ご連絡ください。

株式会社電力シェアリング代表 酒井直樹
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酒井 直樹
株式会社電力シェアリング代表

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