今回は「酸性の温泉とアルカリ性の温泉、どちらが美容効果が大きいのか」について科学的に説明します。また。酸性のオススメの温泉、アルカリ性のオススメの温泉についても紹介したいと思います。
旅行の醍醐味の一つとして「温泉」がありますよね。旅行先でやることが見つからなくても、とりあえず温泉に入っておくか、となったりもするほどです。
温泉は日本の文化ともいえるほど日本人に定着しているものなのですが、どうせ入るなら、美容効果も同時に享受したくないですか?
私も温泉がすごく好きで、一時色んな県の温泉にレンタカーを借りて行っていました。そして、ちょうどその時「美肌」にハマっていたので、美肌効果のありそうな温泉を選んでいました。
ただ、温泉には「酸性」の温泉と「アルカリ性」の温泉の2種類があり、それぞれ体に対する効果が異なっています。そこで今回、より「美肌」に効果的な温泉はどちらの温泉なのか、を科学的視点も含めて紹介します。
・酸性とアルカリ性の温泉の効果って?
・美肌に効果的な温泉って何だろう…
・美肌効果を享受できる温泉を知りたい!
1. 酸性とアルカリ性
温泉には酸性の温泉とアルカリ性の温泉がありますが、そもそも酸性とアルカリ性とは何なのでしょうか。まずは酸性とアルカリ性の定義から説明したいと思います。
≪酸性とは≫
ここでは、酸性の水溶液の象徴ともいえる「塩酸」を例に説明をします。塩酸の化学式はHClです。塩酸は、塩化水素が水に溶けたものであるため、液体です。そして塩酸水溶液は、液体中で以下のように分離(これを電離と呼ぶ)をして存在しています。
HCl ⇔ H⁺ + Cl⁻
そのため、塩酸は水溶液中ではH⁺とCl⁻という形で存在します。このH⁺(水素イオン)が「酸性」の定義です。つまり、H⁺の量が酸性の強さの基準ということです。一般的に、水溶液中にH⁺がたくさん存在していれば強酸性、少なければ弱酸性と呼ばれています。
≪アルカリ性とは≫
アルカリ性に関しても、酸性と同様の原理です。今回はアルカリ性の象徴ともいえる、水酸化ナトリウム水溶液を例にとりましょう。水酸化ナトリウムの化学式はNaOHです。
そしてこの水酸化ナトリウムが水に溶けた状態のものを、水酸化ナトリウム水溶液と呼んでいます。水酸化ナトリウムは、液体中で以下のように電離しています。
NaOH ⇔ Na⁺ + OH⁻
つまり、水酸化ナトリウムは水溶液中ではNa⁺とOH⁻という形で存在しているのです。このOH⁻(水酸化物イオン)が「アルカリ性」の定義です。つまり、OH⁻の量がアルカリ性の強さを表しているということです。一般的に、水溶液中にOH⁻がたくさん存在していれば強アルカリ性、少なければ弱アルカリ性と呼ばれています。
また、酸性の強さ、アルカリ性の強さは一般的にpHという基準で表されます。pHには1.0~14.0までの範囲が存在し、1.0に近づけば近づくほど酸性が強く、14.0に近づけば近づくほどアルカリ性が強いです。
そして、酸性とアルカリ性の中間地点のことを中性と呼び、この中性のpHは7.0です。つまり、pH1.0~6.9までが酸性、pH7.1~14.0までがアルカリ性と言えます。
2. 人間の肌
人間の肌は弱酸性であると言われていますよね。では、なぜ人間の肌は弱酸性なのでしょうか。実はこれには理由があります。
人間の肌には、今テレビでも話題の美肌菌(表皮ブドウ球菌)という善玉菌が存在しています。この細菌は、毛穴から出てきた皮脂(脂質)を分解して、グリセリンと脂肪酸を作り出します。
実は皮脂を分解して生じた、この「脂肪酸」が酸性なのです。つまり、人間の肌は酸性である脂肪酸でコーティングされているから、弱酸性の肌と言われています。
では、人間の肌が弱酸性であるとどのような効果があるのでしょうか。
人間の肌には、善玉菌である美肌菌以外にも、悪玉菌である「黄色ブドウ球菌」という細菌が存在しています。この細菌は、同様に皮脂などをエサにして「毒素」を出します。この毒素は人間にとって有害であり、肌トラブルのもとになります。
実は、この悪さをする黄色ブドウ球菌を倒す方法があるのです。それが、「肌を酸性に保つこと」です。悪玉菌である黄色ブドウ球菌は、アルカリ性を好み、酸性を嫌います。そのため、アルカリ性条件下では増殖をすることができるのですが、酸性条件下だと増殖できません。
つまり、脂肪酸で肌をコーティングすることによって、悪玉菌である黄色ブドウ球菌の増殖を抑制することができるのです。これが美肌菌による美肌効果です。
以下に人間の肌の性質の詳細と、美肌菌の効果の詳細記事を掲載しておくので、もし興味がありましたら是非ご覧ください。かなり有益な情報を載せています。
3. 酸性の温泉の効果
酸性の温泉は、その酸性により、肌の古い角質を除去してくれます。皮膚表面に存在している古い角質は、タンパク質で構成されています。そのため、酸性条件下でタンパク質の結合が切れ、構造が変化(変性)します。
その結果、古い角質が取れやすくなります。つまり、天然のピーリング効果と言えます。
また、酸性の温泉の場合は、肌上に存在している悪玉菌(黄色ブドウ球菌)を抑制してくれます。そのため、悪玉菌による皮膚トラブル等がある人には、酸性の温泉は効果的です。
まとめると、酸性の温泉には以下のように効果が2つあります。
■天然ピーリング効果
■肌上の悪玉菌抑制効果
≪天然ピーリング効果を得られる温泉とは≫
酸性の強さでタンパク質を変性させる必要があるため、できるだけ酸性の強い(pH1.0~3.0)の温泉に入ると良いでしょう。
※1)
ただし、長時間入ると皮膚上の通常の皮膚タンパクにも影響が出てしまうので、5分程度入浴したら、10分ほどは休憩を挟むようにしましょう
※2)
入浴後は必ず水でよく洗い流すようにしましょう。洗い残しがあると、肌が炎症を起こす可能性があります
≪肌上の悪玉菌抑制効果を得られる温泉とは≫
肌をコーティングしている脂肪酸の酸性度(ph3.6~6.0) と同程度の酸性度の温泉に入ると良いでしょう。
4. アルカリ性の温泉の効果
アルカリ性の温泉は、そのアルカリ性により「余分な皮脂の除去」ができます。
人間の肌上の皮脂とは、脂質のことです。脂質はグリセリンと脂肪酸が結合して生じる物質です。そのため、脂質を分解すれば、再びグリセリンと脂肪酸に戻ります。
強いアルカリ性は、この脂質(皮脂)を分解して、グリセリンと脂肪酸に戻します。これを、アルカリ加水分解と言い、専門用語では「けん化」と呼びます。
また、アルカリ性の温泉には、冒頭で説明したNaOH(水酸化ナトリウム)のような、アルカリ物質が含まれています。このアルカリ物質の陽イオン(プラスイオン)が脂肪酸と結合することで、脂肪酸が中和(中性化)され、石鹸が生じます。
アルカリ性の温泉に入ると肌がぬめぬめする理由は、自分の肌上の脂肪酸と、温泉中のアルカリ物質が化学反応を起こして、石鹸化しているからなのです。
ちなみに、この中和石鹸は「ミセル」という構造体を形成し、このミセルは摩擦係数が小さい(摩擦が少ない)ので、ぬめぬめして滑りやすくなる、という原理があります。
まとめると、アルカリ性の温泉には以下のような効果があります。
■余分な皮脂を除去
≪余分な皮脂除去効果を得られる温泉とは≫
皮脂をグリセリンと脂肪酸に分解するアルカリ反応は、アルカリ性がそこそこ強くないと起こりません。そのため、pH11程度の温泉に入る必要があります。
※1)
本来、アルカリ性の水溶液は人間の肌に触れされるべきものではなく、必要な皮脂まで分解されてしまう可能性があるため、長時間の入浴は厳禁です。肌がカッサカサになり、肌荒れの原因になります。最大5分を目安に入浴しましょう
※2)
入浴後は必ず水でよく洗い流すようにしましょう。洗い残しがあると、肌が炎症を起こす可能性があります
また、アルカリ性の温泉は皮膚がぬめぬめしてくるため、一見肌がすべすべになっているように感じますが、あれは美肌に重要な脂肪酸が中和されて生じているものなので、皮脂量が気になる方以外にはあまりオススメはできません。
一方、皮脂量で悩んでいる方には効果的なので、是非試してみてください。
5. 美肌にオススメな温泉
これまでの肌科学原理と、私が実際に行ってみて良かったと感じた温泉を、ここでは紹介します。
1位 草津温泉(pH2.05)
温泉と言えば!の草津温泉ですね。やはり、流石に歴史も長く長年観光客から愛され続けてきたこともあり、非常にいいです。効果ももちろんなのですが、それ以外にも楽しめるものがたくさんあります。
pHが低めなので、割と肌がピリピリします。興味本位で顔を長い時間つけてみたのですが、見事に肌がカサカサになりました。ピーリング効果を享受しすぎると、逆に通常の角質も持っていかれるので、長時間顔をつけるのはオススメできません。
そして草津温泉は、あの有名な「湯もみ」も実演してくれるため、家旅や友達、カップルでの旅行など、どの世代でも楽しめる温泉となっています。
バスなどを利用すると、交通の便的にもそれほど不便ではないです。
2位 桟温泉(pH5.3)
こちらの温泉も有名ですね。桟(かけはし)温泉は長野県にあり、あの有名な木曽川を一望することができます。
pHは5.3と、かなり優しい値です。ちょうど人間の肌の脂肪酸のpHと同程度であるため、顔をつけてもそれほど影響はありませんでした。ただ、周りの人から変な目で見られるため、やはりオススメはできません。
こちらの温泉は、美肌にはかなり効果的です。pHの関係だけでなく、その他有用成分の観点でも、非常に効果があります。しかし、なんといっても山奥…。本当に温泉目的で行く人向けです。
3位 那須湯元温泉 鹿の湯(pH2.5)
これまた有名な温泉です。この温泉もpHが低いのですが、pH以上に特徴的なものがあります。それは「湯の熱さ」です。
正直、ここでも顔をつけようと思ったのですが、熱すぎて顔どころか足をつけるので精一杯でした。おじさんが湯面に波を立てたときなどは本当に殺〇意がわきましたね。
熱い温泉が好きな方は是非行ってみてください。
6. 結論
結論、美肌効果を目的とするのであれば、アルカリ性の温泉よりも酸性の温泉の方が効果は得られます。しかし、これは「美肌」という観点のみから見たときの判断です。その他の病や健康目的であれば、アルカリ性の温泉にも良い効果はたくさんあります。
秋~冬にかけて温泉シーズンとなってきますので、是非この記事を意識して温泉旅行に行ってみてください。