1.「楽曲派」とそれ以前
「アイドル戦国時代」と呼ばれた時期も昔、一時のブーム的な活況は去ったとはいえ、今も日本の女性アイドルシーンは様々なスタイルで活動するグループで溢れています。そしてその中に「楽曲派」と呼ばれるグループたちがいます。
アイドル界隈で使用される「楽曲派」という言葉、それ自体は元々聴き手側を定義する言葉として生まれたと言われていますが、現在は主に「従来のアイドル以上に本格的な音楽性を持った楽曲を歌うアイドル」を指す言葉になっています。
「楽曲派」という呼称が用いられるようになる前には「楽曲派」的なアイドル楽曲がなかったかと言えばそうではありません。80年代のアイドルも、YMOの細野晴臣・高橋幸宏・坂本龍一や大瀧詠一、竹内まりやのような有名ミュージシャンの手による優れた楽曲を歌っていますし、坂本龍一が全面プロデュースした伊藤つかさの『さよなら こんにちは』のようなアルバム、また同時代のバンドミュージシャンが楽曲提供を行う形で制作された小泉今日子の『BEAT POP』等、当時のアイドルの一般的なスタイルとは異なる音楽性を持つアルバムも多数存在しています。
とはいえ、一人のミュージシャンが継続的に楽曲提供を行ったり、ある程度以上の枠内での音楽性をコンセプトにして活動したアイドルはほとんど存在せず、小室哲哉プロデュースによってヒットした女性シンガーの例に顕著なように、当時は楽曲の音楽性を上げることはおよそ「脱アイドル」を意味していたことは否めません。それが当時の時代の空気でした。
そんな空気が変容し、現在の状況に向かい始めるのは21世紀に入ってからになります。
2.Perfumeの登場~「テクノアイドル」と「サウンドプロデューサー」の時代
まだAKB48もデビューしていない2003年、インディーズから全国デビューしたPerfume。そのサウンドプロデューサーは、2001年にデビューしたユニット・CAPSULEのメンバーで新進気鋭のクリエイター、中田ヤスタカが担当することになります。彼女たちはそのテクノエレクトロ路線をメジャーデビューしても継続、2007年にブレイクを果たし、それ以降も活躍することで彼女たちのみならず中田ヤスタカと振付・演出のMIKIKO共々広く評価されるようになっていきます。
このPerfumeの一貫したチームとしての活動が、「楽曲派」アイドルの要件と言ってもいい「ひとつのジャンルの音楽を継続する」「固定化されたサウンドプロデューサーが継続的に関わる」スタイルの本格的なスタート地点ということになります。
Perfumeのブレイク以降、フォロワー的に「テクノ」を鳴らすアイドルが登場しますが、2007年デビューのAira Mitsukiは大西輝門、2009年デビューのテクプリはトベタ・バジュンがプロデュースを手掛ける形、また2008年に大阪で結成されたamUはフロントの2名を含めた「amU Planet」という6人のチーム体制でサウンド作りから演出までを手掛けていました。
テクノアイドルという現象が起きると同時に、固定化されたチームによる楽曲制作というスタイルが「楽曲派」のひとつの定型になっていきます。
これらの新しいアイドルグループの新規参入を後押ししたのは、PCやソフトウェアの普及や高機能化によって、楽曲制作やレコーディングの難度、人員的なコスト等のハードルが圧倒的に軽減されたという点であり、それはAKB48登場以降の「ライブアイドル」シーンの活性化にも繋がっていきます。
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