入学前の物語(小説)・・・10/11更新
第2章8節 動き出した歯車
男は威厳に満ちた声で語りかける。
「お前も変わったな。」
男の目はおねーちゃんと私の髪に付けられた髪飾りを見つめていた。その眼差しは心なしか優しげに見える。男の名前は、アラド・ル=フェイ。呪われた魔術師の末裔にしておねーちゃんの師匠。アラドの言わんとしていることは、先程のおねーちゃんの話とアラドの首飾りを見れば分かる。
「それで?娘に会いたくて来たようには見えないけれど。・・・孫弟子を学園に連れて行こうってわけ?」
おねーちゃんの口調は少し刺々しい。ただ、本心からそうしているわけではなさそうだった。まるで、分かっているけれど認められないような・・・。
一方、対するアラドは淡々と言葉を続ける。
「分かっているのだろう?メリッサ。ドラクレアが動いた。・・・ミリア・ドラクレアが。」
おねーちゃんははっとして肩を震わせる。そういえば、以前私が妹さんの話を聞いた時、ミリアさんがどうなったかまでは教えてはもらえなかった。もしかすると・・・私がそこまで考えたところでおねーちゃんは私の思考を遮る。驚くほど冷静な口調で。・・・もしかすると、努めてそうしていただけなのかもしれないけれど。
「詳しく・・・情勢を教えてちょうだい。」
アラドは、淡々と続きを語った。それは、大まかに言って以下のような内容だった。
伯爵・・・正確にはヴラド・ドラクレア伯爵は以前日本で発見されて以来、行方をくらませている。一方で、伯爵の眷属は、いずれもドラクレア姓を名乗り、サイキックアブソーバーが稼働した後も何らかの手段で活動を続けている。厖大な数からなるドラクレアは、抗争を繰り返しながら幾つかの組織に再編されており、その中の1つを統率しているのがミリア・ドラクレアである。最も危険な組織の1つであるそれが、最近不穏な動きを見せている・・・。
おねーちゃんは、それを聞いても驚かなかった。知っていたのかもしれない。もしくは、何らかの手段で感じ取っていたのかもしれない。そして、その唇から発せられたのは別れを意味する言葉だった。
「そう。それで、前線に戻れっていうのよね?」
アラドは大仰に頷く。
「分かったわ。・・・ジジイ。その子を頼める?学園とやらに連れてって欲しいの。資質は悪くないわ。」
私は、その会話を聞いていることしかできなかった。多分泣きじゃくっていたと思う。お別れのときが来たことくらい私にも分かる。
「おねーちゃん・・・」
呼びかけると、おねーちゃんは私を優しく抱き寄せた。
「さようならは言わないわ。ただ、いつでも連絡が取れるように使い魔を残していこうと思うの。」
そう言うと、おねーちゃんは軽く人差し指を噛んだ。
「我はアラド・ル=フェイの愛弟子にして、夜の血脈に属する者。血の盟約に基づいて汝に命ず。我と我が師の恩に報いよ。報いて我が愛弟子に尽くせ。」
おねーちゃんの人差し指から流れ落ちた血液を媒介に、漆黒の蝙蝠が召喚された。そして、蝙蝠は私の方へ飛んでくると、人差し指の血を少し吸った。蝙蝠に刻まれたルーンが書き換えられ、所有者が私に移ったことを知らせる。
「また・・・会えるよね?おねーちゃん?」
「もちろん。」
おねーちゃんは、そう力強く頷いたのだった。
(入学前の物語 終)
「お前も変わったな。」
男の目はおねーちゃんと私の髪に付けられた髪飾りを見つめていた。その眼差しは心なしか優しげに見える。男の名前は、アラド・ル=フェイ。呪われた魔術師の末裔にしておねーちゃんの師匠。アラドの言わんとしていることは、先程のおねーちゃんの話とアラドの首飾りを見れば分かる。
「それで?娘に会いたくて来たようには見えないけれど。・・・孫弟子を学園に連れて行こうってわけ?」
おねーちゃんの口調は少し刺々しい。ただ、本心からそうしているわけではなさそうだった。まるで、分かっているけれど認められないような・・・。
一方、対するアラドは淡々と言葉を続ける。
「分かっているのだろう?メリッサ。ドラクレアが動いた。・・・ミリア・ドラクレアが。」
おねーちゃんははっとして肩を震わせる。そういえば、以前私が妹さんの話を聞いた時、ミリアさんがどうなったかまでは教えてはもらえなかった。もしかすると・・・私がそこまで考えたところでおねーちゃんは私の思考を遮る。驚くほど冷静な口調で。・・・もしかすると、努めてそうしていただけなのかもしれないけれど。
「詳しく・・・情勢を教えてちょうだい。」
アラドは、淡々と続きを語った。それは、大まかに言って以下のような内容だった。
伯爵・・・正確にはヴラド・ドラクレア伯爵は以前日本で発見されて以来、行方をくらませている。一方で、伯爵の眷属は、いずれもドラクレア姓を名乗り、サイキックアブソーバーが稼働した後も何らかの手段で活動を続けている。厖大な数からなるドラクレアは、抗争を繰り返しながら幾つかの組織に再編されており、その中の1つを統率しているのがミリア・ドラクレアである。最も危険な組織の1つであるそれが、最近不穏な動きを見せている・・・。
おねーちゃんは、それを聞いても驚かなかった。知っていたのかもしれない。もしくは、何らかの手段で感じ取っていたのかもしれない。そして、その唇から発せられたのは別れを意味する言葉だった。
「そう。それで、前線に戻れっていうのよね?」
アラドは大仰に頷く。
「分かったわ。・・・ジジイ。その子を頼める?学園とやらに連れてって欲しいの。資質は悪くないわ。」
私は、その会話を聞いていることしかできなかった。多分泣きじゃくっていたと思う。お別れのときが来たことくらい私にも分かる。
「おねーちゃん・・・」
呼びかけると、おねーちゃんは私を優しく抱き寄せた。
「さようならは言わないわ。ただ、いつでも連絡が取れるように使い魔を残していこうと思うの。」
そう言うと、おねーちゃんは軽く人差し指を噛んだ。
「我はアラド・ル=フェイの愛弟子にして、夜の血脈に属する者。血の盟約に基づいて汝に命ず。我と我が師の恩に報いよ。報いて我が愛弟子に尽くせ。」
おねーちゃんの人差し指から流れ落ちた血液を媒介に、漆黒の蝙蝠が召喚された。そして、蝙蝠は私の方へ飛んでくると、人差し指の血を少し吸った。蝙蝠に刻まれたルーンが書き換えられ、所有者が私に移ったことを知らせる。
「また・・・会えるよね?おねーちゃん?」
「もちろん。」
おねーちゃんは、そう力強く頷いたのだった。
(入学前の物語 終)
13/13
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- 拝啓 師匠へ(手紙形式の近況報告)・・・9/20更新
- 学園生活の軌跡・・・10/2更新
- イメージボイス(CV:月城・結祈さん)・・・9/21追加
- 掲示板
- キャラクター名
- 山岸・山桜桃(やまぎし・ゆすら)
- 性別
- 女性
- ルーツ
- ダンピール
- ポテンシャル
- 魔法使い
- 設定詳細
- ヴァンパイアを信奉する両親が生贄として捧げたために、吸血鬼になった少女。人間に戻る方法を必死に探し求めている。吸血鬼の赤い瞳を嫌い、魔法で茶色に見せかけている。純粋でうぶな性格だが、自分を眷属にしたヴァンパイアの影響で、異性の近くにいるとイケナイ妄想で頭が一杯になる。そのため、男性との接触を避けることが多く、男性恐怖症と誤解されやすい。普段は抑えているが、理性が限界に達すると、瞳が赤く染まり、妄想に突き動かされて大胆な行動に出てしまう。逆に、女性に対する接し方が百合っぽいのは師匠であるメリッサの影響である。甘いものとトマトジュースが好き。