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入学前の物語(小説)・・・10/11更新

第2章7節 太陽を呼び戻す石(2)

 あくる日、私とおねーちゃんは、近隣でも名の通った銀細工師の下を訪れていた。おねーちゃんは銀細工師に例の宝石を渡すと、何やら交渉を始める。

 それにどんな意味があったのか分かったのは、それから更に数日後のことだった。

 再び銀細工師の下を訪れた私は、おねーちゃんから銀の髪飾りを渡されることになった。翼を広げたコウモリの意匠。髪飾りの中央には例の赤い宝石が象嵌されていた。

「気に入ってもらえたかしら・・・?」

 にこりと笑うおねーちゃんの髪の毛にも同じ髪飾りがつけられているのに私は気付いた。

「おねー・・・ちゃん?これって、大切な宝石・・・。」

 おねーちゃんは、私の言おうとしたことを最後まで聞かずに、言葉を続けた。

「ヘリオトロープ。太陽を呼び戻す石よ。」

 どうやら、赤い宝石のことを言っているらしかった。

「ヘリオ・・・?」

「そう。暗闇を払う力があると言われているわ。この先、あなたが再び闇落ちする時が来たとしても、きっとこの石が守ってくれる。あなたの心をきっと呼び戻してくれるはずよ。」

 私は、その赤い宝石を覗き込む。

「あ・・・ありがとうです。おねーちゃん。」

 私はにっこりと笑っておねーちゃんに抱きついた。

「それと・・・。」

 何か言おうと呟いたおねーちゃんは珍しく赤面していた。

「この石の別名はブラッドストーン、血の石よ。今日から私たちは、同じ血を分けた姉妹になったの。」

 ・・・突然告げられたその言葉がうれしくて、私はわけも分からなくなるくらいに泣きじゃくった。そして、おねーちゃんが泣いているところも初めて見た。そんなことを思いながら、私はある考えに辿り着く。

 きっと、おねーちゃんにも同じことを言ってくれた人がいたんだろうって。両親を失って、妹さんやおじいさん、おばあさんを失ってしまったおねーちゃんに、お前は1人じゃないと言ってくれた人が。

 それからの数日間、私たちは、血を分けた実の姉妹のように仲睦まじく暮らした。

 幸せだった。けれど、同時に、終わりがもう間近に来ていることも悟っていた。

 終わりは突然やってくる。雷のように突然。

 突然現れたその男は、まさに雷とともに姿を現した。

「久しいなメリッサよ。」

 しゃがれ声のした方向におねーちゃんは鋭い視線を投げかける。

「そろそろ来るころだと思ってたわ。クソジジイ。」

 男の首には見覚えのある赤い宝石のペンダントがかけられていた。
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キャラクター名
山岸・山桜桃(やまぎし・ゆすら)
性別
女性
ルーツ
ダンピール
ポテンシャル
魔法使い
設定詳細
ヴァンパイアを信奉する両親が生贄として捧げたために、吸血鬼になった少女。人間に戻る方法を必死に探し求めている。吸血鬼の赤い瞳を嫌い、魔法で茶色に見せかけている。純粋でうぶな性格だが、自分を眷属にしたヴァンパイアの影響で、異性の近くにいるとイケナイ妄想で頭が一杯になる。そのため、男性との接触を避けることが多く、男性恐怖症と誤解されやすい。普段は抑えているが、理性が限界に達すると、瞳が赤く染まり、妄想に突き動かされて大胆な行動に出てしまう。逆に、女性に対する接し方が百合っぽいのは師匠であるメリッサの影響である。甘いものとトマトジュースが好き。