[無料でホームページを作成] [通報・削除依頼]

入学前の物語(小説)・・・10/11更新

第2章6節 太陽を呼び戻す石(1)

 月日は矢のように過ぎる。信じていた両親に裏切られてヴァンパイアの生贄となった私にとって、師匠・・・ううん。おねーちゃんとの日々は最高に幸せなものだった。

 おねーちゃんの弟子になった私は、魔術に用いる様々な文字の読解を徹底的に叩き込まれ、世界各地に散らばる魔力の源泉を巡った。そのほとんどがサイキックアブソーバーの稼働によってかつての力を失っていたけれど・・・。

 いくつかの魔法が使えるようになった。雷程度の自然現象なら操れるようにもなったし、冷気を自在に操ることも出来るようになった。最初はおねーちゃんに頼りっぱなしだった、瞳の偽装魔法ももう自分でかけられる。赤く染まった吸血鬼の瞳を、かつてのような茶色に見せかけることが出来るようになった。

 あの魔法、瞳の偽装魔法が持つ意味にも私は気づいている。目の周囲に存在する吸血鬼の魔力を意識的に遮断して抑え込む。それが偽装の正体。あの魔法をかけている間、吸血鬼の力は上手く使えないし、逆に吸血鬼の力が暴走すれば偽装は解ける。理論上、この技術を極限まで高めていけば、いつか自分の中の吸血鬼の力を自在に操ることが出来るようになるし、例の症状に悩まされることもなくなる。おねーちゃんはそういった。

 そして、私は、そのさらに先、吸血鬼の力を完全に押さえつけ、封印した先に、自分が人間に戻る道が残されているんじゃないかと思っている。それは、おねーちゃんも出来ていないことだし、そもそもやろうともしていないのかもしれないけれど・・・。

 近頃、おねーちゃんは寂しそうな顔でため息をつくことが多くなった。私が眠った後(実は寝たふりをしていただけだったけれど)、大切にしているお気に入りのペンダントに向かって独り言をつぶやくことが多くなった。

「あんたがこれをくれた時の気持ち、今の私にはなんとなくわかるわ。」

 赤い宝石のはめ込まれたそのペンダントを、誰がおねーちゃんにプレゼントしたのか、私は知らない。聞いたことは何度かあったけれど、照れくさそうに笑って教えてくれなかった。

 私にもなんとなく分かってきていた。こんな日々がそう長くは続かないことくらい。最悪のヴァンパイアの1人である伯爵の眷属になった私を、堕ちたてだったとはいえ、軽くいなしたあの力。そんな力の持ち主が前線から離れたところにずっといられるわけがない。

 そんなある日のことだった。おねーちゃんは、意を決したようにペンダントを取り出すと、私の目の前で叩き割った。

「・・・・!?」

 あまりのことに私は目を疑う。

「おねーちゃん?それって大切なものなんじゃ・・・。」

 おねーちゃんは一瞬顔を引き攣らせたけれど、すぐに笑顔を浮かべてこういった。

「必要なことなのよ。今の私とあなたにとって。」

 そういったおねーちゃんの手の中には、ペンダントの残骸・・・いや、真っ二つになった赤い宝石が握られていた。
11/13

キャラクター名
山岸・山桜桃(やまぎし・ゆすら)
性別
女性
ルーツ
ダンピール
ポテンシャル
魔法使い
設定詳細
ヴァンパイアを信奉する両親が生贄として捧げたために、吸血鬼になった少女。人間に戻る方法を必死に探し求めている。吸血鬼の赤い瞳を嫌い、魔法で茶色に見せかけている。純粋でうぶな性格だが、自分を眷属にしたヴァンパイアの影響で、異性の近くにいるとイケナイ妄想で頭が一杯になる。そのため、男性との接触を避けることが多く、男性恐怖症と誤解されやすい。普段は抑えているが、理性が限界に達すると、瞳が赤く染まり、妄想に突き動かされて大胆な行動に出てしまう。逆に、女性に対する接し方が百合っぽいのは師匠であるメリッサの影響である。甘いものとトマトジュースが好き。