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入学前の物語(小説)・・・10/11更新

第2章5節 証の杖マテリアルロッド

「もう少し・・・ふむむむぅ・・・。」

 赤色の魔力が私の手の中で形を成そうとしていた。厖大な魔力を外装で包む・・・与えられた指示はそれだけだった。けれど、その難しさは想定外。手順としては簡単だけれど、実行する際のコツは自分で掴むしかない。

「そこで気を抜いちゃダメ!」

 師匠の激が耳に届いてくる・・・。力を引き出す度に闇堕ちを心配しなければならなかった当初を思えばかなりの上達だといえる。逆に言えば、ここまで来るのには相応の時間がかかっていた。

「外装を、杖を思い浮かべるのよ。その魔力を包む封印を施すの。」

 杖・・・魔力を包んだ棒・・・吸血鬼の魔力を抑え込む・・・漠然としたイメージが脳裏を流れていく。そんな時、突如としてメリッサが声を上げる。

「今よ!!!」

「はいですっ!!」

 一層神経を研ぎ澄ました私は、赤い魔力を包み込むように自分の魔力を引き延ばした。絶えず脈動していた赤い光が薄れ、1つの形をとっていく・・・。私的には成功だった。

「・・・なによそれ。そんなの杖じゃないわ。」

 私の手に握られたものを見て、師匠が呆れ顔を浮かべる。それもそのはず。それは大鎌だった。触れるもの全てを切り裂きそうな禍々しい形。

「やり直しよ。杖の形は術者の魔力に対するイメージや性質を具現化するの。それは、どう考えても吸血鬼のイメージを引きずってるわ。」

「・・・わかったです。」

 外装を解くと、魔力を再び元の状態に戻していく。そうした後、再び魔力を放出した私は、もう一度同じ手順を繰り返した。

「今度こそっ!」

 先程は合格を貰えなかったものの、一度具現化を成し遂げてしまえば、コツは掴めるものらしかった。

「もう一度!」

「もう一度!」

 師匠に何度も不合格を貰いながらも、少しずつ思った通りの形が作れるようになっていった。そして・・・・。

「で、出来たです。」

 そう思わずつぶやいた私の手には、古びた木の先端に黒いコウモリの翼をあしらった、立派な杖が握られていた。

「だめ。可愛くない。やり直し」

「ええっ!?」

 まさかの駄目出しだった。私がぽかんとしていると、師匠は笑いを噛み殺した顔で言った。

「冗談よ。だけど、さっきも言ったでしょ?杖の形は術者の魔力に対するイメージや性質を具現化するの。これが吸血鬼のイメージに近ければ近いほど、いざという時に暴走しやすくなるわ。そのイメージを出来るだけ離れて置いた方がいいわ。もう一度、そう。そうね。アニメに出てくる魔法少女みたいな可愛いやつがおすすめね♪」

 私は、そのアドバイスを基に、昔テレビで見ていた魔法少女たちの姿を思い描く・・・。

 ・・・そうして作り上げられた私の杖は、形こそコウモリをモチーフとしていたがピンク色の可愛らしいものだった。

「やったです。おねーちゃん・・・これは?」

「まぁ・・・。合格ってところね。魔力から杖を作り出せるってことは、魔法使いにとって重要なことなの。まぁ・・・人によっては別の武器を好むけどね。その杖は、あなたがただの吸血鬼から魔法使いの弟子になった証よ。」

 師匠に抱きしめられながら、ふと疑問を抱いた。
『・・・どうして師匠の杖は乗馬鞭の形をしているんだろう?杖の形は術者の魔力に対するイメージや性質を具現化するって言ってたけれど・・・。』

 この日以降、私は折に触れてこの質問をすることになるのだけれど、師匠は笑ってごまかすばかりでついに教えてくれることはなかった。
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キャラクター名
山岸・山桜桃(やまぎし・ゆすら)
性別
女性
ルーツ
ダンピール
ポテンシャル
魔法使い
設定詳細
ヴァンパイアを信奉する両親が生贄として捧げたために、吸血鬼になった少女。人間に戻る方法を必死に探し求めている。吸血鬼の赤い瞳を嫌い、魔法で茶色に見せかけている。純粋でうぶな性格だが、自分を眷属にしたヴァンパイアの影響で、異性の近くにいるとイケナイ妄想で頭が一杯になる。そのため、男性との接触を避けることが多く、男性恐怖症と誤解されやすい。普段は抑えているが、理性が限界に達すると、瞳が赤く染まり、妄想に突き動かされて大胆な行動に出てしまう。逆に、女性に対する接し方が百合っぽいのは師匠であるメリッサの影響である。甘いものとトマトジュースが好き。