入学前の物語(小説)・・・10/11更新
第2章4節 修行の日々
「ほら、また力に飲み込まれかけてるわよ!」
師匠の声が私を叱責する。
「・・・は、はいです!」
四半堕ち(師匠曰く)を経験した日から数週間、私は魔法使いの修業に身を投じていた。身体に広がりかけていた甘美な感覚を理性で必死に追い払って抑え込む。
「ふ・・・ふぅ・・・。」
想像以上に大変だった。確かに体内の魔力を引き出して具現化できる状態にする・・・という段階は、驚くほど早く通過できた。師匠曰く、もしもヴァンパイアに闇堕ちしなかったとしても、ゆくゆくは魔法使いとして覚醒した可能性が高いとのこと。
ただし、それはもともと人間の頃から自分に眠っていた魔力の話。吸血鬼の魔力を抑え込むとなれば、話は別だった。第一に、その時の不安定な状態のゆすらにとって、吸血鬼の魔力を引き出すことは闇堕ちと隣り合わせの行為だった。
第二に、闇堕ちに近づくほど甘美な感覚が体中に広がり、抑えがきかない状態になってしまう。師匠曰く、闇堕ちを経て、もう1人の自分ともいうべき存在になったダークネスが、主導権を握るべくゆすりをかけているのだそうで・・・。
そんなわけで、吸血鬼の魔力のみを引き出す修練を積んでも、なかなか成果が得られないのだった。体が熱い。動機が止まらずにどうにかなりそうだった。
「いいわ。休憩にしましょう?」
師匠はトマトジュースを好んで飲む。しかも、決まってコップ1杯につき、角砂糖3つは入れる。正直溶け切っているようには見えなかったけれど・・・。
「おねーちゃんは、どうしてトマトジュースにお砂糖たくさん入れるですか?ダイエットによくないですよ?」
私はかねてから聞いてみたかったことを口にしてみた。
「ダイエットねー。どこでそんな言葉を覚えたやら・・・。大丈夫、ダンピールは太らないのよ。特にあなたや私みたいな伯爵の眷属はね。太らない、老いない、・・・育たない・・・の三拍子がそろった体よ。ゆすらは、歳の割には育ってたみたいだけど・・・かわいそうに・・・。」
目を逸らす師匠。
「ど、どーいうことですか!!失礼にも程があるです!!・・・話がそれましたね。それで・・・。」
「そうだったわね。そうね・・・私達にとって、あまーいあまーいトマトジュースは血液の味なの。」
師匠は懐かしむように目を細めた。
「昔ね。おばあちゃま・・・祖母が、私とミリアに怖ーい吸血鬼のお話をしたことがあったの。当時の私たちみたいな、大人になりかけの子供をさらって血を吸ってしまう、怖ーいおじさまの話。私たちが、吸血鬼にとっての血がどんな味なのか聞いてみると、祖母は、少し困った後、こう言ったわ。それはそれはとってもあまーい飲み物みたいに感じるんだって。・・・その日から、私たち姉妹は、祖母の留守を狙って吸血鬼ごっこをするようになったの。・・・とはいっても、家中を走り回った後に、台所のお砂糖をたっぷり混ぜたトマトジュースを飲んだりしてただけなんだけど。あまーいこの味が姉妹揃ってお気に入りだっただけかもしれないけど。結局最後は祖母に見付かって怒られたわ。」
照れくさそうに笑う師匠の顔は寂しそうでもあった。
「だけどね。これは私にとって、とっても大事なおまじない。吸血鬼になってから今まで、私は血を吸ったことが無いの。そのかわりに、ずっとこうしてトマトジュースを飲んでるの。うーん。ちょっと子供っぽかったかな?」
私はゆっくり首を振って、師匠にコップをせがみ、ジュースを飲ませてもらった。
「あまいですね♪ゆすらも気に入りました。これからはゆすらにとってこれが血液の味です。いつか私が人間に戻るその日まで、決して血は吸いません。」
『人間に戻る』といった私に、師匠は一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐに頭をなでて抱きしめてくれた。
「きっといつか戻れる日が来るわ。きっと・・・」
師匠の声が私を叱責する。
「・・・は、はいです!」
四半堕ち(師匠曰く)を経験した日から数週間、私は魔法使いの修業に身を投じていた。身体に広がりかけていた甘美な感覚を理性で必死に追い払って抑え込む。
「ふ・・・ふぅ・・・。」
想像以上に大変だった。確かに体内の魔力を引き出して具現化できる状態にする・・・という段階は、驚くほど早く通過できた。師匠曰く、もしもヴァンパイアに闇堕ちしなかったとしても、ゆくゆくは魔法使いとして覚醒した可能性が高いとのこと。
ただし、それはもともと人間の頃から自分に眠っていた魔力の話。吸血鬼の魔力を抑え込むとなれば、話は別だった。第一に、その時の不安定な状態のゆすらにとって、吸血鬼の魔力を引き出すことは闇堕ちと隣り合わせの行為だった。
第二に、闇堕ちに近づくほど甘美な感覚が体中に広がり、抑えがきかない状態になってしまう。師匠曰く、闇堕ちを経て、もう1人の自分ともいうべき存在になったダークネスが、主導権を握るべくゆすりをかけているのだそうで・・・。
そんなわけで、吸血鬼の魔力のみを引き出す修練を積んでも、なかなか成果が得られないのだった。体が熱い。動機が止まらずにどうにかなりそうだった。
「いいわ。休憩にしましょう?」
師匠はトマトジュースを好んで飲む。しかも、決まってコップ1杯につき、角砂糖3つは入れる。正直溶け切っているようには見えなかったけれど・・・。
「おねーちゃんは、どうしてトマトジュースにお砂糖たくさん入れるですか?ダイエットによくないですよ?」
私はかねてから聞いてみたかったことを口にしてみた。
「ダイエットねー。どこでそんな言葉を覚えたやら・・・。大丈夫、ダンピールは太らないのよ。特にあなたや私みたいな伯爵の眷属はね。太らない、老いない、・・・育たない・・・の三拍子がそろった体よ。ゆすらは、歳の割には育ってたみたいだけど・・・かわいそうに・・・。」
目を逸らす師匠。
「ど、どーいうことですか!!失礼にも程があるです!!・・・話がそれましたね。それで・・・。」
「そうだったわね。そうね・・・私達にとって、あまーいあまーいトマトジュースは血液の味なの。」
師匠は懐かしむように目を細めた。
「昔ね。おばあちゃま・・・祖母が、私とミリアに怖ーい吸血鬼のお話をしたことがあったの。当時の私たちみたいな、大人になりかけの子供をさらって血を吸ってしまう、怖ーいおじさまの話。私たちが、吸血鬼にとっての血がどんな味なのか聞いてみると、祖母は、少し困った後、こう言ったわ。それはそれはとってもあまーい飲み物みたいに感じるんだって。・・・その日から、私たち姉妹は、祖母の留守を狙って吸血鬼ごっこをするようになったの。・・・とはいっても、家中を走り回った後に、台所のお砂糖をたっぷり混ぜたトマトジュースを飲んだりしてただけなんだけど。あまーいこの味が姉妹揃ってお気に入りだっただけかもしれないけど。結局最後は祖母に見付かって怒られたわ。」
照れくさそうに笑う師匠の顔は寂しそうでもあった。
「だけどね。これは私にとって、とっても大事なおまじない。吸血鬼になってから今まで、私は血を吸ったことが無いの。そのかわりに、ずっとこうしてトマトジュースを飲んでるの。うーん。ちょっと子供っぽかったかな?」
私はゆっくり首を振って、師匠にコップをせがみ、ジュースを飲ませてもらった。
「あまいですね♪ゆすらも気に入りました。これからはゆすらにとってこれが血液の味です。いつか私が人間に戻るその日まで、決して血は吸いません。」
『人間に戻る』といった私に、師匠は一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐに頭をなでて抱きしめてくれた。
「きっといつか戻れる日が来るわ。きっと・・・」
9/13
- はじめに・・・9/21更新
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- 拝啓 師匠へ(手紙形式の近況報告)・・・9/20更新
- 学園生活の軌跡・・・10/2更新
- イメージボイス(CV:月城・結祈さん)・・・9/21追加
- 掲示板
- キャラクター名
- 山岸・山桜桃(やまぎし・ゆすら)
- 性別
- 女性
- ルーツ
- ダンピール
- ポテンシャル
- 魔法使い
- 設定詳細
- ヴァンパイアを信奉する両親が生贄として捧げたために、吸血鬼になった少女。人間に戻る方法を必死に探し求めている。吸血鬼の赤い瞳を嫌い、魔法で茶色に見せかけている。純粋でうぶな性格だが、自分を眷属にしたヴァンパイアの影響で、異性の近くにいるとイケナイ妄想で頭が一杯になる。そのため、男性との接触を避けることが多く、男性恐怖症と誤解されやすい。普段は抑えているが、理性が限界に達すると、瞳が赤く染まり、妄想に突き動かされて大胆な行動に出てしまう。逆に、女性に対する接し方が百合っぽいのは師匠であるメリッサの影響である。甘いものとトマトジュースが好き。